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褐色少女の独立戦争  作者: mashinovel
第一章  ダニーク解放戦線の結成
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8. ダニーク解放戦線

 私にその街の記憶は無い。

 生まれたばかりの私は、両親と共にその街から逃げ出した。

 父が、理想を叩き潰された「始まりの街」。

 そこに私たちは帰ってきた。

 今度は、私たちが奴らを叩き潰す番だ。

 いくつものガントリークレーンが建ち並び、巨大なコンテナ船やタンカーが何隻も接岸している。

 大型トレーラーや貨物列車が運んできたコンテナの大軍勢や石油、天然ガス等の地下資源、それに現地工場から直送されてきた真新しい戦車や装甲車等の無数の戦争機材が、次々と接岸した船舶に積み込まれて海の向こうへ船出する。船に満載された物資は、沖合で待機している海軍艦船に守られつつ、この大地と対岸の「本国」の間に横たわる紺碧のアデア海を超えて戦地へと運ばれていった。

 戦前から世界有数のコンテナ取扱量を誇る大規模コンテナターミナルは、現在戦時下ということもあり、そこかしこを武装した兵士や民間軍事会社の社員が警邏し、対空機関砲や対空ミサイルが設置されて物々しい雰囲気に包まれていた。

 大勢のこの大地の支配種族たる白人種・スタントール人が、さらに大勢の褐色肌の原住民・ダニーク人を使役して、この大地……ファーンデディアの物流心臓部を脈打たせ、王国戦争遂行能力の根幹の一つを支えていた。


 ここは、ノルトスタントール連合王国・ファーンデディア広域州最大の港湾都市・セティア。

 人口約120万人を数える世界的な物流拠点を構える大都市。

 120万人の住民の内、40万人を白人種・スタントール人が、残り80万人を原住民・ダニーク人が占めている。

 この地におけるスタントールの交戦国「北辺の蛮族」イェルレイム共和国は、セティアにも大規模空挺攻撃を試みたものの、元より強力な陸軍部隊と武装警察が配備されている港湾都市の防備は想定よりも固く、無数の戦死者を出して撃退されていた。

 しかしながら、攻撃による市内の混乱は未だに収まる気配がない。

 生き残った僅かな共和国軍兵士はゲリラ化。「スタントール人左派」の協力を得て市内に潜伏し、反撃の時を伺っていた。

 また、原住民・ダニーク人は南で巻き起こった同胞によるスタントールへの「武装蜂起」と今回の共和国軍による空挺攻撃を好機と見て、「支配者連中」へのサボタージュやストライキを繰り返し、その度に武装警察や軍と激しい衝突を繰り返していた。

 大戦が勃発し、既に4ヶ月。

 市内の「原住民指定居住区」は今や戦争で手一杯となっているスタントール王国の法が行き届かない「無法地帯」と化し、銃を手にした自由を求める褐色肌の原住民によって「新たな秩序」が生まれていた。


 その「新たな秩序」の最頂点に立つ男は、愛する娘にして最も信頼を置く戦士の一人である輝くような褐色の美少女と、古参の幹部や護衛の戦士ら10数名を伴ってこの港湾都市に姿を現した。

 男の名はゲイル・ベルカセム。少女の名はサーラ。

 今、彼はこのファーンデディア大半島南端の「王」となっていた。

 南部ファーンデディア地方オーレン県を完全に掌握し、近隣自治体も次々と制圧。

 現地のスタントール白人たちを生死を問わず追い出して、同胞であるダニーク人を「国民」へと組み込んでいき、独自の行政機構を構築して裁判所も設置した。

 あとは議会である。

 ゲイルは、史上初となるダニーク人民によるダニーク人民の為の議会――人民公会議――を、自身にとって因縁の地とも言うべきこのセティアで開催することにしたのだ。

 彼は娘が生まれる前、まだ理想に燃える青年だった頃、この地でダニーク人の権利拡大を求める平和的な運動を展開していた。だがそれは、スタントール当局による暴力的な弾圧をもって叩き潰された。

 ゲイルが平和的解決に見切りをつけ、武力闘争へと走らせた場所……そして、妻アスリと出会い、愛娘サーラを授かった思い出の場所……


 サーラにこの地の記憶は無い。

 赤ん坊だった彼女は、母に抱かれて父と共にこの街を追われた。

 しかし今、帰還を果たしたのである。

 堂々たるものではなかった。当局の目を盗み、現地同胞たちの手を借りて市内に入ったゲイルたち……通称:ダニーク革命軍の主要幹部たちを、市在住の褐色肌の仲間たちは静かに出迎えてくれた。

 

「おかえりなさい。ゲイル。」


 現地入りした一行を笑顔で出迎えたのは40代前半の美しいダニーク人女性だった。

 顔の右側には大きな縦一文字の古い傷痕があり、港湾労働者の作業服の下には、鍛えられた筋肉と鞭のようなもので穿たれた消えることの無い傷痕が、古いものや比較的新しいものを含め複数ある。スタントール当局による弾圧と戦い、その拷問を見事に耐え抜いた証だ。


「……ただいま、モルディアナ。」


 2人は軽い抱擁を交わす。

 モルディアナと呼ばれた女性の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 かつて共に活動していたリーダーの帰還に、こみあげてくるものを押さえられない。


「皆、あんたを待っていたよ。オーレン県じゃ派手に暴れたみたいね。今じゃ英雄よ。」

「英雄なんかじゃない。俺は……この街の仲間たちを見捨てて逃げ出した臆病者だ。」


 ゲイルは俯き申し訳なさそうに答えた。

 モルディアナはそんなゲイルの左肩に逞しい右手を優しく乗せる。


「あんたは逃げ出したんじゃない。希望を捨てずに別の道を突き進んだ。

 そして見事にやり遂げた。だからここに居るんだ!」


 ゲイルは褐色の屈強な港湾労働者の女性に笑顔を見せ、さらに答えた。


「まだだ。まだやり遂げてない。まだ、始まったばかりだ。」

「ふっ……そうだな。行こう!もう皆、待ち侘びているぞ!」


 モルディアナが一行を案内する。

 無数の配管や電線が入り乱れ、トタンや薄ベニヤで作られた粗雑な建物が並ぶ「原住民指定居住区」を進む。人影はまばらだ。時々、建物のベランダや屋上で、銃を隠し持った男女が周囲を警戒する姿が見える程度。

 既に日は陰り、太陽の煌めきは死にゆく老人の命数を表す蝋燭の灯火のようにか細くなり、その光に殺戮されていた星々は輝きを取り戻し始めていた。普段ならこの時間、家路を急ぐ無数のダニーク人労働者やそこかしこの露店で安い晩飯にありつこうとする者たちで辻々はごった返しているはずだった。

 居住区の最奥、武骨な打ちっ放しコンクリートで作られた小屋のような建物の入口の、場違いな程頑丈な鉄製の扉をモルディアナが開く。

 扉も向こうには地下へと続くコンクリート製の階段があった。その階段入口の両脇には、市販の短機関銃や警官から奪ったリボルバー拳銃で武装した褐色肌の屈強な男2人が門番のように左右に侍り、侵入者を警戒していた。

 モルディアナが先導して階段を降り、ゲイルも続く。

 2人はゲイルを見やると、深い敬意の眼差しを見せ、彼に向かって深々と一礼した。

 ゲイルも会釈で返す。

 今度は、その父の後ろに続く少女サーラに笑顔を見せる。

 階段を守る左右の男の一人、左側に立つリボルバー拳銃で武装した男がサーラに話しかける。


「ようお嬢ちゃん。聞いたぜ、その年で警官連中とやりあったんだってな。すごいな!流石ベルカセムの娘さんだ!」

「ありがとうございます。でも、私は自分がすべきことをしただけです。何も特別なことはしてません。」

「おまけに謙虚で素直だ。気に入ったぜ、故郷でゆっくりしていけや。」


 男はサーラに満面の笑顔を見せる。

 サーラもそれに笑顔で返し、再度礼を言ってその傍を通り、父に続いて階段を降りる。

 階段はかなり長く薄暗い。途中裸電球がぶら下がっているだけの3箇所程の踊り場を経て、ようやく「目的地」の扉に辿り着いた。これも鉄製の頑丈な物。何らかの外敵からの攻撃を予期した非常に頑丈な作りの扉である。


「さぁ、ゲイル。ここだよ。驚いて腰抜かすんじゃないよ!」


 ややいたずらな笑みを浮かべ、含みを持たせてモルディアナが言う。


 彼女が扉を開く。


 すると、大歓声が聞こえてきた。

 扉の先は、地下に設けられた巨大なホールとなっていた。

 実際には、何十年も前に街の河川洪水対策の為に作られた巨大な放水設備の一つである調圧水槽なのだが、約10年前、ここセティアの街中央を流れるトゥブルク川の上流に巨大なダムが建設されて治水施策が変更となったことで、完全に放棄された「無能な行政」が生み出した忘れ去られた公共物。

 だが、今はダニーク人たち専用の一大ホールとなり、「指定居住区」に押し込められた無数の褐色肌の原住民たちが「自分たちの議会」が誕生する瞬間に立ち会おうと押し寄せていたのである。

 物凄い人々の熱気と歓声。

 ゲイルたちが姿を現したのは、原住民の大ホールと化した広大な調圧水槽全体を見渡せる見学用通路の出入り口であった。眼下には、無数の褐色肌の同胞たちが立錐の余地がない程ひしめき合い、ゲイルたち「革命軍」の面々に羨望の眼差しと割れんばかりの歓声を送っていた。

 老若男女。杖を突いた老人から、母親の腕に抱かれた赤ん坊まで、この港湾都市に住まうファーンデディアの原住民・ダニーク人約80万人の全てが、今この空間に居るかのようであった。


「どうだい、すごいだろ?ゲイル?」


 モルディアナがゲイルに言う。

 しかし、ゲイルは言葉が出なかった。

 かつて彼がこの地で、「ダニーク自由民権運動」を始めた時、ほとんどの同胞が見向きもしてくれなかった。権利拡大だとか、平等だとか、そういう理念そのものを分かってくれる者はいなかった。

 そんな中でも理解を示してくれた極少数の仲間達と共に、細々と活動していたあの頃がまるで嘘だったかのような今の熱気と歓声。

 

 サーラも圧倒されていた。

 これほど大勢の同胞たちが、自分たちの行動に理解を示し集まってくれた。

 その感動を言い表す適当な言葉が思いつかずにいた。

 それは他の「革命軍」幹部や戦士たちも同様である。

 この「大会議場」に案内された面々は、同胞たちの大歓声と熱気を正面から受け、立ち竦む。


 しかし、ゲイルは力強く歩み出た。

 即席の演説台が設けられた通路の端へと進み、大群衆を見渡す。

 次第に人々の歓声は収まり、辺りは静かになり始めた。

 群衆は声を止め、革命の指導者の言葉を、期待を膨らませて待った。


 演説台に備え付けられたマイクの一つを握り、感触を確かめてから手を離す。

 そして、彼は語り始めた。

 無論、原稿なんぞ無い。全て自分の言葉で語る。

 「自分たちの国」を求める自由をかつえる同胞たちに向かって。


「同胞諸君……まずは礼を言わせてほしい。

 私をこの場に迎え入れてくれたセティアの同胞たちに。

 光り輝く褐色肌の同胞たちよ。熱き緋色の瞳を宿した同志たちよ。

 ……ありがとう……

 ……少し昔話をしよう。私はかつて、この街で暮らした。

 逞しき港湾労働者たちが働くこの巨大な街で。

 そこで私は、スタントール人たちに私たちダニークの苦境を訴えた。

 平和に。彼らの法を守りながら。穏やかに。

 しかし、彼らはそんな我々を暴力で踏みにじった。

 踏みにじられたのだ!

 奴らは!私の仲間たちを銃弾と警棒で抹殺し、罪無き大勢の同胞たちを収容所へ送った!

 その時、私は気付いた。

 スタントールとダニーク。もはやこのファーンデディアの地で共に暮らすのは不可能だと!

 不可能なのだ!スタントールとダニーク!ファーンデディアの大地は、肌の色が違う者同士が仲良く平等に暮らせる場所ではないのだ!

 同胞よ!輝く褐色肌に燃え盛る緋色の瞳の同胞たちよ!

 自由を熱望する同志たちよ!

 思い出せ!

 スタントール人が、どのようにして我らを見下し、蔑み、嘲笑ったかを!

 思い出せ!

 奴らが如何にして、我らの神を廃却し、その信仰と文化を奪ったかを!

 思い出せ!

 奴らによって強いられた理不尽な日々を!

 思い出せ!

 奴らによって奪われた愛する者たちの顔を!

 ……思い出せ!

 奴らへの激しい怒りと憎しみを!

 戦え!戦え!

 スタントールと戦え!

 奴らは今、弱り切っている!

 北からやってきた共和国の軍勢によって、脆くも崩れ去ろうとしている!

 奴らは弱っている!

 弱った奴らを叩き潰し、我々ダニークが、自由を手にするのは今しかない!

 この地に住まう全ての同胞に告げる!

 我らと共に、「ダニークのファーンデディア」を!

 ダニークのファーンデディアを手に入れろ!

 ダニークのファーンデディアだ!

 銃を手に取り、立ち上がれ!団結せよ!

 白い肌の連中に課せられた奴隷の鎖を叩き斬り、自由を手に入れろ!

 廃却されしいにしえの神々に誓うのだ!

 我らダニークは自由を手に入れると!

 我らは、全てのダニーク人を奴隷から解放する戦士!

 「ダニーク解放戦線」である!!」


 しばし群衆は呆気に取られた。

 今度はゲイルの猛烈な熱意を、大群衆の誰もがすぐさま受け止めきれずにいた。

 しかし、一人また一人とその熱意を理解した者が歓喜の声を上がり始めると、それは最初にゲイルたちが登場した時とは比べ物にならない程の大歓声となって、強化コンクリート製の広大な元・調圧水槽全体を打ち震わせる。

 地下深くの大ホールから響く歓声は、地上の「指定居住区」全体にまで届き、さらにはセティア市全体へ、さらにはファーンデディア中のダニーク人にも届いた。

 やがて歓声はファーンデディアのあちこちで巻き起こり、大地を震わせる。

 このゲイルの演説は「人民共和国」工作員の助力を得て、ラジオを通じてファーンデディア中のダニーク人の元へ届いていた。

 この時、ダニーク人の誰もが、朧気かつ曖昧にしか知らなかった「南部地方で武装蜂起した無謀な同胞たち」のことをハッキリと知ったのである。

 それまで、「ダニーク革命軍」や「ダニーク人ゲリラ集団」等の俗称や通称でしか語られなかった「彼ら」に、今初めて然るべき名前が付いた。


 その名は、ダニーク解放戦線。


 実は、このセティアに入る前、ゲイルは事前にラルビやベンといった革命軍幹部たちに、自分たちの組織名称を考えるべきだと提案していた。

 その時、ゲイルが提案した名称こそ、このダニーク解放戦線だったのである。

 無論、誰からも異論は出なかった。

 まだ、「国家」を名乗るには早すぎる。しかし、自分たちは軍隊のみに帰一する存在ではない。

 全ての同胞たるダニーク人の、スタントール人からの解放を目指す革命集団。

 故に、ダニーク解放戦線なのである。


 このゲイルの演説の後に開幕した史上初となる「ダニーク人民公会議」は大成功と言えた。

 ここセティアで、スタントール当局に対するデモやストを続けていたモルディアナを中心とする「セティア自由民権運動」の主要メンバーが「ダニーク解放戦線」への正式合流を宣言し、群衆から万雷の拍手をもって歓迎された。他にも、事前に招待されていたファーンデディアの主要な各都市に住むダニーク人労働者による互助会や組合の代表者も、解放戦線をダニーク人が有する唯一にして絶対の権力主体であることを認め、これに合流したのである。

 ゲイルが率いる「ダニーク解放戦線」はこの一夜の公会議で、ファーンデディアに住む全てのダニーク人を掌握する最高権力組織へと変貌した。


 サーラは、父ゲイルがとんでもない偉業を成し遂げた瞬間を、そんな父の後ろ姿を涙を流しながら見ていた。とても堪え切れない。

 感動が、熱が、胸が張り裂けそうになるほどにこみ上げてくる。

 自分も思わず叫びそうになる。

 そして、今は亡き愛する妹に再度誓った。



 ナシカ。

 天国から見てて。

 私は、必ず父さんと一緒に、「民族の自由」を手に入れてみせる。

 スタントール人の死体を無限に積み上げて、あなたに届けてあげる。

 ダニークのファーンデディアを!



 サーラは安全装置が働いている小型自動拳銃をホルスターから取り出し、見つめた。

 ホールの眩い照明に照らされ、銀メッキが施された銃のスライドが鈍く光る。

 決意は固い。

 彼女は、この銃で「ダニークのファーンデディア」を手に入れる際の障害となる全てを撃ち倒す。

 そこに疑問や動揺、殺す相手への同情は一切無い。

 全て、殺せ。



 時に、新暦1925年1月10日、

 彼らダニーク人の暦で、マガン王の15年冬息の月10日。

 この記念すべき第一回ダニーク人民公会議は、ファーンデディア州最大の港湾都市・セティアにて盛大に開催され、ダニーク人の長く辛い歴史の中で燦然と輝く一ページを刻んだ。


 そして、公会議の翌日。

 この日、スタントール人の住民たちは、複数の爆発音と銃声によって叩き起こされた。

 ここセティアで苛烈なる戦いが起こったことを告げる号砲。

 ダニーク民族の存亡を賭けた大いなる戦い……

 ダニーク人民革命第二段階「セティアの戦い」の始まりである。

※この後書きは本編とほとんど関係ありません※


【新暦1925年1月5日付 ファーンデディアセンチネル新聞社(極右メディア)

              戦時特別報道新聞 戦況報道特集記事より抜粋】

●非道なる共和主義者に鉄槌を!王国軍女性兵士たちの勇敢な戦い!●

 今年1925年は、全ての我が王国臣民にとって暗い試練の年明けとなった。

 昨年9月1日に北の蛮族共の悪辣非道な奇襲攻撃によって始まった「大戦」は、我が国のみならず王国陣営主要国すべてを苦境に陥れている。

 西の同盟国で王国陣営の盟主国家・ロングニル王国連合は、極悪なアーガン人民主義者の賊軍によって国土の中心部に位置する王都・ヴェンデンゲンが陥落寸前となり、同国南部に位置する世界最大の港湾都市・ヴォーレンクラッツェを中心に大規模な攻防戦が続いている。他にもロングニルの近隣同盟諸国であるネアミリス王国やラガール君主国も、アーガンの衛星国家連合軍の攻撃により国土の半数近くを失陥した。

 さらにそんな人民主義者と共和主義者連中の親玉である、赤道の向こう側の北半球に存在する凶悪なエルエナル民主統合共和国は、アーガンのアカ共やディメンジアの野蛮人たるオーク、北辺の蛮族イェルレイムに先端兵器を与え、自身も大軍をもって極北の不気味な半鎖国国家・ベルベキア連邦に攻め入っている。

 エルエナル狂人連中の首領、この戦争を引き起こした張本人にして許されざる戦争犯罪者である精神異常者、ローズ・ヴェルナルド終身大統領は、ヤツの掲げる狂った理念「環状大陸共同体構想」を現実のものとするべく、全ての王制国家と敵性国家を消滅させようと目論んでいる。

 我らが古き偉大なる祖国・ノルトスタントール連合王国は外の蛮族(野獣オークと蛮族イェルレイム)、内のクズ共(蛆虫ダニーク)と売国奴(唾棄すべき左派連中)によって疲弊し、存亡の危機にある。

 先日(昨年12月1日)、我らが親愛なるカリーシア・シノーデルⅡ世女王陛下(古き王国よ偉大なれ)の「御親政」に対し、王国最高裁判所に巣食う売国賊徒の裁判官連中が憲法条文を完全に無視した「違憲判断」なる代物を下し、これを真に受けた無能極まる連立与党政府が国軍指揮権奪還を宣言。王国軍の行動を阻害して極度に混乱させたことは、陛下を敬愛し、国を憂う全ての王国臣民の皆にとって、心火燃ゆるが如き壮絶な怒りと共に記憶していることであろう。

 だが、斯様な売国奴と無能政府によって引き起こされた混乱の最中にあっても、勇敢に戦う王国軍将兵は決して挫けはしない。

 今回はそんな状況下で、ここファーンデディアの地にて蛮族イェルレイム相手に果敢に戦う王国軍女性兵士の一人を紹介しよう。

 彼女の名は、レシア・リョーデック。階級は伍長(1月5日現在)。

 ファーンデディアで生まれ育った生粋のセンチネルの美少女である。

 なんとまだ16歳!

 ファーンデディア広域州特別行政区アディニアにある王国女子学園に通う才女であった彼女は、蛆虫ダニークの暴動によりご両親と兄君を失いながらも、祖国の危急存亡の秋に居ても立っても居られず軍に志願。志願受付年齢の下限ギリギリにもかかわらず、戦時略式入隊テストを史上最高の成績で突破し、それを見込まれ直ぐに前線へと送られた。

 そこで彼女は内に秘めたる才能を大いに開花させたのである!

 味方陣地を突破し、暴れ回る共和国軍の戦車や装甲車を次々と屠る大活躍!

 対戦車ロケットや、時には手榴弾を使った白兵戦を駆使し、彼女がこれまで撃破した蛮族イェルレイムの戦闘車両は驚愕すべきことに既に約30両を数える!

 その姿は、戦車を狩る恐れを知らない女ハンター!

 これこそ、我らがスタントール人の底力!

 可憐な少女でありながら、民族の誇りと意地を見せつけた彼女こそ誠の王国軍兵士であり、陛下の神兵であると言えよう。

 彼女はこの類まれなる戦績が認められ、ファーンデディア駐留軍の実質的司令官となったダリル・マッコイ准将より昨日4日、第二級王国軍勇戦士記章を直接授与されたのである。そして、駐留軍最精鋭の戦闘部隊・独立第305機械化歩兵大隊への正式配属も決まった。

 そんな彼女は本紙取材にこう答えてくれた。

「本音を言えば、今すぐ私の故郷を踏み荒らしている調子に乗ったダニークのクズ共を片付けに行きたい。でも、今は王国の一大事。まずはきっちり共和国の奴らを始末して見せます。」

 ……彼女のこの言葉を忘れてはならない。我らが王国の敵は、今まさにファーンデディアの北と南の両方で跳梁跋扈しているのだから。

 この記事をお読みになっている全てのスタントール王国臣民よ!

 今すぐ!最寄りの王国軍志願者受付センターへ走れ!

 あなたの覚悟が王国を救うのだ!陛下と祖国に命を捧げよ!

 勇敢なるレシア・リョーデック伍長に続け!怖いもの知らずのセンチネルの勇者たちよ!

 イェルレイムの蛮族を撃て!蛆虫ダニークを撃て!


※各自治体ごとの最寄りの軍志願センター及び戦時ボランティア申込窓口は以下の通りです。


(後略)

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