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褐色少女の独立戦争  作者: mashinovel
第六章  フェリスの戦い
40/63

39. 王都攻撃決死隊

 ノルトスタントール連合王国の王都フェリス。

 白い肌をしたガーゴイル共の総本山。

 超高層ビルと奴らの王の宮殿が聳える悪疫の都。

 奴らが「花の都」と自賛するその街で、絶対の殺意を抱いた褐色肌の戦士たちが引き金を引く。

 

 女子供老人の別なく。


 同胞を核の炎で焼いた悪魔共は、全て、殺す。

 無数のガントリークレーンが接岸した大型タンカーやコンテナ船から積荷を降ろしている。

 大型トラックが行き交い、巨大な専用フォークリフトや牽引車等の特殊車両もせわしなく働く。

 ここは強大な工業力を有する超大国・ノルトスタントール連合王国「本国」フェターナ広域州最大の港湾都市ジェリダリア。

 その港の向こうには紺碧のアデア海が横たわり、その海を挟んだ対岸に、「祝福の大地」の異名を持つ肥沃な土地と豊富な地下資源に恵まれたファーンデディア広域州が存在する。

 およそ1500年前、「ファーンデディア・コンクエスト」と呼ばれるスタントール建国王カズキ・シノーデルによるファーンデディアへの大遠征軍が出発した時は、辺境のびょうたる漁村に過ぎなかったが、彼の大地が「偉大なる」王国の直轄領となってからは、大規模な移民団の出発地として、そして「祝福の大地」からの恵みが送り届けられる場所として空前の発展を遂げ、今では人口約300万人を有する大都市へと変貌していた。

 今日もアデア海を超えて、ファーンデディアからやって来た多数の船舶がジェリダリアの港湾地帯に到着する。

 その積荷は様々だ。

 リンゴや葡萄、冷凍された精肉等の農産品に、自動車やバイク、航空機の大型部品等の工業製品、さらには石油や天然ガス、レアメタル等の地下資源……そして、スタントール人への絶対の殺意を抱く完全武装した褐色肌のファーンデディア原住民・ダニーク人たち……


 ダニーク解放戦線。

 それが、彼らダニーク人武装組織の名称である。

 ノルトスタントール連合王国による極めて抑圧的かつ差別的な支配から脱却すべく、ファーンデディアの分離独立を求めて戦い続ける者たち。

 彼らは今、故郷ファーンデディアの地から遠く離れ、「敵国」の本土に辿り着いた。

 自由を求めるダニーク人たちに乗っ取られた小型コンテナ船が、ジェリダリアのコンテナターミナルの一角に接岸した。


「うん?あの船は予定表に無いぞ?」


 港湾管制塔にいるスタントール人のターミナル管理官の男が、手にするクリップボードに挟んだ到着船舶予定表の紙を見ながら呟いた。

 すると「人民主義系」港湾労働組合幹部を兼務する上司の中年男が答えた。


「あぁ、あの船なら問題ない。

 セティアから昨日の夕方、連絡があったんだ。

 戦災復興事業に使われていた建設重機の一部に不具合が見つかったそうだよ。

 急遽、数台が「本国送り」になったそうだ。

 ついでに、別のコンテナ船に積み切れなかったコンテナを10基ほど載せた、という連絡も受けている。」

「……そうですか。わかりました。」


 それに管理官の男は特に疑問を持たなかった。

 こういう「イレギュラー」はよくあることだ。

 それに加えてこのジェリダリアは、ほぼファーンデディアと本国フェターナ州間の物資往来を主とする「国内」物流拠点であり、税関のような厳格な積荷の受け入れチェックもほとんど行っていない。

 故に積荷の内容が「事実」と異なっていても、それに気づく者はいないのである。


 まして今回はスタントール人「協力者」もいる。

 王制に断固反対する人民共産主義思想を持ったスタントール人たち。

 「労働者の国」アーガン人民共和国に魂を売った「売国奴」、その一人がこのジェリダリア港湾管理センターの長を担っていた。


 完全武装のダニーク人を満載したコンテナと偽装が施された人民共和国製主力戦車3台は、斯くして何の問題も無く「敵国」の大地へと「敵国人」の手によって降り立ったのであった。

 そのコンテナの中に、大勢の褐色肌の戦士に交じる一人のダニーク人少女がいた。

 強力な人民共和国製自動小銃の最終点検を行う精悍な顔つきをした美女。

 彼女の名はサーラ・ベルカセム。

 先月11歳になったばかりの少女だが、今や彼女は解放戦線最強の革命戦士としてダニーク人たちにとっての英雄、スタントール人にとってのテロリストとなっている。

 コンテナがクレーンによって船から吊り上げられ、そのままトレーラーに載せられる衝撃が伝わってきた。


「……無事に到着したようだな。」

 

 サーラが呟く。

 それに隣に座る美青年のダニーク人戦士・ユーセフが応じる。


「そのようですね、同志サーラ。

 協力者がいるとは聞いていましたが、ここまで不用心とは驚きました。」

「ふっ。毎度のことながら、スタトリアの恐るべき無能さには感謝しかない。

 その無能の代償は奴ら自身の血で払ってもらおう。」


 そのサーラのセリフに、ユーセフ他周囲の戦士たちが皮肉めいた笑みを見せる。

 彼女の目の前に座る大男のダニーク人、ヤシュクは短く笑い声を上げた。


「ハハハッ!あいつらは揃いも揃って馬鹿ばっかだからな。

 ……王都で大暴れするのが待ちきれないぜ。」

「あぁ、そうだなヤシュク。」


 サーラもニヤリと笑みを返す。

 談笑するダニーク人革命戦士を満載したコンテナを積んだトレーラーはそのまま出発。

 走ること約1時間。

 トレーラーは、人民共和国が用意してくれたジェリダリア郊外にある大型倉庫に到着した。

 コンテナの扉が開かれる。


「同志サーラ。長旅、お疲れさまでした。」


 そう言ってコンテナの扉を開けたのは銀色の髪が美しい褐色美女の革命戦士、アネットだった。

 彼女は別のコンテナに乗っていて、サーラたちのトレーラーより一足先に到着していたようだ。


「全員揃っているか?欠員は?」


 サーラがアネットに確認する。


「ありません、同志サーラ。

 “王都攻撃決死隊”500名及び戦車3台、勢揃いしております。」


 アネットは決死隊指揮官に略式の敬礼をしつつ答えた。

 既に「隠れ家」となる大型倉庫には10台のトレーラーが到着しており、およそ500人の褐色肌の戦士たちが、各々武器の点検や周辺警戒に当たっていた。

 さらに、緑色の防水シートに覆われた建設重機に偽装する主力戦車3台も、重機用大型トレーラーで到着済みである。

 港湾都市郊外のこの倉庫は、前面に交通量が少ない片側1車線の舗装道路がある他は周囲を森に囲まれ、人目が付きにくい立地となっている。

 建物自体もかなり老朽化しており、前面道路を通る数少ない車両もうらびれた倉庫を景色の一部程度にしか認識せず、ただ通り過ぎるだけであった。


 倉庫の片隅には、「用済み」となったスタントール人のトレーラードライバーの死体が転がっている。

 哀れな彼らは、会社の指示通りにこの朽ち果てた倉庫に積荷を届けただけであったが、倉庫で待機していたスタントール人左派ゲリラの手によってトレーラーを停車させた瞬間に射殺されていた。

 一方のダニーク人戦士たちは、王都攻撃決死隊指揮官であるサーラの姿を確認するなり号令されるまでもなく彼女の前に整然と整列した。

 その顔は皆引き締まり、士気は最高である。

 サーラは、精悍な顔つきをした同胞の男女を一通り見渡した後に言った。


「同志諸君。

 ……もはやここで多くを語る必要は無いだろう……

 我らはこれより、奴らの王都フェリスに地獄を作りに行く。

 オランを核の炎で焼き払ったスタトリアの悪魔共に、その代償を払ってもらう。

 これより我らは悪鬼羅刹となる!

 視界に入った白い肌の人間は全て撃て!

 女子供老人、その別なく撃て!

 奴らが……あの悪魔共が我々の子供たちを惨たらしく殺したように……我らも容赦なく殺す!

 一切容赦するな!!

 引き金を引け!!

 全て殺せ!!

 スタトリアに死を!!フェリスに死を!!」

「スタトリアに死を!!フェリスに死を!!」


 500人のダニーク人戦士たちが、一斉に手にした自動小銃や機関銃を天に掲げて復讐を誓う。

 その後、彼らは散開して王都決戦に備えて各自休息を取る。

 そのタイミングを待っていたかのように、スタントール人左派ゲリラのリーダーである赤いヘルメットを被った中年男が数名の部下を従えてサーラに歩み寄ってきた。


「見事な演説でした、同志ベルカセム。

 我々“フェターナ赤軍”は、全力であなた方“ダニーク解放戦線”をサポートします。」


 赤ヘルの白人男は、友好的な笑みと共に褐色少女に握手を求めてきた。

 だがサーラは、その緋色の瞳に強い嫌悪を宿しながら白人男の握手に応じなかった。

 彼女の周りに侍るダニーク人戦士たちも、憎悪と嫌悪がこもった眼差しを「赤い」スタントール人に向ける。


「……これからファーンデディアの“原住民族”がお前たちの同胞を無差別に殺しに行くというのに、何故、お前はその主犯格に握手を求める?」


 男はサーラの質問の意味するところが分からずにキョトンとする。


「えっ?あなたたちは悪しきシノーデル王家とそれに与する右派レイシストを倒す為に、フェリスに行くんでしょ?

 ならば我々は同志です!それに人民共和国からもそのように指示を受けております。

 いよいよスタントール人民革命の幕が切って落とされると、我らスタントール労農人民全てが感動に打ち震えております!」


 改めて笑みを作り握手を求める赤ヘル男。


 全く話が噛み合わない。


 サーラはそう感じたが、もはや面倒なので深く考えるのはやめることにした。


「……そうか、わかった。

 では改めて確認するが、我々が今回のゲリラ攻撃で必ず抹殺しなければならないターゲットがいることは知っているな?」


 サーラは尚も握手に応じず男に確認を取る。

 男は「もちろん」と言わんばかりに答えた。


「はい!今回の暴虐極まるオラン市核攻撃を主導した王国軍の司令官共のことですね!

 陸軍総司令官のクルス・エスデナント。

 空軍総司令官のロアン・ルクレール。

 そして元・海軍総司令官で元・王国防諜局局長のハインツ・デルバータ!

 この男は現在、最低のレイシスト極右政党である“ネクタス・センチネル王国武装戦線”の党首を務めており、我々としても息の根を止めたい男でありますよ!

 さらに、悪逆非道の権化にして色情狂いの女王、カリーシア・シノーデルⅡ世!

 攻撃決行時には奴ら全員、間違いなく王都・フェリスにいます!!」


 サーラのみならず、赤ヘル男の発言を聞いたダニーク人戦士たち全員から激しい憎しみのオーラが立ち昇る。

 この4人こそ、ダニーク解放戦線に属する革命戦士たちにとって最大の敵。

 絶対に殺さなければならないスタントール人の筆頭。

 「ダニーク人問題の最終解決」と称してファーンデディア各地でダニーク人の組織的虐殺を計画・実行し、解放戦線の主要拠点だった南部ファーンデディアの地方都市・オラン市への核攻撃を行った張本人たち。

 ダニーク人たちが最も強い憎悪と殺意を抱く者たち。

 とりわけ赤ヘル男の正面に立つ褐色少女からは、誰よりも強く壮絶な赤黒い憎悪と殺意のオーラが全身から迸っていた。

 それを直に目の当たりにした左派ゲリラのリーダーとその部下たちは、小さく悲鳴を上げて一歩後退った。


「ひぃっ!」

「……必ず殺してやる……エスデナント、ルクレール、デルバータ……

 そして、カリーシア・シノーデル!!

 ……貴様等を、絶対に殺す……」


 サーラはまるで地獄の底を経験してきたかのような声で宿敵の必殺を誓った。

 彼女の緋色の瞳は禍々しいまでに赤く輝き、周囲のダニーク人戦士たちも同様に壮絶な殺意をあかき瞳に宿す。

 無様なスタントール人左派ゲリラたちは、言いようのない気まずさを感じながらその場で立ち竦む他なかった。


……


 サーラたちダニーク人ゲリラ兵が王国治安当局に感づかれることなくフェターナ州入りしてから5日後。

 超工業大国ノルトスタントールの王都・フェリスに暮らす約1000万人の王国臣民は、普段と変わらぬ日常の生活を送っていた。

 南半球に位置するスタントール王国の4月は特に温暖な気候に恵まれ、今日も暖かな朝の日差しが超巨大都市メガロポリスを包み込んでいる。

 その「枯れること無き花の都」の公共交通機関が集中する都市中心部にある「フェリシニア」駅は、大勢の金髪碧眼の白人種スタントール人の通勤・通学客でごった返している。

 大戦も終結し、平時に戻った駅からは自動小銃や短機関銃で武装した軍・警察の警備兵の姿が消え、戦時中の物々しい雰囲気は完全に雲散霧消していた。

 人々の喧騒に包まれる近代的な構造をした駅構内。

 その建物外観は、地上10階建ての全面ガラス張りで曲線を多用した未来的なデザインとなっており、この王都の観光名所の一つにも数えられている。

 列車やバスの発着を告げるアナウンスや整列乗車を呼びかける注意喚起放送などが喧騒に彩りを加え、5階まで吹き抜け構造となっている駅中央ホールの国営鉄道改札口前には、特に大勢の人々が行き交い、ホール中心部に設けられた4面構造の巨大な電光掲示板はその日の最新ニュースや交通機関の乗換案内等の各種情報を大陸共通語で簡潔に伝えていた。


 そんな朝の通勤・通学ラッシュの只中にあるフェリシニア駅の中央ホールにて、くたびれたリュックサックを背負った白人の青年が佇んでいた。

 服装は何処にでもいる大学生のような目立たない格好で、何やら周囲をきょろきょろと伺っている。

 手に持った小型無線機で「何処か」と通信する。


「こ、こちら“人民の団結”5号。

 指定された地点に到着しました……本当にここでいいんでしょうか?

 周囲は民間人ばかりですが……」

『“人民の団結”5へ。こちらゴブリン1。

 問題ない。その場で別命あるまで待機せよ。』


 無線から少女の有無を言わさぬ声が聞こえる。


「り、了解しました……しかし……」


 青年はその少女に対し、尚も自身の「懸念」を伝えようとする。

 しかし、これを無線の先にいる少女は容赦なく遮った。


『なんだ?怖気づいたか?

 貴様等スタントール人左派の言う“人民革命”とやらは所詮ガキの遊びか?

 違うと言うならそこでじっとしていろ、わかったか?』

「……り、了解。」


 青年は焦燥に駆られていた。

 待ち焦がれた「スタントール人民革命」の火蓋を切る「大仕事」を任されたときはとても誇らしい気分になったものだったが、いざその「大仕事」が始まってみると、それは想像と大分かけ離れた内容だった。

 彼の仰せつかった「大仕事」とは、背負っている「リュックサック」を大勢の民間人が行き交うターミナル駅中央ホールに指定のタイミングで置いてくるというものだった。

 その中身について、彼は知っていた。

 人民共和国製の超高性能プラスチック爆弾。

 殺傷能力を高める為、指向性地雷に使われる小さな鉄の粒も同梱されている。

 これをこんな無数の一般人が居る場所に置いて起爆したら、間違いなくとんでもない数の死傷者が出る。

 大勢の罪なき「労働者」や「勤労学生」が死んでしまうだろう。


 それが本当に「革命」の狼煙となるのか?

 

 人民主義を信奉する青年は今、強い疑念に囚われていた。

 それに同じ「リュックサック」を背負う者は彼だけでは無い。

 人民共和国が指導する左派系フェターナ人を中心としたスタントール極左ゲリラ「フェターナ赤軍」に所属する多数の左派学生や人民主義運動家たちが、フェリス各地の主要な駅や学校、総合病院や市役所等の公共施設で待機している。

 

 何かおかしい。


 極左学生である青年は、やはり腑に落ちない違和感を拭い去ることが出来ず、彼に「命令」を出した褐色少女に再度意見を具申した。


「……こ、こちら“人民の団結”5号。

 ゴブリン1……同志ベルカセム。

 やはり、このような民間人を大勢巻き込むようなやり方は間違っているのではないでしょうか?

 倒すべきは女王と右派レイシスト政府の圧政に加担する軍や警察であり、民間人ではない筈では……」


 返事が無い。

 青年は勇気を出して再度通信を試みる。


「ど、同志ベルカセム。応答願います。

 こちら……」

『黙れ、クソッタレのスタトリア。

 コールサインで呼べ、マヌケめ。』


 明らかな怒気を孕んだ恐ろしい声だった。

 とても11歳の少女の声とは思えない。

 フェターナ人青年の背筋に悪寒が走り、返答する声が震える。


「し、しし、失礼しました。同志べル……ゴブリン1。

 しかし……」

『もういいスタトリア。ご苦労だった。

 総員配置完了だ。直ちに起爆する。』


 サーラは当たり前のことのようにそう告げた。

 たちまち血相を変える極左青年。


「ええっ!?ま、まま、待ってください!

 す、直ぐにリュックを置いて退避しますので、しばしお待ちを」

『死ね。』


 直後、耳をつんざくような轟音と共に大爆発が起こった。

 

 新型の超高性能プラスチック爆弾の「爆心地」と化した青年は一片の肉片すら残らず粉々になり、激烈な爆風が半径1キロ圏内に存在した全ての人間の肉体や駅構造物を容赦なく破壊。

 さらに同梱されていた無数の小型鉄球は、より広範囲に破滅的な攻撃力を撒き散らして多数の人々に致命傷をもたらした。

 大量の肉片や千切れ飛んだ手足が宙を舞い、ホール内の床タイルや壁を滅茶苦茶に破壊した。

 たちまち突然の圧倒的な破壊により瀕死の重傷を負った無数のスタントール人たちが悲鳴を上げ、完全なるカオスが出現する。


「うわあぁーっ!!な、なんだ、一体なんだ!?」

「いやあぁっ!う、腕が!私の腕がぁっ!!」

「あぁぁ……な、なんなんだ……見えない。何も見えない……」

「きゃああぁぁっ!ジョエルの頭が無い!頭!!

 この子の頭は何処!い、い、いやああぁぁーーっ!!」


 出鱈目に逃げ惑う王国臣民たち。

 とてつもない破壊がもたらしたカオスにより、辛うじて命を繋ぎとめて横たわっていた者も生存者に踏み拉かれて死に、駅の出入り口に人が殺到して圧死者が続出する。

 これと似たような光景が、王都・フェリスのあちこちで同時多発的に出現していた。


……


 朝のラッシュで混雑する主要交通機関や病院、市役所等の公共機関を狙った同時多発テロで混乱の極みにある王都フェリス。

 地上のカオスが届かない放棄された地下鉄駅の構内に、ダニーク人テロ集団による簡易司令部が設けられていた。

 その司令部の頂点に立つ褐色少女は、役目を果たしたプラスチック爆弾の遠隔起爆スイッチをテーブルに置くと、愛用の自動小銃を両手に構え、配下の戦士たちを従えて司令部を出ようとする。

 するとそこに、赤いヘルメットを被ったスタントール人の中年男が現れた。

 目は血走り、あからさまな怒りと困惑をその顔に刻んでいる。


「お、おいダニーク人の小娘……これはどういうことだ?

 話が全然違う!!お、お、お前は無関係な民間人を大勢殺した!!

 人殺しだ!!

 それだけじゃない!私の部下だった赤軍派の者たちも、そのほとんどが爆死したぞ!?

 な、なぜ今、起爆した!?予定では起爆はラッシュが終わって人通りが落ち着く午後に」


 発砲。


 サーラは腰の弾帯ベルトのホルスターから共和国製自動拳銃を目にも止まらぬ早さで引き抜くと、口やかましい「フェターナ赤軍」リーダーの男を無言で射殺した。

 銃を仕舞い、簡易司令部に残る参謀役の40代ダニーク人男性戦士に確認する。


「同志バシル。この“フェターナ赤軍”とかほざく用済みのクズ共はあとどれくらい残ってる?」


 サーラの問いに、聡明なバシルは直ぐに回答を寄越した。


「いや、今のリーダー格の男で最後だ。

 他の連中は全て、お仲間の“自爆”に巻き込まれて死んだ。

 ともかく、これで同志アクラコンに頼まれた“ゴミ掃除”は済んだな。」


 バシルは皮肉を込めた微笑みを見せる。

 彼らフェターナ赤軍を「用済み」だと感じていたのは、何もサーラたちダニーク人だけではない。

 その「指導者」であるアーガン人民共和国そのものが、「世界人民革命」なる苔むした古い考え方に拘泥し、「前書記長派」に属する彼らをもはや無用の長物と見做し、「粛清」することを決めていた。

 ダニーク解放戦線によるフェリス攻撃の補佐という「最後の仕事」を終えた今、その役目は完全に終わり、人民共和国の意向を受けたダニーク人らによって残らず抹殺されたのであった。

 サーラはバシルに向かって一度頷くと、「戦地」へと赴く旨を告げた。


「わかった。ここで決死隊の全体指揮を任せるぞ、同志バシル!」

「了解!同志サーラ!!

 ……俺の殺された家族の分も、まとめてクソ女王に叩き付けてやってくれ!!」

「任せろ!!」


 バシルの熱い思いを受け取ったサーラは、数十名の歴戦の戦士たちと共に駆け出した。

 目指すは、憎き女王の居城である「カズキの天空要塞」。

 超高層ビル群の合間に聳える切り立った崖の上に立つ荘厳な巨大宮殿。

 「天空要塞」の異名に偽りなく、その奢侈を極めし外装の中身は強化コンクリートと厚肉の鉄筋による強力な鉄筋コンクリート造となっており、大型爆撃機による空爆さえ寄せ付けない。

 その要塞に居座るは若く美しい酷薄な女王、カリーシア・シノーデルⅡ世。

 サーラたちの宿敵・ノルトスタントール連合王国の国家元首にして、核攻撃を命じた張本人。


 サーラたちは走る。

 憎むべき敵、カリーシア女王の首を求めて。


 古今未曾有の大規模同時多発テロで混乱する「千年王都」フェリスにて、スタントール人とダニーク人の壮絶な殺し合いが始まろうとしていた。

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