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素直な気持ち

その夜ロゼは真夜中に目が覚めた。


静かな夜だ。

ロゼはベットから抜け出すと屋敷の外に出た。


もう時期夏だがガルドエルムの夏はさほど暑くならない。

寝巻きのままだが念のため愛用の短剣を腰へ着け上着で隠した。


しばらく庭を歩いていると小さな池を発見する。


(こんな所に池があったのね)


覗き込むと金色の魚が水面下を泳いでいる。


「綺麗・・・」


ロゼは金色が好きだ。

本当は自分の髪の色も金色が良かった。

ロゼは赤毛である。毛質は柔らかいがストレートではなく少しだけクセがある髪質である。


「羨ましいわ」


ふと誰がこちらへ来る気配がした。

一瞬警戒したが、すぐにそれを解く。


「何をしているこんな夜中に1人で」


貴方こそと言いかけてやめる。

これは心配させてしまったらしいと気が付いたのだ。


「ごめんなさい。起こしてしまったのかしら?」


物音で目が覚めたのかも知れない。

彼も人の気配にはかなり敏感な方だ。


「いや・・・それで?」


「目が覚めてしまって・・・夜風に当たりに?」


本当の事を言っているのだが何故か嘘っぽく聞こえるのは普段の態度の所為かもしれない。


「いくらここがのどかであっても、危険がないとは言い切れない一言声を掛けていけ」


夜中だったから・・・と言える雰囲気ではない。

ロゼは大人しく頷いた。


「エルグレドって過保護よね?」


は?と返されロゼはジト目でエルグレドを見た。


「ベルグレド。大分甘やかして来たんじゃないの?」


ロゼは立ち上がり歩き出す。

エルグレドも黙ってついてくる。

敷地内から出るつもりらしいロゼを止める事はしなかった。


「随分と仲良くなったものだな」


「まぁブラドに泣きつかれたからね」


建前はベルグレドが魔力阻害で日常生活に影響が出る為、その指導をする、という事になっている。


しかしベルグレドは恐らく自分とロゼは同じ力があると気がついている。


「長年の謎が解けて感謝している。ベルグレドはいつも心に余裕がなかったからな。恐らく子供の頃からなんだろう?」


ベルグレドはいつも苛々していた。

それは歳を重ねる毎に酷くなり最近では、ほぼ顔を合わすことは無かったらしい。


「だから、それを黙って許してる辺り甘いと思うのだけど?」


それにはエルグレドは苦笑いで返した。

ロゼはそれに、少しドキッとした。


「少し丘を上らないか?」


言われるまま丘を上って行くと1本の巨木が立っていた。

座るように促されエルグレドの隣に腰掛ける。


「俺はお前に言ってない事がある」


知っている。とロゼは心の中で呟いた。


「俺は恐らく。いや、確実にファイズ家の血を継いでいない」


ベルグレドを隠す為の身代わりか、もしくは・・・・・。


「誰かの・・・秘匿しなければならない不義の子なのだと思う」


ロゼは空を見上げた。


美しい星空が空一杯に広がっている。

ガルドエルムでは見られない光景だ。

あそこは夜も明るすぎる。


「へぇ〜そうなんだ?」


ロゼの返事は気が抜けるほど素っ気なかった。

エルグレドは、また苦笑いを浮かべた。


「お前にとってはどうでもいい話だったか」


エルグレドの言葉にロゼは首を振る。


「勘違いしないで」


ロゼは何故か、ここで本音を言わなければいけない気がした。だから声が震えぬようそっと息を吐いた。


「たとえ陛下の命令であっても私は逃げ出そうとすれば逃げる手段はいくらでもあったわ」


それは確かに今のエルグレドなら理解できた。

ロゼが本気になればバルドの手から逃げ果せることが可能であると。


「貴方の婚約者になると決めたのは私の意思よ。貴方と話しをしてみたかった。前から興味があったから」


エルグレドは息を呑んだ。

それは余りに予想外な事実だったからだ。

そもそもロゼが引き合わされる前のエルグレドに興味があったなどとは思いもしなかった。


「それなのに。会ってすぐ疑われたし、来なくていいとか言われたら・・・ちょっと流石に気持ちも萎えるでしょ?」


その言葉にエルグレドは、やはり自分は色々失敗していたのだと確信した。


「気にしなくていいわよ。あの状況で疑わない方がどうかしてるわ。ただ真っ向から尋ねてくるとは思わなかったけれど」


普通の令嬢で企みがあれば、あれで泣き出すか何かしら白状するだろうが相手が悪かった。


「私が興味を持ったのは貴方自身の事よ。身分や貴方の出自じゃない。だからそれはどうでもいいの」


言葉にするとロゼは何だかスッキリした。

たまには素直になるものだと少し晴れやかな気分でエルグレドを見る。


そしてその瞳から眼が離せなくなってしまう。


目の前で透き通る様なブラウンの瞳がキラキラと揺らめいている。いつの間にか2人の距離はとても近くなっていた。


エルグレドがロゼの腰を引き寄せる。

途端にロゼは顔がカッと熱くなる。


エルグレドの視線がとても熱をおびている気がして、ロゼは何だか居た堪れない気持ちになってきた。


「それで?」


今までに感じた事のない壮絶な色気を漂わせながら続きを問われ、ロゼは完全に固まった。


「話してみてどうだったんだ?」


エルグレドの右手がロゼの頬を撫でている。

ロゼは動揺を悟られない様に、何とか言葉を吐き出した。


「やっぱり不器用な人だと思ったわ!」


その言葉に僅かに首を傾げたエルグレドだが、すぐに小さく「そうか」と呟いた。


その表情にロゼは釘付けになった。


(・・・・・わらった)


それは微かにだが、確かに笑っていた。

しかし、何故か苦しそうにも見えた。


(そんな顔しないで)


ロゼは彼女の頬を撫でているエルグレドの手に自分の手をそっと重ねた。


エルグレドの手が止まる。


次の瞬間エルグレドの顔がロゼのすぐ近くまで来ると、確かめる様に一瞬止まり、ロゼの瞳をもう一度みた。


(貴方を苦しませたくない)


ロゼはそれを合図に眼を閉じた。


エルグレドはそのまま、ロゼの唇にそっと口付けた。







****







「それで、問題は解決できましたか?」


数日後ロゼはガルドエルムに戻ってきた。

もちろんきっちりベルグレドは仕上げ済みだ。


「はい。お陰様で」


そして現在、ロゼはリュカの執務室へやって来ていた。


「彼の事です。きっと忘れているのではないかと思っていました。早めに声をかけてみて良かったです」


「ええ。確かに正直戸惑いましたが・・・納得致しましたので」


「それはそれは折り合いがついたのなら良かったです」


リュカは仕事の手を止めてロゼの向かいのソファーに腰掛けた。


「それで、何か私に聞きたい事があるのでしょうか?」


ロゼは情報料として何を求めるのかと尋ねた。

リュカはニッコリ笑って「何も」と答えた。


「今回は貴方に何も求めません。そうですね・・・次来る時は旅の話でもお聞かせていただけたら嬉しいです。勿論話せる範囲で構いませんよ?」


ロゼは少し困惑する。リュカの目的がいまいち分からない。


「貴方の話が私の心を惹きつける物であれば、こちらも貴方が聞き及んだ事がない面白い話をご提供しましょう。勿論強制はしませんし、こちらからは貴方に何も言いません」


つまりロゼの話がリュカの欲しい情報であれば、リュカはこちらにも必要であろう情報をくれる、という事である。


何の情報も無い、この状態でそれは中々難問であるが。


「では次、こちらに立ち寄る事が出来そうでしたら伺いますわ」


ロゼはそれを了承した。

最近どうも自分の身辺が騒がしいからだ。

何の情報であっても損する事はない。

立ち上がってロゼは思い出したように尋ねてみた。


「これは答えて頂かなくてもよろしいのですが・・・」


美しい顔が立ち上がたロゼを面白そうに見上げてくる。


()()噂は本当なのですか?」


ああ!とリュカは満面の笑みで「どちらだと思う?」と聞いてきた。それにロゼは首を振って苦笑いした。


部屋を出るとフゥと息を吐く。


(全然読めないわあの人。なかなか手強い)


ロゼが手を焼くくらいだ、他の者もさぞかし振り回されているだろう。


歩きながら先ほどの会話を思い出し、それもきっとリュカ自身が流したものだろうと思いつつ、しかし何故か確信しきれない。


最高峰のバードル家の血筋でありながら23歳の今でも現在婚約者すら居ない彼は、何度となく迫ってくる女性達にこう言い放ったと言う。


「すみません。私は実は男性しか愛せないのです」




ロゼの視線は疲れたように、窓の外。遠い彼方に向けられていた。


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