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褐色少女の独立戦争  作者: mashinovel
第七章  偽りの停戦
48/63

47. ヴェンデンゲンの戦い 前編

 宝石を散りばめたかの如く煌めく人工の光で満ちた極大都市メガシティの夜空を、全体を闇に紛れ込ませる漆黒の塗装で覆った軍用ヘリコプターが飛んでいる。

 ヘリは近未来的な意匠を誇る前面ガラス張りの地上40階建てビル屋上の真上に到達すると、ホバリングを開始した。

 直後、ヘリのパイロットが叫ぶ。


「ケルン1-1。目標アルファに到達。

 降下!降下!降下!!」


 ヘリのスライドドアが開かれると、ビル屋上に向かって数本のロープが垂れ下がり、それを伝って深い紺色のタクティカルベストを着た完全武装の白人たちが降下した。

 手には彼らの祖国が生み出した最新鋭のブルパップ式自動小銃が握られている。

 紺色の瞳には壮絶な憎悪が浮かび、怒りと殺意で歪んだその顔はアサルトマスクで隠されていた。

 新型の特殊部隊仕様コンバットヘルメットにはライトと視線カメラが標準装備されており、兵士一人一人の視界全てがリアルタイムで「前線司令部」のモニターに映し出されている。

 彼らは強大な工業生産能力を誇る超工業国家、ノルトスタントール連合王国の怒れる「王国臣民」。

 「王国防衛烈士団」なるスタントールの熱狂的愛国者らによる武装結社の戦闘員である。 

 今、彼らは「敵国」の地に降り立った。

 この異世界で最大の経済規模を誇る超大国、ロングニル王国連合の首都ヴェンデンゲン。

 かつてはスタントールにとって最大の貿易相手国であり、もっとも重要な同盟国であった。


……

 今現在この二大超大国の関係は冷却の極みにある。

 互いを「仮想敵国」と見做し、以前はロングニルとスタントールの両輪でしっかり回っていた「王国陣営諸国」は、今や二大国家による「自陣営」への取り込み合戦によって分断状態となっている。

 そんな中、ロングニルを代表する国際的報道機関のロングニル・ワールド・トゥデイ社は、スタントールが過去に行った亜獣人に対する非道を暴く特別報道番組「スタント―ルという国」を放送した。

 スタント―ルはこの番組を「歴史的事実の歪曲に基づく反スタントール・プロパガンダ番組である」と激しく非難し、再三に渡り放送中止を要求。

 だが、ロングニル・ワールド・トゥデイは斯様な要求を無視して放送を強行した。

 その結果、大いなる怒りに燃えたスタントールの「憂国の烈士」により、今回の「武力行使」を招くこととなったのだ。

……


 ビル屋上に降下したスタントール武装結社戦闘員らは、新型自動小銃を構えて「目標アルファ」の中に侵入する。

 ロングニル・ワールド・トゥデイ本社が入った「ハヤト・ワールドセンタービル」。

 それが「目標アルファ」と定められた建物の正式名称だ。

 彼らの目的地はビル35階にある「スタント―ルという国 第三部」の生放送中のスタジオ。

 そこに、戦闘員たちが最も敵視する「原住亜人」がいる。

 今回の「ロングニル・ワールド・トゥデイ本社ビル攻撃作戦」に参加したスタントール武装兵たちには、ある共通点があった。

 スタントール王都フェリスにおけるファーンデディア原住亜人ことダニーク人武装組織、ダニーク解放戦線による同時多発テロ攻撃の犠牲者遺族。

 愛する家族を無残にも奪ったテロ実行犯の茶色い肌をした小娘が、デカイ面してテレビ番組の生放送に出演していやがるのだ。

 


 絶対に許しておけない。



 強烈な殺意を抱いたスタントール人たちが、生放送中のスタジオ出入口まで辿り着いた。

 マスクのゴーグル越しに目を合わせる戦闘員たち。


「ケルン1-1!突入!突入!突入!!」


 出入口の両開き扉を蹴破り、ブルパップ式自動小銃の銃口を真正面の番組出演者が座るテーブルに向けた。


 フルオート射撃。


 5.56mm弾の雨を、祖国を愚弄するプロパガンダ番組を垂れ流すスタジオに叩き付ける。

 スタントール至上主義者らが放った弾丸は、全世界に向けて「血の惨劇」を演出した。

 番組出演者のエルフとオークの学者2人が血塗れとなってテーブルに突っ伏し、10名程の番組スタッフも床に転がる。

 スタントール武装兵約6名がスタジオに侵入し、弾痕だらけとなったハの字型に置かれた出演者テーブルに近づく。

 正面向かって右側の座席に「どうでもいい」亜獣人2匹の死体はあるが、「最優先抹殺目標」である褐色肌の小娘の死体が無い。


「ケルン1-1よりヴォルフシャンツェへ。スタジオ制圧。

 これよりターゲットの状態確認に移る。」


 生放送のスタジオを血で染めた白人武装兵グループのリーダーが、「前線司令部」へ簡潔に状況報告した。

 これに前線司令部「ヴォルフシャンツェ」で作戦指揮に当たる男が、「ケルン」分隊に警告を発する。


『ヴォルフシャンツェ、了解。いいか、最大限に警戒しろ。

 特殊部隊ですら仕留められなかったような化け物だ。慎重に行け。』

「ケルン1-1、了解。」


 油断なくブルパップ式自動小銃を構え、分隊は小娘が座っていた左側の出演者テーブルにゆっくりと接近する。

 直後、「ターゲットの小娘」ことサーラ・ベルカセムが小型自動拳銃を手に立ち上がった。

 

 連続発砲。


 テーブルに最も接近していた武装兵の男の顔面に2発の9mm弾が叩き込まれ、仰け反り倒れる。

 その直ぐ隣で男と二人一組ツーマンセルを組んでいた若い男にも、左右の紺碧の瞳に弾丸が飛び込んだ。アサルトマスクの紅色のゴーグルガラスを突き破り、男の瞳を粉砕して脳細胞を破壊する。

 2人のスタントール至上主義者がものの数秒で殺害された。


「サーラ・ベルカセム確認!!撃て!撃て!!」


 分隊長が叫ぶ。

 残った4人の武装兵が、ほぼ同時に新型自動小銃の引き金を引き絞った。

 

 フルオート射撃。


 数十発の5.56mm弾が、絶対的なる死をサーラに叩き付けようとする。

 しかし、小銃弾は突如発生した魔導防壁によって弾かれてしまった。


「風の精霊よ。空に満ちるマナよ。矢尻と弾丸の災いから我らを守り給え。

 しかして我らが刃は敵に届かん。万能の盾となりて、我らが正面へ顕現せよ。

 ……上級防壁ハイ・プロテクション!!」


 サーラの隣で床に伏せていたハイエルフのベテラン女性アナウンサーであるディートリールが防壁魔法の詠唱を超高速で行い、サーラに続いて立ち上がりながら両手を正面にかざして魔導防壁を展開したのだ。

 緋色の瞳を激しく燃え上がらせた褐色少女が、拳銃の銃口を残った敵スタントール武装兵に向けた。


 連続発砲。


 サーラの激烈な怒りが込められた9mm弾は、生放送中の番組を台無しにした「クソッタレ」至上主義者の命を立て続けに奪った。

 しかし残すはあと1人という時に、銀色に輝くサーラの拳銃は弾切れを示すホールドオープン状態となる。


「ダニ虫と耳長の亜人が!!死ね!!」


 その隙を逃さず、スタジオに突入したスタントール武装兵最後の1人となった「ケルン1-1」分隊長は、タクティカルベストの胸元に取り付けた手榴弾を手に取ろうとする。

 だが、それをもう1人の「亜人」が阻止した。


「これでもくらえ(TAKE THIS)!!」


 右側の出演者テーブルの下に伏せていたウサギ系亜人の美しい女性記者、ロッピ・ヴァーニッタは起き上がると同時に跳躍した。

 強烈な飛び蹴りがスタントール至上主義者の顔面に炸裂。


「ぐぎっ!!」


 「ケルン1-1」分隊長の男は短い悲鳴を上げると、そのまま地面に叩き付けられた。

 ウサギ女の恐るべき一撃と床に激突した衝撃で男の首の骨はへし折れた。即死である。

 スタントール武装兵の奇襲攻撃は、斯くしてサーラと2人のロングニル人女性によって撃退された。


 ……その無様な姿を、遠くスタントール本国で生放送を見ていた「女王」が怒りの咆哮を上げる。


 サーラは素早くリロードすると、敵第二波に備える。

 彼女の隣で床に伏せていたダニーク人男性のバシルも身を起こすと、手早くスタントール兵の死体から新型自動小銃を奪ってサーラの脇を固める。

 ディートリールは安全を確認すると防壁を解除し、テーブルを飛び越えて血を流して倒れる同僚たちの介抱に向かう。ロッピもそれに続いた。


「しっかりして!!……すぐに救急車を呼んで!今すぐ!!」


 死線を彷徨う若い人間の番組スタッフを抱きかかえたハイエルフの美女が、スタジオ奥の放送室から慌てて出て来たプロデューサーらに指示を飛ばす。


「メウラ!!」


 ロッピも倒れた同僚を介抱しつつ相棒の猫系亜人女性カメラマンの安否を気遣う。

 するとスタジオ奥に置かれた機材裏側に隠れていた相方が、起き上がりながら返事する。


「……ニャーン、無事ニャーン……

 ……ウニャ?……ニャーーッ!!ニャーのカメラがーーッ!!」


 小柄で愛嬌のある顔つきをした猫娘が、突如豹変した。

 スタントール武装兵がばら撒いた小銃弾によって、彼女が長年愛用していた据え置き型テレビカメラは大きく破損していた。

 わなわなと全身を震わす猫娘。


「……ゆ、許さないニャ……ニャーのカメラ壊したこと、絶対許さないニャ!!」


 スタントール人に対して怒りを燃やすロングニル人が1人追加された。

 一方、サーラとバシルは敵武装兵が突入して来たスタジオ出入口に神経を尖らせつつ、倒した敵兵を確認する。

 スタントール王国正規軍では無い。

 にもかかわらず、正式採用が決まったばかりの最新鋭銃火器や個人装具で身を固めており、王国軍一般部隊よりもはるかに充実した装備を誇っていた。

 解放戦線代表団団長を担う博識なバシルは、敵の正体に気が付いて臍を噛んだ。


「クソ……同志サーラ、間違いない。

 こいつら“王国防衛烈士団”だ。」


 サーラは殺意滾る瞳で敵の死体を見下しながら答えた。


「だろうな。スタトリアのクソッタレ愛国者共が、わざわざロングニルまで()()()()来たようだ。

 ……皆殺しにするぞ、同志バシル!」

「了解だ!同志サーラ!俺は急いで控室に戻って、専用無線で味方をここに呼び寄せる!

 それまで、とりあえず連中の銃を使って凌げ。」


 バシルは控室へ戻る去り際に、敵の死体からもう一丁の新型自動小銃を奪うとサーラに投げて寄越した。

 軽々と銃を受け取るサーラ。

 敵王国の最新型ブルパップ式自動小銃は、従来型の自動小銃よりも全長が短く取り回しが良い。

 銃本体上部に大きなキャリングハンドルが設けられている特徴的な形は、一見すると楽器のトランペットのようであった。

 中途半端に弾丸を吐き出した弾倉を取り外し、床に転がる敵兵から新しい弾倉を奪ってリロードする。

 強大な超工業国家自慢の新型小銃だが、サーラは全く信頼性を感じなかった。

 自身が愛用する抜群の信頼性と高い威力を誇る「人民共和国」製自動小銃が手元に無い事で、どうしても若干の不安を感じざるを得ない。

 そんなブルパップ式自動小銃を構え、バシルに続いてスタジオを出ようとした時、分隊長の男が肩に取り付けていた小型無線機に通信が入った。


『ヴォルフシャンツェよりケルン各隊へ。

 1-1がやられた。ターゲット2名、共に健在。奴等を逃がすな、確実にここで仕留めろ。』


 サーラは死体となって横たわる分隊長から小型無線機をひったくると、これに「応答」した。


「スタトリアのクソ共……私は逃げも隠れもしない。

 かかってこい、相手になってやる!」


 サーラの挑発的な「宣戦布告」。

 これに「ヴォルフシャンツェ」のコールサインで呼ばれる「作戦指揮官」の男が応じた。


『よう“みんな大好き”サーラちゃん。

 有名人さんとお話しできて光栄だぜ。ウチの国でももちろん、お前は人気者だ。

 ……スタントール人の誰もが、お前に死んでもらいたがってるぜ。』


 軽い口調の男。

 明らかにサーラを小馬鹿にしたような言い方だ。

 しかし少女は努めて挑発に乗らず、相手の素性を問いただした。


「誰だ、貴様。」

『直に話すのは初めてだったな……ダリル・マッコイ。

 ノルトスタントール連合王国陸軍ファーンデディア管区方面隊所属の准将だ。

 “305大隊指揮官”と言った方が、サーラちゃんには分かり易いかな?』


 直後、サーラの瞳が真っ赤に染まる。

 305大隊……正式名称、独立第305機械化歩兵大隊。

 「ファーンデディアの精鋭」の呼び声高いノルトスタントール連合王国陸軍の精鋭部隊。

 大戦では共和国軍相手に奮戦し、所属兵士のほぼ全員が何らかの勲章を得ている精兵揃い。

 共和国の降伏後は故郷を荒らし回る原住民テロ組織「ダニーク解放戦線」の壊滅に尽力し、解放戦線に協力した疑いのある原住民町村落に対する「掃討作戦」の中核を担った。

 そんな305大隊は、サーラをはじめとするダニーク解放戦線からは「地獄の猟犬」の渾名で呼ばれる最大の宿敵である。

 サーラはこの大隊と各地で激戦を繰り広げ、その度に苦杯を舐めさせられた。

 港湾都市セティアに始まり、大戦和平会談の会場、ファーンデディア最大の王国軍基地ベゼラを巡る攻防戦、そして核攻撃で灰燼に帰したオラン市の地獄の底で……

 当然、サーラも305大隊最高指揮官の名前をよく知っていた。


 ダリル・マッコイ。


 自由を求めるダニーク人たちを殺戮した王国軍将校の筆頭。

 スタントール女王や三軍総司令に次ぐ解放戦線における「最優先抹殺目標」。

 ダニーク人町村落の掃討……所謂「ダニーク人問題に関する最終的解決」なる民族虐殺ジェノサイド計画の現場作戦立案者。

 今まさに、サーラはその張本人と無線を介して会話しているのだ。

 激しい憎悪と殺意の赤黒いオーラが、褐色少女を包み込む。


「……貴様が、マッコイか……」

『よろしくな、サーラちゃん。

 さて、自己紹介も終わったことだし、早速本題に入ろう。

 もうお嬢ちゃんの逃げ道は何処にもないぜ?

 ロングニルの素敵な“お友達”連中を巻き込みたくなかったら、銃を捨てて投降するんだ。

 もうそろそろ俺の部下共の“おかわり”がそっちに着くはずだから、両手を上げて待っててくれ。

 頼んだぞ?』


 ダリルは軽い口調のままサーラに降伏勧告を行った。

 しかしサーラはこみ上げる激情を抑えて相手の「罪」を糾弾した。


「……わかった。まとめて地獄に送ってやる。

 停戦合意を締結翌日に、しかも仲介国の首都で破るようなガーゴイル共は、全部駆除した方が世の中の為になるからな。」


 ダリルは王国軍の将校だ。

 それが白人至上主義者の武装結社とつるんでテロ攻撃に加担するなど、言語道断である。

 サーラとダリルの通話は、少女の胸元に取り付けられた音声マイクが全て拾い、リアルタイムで全世界に向けて放送中である。

 にもかかわらず、自らの身分をあっさりと明かした敵の愚かさをサーラは突いた。

 しかしダリルは事も無げに返答を寄越した。 


『あん?いつ俺たちが停戦合意を破ったって?俺が軍人だからか?

 残念だったな。今の俺は烈士団に雇われたしがない“傭兵”さ。

 合意文書は読んだかい?そこには“おっかないスタントール人傭兵が可哀想なダニちゃんを殺しちゃダメ”なんて書いてないだろ?

 大体、5年もお嬢ちゃんを野放しになんて出来ないからな。

 軍が特別に“俺たち”の“一時離職”を認めてくれたんだ。

 だからよ、サーラちゃんがどうしても降伏しないってんなら……』


 ここまで軽々しい調子だったダリルの口調が急に変わる。


『……とことんり合おうや……』


 それはまるで、地獄の底から響くような強烈な憎しみを感じる言い方だった。


「……望むところだ……お前も必ず殺してやる、マッコイ!!」


 サーラはそう宣言するなり、無線を切った。

 「敵」小型通信機を肩の留め金具に装着し、敵の死体から手榴弾や予備弾倉等を略奪して装備を整えると、サーラはスタントール人に撃たれた同僚の手当てをするディートリールやロッピたちに告げた。


「……私は征きます……皆さんを巻き込んでしまい、すみません。

 奴等の狙いは私です。敵の無線機を使って連中を引き付けます。

 その隙に、皆さんは安全な場所に避難して!」


 サーラはブルパップ式自動小銃を構えてスタジオを飛び出した。

 直後、ロングニル・ワールド・トゥデイ看板アナウンサーにして最高経営責任者であるディートリールは、最も信頼する部下のウサギ美人記者と猫娘カメラマンのコンビに「至上命令」を出した。


「ロッピ!メウラ!すぐに彼女を追いなさい!

 スタントール人には、この落とし前をきっちりとつけて貰うわ!!

 サーラさんがあの大馬鹿野郎共をぶっ飛ばす様を、全世界に見せつけるのよ!!

 もしスタントール連中に出くわしたら容赦しないで!亜獣人の恐ろしさを、教えてやりなさい!!」


 これにウサギと猫のコンビは直ぐに応じた。


「了解、局長!!喜んで!!」

「ウニャッ!カメラの仇を取るニャーッ!!」

 

 ロッピはパンプスを脱いで裸足になり、メウラはヘッドギア状になった視線カメラを頭に被った。

 サーラの後を追い、すぐさま2人のロングニル人女性もスタジオを飛び出していった。


……


 サーラは一旦控室に戻り、バシルと合流した。

 バシルはまず、サーラに自身や解放戦線代表団との専用通信に使う小型無線機を渡した。

 控室にはバシル以外にも屈強な狼系亜人の男性やオーク男性の警備員数名が待機しており、重要な「来賓」である彼を守るべく周囲を警戒していた。


「同志サーラ。俺は今から彼らロングニルの警備員と一緒に中央警備管理室に向かう。その無線機で同志への戦闘支援に当たる。

 もうすぐ解放戦線代表団の戦闘員とロングニルの警官隊が到着する筈だ。

 それまで、目に付いたスタトリアを片っ端から始末してくれ。

 何か異変があれば直ぐに無線で知らせる。」


 バシルは自身が足手まといになることを重々承知しており、得意とする野戦指揮に専念することにした。

 サーラもそれを了承する。


「頼んだぞ、同志バシル。

 私は奴等を攪乱してビル内の民間人が避難する隙を作る。

 ……警備員の皆さん、迷惑をかけますが私の仲間を守ってください。」


 少女はビル警備隊長の大柄なオーク男性に頭を下げた。

 するとオークは真剣な眼差しをサーラに向ける。


「おう、我らに任されよ!

 ……その代わり、スタントールの馬鹿野郎を大勢ぶちのめしてくれ……

 奴等はディメンジアの同胞の仇だ……遠慮はいらねぇ、派手に暴れろ!」


 オーク警備隊長の男はサーラに握手を求め、少女は緑肌の屈強な男と固い握手を交わした。

 控室を出ると、バシルはロングニル人の警備員たちに守られつつビル最上階の警備室に続く業務用エレベーターに乗り込んだ。

 一方、サーラは1階を目指して階段を下る。

 そこに、ロッピとメウラが追いついた。


「サーラさん!」


 褐色少女はロングニル人記者らの出現に小さく驚いた。


「ロッピさんにメウラさん?

 どうしてここに?」


 少女の問いに、ロッピとメウラはさも当然のことのように答えた。


「決まってるでしょ?私たちも一緒に行くわ。

 ウチの職場に乱入してきたスタントールの大馬鹿を、ぶっ飛ばしてやる!」

「ニャッ!ニャーのカメラ壊したニャ!許さないニャ!!」


 2人の闘志に燃える瞳を見たサーラは、若干戸惑いつつもこれを承認した。


「……わかりました。ですが、危険を感じたらすぐに逃げてください。」

「わかってるわ。サーラさんには絶対に迷惑かけないから!」

「ニャッ!」


 危険は百も承知。だが、それ以上に今回のスタントールの狼藉は許せない。

 ロッピもメウラも、スタジオを飛び出した時に覚悟は決めていた。

 サーラは思いもよらぬ味方を得て、スタントール人との激しい戦いに突入した。

 

……


 「ケルン1-1」によるスタジオ突入の数分後。

 ロングニル・ワールド・トゥデイが入る「ハヤト・ワールドセンタービル」1階エントランス前の道路に、10台を超す黒塗りの高級セダン車や大型ワゴン車が相次いで到着した。

 車内から強力な銃火器で武装しタクティカルベストを着込んだ白人の男女が次々と降りてくる。

 王国防衛烈士団である。

 ビルエントランス前に展開したスタントール人武装兵団のリーダー格の女が、非常に強力な新型四連装対戦車ロケットランチャーを装備している。

 血のように紅い長髪をした豊満な胸部を誇る碧眼の美女。

 女は新型ロケットランチャーを構えると、光学照準器を覗き込んだ。

 輝くような紺碧の瞳は、ビル1階エントランスの自動ガラス扉の先にある入場ゲートを捉えた。

 そこにはゴブリンと狼系亜人等およそ10名程の警備員が、ビルの外に突如出現した謎の集団を狼狽えながら警戒する姿があった。

 紅髪女は壮絶な笑みを浮かべると、誰に言うでもなく小さく呟いた。


「……地獄の底まで吹っ飛びやがれ、クソッタレログニー。」


 連続発射。

 ロケットランチャーからコンマ数秒の間隔で立て続けに4発の対戦車榴散弾ロケットが放たれる。


 直後、大爆発。

 戦車さえ撃破する圧倒的な運動エネルギーは、ワールドセンタービル1階を一瞬にして瓦礫の山にし、その場にいた全ての「ログニー」の身体を引き裂いた。

 女は残弾0となったロケットランチャーを放り棄てると、スリングで背中に回していた愛用の分隊支援機関銃を両手に構えて悠然と歩きだした。

 武装したスタントール人たちも紅髪女に続く。

 女は歩きながら咽喉式マイクに片手を添えて「ヴォルフシャンツェ」に通信を入れる。


「こちらハンブルク1-5。

 目標アルファ1階を制圧。これから茶色い虫を始末しに行く。」

『あー、こちらヴォルフシャンツェ。

 ……レシア嬢ちゃん。もうコードネームで呼ばなくていいぞ。

 どうせサーラちゃんも聞いてるし、全世界に生放送されてるからな。』


 「ヴォルフシャンツェ」ことダリルが紅髪女の本名を明かして秘匿通信が無意味になったことを告げた。

 これにレシアの笑みが壮絶さを増す。


「了解だ、ダリルのオッサン……

 ……聞いてるか?サーラ・ベルカセム!!

 クソッタレのダニ虫女!!テメーのはらわたを切り裂いて、自分の糞がどんな味なのか教えてやる!!」


 レシアの身体を黄金色のバトルオーラが包む。

 しばらくの間を置いて、「ダニ虫女」が返答した。


『レシア!!今日こそ貴様を殺してやる!!そこで待ってろ!!』

「上等だ……テメーとテメーのお友達のクソッタレ亜獣人共も全員ぶっ殺してやる!!」


 レシアは通信を終えると、配下部隊に指示を出した。


「ハンブルク1-5から各隊へ!

 第2小隊は当初の予定通り目標アルファ内部に突入し、屋上のケルン戦隊と協力して建物内のクソ共全員を挟み撃ちにして殺せ!最優先目標はあの小娘だ!見つけ次第ぶっ殺して、死体をあたしのところに持ってこい!

 それ以外はあたしと一緒にエントランスを占拠!

 デルバータのオヤジが到着するまで、ビルにログニーのクソッタレ警察や軍を近付けるな!!」

「了解!姐さん!!」


 「元」305大隊所属王国軍兵士と壮絶な復讐心に燃えるテロ犠牲者遺族たちから成る烈士団「ハンブルク」戦闘兵団は、レシアの指示を受けて駆け出した。

 ビル内の全てのロングニル人及びダニーク人テロリストを抹殺するべく、恐るべき超工業国家の白人たちが「突撃」する。


……


 所属不明の航空機多数が「自宅の空」を飛び回っていることに「彼」は直ぐに気が付いた。

 地上約800メートルの高さを誇るヴェンデンゲン随一の観光名所となっている電波塔「ノルデンタワー」の最上階に設けられた「自宅」屋上に上がり、「敵性航空機」を監視する。

 彼……ロングニル首都ヴェンデンゲンの「天空の守護龍」、巨大な古代龍エンシェントドラゴン「ゲルンガルム」は、エメラルド色のドラゴンの瞳を宝石のように煌めく街の明かりの上に広がる闇夜の中で蠢く「敵」に向けた。


【元帥閣下。】


 するとそこにロングニル空軍兵士の若いドラゴン5名が姿を現した。

 翼をはためかせ、ゲルンガルムの傍に着地する。

 5名とも「対空戦闘装具エアロコンバットギア」を身に着けている。

 ハーネスのような形状をしている胴体を覆うギアには、短距離小型空対空ミサイル発射ポットが左右の脇腹に一つづつと、背中には20mm航空機関砲を装備している。

 彼らはロングニル空軍が世界に誇る「ドラゴン航空騎兵」。

 ドラゴンも「構成国民」の一員としているロングニルでのみ存在する兵科である。

 若い航空騎兵に、「空軍元帥」のゲルンガルムが問いかける。


【それで、フリーデライツ王はなんと?】


 元帥の問いに、ドラゴン兵は頭を垂れて答えた。


【はっ!……『民間人の被害を最小限に抑えるように』とのことです。】


 これにゲルンガルムはニヤリと笑みを零す。


【やれやれ、ハヤトの末裔も無理を言いよるわい。

 ……どれ、ワシの嫁さんを生まれ故郷から追い出しおった人間共の実力がどれほどのものか、ちょっと手合わせ願おうか……

 征くぞ、皆の者!】

【御意!!】


 ゲルンガルムは大きな翼を一振りすると、夜空へと飛び上がった。

 それにドラゴン航空騎兵も続く。

 大戦ではヴェンデンゲンを包囲するアーガン人民軍相手に深手を負いながらも激戦を繰り広げた勇壮な古代龍は、ロングニル建国王ハヤト・フリーデライツと交わした「王都守護の盟約」を再び果たすべく、「戦地」と化した「新市街地区」金融街へと向かった。


……


 ヴェンデンゲン上空2万メートルの超高空。

 悠久の時を生きるドラゴンでさえ近寄れない遥かなる空の高みを、人間たちの「機械」が難なく飛んでいる。

 巨大ジャンボジェットを軍用に改良した機体上部に、円盤のような超広域多目的索敵レーダーを備えたレドームが載っている大型航空機。

 ノルトスタントール連合王国空軍「貸与」の新型早期警戒管制機(AWACS)である。

 その管制機内にある作戦指揮所の「主」は、盛大に着崩した烈士団幹部用制服を纏って指揮所中央に置かれたテーブル状のデジタル表示型作戦地図を、数名の連絡将校と共に確認していた。

 味方部隊の展開はほぼ完了しており、作戦地図は「戦地」へと迫る「敵性亜獣人国家」ロングニル王国連合側の治安部隊の動きをリアルタイムで表示していた。

 その地図に、新たな「敵影」が追加される。

 それはヴェンデンゲン北方に存在するロングニル空軍基地から、10機を超える戦闘機が発進したことを示していた。

 さらに市内低空を飛行する複数の「未確認飛行物体」が、「目標アルファ」直上で「ケルン」戦隊を降下中の味方ヘリ部隊に接近する姿もある。

 可及的速やかに本格的な制空権争奪戦へと移行する必要があった。

 作戦指揮所の「主」ことダリル・マッコイ「元」陸軍准将は、至って冷静に「味方航空部隊」に向けて命令を下す。


「こちらヴォルフシャンツェ、マルセイユ01へ。」


 すぐさま相手が返答する。


『こちらマルセイユ01。感度良好。』

「マルセイユ01。“お客さん”だ。

 北の空軍基地からイーグル戦闘機と思われる機影がおよそ16機。作戦空域に急行中。

 おまけに市内では空飛ぶ大トカゲが子供トカゲを率いて目標アルファに接近中だ。

 全部叩き落せ。交戦を許可する(Cleared to engage)。」

『マルセイユ01、了解。交戦する。』


 管制機を守るように飛んでいた味方戦闘機部隊が、一斉にアフターバーナーを吹かして加速する。

 漆黒の塗装で覆われたスタントール王国空軍の最新鋭ステルス戦闘機。

 大戦では敵共和国陣営空軍を文字通り圧倒し、大戦和平会談の会場上空でもロングニル空軍の戦闘機部隊を一瞬で殲滅した恐るべき暗殺者。

 王国軍の将兵や愛国主義者たちからは、その極めて高い戦闘力と隠密性能を讃えて「灰色の亡霊(グレイゴースト)」のニックネームで呼ばれていた。

 マルセイユ01は、そんな「亡霊」を実戦配備当初から駆るベテラン中のベテランパイロットである。

 彼もまた、王国空軍を「一時離職」して烈士団航空戦隊の傭兵隊長となっていた。

 しばらくすると、「亡霊」戦闘機部隊の索敵レーダーが「敵亜獣人国家」空軍イーグル戦闘機部隊の機影を捉える。

 やはり敵はこちらに気付いていない。

 マルセイユ01はニヤリと笑みを浮かべ、ヘッドアップディスプレイ(HUD)に映し出された敵影を示す赤い四角のマスと長距離空対空ミサイルの照準を合わせる。


 ロックオン。


「マルセイユ01、FOX3!FOX3!FOX3!!」


 機体下部のウェポンベイが開き、4発のミサイルが一斉に放出される。

 「偉大なる祖国」が生み出した超高性能ミサイルが、異国の夜空に一直線の噴煙を刻みながら敵戦闘機に向かって突き進む。

 マルセイユ01に続き、彼が指揮する「灰色の亡霊(グレイゴースト)」戦闘機のみで構成された「マルセイユ」飛行隊も立て続けにミサイルを発射した。


 ミサイルは彼らの前方数キロ先で一斉に爆発。

 夜空に破壊の花火を打ち上げる。

 マルセイユ01の索敵レーダーから敵影が消失した。


 しかし、その直後。


 突如、彼のコックピットに警報音が鳴り響いた。


『警報!ミサイル!警報!ミサイル!』


 「ビィーッ!ビィーッ!」という鋭い警告音と共に、女性型機械音声が自機に「敵ミサイル」が飛来していることを告げた。


「何!?」


 緊急回避行動を取るマルセイユ01。

 するとレーダーに突然「敵機」が現れた。


「馬鹿な!?まさかアーガンの黄色中隊か!?」


 彼にとって消し去り難い苦い記憶が蘇る。

 それは大戦和平会談の会場で、今回と同じようにロングニル空軍戦闘機部隊を一撃で葬り去った直後に、突如として奇襲して来た「アーガン人民共和国」人民空軍の超エリート戦闘機部隊……通称「黄色中隊」と繰り広げた激しいドックファイトの記憶。

 アカ連中のベテランにより、新型ステルス戦闘機を駆る自身の航空戦隊はかなりの損害を被った。

 しかも、相手の戦闘機は新型とは言え通常型の多用途戦闘機マルチロールファイターであった。

 その後、極北の不気味な半鎖国国家ベルベキア連邦による「正体不明」の攻撃で、彼の航空隊と敵「黄色中隊」は揃って緊急脱出装置の強制作動により機体を奪われてしまった為、決着はつかなかったが、あの日の出来事は誇り高いフェターナ人空軍パイロットのマルセイユ01にとって、到底消すことの出来ない「屈辱」として脳裏に刻まれている。


 まさか、またしても「奴等」か?


 辛くも突然のミサイル攻撃を回避した「マルセイユ」飛行隊各機は、HUDで敵機を捕捉する。

 機体識別は「UNKNOWN」。

 黄色中隊が使用する人民空軍最新鋭戦闘機のスタントール側識別コードである「Su-37」ではない。

 全く未知の機体だ。

 数は僅か5機。

 マルセイユ01は、エンジンを吹かして敵機に肉薄しその機体を目視で確認する。

 夜空に浮かび上がったその姿は、ロングニル空軍の新型ステルス戦闘機であった。


 つい先日、スタントールにステルス技術で遅れをとっていたロングニルも新型の戦闘機を配備した、という情報はスタントール側も掴んでいた。

 しかし、「偉大なる女王陛下」による親政下で急ピッチでの全面的実戦配備が進んだスタントール空軍とは異なり、ステルス戦闘機の機体は非常に高価であることから、ロングニル側では「戦災復興に多くの予算を割くべきだ」とする与野党の反発によって、国民議会での予算承認が中々降りないことから空軍への実戦配備は遅々として進んでいない状態だった。

 この為、スタントール側は今回の「ロングニル・ワールド・トゥデイ本社攻撃作戦」では「敵」新型ステルス戦闘機は脅威にはならない、と見做していたのだ。


 しかし、ロングニル空軍は何の躊躇も無く配備されたばかりの新型ステルス戦闘機、愛称「猛禽類ラプター」全機を投入してきたのだ。

 マルセイユ01は直ちに味方部隊に警報を発する。


「こちらマルセイユ01!敵機確認!

 ログニーの新型ステルスだ!

 古き王国の誇りにかけて、亜獣人共の“紛い物”を全て叩き落せ!!」

『了解!!マルセイユ01!!』

 

 「亡霊」と「猛禽類」は、煌めく極大都市メガシティの灯火の上で航空優勢を賭けた熾烈なドックファイトに突入した。


……


 遥か上空で始まった最新鋭戦闘機同士による死闘の真下。

 目標アルファこと「ハヤト・ワールドセンタービル」建物内部でも、激しい戦闘が巻き起こっていた。

 美しい褐色肌の少女は硝煙と爆炎をその身に浴びつつ、迫りくる白人至上主義者の武装兵に銃弾を叩き付けていた。

 敵から奪ったブルパップ式自動小銃本体上部のキャリングハンドルレールに取り付けられたレッドドットサイトを、「解放戦線最強の革命戦士」である褐色少女サーラの緋色の瞳が睨む。


 三発バースト射撃。


 照準の先で、サーラに銃口を向けていた敵武装兵の男の頭部が弾け飛ぶ。

 少女の殺意が込められた3発の5.56mm弾は、男の黒色ヘルメットや顔面を覆うアサルトマスクを貫いて肉と骨を引き裂いた。

 即死である。

 センタービル30階にあるロングニル・ワールド・トゥデイ本社受付エリアを兼ねた天井の高いエレベーターホールは、王国防衛烈士団の武装集団とサーラ、そしてサーラに味方するビル警備員とロングニル・ワールド・トゥデイ社員による激戦地と化していた。


「ウニャーーッ!!」


 猫娘カメラマンは鋭い爪が生えた右手を横に一閃し、サーラの背後にあるホール奥のフロア階段から出現した敵武装兵の喉を斬り裂く。


「ウゴッ!!」


 鮮血が迸り、敵兵は喉を抑えて悶え苦しみながら死んだ。

 直後、猫娘のメウラに向かって、スタントール兵の銃弾が降り注ぐ。

 だが俊敏な猫は、瞬時にその場から飛び退いて難なく銃弾を回避。

 そのまま立て続けに壁を蹴る見事な三角飛びを披露すると、上から銃弾を浴びせて来た階段踊り場の敵歩兵分隊の只中に降り立つ。


「ニャアッ!!ニャーーッ!!」


 鉤爪による「死の舞」。

 まるでつむじ風のように小柄な身体を二、三度回転させながら敵集団を引き裂いた。


「うぐあぁっ!!」

「ぎゃあっ!!」


 たちまちスタントール兵は蹴散らされ、痛みに悶えながら階段を転げ落ちる。


「クソッタレの獣人女が!!」


 メウラの爪攻撃を受けながらも、何とか軽傷で済んだ若い武装兵の男が体勢を立て直して再び自動小銃を構えようとする。

 その男の背後に、壮絶な笑みを浮かべたウサギ系亜人女性記者ロッピが現れた。


「ハーイ♡」


 甘い女の声。

 突然背後から聴こえたその声に驚いた若い武装兵は、思わず後ろを振り返る。

 しかし、直後彼の股間に強烈な蹴りが炸裂した。


「ウギャアッ!!」

 

 想像を絶する痛みが男の脳天を直撃する。

 前屈みに倒れようとする彼の頭部を、ロッピの両手が掴む。

 瞬時に頭部を一回転させ、首の骨を叩き折った。即死。

 敵兵を始末したロッピは、相棒の猫娘に向かって叫ぶ。


「メウラ!!」

「ニャッ!」

「受付ホールはサーラさんと警備員に任せて、上から来る馬鹿野郎共を始末するわよ!!」

「了解ニャッ!!」


 ロッピとメウラの2人は、抜群のコンビネーションを発揮。

 「最優先抹殺目標」のサーラが居る30階を目指して、屋上から建物メイン階段を駆け下りてくるスタントール兵「ケルン」戦隊を次々と打ち負かしていった。

 また、ビル警備員の亜獣人たちも手持ちの自動拳銃と持ち前の強靭な肉体を駆使し、エレベーターホールから先のテナントエリアにスタントール兵が立ち入ることを許さなかった。


「ウガッ!!」


 褐色少女の放った小銃弾数発が心臓を直撃したスタントール兵が、受付テーブルの裏側に倒れ込んだ。

 階段を上がって来た敵「ハンブルク」戦闘兵団第一波最後の1人を射殺。

 束の間の静寂が訪れる。


「ギャギャッ!見事だ!」

「ウワォン!スゲェぜ!!」


 ソファーや机で築いた即席のバリケードに立て籠もるゴブリンや狼系亜人男性の警備員たちが、立ち上がってサーラに喝采を送る。

 ロッピとメウラも、サーラ追撃を優先した「ケルン」戦隊所属の分隊を撃破し、少女の傍に駆け寄る。


「やったね!サーラさん!!」


 サーラは油断なくブルパップ式自動小銃をリロードし、死体となって転がる敵兵から弾倉を奪う。


「……ありがとうございます……

 皆さんのご協力のお陰です。」


 そこに、ビル最上階の中央警備管理室で建物全体の状況を監視するバシルから、専用通信が入る。


『同志サーラ。屋上から来やがったスタトリアとそのヘリ部隊は、ロングニル空軍のドラゴンたちの援護もあって全て始末出来た。

 上層階の安全確保。残った敵も、1階エントランスでロングニル側治安部隊の迎撃戦で手一杯になってる。

 今がチャンスだぞ!』

「了解した。私はこのまま階段を降りて、後ろからスタトリアを刺し殺す。

 同志は、そのまま監視を続行しろ。」

『了解だ…………うん?なんだ、あれは?』


 バシルはビル屋上に設置された定点カメラから、周囲の「空」に異変を感じ取った。

 今、ビル屋上では、「ケルン」戦隊を蹴散らしたロングニル空軍所属のドラゴン航空騎兵の兵士たちが負傷したロングニル・ワールド・トゥデイのスタッフ等の民間人を背中に乗せ、戦場と化したビルから飛び立とうとしていた。

 ロングニル警察のヘリや救急ヘリも駆け付け、周辺空域は完全にロングニル優勢となりつつある。

 しかし、そこに「彼ら」は来た。

 「ハヤト・ワールドセンタービル」に向けて低空で接近する漆黒の最新鋭大型軍用輸送機1機と、それを守るように飛ぶ複数の大型軍用ヘリの姿。

 定点カメラの小さな「点」に過ぎなかったそれは、やがてハッキリとその威容を見せつけて来た。

 バシルは、直ちにサーラとロングニルの「友軍」に対して警報を発する。


『警報!!スタトリアの大型軍用機と攻撃ヘリ多数が接近!!

 真っ直ぐこっちへ来るぞ!!』


 その警報は遅きに失した。


……


『システム、オールグリーン。バトルオペレーション、起動。』


 女性型の機械音声が操縦兵に機器の良好動作を伝え、戦闘モードに入ったことを告げる。

 操縦兵の男の眼前に外部モニターの映像が映し出される。

 画面の上下左右には、機体の状態等を示す各種ステータス表示がある。

 俯いた状態で「駐機」していた「鋼鉄の巨人」が起動する。

 全長約4メートル。中世の重装騎士を連想させる威容を誇るノルトスタントール連合王国陸軍の新型決戦兵器。

 巨大強化外骨格……通称:パワーアーマーである。

 パワーアーマーに身を包んだ金髪碧眼の筋肉逞しい中年男は、眉間の皴を深く刻み「戦地」へと降り立つ覚悟を決めた。

 その男……名をハインツ・デルバータという。

 スタントール王国の名門貴族現当主にして狂信的愛国者。

 故に祖国に歯向かう者は、誰であれ容赦しない。


『デルバータ閣下。まもなく降下予定地点です。

 ハッチ、開きます。』


 パワーアーマー頭部内蔵の通信機に、輸送機機長からの連絡が入る。

 その直後、車両乗り入れ口を兼ねた輸送機後部ハッチが下がるように開かれ、異国の空気が奔流となって機内を包み込む。

 数瞬後、デルバータは叫んだ。


「ベルリン01!出撃する!!」


 パワーアーマー脚部に取り付けられた左右のブースターが点火。

 輸送機内のカーゴレールの上を、火花散らしながら下界へと疾駆した。

 勇壮な重装騎士の巨人が、ヴェンデンゲンの空に躍り出る。

 超低空で市街地に侵入した大型輸送機から飛び出した鋼鉄の巨人は、僅かな滑空時間の後、「ハヤト・ワールドセンタービル」の前を走る片側4車線の大通りに着地した。

 はがねの足がアスファルトを穿つ轟音が一帯を支配する。

 舗装を数メートルに渡って引き剥がした「正体不明」の人型兵器の周囲を土煙が覆う。

 その姿に、ワールドセンタービル1階に立て籠もる「スタントール人テロリスト」と銃撃戦を繰り広げていたロングニル警察の所轄警官や機動隊員は言い知れない恐怖を抱いた。


「……な、なんだあれは……」


 エルフの男性警官が、身を隠していたパトカーから頭を上げて降り立った「巨人」の様子を恐る恐る伺う。

 直後、彼の頭部は鉄棒を振り下ろされたスイカのように弾け飛んだ。


 30mmガトリング砲のフルオート射撃。

 

 無数の劣化ウラン弾の大豪雨が、大通りを埋め尽くすように展開していたロングニル警察部隊に向けて注がれる。

 パトカーは引き裂かれ残骸となって宙を舞い、機動隊の装甲車も紙細工のように粉砕された。

 鉄板の切れ端や警官たちの肉片が、極大都市金融街のメインストリートに撒き散らされる。


「うわああぁぁっ!!」

「た、退避しろ!退避……ウギャッ!!」

「腕が!!俺の腕がぁっ!!」


 阿鼻叫喚の地獄絵図がそこに広がる。

 そしてそれは、「ハヤト・ワールドセンタービル」屋上でも起こっていた。


……


 屋上にいた数名の「ドラゴン航空騎兵」に向けて、超低空飛行で接近してきたスタントール製大型攻撃ヘリ10数機による対地ロケット弾の暴風雨が叩き付けられた。


【まずい!!退避しろ!!】


 付近の高層ビル屋上に翼を休め、戦況を伺っていたドラゴン騎兵隊の指揮官である古代龍エンシェントドラゴンが警告を発する。

 しかし、遥か上空で繰り広げられるステルス戦闘機同士の空中戦に気を取られていたゲルンガルムは、敵ヘリコプター部隊の接近に気付くのが遅れた。

 ビルの合間を縫う様に飛来したヘリのロケット攻撃は、完全なる奇襲となった。

 瞬く間に10発を超えるロケット弾が「ハヤト・ワールドセンタービル」屋上と最上階付近に命中。

 大勢の民間人を背中に乗せて飛び立とうとしたドラゴンたちを挽肉にし、ロングニル治安当局のヘリ数機を粉砕した。

 その直後、瓦礫の山と化したビル屋上にタンデムローター式の大型輸送ヘリが飛来。

 機体を屋上スレスレまで寄せると後部ハッチが降ろされ、中から10体の重装歩兵ジャガーノートが出現。

 次々とビルへ降り立ち、建物内部へと侵入する。


【おのれ、スタントール人!……よくも部下と民間人を!!許さん!!】


 怒りに燃えた勇壮な古代龍エンシェントドラゴンが敵大型輸送ヘリ目掛けて襲い掛かる。

 しかしそれを攻撃ヘリ部隊が阻止した。

 機首に備えた30mmチェーンガンによる機銃掃射を「空飛ぶ大トカゲ」に見舞う。

 強力な30mm砲弾の雨はゲルンガルムの分厚い鱗を貫き、鮮血が付近のビルに飛び散る。


【グッ!!小癪な!!】


 ゲルンガルムは敵ヘリ部隊に向き直り、そちらへ突撃。

 巨大な口を大きく開け、新鮮な酸素を口腔内に取り込む。


【ガオンッ!!】


 ゲルンガルムの咆哮と共に、強烈なドラゴンブレスが放たれた。

 高熱の火球が敵攻撃ヘリ1機の胴体に炸裂。爆発四散。

 僚機を失った烈士団攻撃ヘリ部隊指揮官が怒りを露わにする。


『ウィーン1-5がやられた!!クソッタレのトカゲが!!

 ふざけやがって!!』


 激昂する部隊指揮官を、作戦指揮官のダリルが宥める。


『こちらヴォルフシャンツェ。落ち着け、ウィーン1-1。

 敵は大トカゲ一匹だ。数で翻弄しろ。』

『了解!ウィーン戦隊、交戦する!!』


 ゲルンガルムと烈士団「ウィーン」攻撃ヘリ戦隊は、煌めく極大都市のジャングルの只中で激突する。


……


 雲霞の如く押し寄せる敵「亜獣人」警察部隊相手に激しい銃撃戦を展開していたレシアは、目の前の大通りに降り立った巨人の圧倒的な攻撃力を目の当たりにし、思わず感嘆の声を漏らした。


「……スゲェ……あのクソログニーのポリ公共が一瞬でミンチだ。」


 鋼鉄の巨人が、一瞬にして「ハヤト・ワールドセンタービル」前の大通り一帯を制圧した。

 それまで数的不利により、やや劣勢に陥っていた烈士団「ハンブルク」戦闘兵団本隊の面々は銃を天に掲げて口々に勝鬨を上げる。


「デルバータ卿、バンザイ!!」

「古き王国よ偉大なれ!!女王陛下、バンザイ!!」

「ざまぁみやがれ、ログニーの亜獣人共め!!」


 パワーアーマーを駆る烈士団総帥デルバータは、自身と祖国を讃える仲間たちを向き、頭部装甲に内蔵された拡声器を通じて檄を飛ばす。


『偉大なる女王陛下の尖兵センチネルたちよ!!

 さぁ征け!!褐色肌の小娘とその仲間を始末しろ!!

 ここは“我ら”が引き受ける!!』


 直後、タンデムローター式の大型輸送ヘリ3機が飛来し、デルバータが制圧した大通りに相次いで着陸。

 開かれたハッチから続々とパワードスケルトンを纏った重装歩兵ジャガーノートの大軍が姿を現すと、形勢は完全に逆転した。

 4メートルの巨人と2メートルを超す重装兵がワールドセンタービル一帯を掌握。

 生き残った僅かなエルフやドワーフの警官たちを無慈悲に射殺していく。

 レシアはニヤリと笑みを浮かべ、愛用の分隊支援機関銃をリロードした。

 コッキングレバーを引いて次なる戦闘への準備を完了させると、鋼鉄の巨人に向かって叫んだ。


「おい、デルバータのオヤジ!!

 随分と立派なオモチャじゃねぇか!!アンタはダニ虫狩りに来ないのか?」


 これにデルバータが答える。


『リョーデック少尉!小娘は貴様にくれてやる!

 家族の仇を討て!センチネルの少女よ!!』

「イエッサー!!デルバータ卿!!

 ハンブルクのクソッタレ共、全員あたしに続け!!」

「了解!!姐さん!!」


 紅髪女は機関銃を宙に掲げてワールドセンタービル内部に突入し、それに士気激昂した「ハンブルク」戦闘兵団総員が続いた。


 ヴェンデンゲン金融街の戦闘は、さらに激しく苛烈さを増す。

「こちらミュンヘン2-4!1-3もやられた!

 クソッ!敵は何処から狙撃を」


 発砲。


 .50口径弾が作戦指揮所と通信中のスタントール狙撃兵の頭部を吹き飛ばす。

 その一部始終を超長距離望遠スコープで睨んでいた若い男は、機械的な正確さで対物狙撃銃のボルトを引き排莢する。


 これで最後だ。


 電波塔を除けば、この極大都市メガシティで一番背の高い地上100階建ての市庁舎ビル屋上に伏せる狙撃兵は、金融街地区を中心として付近の高層ビル屋上に点々と展開していた敵狙撃部隊「ミュンヘン」戦隊の殲滅を確認した。

 スコープを「戦地」と化した金融街に向ける。

 鋼鉄の巨人が「鉄の暴風雨」を地元治安部隊に叩き付けていた。


「……」


 男は機を伺う。

 敵巨人兵と「ターゲット」の少女を同時に始末できる「最高の」瞬間が来るのをじっと待つ。

 そこに、男の「祖国」から秘匿通信が入ったことを告げる小さなビープ音が鳴る。

 腰のベルトに装着した専用小型無線機と繋がる咽喉式マイクに手を添える。


「こちらシャンハイ。感度良好。」

『シャンハイ、こちら“人民の星”。』


 相手のコールサインを聞いた「シャンハイ」の黒い瞳が驚愕に見開かれる。

 それは彼の祖国、「労農人民の故郷」アーガン人民共和国最高指導者本人からの直接通信だったからだ。


「……い、偉大なる人民救済の希望にして……」


 「シャンハイ」のコールサインで呼ばれた若くしてベテランの域に達している工作員は、口澱みながらも最高指導者を讃える「冗長な」枕詞を述べようとしたが、それを最高指導者本人が阻止した。


『よせよ、ヴィジマ。くだらない賛辞は不要だ。』

「……ハッ!失礼しました……同志ベタシゲン国家主席閣下……」


 ヴィジマと呼ばれた若い工作員……ヴィジマ・クラゲナンは、恐縮しつつ指導者の名を呼ぶ。

 するとザイツォン・ベタシゲン人民共和国国家主席は、単刀直入に本題を切り出した。


『早速だがヴィジマ。お前、カレンからどんな命令を受けた?』


 ザイツォンは、自身の側近中の側近にして人民共和国の「実質的最高権力者」、カレン・アクラコン内務人民委員長から工作員ヴィジマに託された任務内容を問うた。

 これにヴィジマは正直に答えた。


「ハッ!……ノルトスタントール連合王国内務大臣ハインツ・デルバータの暗殺及びダニーク解放戦線の“精神的指導者”サーラ・ベルカセムの“事故的”排除であります……」


 するとザイツォンは、ヴィジマに「新たなる」命令を下す。


『そうか……なら同志クラゲナン、新しい命令だ。

 ……褐色肌の同志を全力で援護しろ。絶対に死なせるな。』


 内務人民委員長の意図とまるで異なる最高指導者の命令。

 並の工作員なら混乱するだけだろうが、聡いヴィジマは敬愛する将軍の真意に気付いた。


「……了解しました、同志ベタシゲン将軍……」

『頼んだぞ……あぁそれと、今お前がいるビル屋上に不幸にもミサイルが着弾する“恐れ”がある。

 十分に“注意”しろ。人民の星、通信終了。』


 これが決定打となった。

 国家主席は自分に「表向き」死んでもらいたいようだ。

 ヴィジマは理解した。

 この任務「失敗」後、自身はザイツォンの「秘匿兵士」とならねばならない。

 歴戦の潜水艦乗りの長男坊は、「新しい上司」との通信を終えると小さくぼやいた。


「……やれやれ、息子の顔を拝めるのは何時になることやら……」


 ヴィジマは3歳に満たない幼い息子の顔を脳裏に浮かべながら、「新たな」任務に臨む。

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