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褐色少女の独立戦争  作者: mashinovel
幕間劇  異世界の群像
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54. スタントールという国 「本来の」第三部~ドラゴンの証言~

【新暦1929年6月1日付 ロングニル・ワールド・トゥデイ社放送

   特別報道番組「スタントールという国 特別編~崩壊する帝国主義~」より抜粋】


(薄暗い照明のスタジオ。壁やカウンター式テーブルには弾痕が多数穿たれ、流された血や汚れがそのままになっている。)

(そのスタジオ中央に、スポットライトに照らされたハイエルフの女性が佇んでいる)


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「こんばんは。今日もこの時間は『ロングニル・ワールド・トゥデイ本社ビル襲撃事件』から2年の節目として、ノルトスタントール連合王国という国が抱える異常性と過去の戦慄すべき行いを追求する特別報道番組を放送します。

 まず、私たちロングニル・ワールド・トゥデイは、今、世界で起きてる出来事の“真の姿”を伝えるべく、日々入念な取材を重ね、公平性をその理念として活動しております。

 しかし、2年前の5月20日。私たちは激しい暴力に晒されました。

 当時、私たちは特別報道番組“スタントールという国”を放送。

 彼の国がかつて犯した亜獣人に対する知られざる国家犯罪を明らかにし、彼らに反省と差別の是正を求めました。

 ですが、彼らから返って来たのは……銃弾でした……

 ……今、私がいるこのスタジオは、当時“スタントールという国 第三部 特別編~ダニーク人の証言~”を生放送でお送りしようとした場所です……

 ここに、彼らは銃を手にやって来ました。

 結果、私たちは大切な仲間の放送局職員4名と、ゲストとしてお招きしたヴェンデンゲン王立大学学長を務める著名な政治学者だったハーレット・エフィリード氏、国際歴史学の権威にして“世界オーク戦士連絡協議会”名誉理事でもあったガスダーグ・ヴォゴー氏を失いました。

 その後も武装テロ組織“王国防衛烈士団”による激しい攻撃は続き、最終的に当放送局職員とビル警備員を中心とした民間人36名、警察官79名、空軍兵士14名が死亡、318名が重軽傷を負う甚大な被害がもたらされました。

 ……これが、文明国家のやることでしょうか!?

 彼らは、仮にも同盟国の、それも人口密集地の首都で、何の躊躇も無く軍事力を行使したのです!

 さらには、主犯格のハインツ・デルバータ氏はじめとする逮捕されたスタントール人テロリスト全員が、彼の国による全面核戦争の可能性を示唆した言語道断の外交圧力の結果、僅か1年足らずで釈放されてしまいました。

 もはや、この世に正義は存在しないのでしょうか!?

 ……

 …………

 ……今夜はあの忌まわしい事件から2年目の節目として、あの日、本来放送する予定だった“スタントールという国 第三部~ドラゴンの証言~”を、当時から大きく情勢が変化した現地コモルドでの追加取材の結果を交えてお送りします。

 スタントールという国が犯した決して許されない過去の悪行の一端を、今一度、ご覧ください……」


(後略)

●第三部 証言者●

 ゼベラ・ゲルンガルム(旧姓:ガーザッツ)女史

  元コモルドニア王国ラシュタヤ神殿僧兵

   現ヴェンデンゲン広域電波塔「ノルデンタワー」メンテナンス室長

   (ロングニル空軍首都管区方面隊総司令官ゲルンガルム元帥夫人)



 中央レヴェリガイア大陸。

 東西レヴェリガイア大陸の結節点に当たる赤道一帯を横切る大地。

 その赤道直下の峻厳な山脈地帯に、かつてドラゴンの王国が存在した。

 「竜人族」と呼ばれる竜の翼を背中に生やした精悍な獣人たちと、勇壮なドラゴン種族による共同統治国家であるその王国は、隣国のトカゲ獣人らによる諸国家連合と時に争い、時に交易し、繁栄と動乱を繰り返しながらも自分たちの「故郷」に誇りを抱き、有史以来となる幾万年の日々を逞しく生きていた。


 王国の名はコモルドニア。


 世界最古の古代龍エンシェントドラゴンにして「実存神」たるヤシャガーラを種族の絶対的頂点とし、竜人族と一般竜ノーマルドラゴンとが権勢を競い合いながらも共存共栄していた。


 彼らが来るまでは。


 新暦1619年8月3日。

 コモルドの「聖地」ラシュタヤータ山。

 標高9000メートルを超える世界最高峰の「神宿る山」の頂上に、ヤシャガーラの神殿があった。

 竜人族とドラゴンが協力して気が遠くなるような年月をかけて建立した壮麗かつ圧倒的な超巨大神殿。

 その神殿は「聖山」ラシュタヤータの山体をくり抜き、山頂部そのものを壮大な「龍神の伽藍」と成した大建築であり、「翼無き人間」にはどう足掻いても建築することは不可能な代物であった。

 この日はコモルドニアの一大祭典である「龍神降臨祭」が盛大に催されていた。

 日々権勢を競い合っている竜人とドラゴンの豪族たちも、この日ばかりは争いを忘れて互いに肩を抱き合いながら酒を飲み交わし、その民草もまた振る舞われる豪勢な食事に舌鼓を打ちながら、大いに楽器を打ち鳴らして「我らが龍神様」がコモルドに顕現したる日を心から祝っていた。

 そんな宴の折、神殿最奥にて翼を休めていた「龍神」ヤシャガーラが突如目を醒ました。


「……何か来る……」


 彼の身の回りの世話をする竜人族の巫女と神官らは、唐突に告げられた「神の言葉」に驚きを隠せない。

 毎年この「降臨祭」の時、ヤシャガーラは祭りが行われる約10日間、完全に休眠状態となって自身を寿ことほぐ民草の祈り全てに耳を傾けているからだ。

 今まで「降臨祭」の時に「神」が眠りから目を醒ますことは一度としてなかった。

 齢1000歳を超える最上級神官である竜人族長老の男性が、「神」に言葉の真意を伺った。


「……我らが大いなる龍よ。何が『来る』のでありますか?」

「……」


 ヤシャガーラは長老の問いに答えず……否、「答えられず」神殿上空を見上げる。

 9000メートルを超す超高空。翼を持つ種族でもドラゴンなどのごく限られた者しか到達し得ない「神域」に、異様な「何か」が迫っている気配を感じる。

 ヤシャガーラは、その研ぎ澄まされた五感の探索範囲を最大限に拡大し、迫りくる「何者か」の正体を突きとめようと試みた。


 神殿から100キロ程離れた超高空。

 聞いたことも無いやかましい『音』を奏でながら空を突き進む巨大な物体。

 細長い胴体は鋼のような物で出来ており、多数の「鉄筒」が胴体の至る所から生えている。

 その数、実に10体ほど。

 さらには鋼の巨体の中を、多数の「人間」が蠢いている感覚も伝わる。

 

 これは……人間の「船」か?

 人間の「船」が空を飛ぶのか?


 ヤシャガーラは自身が住まうこの神殿に向けて真っ直ぐ「飛来」する人間の「未知の船」の存在を、神官らに伝えた。


「……人間たちだ……空を駆ける船に乗った無数の人間たちが、こちらへ迫っている……」


 「神」の言葉に、竜人たちは大きく動揺する。


「に、人間?奴等は地を這うことしか出来ない筈……」

「……船が空を飛ぶと言うのか?そんな、まさか……」

「一体人間共が何をしに神殿へ?」


 騒めく竜人の神職たち。これを長老が鎮め、神に代わって指示を出す。


「者共、我らが龍神の御前なるぞ、鎮まれ。

 ここで騒いでも何にもならん。ラシュタヤ神殿僧兵で技量に優れたる者10名を選抜し、神が感じ取られた“人間の船”とやらを確認しに行かせよ。」

「ははっ!!」


 長老の命により、若い僧兵10名による「偵察隊」が結成されることとなった。


……


 「偵察隊」として任命された竜人僧兵の男女10名が、長老の前に整列した。

 男僧兵は上半身裸で股間と臀部を覆う白い腰布の上に薬草を詰めた革袋や剣を差したベルトを巻いた格好をし、女僧兵は胸をサラシで覆っている他は男と同じ姿をしている。

 男女とも、鍛え上げられた見事な筋肉を惜しげも無く露わにしていた。

 その逞しい手には、ドラゴンの鱗を加工して作られた2メートルを超す強靭な長槍を装備している。


 その一人に、ゼベラという名前の若い女性竜人がいた。

 輝く群青色の肌に、所属している豪族を示すトライバルタトゥーを右顔と右腕に施した勝気で活発な美しい娘。

 全身を隆々とした筋肉に覆われ、豊満な胸部はサラシできつく縛られている。

 まだこの世に生を受けてから60年と経っていない。

 平均寿命800歳と極めて長命な竜人族において、60歳という年齢はまだまだ「子供」扱いされる年ごろだった。

 だがゼベラは、年若くして類稀な高い身体能力を有しており、「子供」ながら所属する豪族の長と長老にその力量を認められて栄えある神殿僧兵に抜擢されていた。


 長老が「偵察隊」の僧兵らを前に、「神の言葉」を交えて「任務概要」を説明する。


「我らが偉大なる龍が、この神殿目指して迫りくる謎の“人間の船”の気配を感じ取った。お前たちの使命は、人間たちの正体を確認し、こちらへ来る目的を問い質すことにある。

 良いな、間違ってもこちらから手を出すで無いぞ。

 なるべく穏便にお引き取り願うのじゃ。」


 するとゼベラが「反発」を示した。


「はん!降臨祭の邪魔をするような人間なんざ、ぶっ飛ばしちまえばいいじゃん!

 人間が空であたしたちに敵う訳ないよ!

 そうだろ、アニキ!」


 ゼベラは隣にいる隆々たる筋肉を誇る兄の竜人僧兵に同意を求めた。

 しかし150歳程年上の兄は、若く勝気が過ぎる妹を諫めた。


「コラ、ゼベラ!爺様は『穏便に』って言ったろ?

 ってことは、龍神ヤシャガーラ様がそう望んでおられるということなんだ。

 ……勝手なことをするんじゃないぞ、いいな?」


 これにはゼベラも引っ込まざるを得なかった。

 不貞腐れたような顔をして、渋々兄の戒めに従う。


「ちぇっ……わかったよ、アニキ……」


 若い娘と信頼する僧兵長のやり取りを見た長老は小さく溜息を一つ漏らした後、隊長であるゼベラの兄に「現場での判断」を託した。


「やれやれ、ゼベラは相変わらずじゃの……

 ……僧兵長ニーガム。現場は貴様に託した。

 くれぐれも、慎重にな。」

「わかりました、長老様。お任せください!」


 すると彼らは自身の竜翼を羽ばたせ、空へと舞い上がった。

 一路、「人間の船」とやらが迫る問題の空域へと飛翔する。

 

……


 ゼベラの兄にして僧兵長ニーガムが偵察隊の先頭を進み、厚い雲海の中を駆ける。

 竜人族は最高で時速100キロの高速で空を飛ぶことが出来る。

 とりわけ身体的に優れた若者の僧兵のみで構成された今回の偵察隊は、並の竜人たちよりも素早く飛行することが可能だ。

 神殿を飛び立ってからものの数十分で、彼らは「神」が異変を感じ取った空域に到達した。


「雲を抜けて上に出るぞ。皆の者、気を抜くな!」

「承知!僧兵長!」


 雲海を突き抜け、その上空へと到達する神殿僧兵たち。

 どこまでも続く紺碧の空。

 太陽の日差しが燦燦と降り注ぐも、酸素すら希薄な超高空は氷点下の空気に包まれている。

 しかし、その身を切る冷気は強靭な竜人たちの肌に何の影響も及ぼさなかった。


 だが、そんな屈強な彼らは今、大きく動揺していた。


 目の前に、途轍もなく巨大な鋼鉄の「船」が10隻、無数の翼を持った「小舟」を従えて神殿の方角へ進んでいたからだ。


 巨大な「空飛ぶ船」……その正体は大陸南東部に存在する超工業国家、ノルトスタントール連合王国空軍が誇る「空中戦艦」だった。

 完全鋼鉄製の巨大軍用装甲飛行船。

 搭載された強力な内燃機関のエンジンが無数のプロペラを稼働させ、水素ガスが充填された飛行船「本体」のガス袋は野戦砲弾すら弾き返す分厚い鋼板で構成されており、そのガス袋の上下には戦闘指揮所が設けられている。

 そして、船体を覆う様にハリネズミの如く砲塔や機関銃座が存在していた。

 そんな10隻からなる「空中戦艦」艦隊の周囲を、優に200機を超す小型レシプロ戦闘機や大型双発爆撃機が編隊を組んで飛んでいた。

 

 その内の1機に乗る戦闘機パイロットが、外の冷気を遮断する閉鎖型風防越しに「敵獣人兵」の姿を捉えた。

 艦隊旗艦に対し、モールス信号通信を試みる。


「ワレ・敵獣人兵・10体・捕捉セリ・指示ヲ乞ウ」


 信号を受信した艦隊旗艦に乗る「王国空軍赤道遠征空中機動艦隊司令」のジョシュアン・ルクレール将軍は、通信兵から内容を伝達されると、直ちに直掩戦闘機部隊に指令を出した。


「第13護衛戦闘機小隊に命令。斥候と思われる敵獣人兵を蹴散らせ。

 旗艦ゴリアテア他、艦隊本隊はこのままラシュタヤータ山へ進行。ドラゴン駆除作戦を予定通り実行する。」


 すると単翼の全金属製小型戦闘機およそ4機が、艦隊の隊列から外れてゼベラたちの方へと向かって来た。


「僧兵長!人間の“翼付き小舟”がこっちへ来るぞ!」


 男性僧兵の一人がやや狼狽しながら叫ぶ。

 ニーガムは落ち着いて仲間に指示を出す。


「わかってる。決してこちらから仕掛けるなよ。

 まずは連中がコッチへ来る目的を問い質すんだ。」


 そう言うとニーガムは、両手を広げると腹の底から大声を張り上げ、迫りくるスタントール王国空軍小型戦闘機に向けて「大陸共通語」で「来訪目的」を尋ねた。


「人間たちよ!!我らは龍神ヤシャガーラが使い!!

 其方らは何故なにゆえ、我らがラシュタヤ神殿を目指す!?」


 人間たちの「小舟」は「唸り声」を強めて真っ直ぐこちらへ突っ込んでくる。


 何かおかしい。


 その時、ゼベラは気が付いた。

 エンジンを唸らせて迫る「小舟」に乗った人間の「殺気」に。


「……ッ!アニキ!!」


 次の瞬間、ゼベラはニーガムに飛びついた。

 

 7.7mm航空機関銃の咆哮。


 4機の戦闘機は、自身の左右の翼に2門づつ搭載された機関銃から大量の「鉛弾」を「敵獣人兵」目掛けて吐き出した。


「グワッ!?」

「ギャアッ!!」

「うぐっ!?」


 一瞬にして3人の僧兵が「射殺」される。

 逞しい竜人たちの血潮が紺碧の空を赤く染め上げる。

 背中の翼はズタズタに引き裂かれ、手足が吹き飛び、亡骸は数千メートル下の地面へ力無く落下していく。

 ニーガムは、ゼベラの咄嗟の判断で弾丸の雨を辛くも回避できた。

 人間の「小舟」はそのままニーガムたちの真上を掠めるように飛び去ると、大きく宙返りして機首を反転させ、再びこちらへ迫り来る。


「アニキ!!」

「僧兵長!!」


 ゼベラと生き残りの「偵察隊」メンバーがニーガムに判断を仰ぐ。

 彼は直ちに決断した。


「全員、散れ!!

 反撃だ!!殺された仲間の仇を討つ!!」

「御意!!」


 竜人僧兵たちはその場から四方に散った。

 突然仲間を殺された竜人たちは大いに怒り、自慢の長槍を両手に構えて人間の「小舟」に戦いを挑む。


 だが、それは無謀以外の何物でもなかった。


 単純に「速力」だけを例にしても、彼ら竜人僧兵の飛行速度が時速100キロに対し、スタントール空軍小型戦闘機のそれは最高時速500キロ。

 ましてや彼ら竜人兵の武器は2メートルの長槍であり、翼に計4門の7.7mm機関銃と機首に2門の20mm航空機関砲を備えた戦闘機とでは「戦い」にすらならなかった。

 唯一「敵」に勝っている点である「小回りの良さ」だけを武器に、何とか食らいつこうと試みるも、スタントール軍戦闘機は圧倒的速力で竜人たちを引き離し、十分に距離を取った上で旋回、攻撃を繰り返す。

 瞬く間に撃ち落されていくラシュタヤ神殿僧兵「偵察隊」の腕利きたち。

 ゼベラと兄ニーガムも数発の7.7mm弾を肩や足に喰らい、真っ赤な血が飛沫となって大空に舞う。

 気が付けば、今、空を飛んでいるのは彼ら2人だけになっていた。

 敵戦闘機は尚も執拗に攻撃を続け、このままでは2人とも「空の藻屑」と化してしまう。

 ゼベラは、後方から迫る敵機を振り切ろうと全力で空を飛びながら、「姉貴分」だった同じ豪族出身の女性竜人僧兵がズタズタに引き裂かれて地上へ落下していくのを目の当たりにし大粒の涙を流して叫んだ。


「クソッ!!クソッ!!今度はヴェサ姐さんがやられちまった!!

 どうなってんだよ!!ううっ……チクショウ!!チクショウ!!」


 そこへ兄ニーガムがやって来た。

 2人は紺碧の空を並んで飛行する。

 追撃していたスタントール軍戦闘機は2人から一旦離れ、「トドメ」の攻撃を加えるべく編隊を組み直す。

 満身創痍のニーガムは、敵戦闘機が態勢を立て直す僅かな隙を突き、妹に「現場指揮官」として「最後」の命令を下す。


「……ゼベラ!!このままじゃ2人とも殺られる!

 お前は下の雲海に逃げ込んで奴等を振り切り、全力で神殿へ逃げろ!!」


 だが、ゼベラは頭を振りかぶり命令を拒否する。


「嫌だ!!ヴェサ姐さんや仲間の仇を取るんだ!!

 あたしはアニキと一緒に戦う!!」


 これをニーガムは一喝した。


「ゼベラ!!俺の言うことを聞け!!

 お前が……お前が、神殿の皆に危険を知らせるんだ!!

 こんな奴等が祭りの最中の神殿に辿り着けば、大勢が戦う間もなく死んでしまう!!

 大豪族とその兵全員に、奴等との戦いに備えるよう警告するんだ!!

 ……行け!!俺は奴等を足止めする!!行けぇっ!!」


 直後、僧兵長はゼベラを眼下の雲海へと突き飛ばした。

 その背後では戦闘機4機が編隊を組み、攻撃態勢を整え迫っていた。


「アニキーッ!!」


 ゼベラは雲海に沈み、厚い雲で霞んでいく視界の中、身を翻して敵へ真っ直ぐ突撃した兄が機関砲の集中射撃でバラバラになるのを見ていた。



……●「スタントールという国 第三部」番組本放送一部抜粋●……


(椅子に座るゼベラ女史が、俯いて一筋の涙を零す)


・ゼベラ

「……すまないね……あれからもう何百年も経ってるのに、今でもあの時のことを思い出すとさ……

 ……クソッ……」


・ロッピ・ヴァーニッタ(インタビュアー記者※ウサギ系亜人女性。以下ロッピ)

「辛いことを思い出させてしまい、申し訳ありません。」


・ゼベラ

「謝らないでおくれよ。ウサギさん。

 ……むしろ、あの時のことを話せて嬉しいんだ。

 ……それで……ニーガムが殺された後、あたしはとにかくアニキの命令を果たす為に、必死で神殿へ飛んだんだ。

 雲の中やジャングルの中を、連中のしつこい追撃を躱しながら無我夢中で飛んだよ。

 ……でも、もう遅かった……奴等の方が、先にラシュタヤ神殿に辿り着いてた……

 あたしは……あたしは……アニキの命令を果たせなかった……」



……●抜粋終了●……



「……」


 「神」はその研ぎ澄まされた感覚で、愛する「同胞」9人が殺されたことを感じ取った。

 だが、実際に何が起こったかまではわからない。

 ヤシャガーラは臣下である竜人族長老の男に、「偵察隊」の壊滅を告げた。


「……ガーザッツよ……

 ……お前が物見に放った若き竜戦士が死んだ。」

「な、なんですと!?」


 長老ガーザッツはじめ、竜人族の巫女や神官たちは大きく動揺する。

 ガーザッツ翁が「龍神」に問い掛ける。


「何が起きたと言うのでありますか、我が大いなる龍よ?」

「……わからぬ……だが備えよ。」


 ヤシャガーラはそう答えることしか出来なかった。

 戦士たちが死んだことはわかるが、「如何なる経緯」で死んだかがわからない以上、どうしても慎重にならざるを得ない。

 彼らドラゴンの民もまた、アルヴァーン王国のエルフたちのように断片的にしか「今の人間」について知らなかったからだ。


 外界と隔絶された熱帯雨林の奥に聳える峻厳な山脈地帯に暮らすコモルドの民が「人間」という種族のことを実際に「知った」のは、ここ最近のことだ。

 それまで、隣の東レヴェリガイア大陸赤道地域で一大勢力を築くトカゲ獣人たちから「鱗と翼を持たぬ弱き者」の話を聞いたことはあった。


 劣悪な環境から身を守る強い肉体を持たず、空を飛ぶことさえ叶わぬ地を這う者たち。


 これがドラゴンの民の「人間」に対する朧げな認識だった。

 そんな朧げな「弱き人間」たちが、300年程前より麓のジャングルに度々「船」という海を渡る乗り物に乗って姿を見せるようになった。

 やがて彼らは沿岸の密林を切り開き、そこに自分たちの街や要塞を造った。

 そして、ジャングルで原始的な狩猟生活を営んでいた「獣人」である猿人たちを「奴隷」として捕らえ、連れ去るようになったのである。

 「奴隷」にされた猿人たちとは完全に住み分けされ、接点が殆ど無いコモルドの民であったが、自分たちの「お膝元」で好き勝手を始めた人間たちに良い感情は抱いていなかったものの、翼無き彼らが平均標高6000メートル級の山々が連なる大山脈地帯である「自分たちの領域」まで来ることは無いだろうと思い、静観していた。


 ところが今回、彼ら人間が未知の「空飛ぶ船」を駆りコモルドの心臓部たるラシュタヤ神殿目指してやって来るではないか。


 麓の猿人たちを「奴隷」にし、彼らの「住処」たる密林を破壊する「好戦的な外来種族」の到来に、ドラゴンの民は大いに懸念を抱いた。

 故に、信頼のおける若き手練れの僧兵のみを選抜して「偵察隊」を送り出したと言うのに、どうやらその若者たちは一人を残して「死んで」しまったようだ。


 しかし、事の詳細が不明確である以上、年に一度の聖なる祭典を中断してまで備える必要があるだろうか?


 コモルドの最高権威者である竜人族長老ガーザッツは、神官の一部から上がる「祭典を中止して豪族と民草を動員し、コモルドの総力を結集して人間との大戦おおいくさに備えるべし」との声を抑え込み「決断」した。


「……民草に無用の混乱を引き起こし、有史以来続く我らが祭典を中断するわけにはいかぬ。

 此度の事態は、我ら神殿僧兵のみで対処する。

 神殿周囲の砦に兵を置き、万が一の事態に備えよ。

 上級神官らはワシと共に神殿の空へ上がるぞ。

 ……人間たちと直に話しをするのじゃ。」

「ははっ!長老様!」


 この「目の前の危機」よりも長年の伝統を優先した「愚かな決断」が、コモルドに一方的な「破滅」をもたらす。

 長老ガーザッツはじめとするラシュタヤ神殿の上級神官たちは、神殿から飛び立った直後、スタントール王国空軍空中機動艦隊の恐るべき威容に圧倒され、息つく間もなく襲い掛かった無数の護衛戦闘機の攻撃で「空の塵」と化し、コモルド滅亡を招いた張本人はその責任を問われることなく世を去った。

 一瞬にして指導層を失った神殿僧兵は、これから始まる「大破壊」を指を銜えて目の当たりにすることとなる。



……



「ルクレール艦隊司令!ゴリアテア他、遠征艦隊所属空中戦艦全艦、攻撃目標直上に到達!!」


 スタントール王国空軍赤道遠征空中機動艦隊旗艦ゴリアテア艦長の男が、フェターナ人のベテラン「空乗り」の壮年男に状況を報告した。

 艦隊司令ルクレールは、直ちに「作戦開始」の号令を発する。


「艦隊総員に命令!!

 ドラゴン駆除作戦“ラーマヤーナの雷”、発動!全ての砲門を開け!

 攻撃目標、ラシュタヤータのドラゴン城塞!

 空中戦艦は一斉砲撃用意!!」


 ルクレールの命令直後、巨大軍用装甲飛行船10隻は胴体下部の前後及び中央に設置されている二連砲塔搭載の計6門からなる短砲身130mm榴弾砲の砲口をラシュタヤ神殿へ向け、対要塞破壊用徹甲榴弾を装填した。

 

「司令!空中戦艦全艦!砲撃戦準備、良し!!」


 戦闘指揮所の女性通信兵が艦隊各艦からの報告をルクレールに伝える。

 ルクレールはその報告に頷きを返すと、一言叫んだ。


「……撃てっ!!」


 轟音と発砲炎の閃光が雲海を切り裂く。


 合計60発の130mm砲弾が、何も知らないドラゴンの民で満ちた神殿に降り注いだ。

 大爆発がラシュタヤータ山を覆いつくす。

 龍神の降臨を祝う竜人とドラゴンたちの喜びの声は、いきなり襲い掛かった理不尽な「破壊」がもたらした恐怖の絶叫へと変わった。


「うぎゃああぁぁーーっ!!」

「た、助けてくれ!誰か、助けて……」

「……あぁ……なにが……なにが起こったんだ……」


 壮大なドラゴンの大神殿は、大陸南東から襲来した超工業国家の恐るべき侵略軍の奇襲攻撃を前に、一瞬にして灰燼に帰した。

 侵略軍はさらに「追撃」を加える。

 空中戦艦に随伴して飛行する大型レシプロ爆撃機が、大編隊を形成して「砲撃後」のラシュタヤ神殿へ空襲を仕掛けた。

 爆倉から投下される大型無誘導爆弾による「鉄の集中豪雨」。

 それはもはや、ドラゴンをただの一匹足りとて討ち漏らすまいとする執念すら感じる徹底した「殺戮」であった。


 これに対し、神殿周囲の砦にあらかじめ配置されていた僧兵部隊は軒並み激怒。

 各自一斉に砦を飛び出して、敵空中艦隊に戦いを挑んだ。


「お、おのれ……おのれ、人間共!!

 ……皆殺しだ!!我らが神殿を焼いた人間共を、皆殺しにしろ!!」

「うおおぉぉーーっ!!」


 武器を手にした神殿僧兵の竜人やドラゴンの集団が、周囲の砦から一斉に飛び立つ。

 

 だが既にそこには、敵の戦闘機部隊が待ち構えていた。


「リヨン01・ワレ・敵獣人兵・及ビ・ドラゴン多数・ヲ・補足セリ・迎撃ス」


 上空警戒中の戦闘機小隊が、艦隊旗艦へモールス通信により報告した後、速やかに迎撃戦へ突入した。


 機関銃のリズミカルな銃声と機関砲の重低音が僧兵たちに叩き付けられる。


 それは文字通り「駆除」であった。

 如何に強靭な鱗と分厚い筋肉を持っていようと、鉄板さえ貫通する機関銃弾にはあまりに無力であった。

 加えて指導層を欠いたラシュタヤ神殿僧兵軍団は、周囲10数箇所の砦に展開していた各部隊がバラバラに攻撃を開始したことで、いとも簡単にスタントール侵略空軍によって各個撃破された。

 かつて荘厳な神殿が聳えていた聖なる山は、南から襲来した巨大装甲飛行船の猛砲撃と爆撃機部隊による徹底空襲で瓦礫の山と化し、降臨祭を祝っていた竜人やドラゴンたちの死体で埋め尽くされた。

 神殿僧兵を掃討した小型戦闘機のパイロットが上空から「戦果」を確認する。


「……敵影無し。完全に目標は破壊されたな。」


 そう呟くと、旗艦ゴリアテアに向けてモールス信号による戦果報告を試みようと通信打刻器に手を伸ばした。


 その時。


 瓦礫を内側から突き破り、巨大な古代龍エンシェントドラゴンが出現した。

 そのまま一直線に上昇し、戦闘機の下側から高速で襲い掛かる。


「な、なに!?クソッ!回避す」


 龍神ヤシャガーラはスタントール空軍小型戦闘機に喰らいつき、そのまま強靭な顎で粉砕した。戦闘機は木端微塵になり、パイロットは即死。


【グオオアアァァーーッ!!】


 激しい怒りの咆哮が赤道の大山脈に轟き渡る。

 直後、空中の酸素を口腔内に吸い込むと青白いドラゴンブレスを生み出した。


【ガウォン(爆ぜろ)!!】


 いにしえの龍語と共に超高熱の火球を放つ。

 火球は音速を超えて双発爆撃機の一つに迫った。


「火の玉がこっちに来るぞ!!……う、うわっ」


 蒼きドラゴンブレスがスタントール侵略軍の爆撃機を直撃。

 機体は大爆発を引き起こし、四散した。搭乗していたパイロット、爆撃手、機関銃手など計6名の兵士が異国の空に散った。


「艦隊総員、警戒せよ!!最終駆除対象が現れたぞ!!

 対巨大ドラゴン戦、用意!!戦艦は隊形を横陣へ!!

 艦体上下130mm榴弾砲、一斉砲撃用意!!

 護衛戦闘機隊は、隊形完成まで時間を稼げ!!」


 ヤシャガーラの出現を確認した空中艦隊司令であるフェターナ人高級貴族ルクレール将軍の命令が発せられる。

 超工業国家が生み出した巨大空中戦艦10隻が、対地上要塞攻撃用の円陣を解いて旗艦を先頭に横陣の隊形を取るべく動き出す。

 一方、随伴していた鈍足の爆撃機部隊は「任務完了」の為、沿岸の野戦空港へ帰投を開始。

 空中戦艦の隊形が完成するまでの間、護衛の小型戦闘機部隊は小隊ごとにヤシャガーラへ攻撃を仕掛ける。

 主武装の7.7mm機銃4門は古代龍の鋼の如き鱗に弾かれるが、副武装の機首に2門搭載の20mm機関砲は鱗を貫き下の体組織にダメージを与える。

 スタントール軍の「コバエ」は四方八方からヤシャガーラに銃撃を加え、これを大いに翻弄した。


【グオン(おのれ)!】


 一方で世界最古の古代龍エンシェントドラゴンも果敢に強大な人間の近代空軍に応戦。

 乱戦の中、敵戦闘機数機を叩き落す。


 だが、そこまでだった。


 スタントール王国空軍赤道遠征空中機動艦隊は、「対巨大ドラゴン戦」用隊形を整えた。

 10隻の巨大空中戦艦がヤシャガーラを扇状に取り囲んだ。

 神殿を破壊した船体下部3箇所に配置された二連装砲塔の短砲身130mm榴弾砲計6門に加え、船体上部前後中央の同じく3箇所に備わった二連装130mm砲塔の合計12門……空中艦隊総計で120門の近代大型野戦砲が龍神に狙いを定めた。

 艦隊司令の号令が飛ぶ。


「ゴリアテアより全艦へ!!

 ……撃てぇー!!」


 古代龍の咆哮さえも掻き消す砲撃音。

 120発の対要塞攻撃用徹甲榴弾が龍神に相次いで炸裂。


【グギャアアォォーー……】


 龍は断末魔の叫びを最期に大山脈の空で散華した。

 巨体は数百の肉片となって広範囲に散らばり、雄大な龍の翼もズタズタに引き裂かれて原型すら留めず塵と化した。

 戦闘開始から僅か1時間。

 戦いは残酷なまでに一方的な展開のまま終わった。

 無数の竜人やドラゴンたちの屍と聖なる神殿の残骸を残し、コモルドは数万年の歴史に幕を下ろした。


 その悲惨な様子を、ゼベラは麓のジャングルに隠れ、大粒の涙を流しながら見ていた。


 スタントール軍戦闘機の執拗な追撃を躱す為、雲海を潜り抜けて一気に地表まで降下し、密林を縫う様に飛んできた彼女だったが、満身創痍になりながらもようやく神殿の麓まで辿り着いた時、その瞳に飛び込んできたのは「神」が肉片にされる瞬間だった。

 

「……な、なんなんだよ……なんで、なんでヤシャガーラ様が……」


 ゼベラはその場でがっくりと膝を屈し、溢れ出る涙を止められなかった。 



……


 ヤシャガーラが「駆除」されて10年が経った。

 コモルドは「スタントール領中央レヴェリガイア」という新しい名前に変わっていた。

 沿岸の密林を切り開いて設けられた各地の植民要塞都市と「直轄領ラシュタヤータ鉱山地区」を無数の大型飛行船や航空機が行き交う。

 「中央レヴェリガイア植民地政府直轄領」に指定されたラシュタヤータ「鉱山」は、スタントール本国では産出地の少ないダイヤモンドやレアメタルを大量に含有していた。

 彼らスタントール人が、大規模な空中艦隊を投入してまで欲したのが、この「希少戦略資源」であった。

 「龍神」と無数のドラゴンの民を殺戮した白人たちは、今や我が物顔で「聖なる山」を掘り起こし、自らの為だけの繁栄を謳歌していた。


 そんな「唾棄すべき」光景を、遠く離れた「国境付近」の山から忌々しく見つめる数十人の竜人たちがいた。

 皆傷つき、精悍だった顔は「敗北」に打ちのめされて覇気を失っている。

 取り分け彼ら彼女らのリーダー的存在だった若い竜人の美しい娘は、その端正な顔を悔しさと惨めさで歪め、宝石の如き大きなエメラルド色の瞳からは堪えることの出来なかった涙が一筋頬を伝う。

 彼女……ゼベラ・ガーザッツはその日、永遠に「故郷」を追われる羽目になった。

 

 ラシュタヤ神殿が灰燼に帰し、ヤシャガーラという「民族統合の絶対的頂点」をはじめとして各地の豪族の長など大勢の同胞を失ったコモルドの民は当初、数少ない神殿僧兵の生き残りであるゼベラを中心にスタントールとの全面対決に向けて一致団結するかに見えた。

 

 しかし、スタントールの「植民地支配」のやり方は極めて狡猾であった。


 まずスタントールは、麓のジャングル地帯に暮らす「原始人同然」の猿人たちと大きく異なり、竜人族たちが高度な封建社会を築いている上に独特な高等芸術文化を持っている点を気に入り、彼らコモルドの竜人たちの「人種区分」を「準亜人種」と規定して「人間に比較的近しい存在」と見做した。

 続いてコモルドニア各地に独自の勢力を持ち、かつ日々互いに勢力争いを繰り広げていた豪族を利用し、「神」をも倒すほどの実力を有する自分たちに服従する姿勢を見せた者や特に高度な技術・文化を持つ集団を、それぞれ独立国家に準ずる「藩王国」としてスタントール宗主下の保護国に据えた。

 各「藩王国」に属する竜人は、所属する「藩」のスタントールへの貢献に応じて「身分」を上げさせ、様々な特権を付与。さらに藩王の一族や秀でた才能を持つ者には「近代教育」を受けさせ、「宗主」たる植民地政府の小役人にさえ抜擢した。

 そして「コモルドの文明開化支援」の名の下に多額の支給金とライフル銃等の「旧式」銃火器を与え、尚もスタントールに反旗を翻す豪族たちの討伐を行わせたのである。

 彼ら「藩王国」の「王」が「文明」の味を覚え、それを与えてくれるスタントール人という「新たな神」に気に入られるべく「同族」に武器を向け始めるのに、さほど時間はかからなかった。

 ゼベラが属する豪族……「反スタントール闘争」の中心的存在であったガーザッツ一家は、時間が経つごとに「同胞」の手によって苦境に陥り、やがて「スタントール宗主下の竜人藩王国」4ヶ国連合軍の総攻撃を受け、本拠地であるガザルザ山を失い離散を余儀なくされた。

 特に、反スタントールの急先鋒であったゼベラとその仲間には植民地政府当局から多額の懸賞金が掛けられており、もはやコモルドに安住の地は無かった。

 今も、スタントール人が注ぎ込む「文明」という名の甘い蜜に群がる「裏切者」たちが、血眼になってゼベラたちの行方を捜している。

 

「姉ちゃん……オイラたち、どうなっちゃうの?」


 傍らでゼベラの手を握る少年が、不安な顔を姉に向ける。

 彼、ニグ・ガーザッツは今年で30歳。数百年の時間ときを生きる長命な竜人族にあって、その年齢は人間で言えば10代未満の「子供」である。

 ゼベラは視線を下に向けて弟に言った。


「……山をもう一つ越えたら、トカゲ連中の国に出る。

 そこに“ロングニル”っていう国から来たエルフの商人たちがいるんだ。

 ……彼らが、あたしたちを自分たちの国に連れて行ってくれるってさ。」


 すると弟は視線を「空飛ぶ船」が行き交う麓のジャングルに戻し、姉の言葉に疑念を呈した。


「……お爺様や父ちゃん、母ちゃん、ニーガム兄ちゃんを殺したあいつらスタントール人はどうするの?

 あいつらをコモルドから追っ払うんじゃないの?」

「……」


 弟の素朴な疑問に、ゼベラは答えられなかった。

 周囲の大人たちも、ニグの言葉を聞き、溢れる悔しさで俯いてしまう。

 近くにいた幼子を抱える若い竜人の娘が、耐え切れずに嗚咽を漏らす。


「……さ、行くよ。こうしてる間にも、スタントールに魂を売った“サラマンダー野郎”共が来るかもしれない……」


 「サラマンダー野郎」とは彼ら竜人族におけるスラングの一つだ。

 意思疎通が可能なドラゴンのような高等知能を有さない「ただの獣」であるところのサラマンダーは、ドラゴンのみならず竜人族の者やハーピー族と言った「翼人種」たちからは「下等な存在」と見做されており、同様に私利私欲に目が眩んだ同族のことを、往々にして「サラマンダー」と呼んで侮蔑するのだ。

 尚、スタントール人はじめとする「人間たち」はドラゴンもサラマンダーも同系統に属する「動物の一種」としか認識しておらず、現にコモルドのドラゴンたちは軒並み「駆除」または「家畜化」されてしまった。

 斯様な優生思想に基づく「認識」は極めて短期間でスタントールに従順な「コモルド人」にも伝染病のように広まり、それまで共に肩を並べて戦い、酒を飲み交わしていた「仲間」を「各個人が所有する豚やヤギ等と同じ家畜の一種」と見做すようになり、今や「家畜」としてスタントール人に売り捌いていた。


 ゼベラは弟の手を引き、その場から飛び去った。

 彼女の後を、仲間たちが周囲を警戒しながら続く。


「いたぞ!!ゼベラだ!!」

「止まれ!ラシュタヤの残党め!!」


 飛び立った瞬間、ゼベラたちを追跡する「藩王国」の兵数名に発見されてしまった。

 まさに最悪のタイミングであった。

 藩王国兵らは、一斉に手にしたスタントール製ボルトアクション式ライフル銃を構える。


 同時に発砲。


「きゃあっ!」

「ぐわっ!!」


 たちまちゼベラの仲間数人が撃ち落とされる。

 直ちにゼベラは反撃の体勢を取る。

 彼女は幼い弟を振り払うと、数人の「戦える」仲間たちと共に自ら殿しんがりとなった。 


「クソッタレのサラマンダーが!!

 重傷者と女子供は先に行け!!ニグ、お前も行くんだ!!」

「嫌だ、姉ちゃん!!オイラも戦う!!」

「ダメだ!!……ヴァーベラ!!ニグを連れて国境を越えろ!!早く!!」


 姉に付き従おうとするニグを仲間の女性が引き留め、そのまま国境目指し引っ張って行く。

 「守るべき存在」がいなくなったゼベラは、腰のベルトに差したホルスターから「リボルバー拳銃」を引き抜いた。


 連続発砲。


 彼女のダブルアクション式リボルバーは引き金を引くだけで立て続けに銃撃可能だ。

 ゼベラはこの「最新型拳銃」を、トカゲ獣人の商人を経由してスタントールの「宿敵国家」たる屈強なオークの近代文明軍事国家・ディメンジアから届けられた「軍事支援物資」の一つとして手に入れていた。

 3発撃った内の1発が、敵竜人兵の顔面に命中。

 強力な.44口径マグナム弾は一発で敵藩王国兵を「無力化」する。

 圧倒的な運動エネルギーが命中した右顔面の体組織を吹き飛ばす。即死。

 「追跡分隊」の指揮官は、思わぬ反撃で部下を失ったことに動揺しつつもゼベラに降伏を促した。


「お、おのれ!!……大人しく降れ、ゼベラ!!」

「黙りやがれ!!あんなクソッタレ共の家畜に成り下がったテメェ―らに降るくらいなら、戦って死んだ方がマシだ!!」

 

 ゼベラは振りかぶり、降伏を拒否した。

 それは他の仲間たちも同様だ。

 ゼベラは「降伏拒否」と同時にリボルバー拳銃を敵指揮官目掛けて発砲した。

 しかし弾丸は命中せず、空しく敵の翼を掠めるのみ。


「クソッ!……止むを得ん!この野蛮人共を始末しろ!!」

「はっ!分隊長殿!」


 分隊長の竜人男が攻撃を命じる。

 それと同時にゼベラたちは散開した。


「ここでサラマンダー共を片付けるぞ!絶対に仲間に手出しさせるな!!」

「了解だ!姐さん!!」


 そのまま藩王国兵と「反乱分子」たちは激しい空中戦ドッグファイトに突入する。

 ゼベラを後ろから追いかける藩兵の竜人男がライフルを構えて彼女を狙うも、優れた身体能力を有する竜人娘は高速でジグザグに空を翔け、照準を定めさせない。

 ある程度追跡させた後、ゼベラは突如90度の角度で真上に飛び上がり、一時的に相手の視界から消える。

 敵藩兵は驚愕し、その場で急停止する。


「なっ!?あの女、何処に」


 藩兵の竜人男がゼベラを探すべく上空を見上げた直後。


 発砲。


 ゼベラのリボルバー拳銃から、強力なマグナム弾が放たれた。

 しっかりと両手で保持したことで、弾丸は狙い違わず敵兵の頭部に命中。

 顔面中央の鼻骨を叩き割り、そのまま脳組織を粉々にして後頭部から飛び出した。

 即死である。

 彼女の他の仲間たちも練度で劣る敵藩兵を瞬く間に圧倒し、残る敵は分隊指揮官の男のみとなった。


「クソッ!クソッ!!ガーザッツの蛮人共め!!

 ……え、援軍を呼ばなければ……」


 敵分隊長の男は、形勢不利と判断するや反転して撤退を開始。

 腰のホルスターから信号拳銃を取り出すと、「スタントール人」の援軍を呼ぶ為、上空に銃口を向けて引き金を引こうとする。

 それをゼベラは阻止すべく、全力で追いかけた。


「待ちやがれ!!サラマンダー!!」


 ゼベラはリボルバー拳銃を仕舞うと、神殿僧兵用短剣を引き抜き、分隊長の後ろに迫った。

 敵竜人兵の翼を掴み、相手の身体をぐっと引き寄せる。

 

 短剣が敵藩兵分隊指揮官の心臓を貫いた。


「うがっ!!」


 剣を引き抜き、骸となった敵を地面へ蹴り落とす。

 だが間に合わなかった。

 刃が敵の身体を貫く直前、既に赤い信号弾は打ち上げられていた。


「ッ!!チクショウ!!」


 ゼベラは臍を噛む。


「姐さん!!」

「ゼベラ!!」


 彼女の周囲に、敵藩兵を倒した仲間たちが集まる。

 それと同時に、「文明人」たちが駆る「翼付き小舟」のレシプロエンジンの音が遠雷のように轟き渡る。

 周辺空域を警邏中だった戦闘機部隊が、信号弾に気付きこちらへ向かってくるようだ。


 時間が無い。


「……コモルドを去るぞ!!全力で国境を越えろ!!」


 ゼベラはそう告げると、先に逃がした仲間たちと合流すべく殿の戦士たち数名を率いて雲の彼方へと姿を消した。

 彼女たちが、故国の地を踏むことは二度となかった。

 ……ただ一人、ゼベラの弟ニグを除いて……



……●「スタントールという国 第三部」番組本放送後半から一部抜粋●……



・ゼベラ

「国境を越えてロングニルに辿り着いてからは……知っての通りさ。

 あたしは当時工事中だったノルデンタワーの現場作業員の仕事に在り付くことが出来て……気付いたら現場職長になり、そして気付いたらゲルンガルムの嫁さんになった。

 仲間たちもそれぞれ色んな仕事に就いてさ……皆、平等で平和なこの国で忙しく幸せに働くことで、故郷を追い出された辛い記憶を忘れることが出来たんだ。

 ……なのに、ニグの大馬鹿野郎は……

 大学で“人民共産主義思想”なんぞに毒されちまって、アカいお仲間連中と一緒にコモルドに戻っちまった!

 ……ほんと、大馬鹿だよ……

 あたしが『このロングニルで幸せに暮らせばいいじゃないか』って言ったら、アイツ、『苦しんでるコモルドの人民同胞を救えるのは、僕たちだけなんだ!』とか叫んで出ていきやがったんだ!」


・ロッピ

「……そんなことが……やはり今でもニグ・ガーザッツ氏……弟さんのことが心配ですか?」


・ゼベラ

「ああ……たった一人残された血を分けた家族だからね。

 喧嘩別れしたけど……コモルドで武力衝突が起こったニュースを聞く度に、スタントール野郎にぶっ殺されてやしないか心配になっちまうよ……

 それにさ……エルレナータさんやゴーギルンさんみたいに、家族や仲間全てを失いズタボロになってロングニルに辿り着いたってわけじゃないあたしたち亡命コモルドの連中なんて、ニグに言わせりゃ、ある意味“戦いから逃げた卑怯者”なのかもね……」


・ロッピ

「そんなことはありません!

 敗北を悟り、亡命することを選んだ貴方たちの決断も、とても立派だと思います。

 ……生きてさえいれば、希望は続く……

 私はそう信じてます。」


・ゼベラ

「ありがとう、ウサギさん。今日は話せて本当に良かったよ。」


・ロッピ

「こちらこそ、辛い思い出を勇気を持って語っていただき、改めて感謝申し上げます。

 ……最後に、スタントールに対して言いたいことはありませんか?」


・ゼベラ

「あぁ、あるよ……スタントールっていうより、弟に対してだけど……

 ……ニグ!クソッタレのスタントール野郎共のケツを、思いっきり蹴り()()()()やりな!!

 あんだけ大見得切って出て行ったんだ!

 コモルドニアの空を取り戻すまで、帰って来るんじゃねぇぞ!!」



……●第三部 終了●……

……●コモルドニア(スタントール側通称:中央レヴェリガイア海外州) 現地最新情報●……


 新暦1929年5月29日。

 ノルトスタントール連合王国直轄領中央レヴェリガイア「海外州」。

 国際世論の「植民地」への風当たりが強くなった現代になり、ロングニルを中心に世界各国から高まる非難に対して、スタント―ルは世界各地に有する「植民地」を「王国にとって不可分の『海外州』であり、植民地ではない」と強く反発。新たな行政区分である「海外州」なる制度を創設し、外側の名前だけを変えて公然と「植民地支配」を継続している。

 そんな「海外州」の一つが、かつてコモルドニア王国と呼ばれていた「スタント―ル王国中央レヴェリガイア海外州」である。

 鬱蒼とした密林と峻厳な大山脈が広がる赤道の過酷な大地は今、戦場と化していた。


 「革命コモルドニア人民政府」を称する反政府軍とスタント―ル「海外州」政府軍とが激しい戦闘を各地で繰り広げている。

 その人民政府の指導者こそ、逞しい竜人族の男……ニグ・ガーザッツである。

 姉のゼベラや亡き長兄のニーガムに勝るとも劣らない端整な顔を持ち、身体には鍛え上げられた強靭な筋肉を蓄え、エメラルド色の瞳には「祖国を取り戻す」強い決意が宿っている。

 彼と彼が率いる「革命コモルドニア人民解放軍」なる竜人と猿人の合同武装組織は、この日、スタント―ル中央レヴェリガイア州政府議事堂がある沿岸の「植民要塞都市」カーシアンブルクへの総攻撃を企図していた。

 夜明け前の暗闇の中を、カーシアンブルク目指して小柄な猿人の武装ゲリラ兵がジャングルを駆け抜け、竜人の航空騎兵が低空で密林の間を飛翔する。

 その竜人航空騎兵集団の先頭を、ニグが飛ぶ。 


「あと5分で敵要塞防衛ラインだ!各員、戦闘用意!!」

『了解!同志ガーザッツ!!』


 ニグは咽喉式マイクに手を添え、配下部隊に戦闘開始が間近であることを伝える。

 それから間もなく、彼の瞳に「蛮地」のジャングルと「都市」を隔てる「忌々しい」コンクリート製の城壁が見えて来た。

 人民共和国製自動小銃を両手で構え、照星の先に敵防衛ラインを睨む。


「……て、敵だ!!敵竜人反乱軍、接近!!撃ち落とせ!!」


 城壁の監視塔で周囲を警戒していたスタントール兵が、突如「海外州州都」へ急接近するニグたちの存在に気付くなり、狼狽えながら城壁守備隊に警報を発した。

 野太いサイレンが響き渡る。

 間を置かず城壁に据えられた複数の機関銃座から、大規模「奇襲攻撃」を企てる翼の生えた獣人兵に向けて銃弾の雨が放たれる。

 だが、ロクに狙いも定めずバラまかれただけの敵弾は、手練れ揃いのコモルド人民解放軍航空騎兵の翼を掠めるだけだった。

 逞しい竜人戦士の男女たちは、ジグザク飛行で敵弾を回避しつつも速度を緩めることなく敵防衛ラインに肉薄。

 その先頭を突き進むニグのエメラルド色の瞳に、機関銃を操る敵植民地軍の白人兵士の慌てた顔が広がる。


 発砲。


 高温多湿なジャングルでも、この自動小銃は一切動作不良を起こすことなく強力な7.62mmライフル弾を吐き出した。

 スタントール植民地軍兵士の額にめり込んだ弾丸は、ネクタス州出身の若い兵士の人生を強制終了させた。

 異国の地に脳漿をぶちまける「文明人」。

 ニグはそのまま敵城壁に一番槍をつけた。

 彼に続く仲間たちも、相次いで「文明と非文明」を隔てるコンクリート製の壁を守る敵白人兵を撃ち倒す。


「こちら“ラシュタヤの復活”!敵防衛ライン突破!!突破だ!!」


 直後、猿人兵たちから歓声が上がる。


『ウキキッ!!やった!!遂にやった!!』

『コモルドの勇者が“悪魔の壁”を破ったぞ!!』


 喜びの声に続き、地上の猿人部隊野戦指揮官がニグに通信を入れる。


『こちら“森の賢者”1-1!残りは我らに任せろ!

 ……同志ガーザッツ、そのまま突っ切れ!!憎き人間共の街を蹂躙してくれ!!』


 これにニグは力強く返答した。


「了解!!

 ……ラシュタヤの革命戦士たちよ!俺に続け!!

 このままカーシアンブルク市内に突入する!!」

『オオォォーー!!』


 逞しい竜人兵団の雄叫びが密林に轟く。

 彼らはそのまま一気に城壁を飛び越えると、敵植民都市に雪崩れ込んだ。

 地上ではコンクリートの城壁を器用に猿人兵士たちが駆け登っている。

 まさか「鉄壁の州都」が狙われるとは露程にも思ってなかったスタント―ル海外州政府軍は、大混乱に陥った。

 市内に突入したニグら航空騎兵と猿人戦士たちは、それから2日間に渡る激しい市街戦の末、州都カーシアンブルク市の半分を占拠。

 数千人の「文明人」をその「支配下」に置くことに成功した。


 中央レヴェリガイア州政府は市中心部を放棄して港湾地帯まで後退を強いられた後、民間人の身の安全を考慮して反乱軍との「屈辱的」な一時休戦に応じざるを得なくなった。


……


 ニグは配下の兵士たちにスタントール民間人及び州政府軍捕虜への「暴力行為」を厳禁とした。

 その一方で「文明人」たちは、コモルド人民解放軍が占領下に置いた地区にある運送会社の大型倉庫にまとめられ、行動の自由を奪われた。

 人質である。

 ニグは数千人もの「人質」という最高の交渉材料を手にし、このまま「革命コモルドニア人民政府」の存在をスタントール本国政府に認めさせるつもりだ。

 大勢の仲間たちが口々にニグを讃える。


「同志ガーザッツ!流石は、栄えあるラシュタヤ僧兵一族の後継者!」

「“悪魔の壁”を超えし翼人つばさびとの勇者よ!我らを導いてくれ!!」

「革命コモルドニア、バンザイ!!ヤシャガーラ様の栄光あれ!!」


 喝采を送る竜人と猿人の同胞たちに力強い笑みを返す「革命指導者」。

 だが、彼が10年前に少数の仲間と「人民共和国」工作員を伴って「故郷」へ帰還した時、人々は彼の「コモルド独立を目指す武力闘争」の呼びかけに冷淡であり、ほとんど応じなかった。

 スタントールによる狡猾な支配が浸透した「コモルド人」と、「奴隷」にされ絶望し切った「密林の民」の誰もがこう考えていた。


 ……強大なスタントール人に敵うわけがない。どうせ直ぐに殺されて終わりだ……


 ところがその意識を激変させる大事件が起こった。

 「三大陸大戦」と「フェリス同時多発テロ」である。

 大戦で自分たちと同じ「亜獣人」であるディメンジアのオークたちが初戦を圧勝で飾り、「不落の王都」門前まで迫った。


 あの「無敵」のスタントール人が、一時的にとは言えオークたちに惨敗した。


 この事実は、一部の「コモルド人」と大勢の「奴隷」猿人たちに大きな衝撃を与えた。

 トドメとなったのが、ファーンデディア原住民ダニーク人の武装組織・ダニーク解放戦線による王都フェリスでの同時多発テロだ。

 全世界に中継された「褐色少女の戦い振り」を見た中央レヴェリガイア原住民たちは、そこに「希望」を見出した。


 「亜人」と蔑まれた茶色い肌の少女が、スタントール人から「自由」を取り戻す為、奴等と真正面から戦っている。

 無敵と思われていたスタントール人を、どんどん撃ち倒している。

 ……スタントール人は「無敵」なんかじゃ無いのでは?……

 ……ならば、我々も彼女のように戦えば「自由」を勝ち取れるのではないか!?

 

 このような意識が急速に高まり、それまで国境付近で絶望的なゲリラ戦を続けていたニグの下に、次々と武器を手にした同胞たちが押し寄せ、情勢は激変した。

 ニグはコモルド山脈を中心に「解放区」を押し広げ、遂には「革命コモルドニア人民政府」の成立を全世界に向け宣言。

 すると当初から軍事支援を寄越してくれている隣国のトカゲ獣人国家連合やアーガン人民共和国に加え、西レヴェリガイア大陸西方の「経済大国」アペルダ協商連合、果ては遠く東方大陸の「軍事強国」瞬国さえもが彼の「人民政府」を承認し、膨大な支援を提供してくれたのである。

 

 ダニーク人褐色少女サーラの「奮戦」が、文字通り世界を変えた。


 今や「鉄壁」と称されていた「スタントール領中央レヴェリガイア」州都カーシアンブルクの大半を占領し、大勢は決しつつある。

 しかしニグは微塵も油断していない。

 如何なる事態が発生しても対応できるよう、配下の革命戦士たちに指示を飛ばす。

 すると仲間の竜人女性戦士の一人がニグに声を掛けた。


「同志。テレビに貴方のお姉さんが出てますよ。」


 ニグは彼女に促されるまま、「捕虜収容所」兼「コモルド人民解放軍前線司令部」となっている大型物流倉庫の社員休憩所に入った。

 200人以上の人間が同時に食事できる大きな部屋には、大勢の竜人や猿人の革命戦士たちがたむろしており、皆、部屋の壁面に据え置かれた大型ブラウン管テレビに視線を向けていた。

 ニグもまた、戦士たちと同じようにテレビに注目する。

 姉のゼベラが、この惑星で最も平和で平等な超大国報道機関の番組に出演していた。

 番組はもう終盤に差し掛かっており、姉は記者から「締めの発言」を求められた。


『……ニグ!クソッタレのスタントール野郎共のケツを、思いっきり蹴り()()()()やりな!!

 あんだけ大見得切って出て行ったんだ!

 コモルドニアの空を取り戻すまで、帰って来るんじゃねぇぞ!!』


 これにニグは破顔して「返答」する。


「……あぁ、そのつもりだよ、姉さん。

 必ず俺たちの空を取り戻す……約束だ。」


 休憩所の革命戦士たちは、背後に「革命指導者」がいることに気付くや否や総立ちになって見事な敬礼を示す。

 これにニグもまた、信頼する戦士たちに敬礼を返したのであった。


……


 その後、ニグたちの拠点であるカーシアンブルク市内大型物流倉庫へスタント―ル軍特殊部隊が「人質奪還」を企図した攻撃を加えたものの、ニグの的確な指示を受けた赤道の勇猛な獣人戦士たちはこれを難なく撃退。

 「人質」となった同胞を原住民共と一緒に「核」で吹き飛ばす訳にもいかないスタント―ル側は万策尽き、「カーシアンブルク攻防戦」の1ヶ月後、遂に「革命コモルドニア人民政府」を承認した。

 ニグはスタントール首相サリコジと「和平仲介国」ロングニル王国連合の超巨大港湾都市ヴォーレンクラッツェで会談し、そこで「スタントール領中央レヴェリガイア州」は5年の「移行期間」を経て「民主コモルドニア人民共和国」へと生まれ変わることで合意。

 会談を終えて「帰国」したニグを、コモルドの竜人やジャングルの猿人たちは大喝采を持って出迎えた。

 それは世界第二位の超工業大国が史上初めて「植民地」を失った瞬間であった。

 以後、「コモルド独立」に触発され、世界中に点在するスタントールの「海外州」で分離独立を求める暴動が頻発することになる。


 尚、「最大の懸案事項」であるラシュタヤータ鉱山の利権を巡り、スタント―ルとそれに未だ従属する「残存」藩王国、革命コモルドとその「支援国」の思惑が複雑に絡み合い、「自由」を勝ち取った筈のコモルドでは終わりの見えない泥沼の内戦が続くことになるが、それはまた別の話。

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