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暴風注意報発令

(しまった。俺としたことが失念していた)


婚約の儀式。それは両者の都合で婚約の期間が長引く場合お互いの気持ちを周りに表す為の言わば皆の前でする誓約である。

あまりに自分に関係ない行事だった為すっかり忘れていた。そもそもこの婚約はすぐに解消されると思っていたのでそこまで先の事を考えていなかったのだが。


「エルグレド?」


ロゼが訝しげな顔で尋ねてくる。


「一体どんな行事なの?」


「・・・とりあえず屋敷に入ろう。話はそれからだ」


(こんなに早く遠回しにしていた問題に向き合わなければならなくなるとは)


エルグレドは少々困ってしまう。


「道中お疲れ様でした。どうぞ我が屋敷でごゆっくりとおくつろぎください」


二人を出迎えてくれた執事は50代半ば程の落ち着いた雰囲気の紳士だった。


「ロゼと申します。しばらくお世話になります」


「そう、畏まらずにいつも通りでよろしいですよ。貴方の事は息子から伺っております。事情も承知しておりますので屋敷内はご自由にお過ごしください」


そう言われ思い当たる人物を思い浮かべて全く似てないなと思わず苦笑いを浮かべる。


「ベルグレドは居ないのか?」


この屋敷は普段ベルグレドが住んでいる。エルグレドはバルドに仕えている為首都のガルドエルムに住んでいるがベルグレドは領地の仕事を任されている。


「夜には戻ると思いますよ。皆様で食事をなさるのは久しぶりですね」


エルグレドはそれには答えず分かったと相槌をうつとツカツカと屋敷の中を歩いていく。ロゼも黙って後をついて行く。


「ここは?」


ある部屋の前で足を止めたエルグレドにロゼが尋ねると部屋に入るよう促した。ロゼは言われるまま部屋に入る。


「古書?」


その部屋には山のように本が並べられている。しかもどれもかなり古い物だ。


「ここは父が生前好きだった本を管理していた部屋だ。以前俺の部屋にあった本に興味を持っていただろう?」


そう。実はガルドエルムの屋敷にも興味を惹かれる文献が多々あった。それらは学園にも王都図書館にもなかった本だったからだ。


「ここの物はかなり難しい物が多いが興味を惹かれる物があれば自由に見て構わない。殆ど読めないと思うが・・・・」


返事がないロゼを不思議に思い目線を下げるとロゼは大きな瞳を目一杯開いてエルグレドを見つめていた。


「ロゼ?」


「全部?コレ全部私が読んでいいの?」


まるで信じられないといった様子のロゼにエルグレドは女性に真っ先に進めた物がこんな古書など的外れだったかと思い直す。


「無理にとは言わないが・・・・・」


「読む!全部読みたい!!」


物凄い勢いで言われエルグレドは思わず身を引いた。


「凄い。こんな貴重な文献、ここまで綺麗な状態で残っているなんて・・・素晴らしいわ・・・」


そう言って辺りをつけた本をいくつか手に持つと近くの椅子に腰掛けた。


「今から読むのか?」


「少しだけ、中々お目にかかれない代物から」


そう言われエルグレドも少し興味が湧き近くに椅子を寄せて腰掛けた。


「これはこの世界の成り立ちを伝える伝承文みたい。何千年も昔から口伝えで伝承されて来たものを昔の人が書き残した物ね」


ロゼに中身を見せられたがその文字はエルグレドには読めなかった。


「古代文字か何か、か?こんな物読めないだろう?」


どうやって中身の内容が分かったんだと聞くとロゼは少し困った顔をした。


「読んだのよ普通に」


は?とエルグレドが訝しげな顔をしたのでロゼは更に困り顔になる。


「エルグレド。聞いてると思うのだけれど・・・私これでも学者並みには頭がいいと思うの」


「・・・・・・・・・・・」


そうだった。とエルグレドはまた自分のうっかり具合に頭を痛めた。

ここに居るのは只の冒険者の少女ではない。少なくともバルドがエルグレド(貴族)との縁談を結ばせるほど優秀な人物なのだ。


「ああ。気にしないで?この見た目で大抵の人間は私が優秀な頭脳の持ち主だなんて思わないから。舐められてるくらいで丁度いいしね。馬鹿は操りやすいから」


お前それは俺の事言ってるのか?と思わず黙る。


「興味あるなら少し読んでみようか?」


ロゼの様子から先程の言葉は自分に向けられたものではなさそうだと思い直しとりあえず頷いた。


****


創世神ファレンは終わりのない自分に絶望し闇を創った。

ファレンの涙はやがて海を創り出した。

海はファレンの心を溶かしやがて固まり大地となった。

ファレンの兄ガルドルムは形を創ったファレンに怒りその地を砕き二度と元に戻らないようバラバラに打ち砕いた。

ガルドルムの娘ラーズレイはファレンの心の痛みを慰めるため光となりファレンに降り注いだ。

光は大地に恵みを育み森ができた。

ガルドルムは光になった娘を連れ戻そうとしたがラーズレイはそれを聞き入れなかった。

すべてを見ていた気まぐれな女神リーズはガルドルムに諦めるよう進言したがそれは聞き入れられなかった。

怒り狂ったガルドルムはとうとうラーズレイごとファレンの大地を消そうとした。

これをファレンは受け入れラーズレイは拒絶した。

嘆き哀しむラーズレイに女神リーズは耳を傾けラーズレイの願いを聞き入れる事にした。

リーズは5人の神々を連れて永く激しい衝突の末ガルドルムを封じこめることに成功した。

他の神々もまた力を使い果たしガルドルムを囲むようにその姿は五つの宝玉となりその地に埋め込まれいつか目覚めるガルドルムと今でも眠りについている。

やがて命が芽吹き生き物が生まれその地は様々な者が暮らす大地と変化していった。

ファレンはやがて沢山の生命に包まれ絶望を忘れていった。

生きとし生けるものを創り出した神ファレンはいなくなりその世界はいつの日か"ファレンガイヤ "と呼ばれるようになる。


この世界の始まりである。


****


「・・・・こんな神話聞いたことないな」


「・・・多分人間の間にはない文献よコレ。でもコルボ族には似たような伝承があったわ・・中々興味深いわね」


ロゼは少し考えページをさらに進める。


「五つの宝玉とは火、風、水、土、そして聖である。これを持って再びこの地を治める神の御子が目覚める時、真にガルドルムを止める事が出来るであろう?」


思わず読み上げてロゼはハッとした。

この文の内容の一部に心当たりがあったのだ。


「良くある創り話しにも思えるがな?」


エルグレドのセリフに内心ホッとする。


「ええ、そうね。でも面白いわ」


また読みたいとさり気なく意思表示して本を戻す。


「もういいのか?」


「ええ。話が途中だったでしょ?」


エルグレドの表情をみてやはり良くない話なのだなと思いながらこれ以上あの本について聞かれることはなさそうだとロゼは胸を撫で下ろした。


****


「婚約の儀式とは皆の前で両者の婚約関係を確かなものとし不義を行わないと誓約する儀式の事だ。貴族間のみで行われる」


「何でまたそんな面倒な事を?」


エルグレドは渋い顔をする。ロゼにも何となく検討がついている。


「それだけ不義が多いという事だろう。婚約者がいても他の者と関係を結ぶ者がいるからな。この国で本妻と別に妻を迎える事は許されていないんだ」


「つまり両家の体面の為と、いうのもあるということね」


「そうだ儀式の後その仲を邪魔した者は重い罰が課せられる。家同士の約束事が国の約束事に変わると言えば分かりやすいか?」


「でもそんなことしたらその婚約は解消できなくなるのでは?」


「出来ない事はないが難しくなる。その代わり結婚するまでの期間が大分引き延ばせる」


恐らく幼い頃から婚約関係にあるものやどちらかの家の都合で結婚したくても出来ない場合など色々な事情が絡んでいるらしい。


「ここで今更だが確認しておきたい事がある」


エルグレドが姿勢を正してロゼに問う。


「ロゼは俺と正式に結婚する気があるか?」


その率直な言葉にロゼは心臓が跳ね上がった気がした。


「・・・・・・・随分と直球できたわね?」


「それをはっきりとさせておかなければ話を先に進める事が出来ないからな」


ロゼは頭を抱えたくなった。そもそもいきなり婚約者になれと言われたあの日からバルドと会えていないのだ。

一般市民が王の謁見など求められはしない。

この前の婚約パーティにも結局現れなかった。


「もし結婚するにしても大分先になると思うわよ?」


「細かいことは置いておいていい。お前の意思の話だ」


私の意思とロゼは呟く。

(お互い何の事情もなくただの婚約者としてのエルグレドと結婚する。)

ロゼは目の前の男性を改めて眺めた。

整った目鼻立ちにブラウンの髪と瞳。すらっと背は高く足は長い。貴族だというのに気取った所がまるでなくぶっきら棒だがロゼへの接し方は丁寧だ。おまけにこの国最強の騎士である。考えれば考える程嫌だと思える部分が見当たらない。


「してもいいかな。程度には」


言葉にしてみて自分でも今のは可愛くなかったかなとロゼは思った。いや。今のロゼにはこれが精一杯だった。


「俺もお前と結婚しても構わないと思っている」


その言い方も何だかんだ可愛くないと思ったが人のこと言えないので口には出さなかった。


「元々俺は誰かと結婚するつもりはなかったからな。だから結婚が先延ばしになるのは一向に構わない」


「・・・・・なるほど。じゃあお互い利害が一致するということね?」


「勘違いするなよ。ロゼを盾にするつもりはない」


捻くれた考えにエルグレドが釘を刺してくる。


「婚約の儀式はかなり面倒な誓約だがここに居る間はその誓約がお前の身を守る一つの武器になる」


ロゼに余計なちょっかいを出す輩を減らす事ができる。


「お前が構わないのであれば俺はロゼを正式な婚約者として扱う。お前がこの国にいる時に限るが」


ロゼはエルグレドに首を傾げる。今までだって婚約者として接していたのではないだろうか?


「別に構わないわよ?何か問題でもあるの?」


要領を得ないロゼにエルグレドは深く溜息を吐いた。

ますます訳が分からない。エルグレドは説明をあきらめ答えを先に教えることにした。


「儀式の1番の問題点だか。誓いの口付けをしなければならないんだ」




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