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褐色少女の独立戦争  作者: mashinovel
第五章  戦乱のファーンデディア
36/63

35. この世の地獄

 あの日見た光景を、私は生涯忘れることはない。

 大地を揺るがす衝撃と猛烈な閃光の直後に出現した巨大なキノコ雲。

 

 街に急行した私たちは、そこで本物の地獄を見た。


 ……「始まりの街」を滅ぼした絨毯爆撃とは比べ物にならない、人間が作り出した本物の地獄を……

 東側の海を流れる寒流がもたらす涼し気な空気と、西側の山々から吹き降りる東向きの心地よい風が、その街を優しく包んでいた。

 天気は雲一つない晴天。南半球の南端近くに位置するその港街は、大勢の褐色肌の人々がもはや「日常」となった日々の仕事に追われていた。

 街の名前はオラン市。

 ノルトスタントール連合王国直轄領・ファーンデディア広域州南部オーレン県の県庁所在地「だった」地方都市である。

 大戦前、この街にはおよそ15万人の白人種・スタントール人が暮らしていた。

 しかし、大戦勃発直後に武装蜂起したファーンデディア原住民族・ダニーク人の武装集団、ダニーク解放戦線により街は占拠され、15万人を数えたスタントール人はその全てが街から追い出された。

 今、オラン市にはファーンデディア各地からやって来た10万人近くのダニーク人が暮らしている。

 これまで幾度となくスタントール側の治安部隊が街の奪還を目指して攻撃してきたが、解放戦線は都市郊外の山々という地の利を活かした巧みなゲリラ戦法と機動的な防衛戦を展開して、その全てを撃退していた。山間部には網の目状に地下連絡通路も張り巡らされ、神出鬼没のダニーク兵に、王国軍や武装警察は翻弄されるばかりであった。

 一方の街自体も、防衛線が破られた場合を想定して着実に要塞化が進められており、ビルや民家に偽装した強力なトーチカが街のあちこちに設けられ、ターミナル駅の地下商店街を大幅に拡張した防空壕兼地下軍事拠点もその建築がほぼ完了していた。

 

 そのオラン市は、来るべきダニーク人国家の「行政機構」の大半が集約されていた。

 ダニーク人による「ファーンデディア人民裁判所」も設置され、最大の支援国であるアーガン人民共和国から派遣されてきた行政官と裁判官による人材教育と法整備も進んでおり、今ではダニーク人同士の争いや犯罪はここオランで裁判されていた。

 この他にも、解放戦線が支配下に置く各地のダニーク人町村落のインフラ整備や福祉サービスに関する運営・管理も旧オラン市市役所を転用した「ファーンデディア人民行政委員会」が担っている。

 武装蜂起から2年が経った今、ダニーク解放戦線は単なる軍事組織という枠を大きく超え、国家に準ずる組織にまで発展していたのである。

 そういった意味では、オラン市はダニーク人の最重要拠点と言えた。

 日々、人民共和国の「教師」たちから学びを受けつつ司法・行政関連の業務に勤しむオラン市在住の10万人近いダニーク人「公務員」は、解放戦線がスタントールから独立を勝ち取った後に誕生するであろう「ダニークのファーンデディア」の国家運営実務を担う貴重な「官僚候補生」であり、このオラン市そのものが巨大な公務員訓練学校のようなものであった。

 そして深夜ともなれば、この街の港に人民共和国からの軍事物資が定期的に大型特殊潜水艦で届けられていた。

 

 本日の太陽は既にオラン市の頂点に差し掛かり、こよみの上では夏を迎えた南半球の都市に穏やかな日光を注がせる。


 そこに、1機の大型戦略爆撃機が飛来した。


「こちらコカトリス。敵大型機数機のオラン周辺空域への飛来を確認。

 ただし、オラン上空に向かっているのは1機だけの模様。」

『コカトリス、こちらネスト。恐らくいつもの偵察飛行だろう。

 通常警戒のまま防空任務を継続せよ。』

「ネストへ、コカトリス了解。引き続き対空警戒に当たる。」


 街郊外の森の中に設置された解放戦線移動式対空レーダーの観測員「コカトリス」が、山間部地下に拠点を構える解放戦線作戦本部「ネスト」との短い通信を終える。

 オラン市内のビル屋上で任に当たる上空監視兵もレーダー員から報告のあった爆撃機の姿を確認したが、特に警戒はしなかった。

 もし、かつて解放戦線が「解放」した巨大港湾都市・セティアを灰にしたような絨毯爆撃をするつもりなら、単独で飛来などしない筈だ。

 それに今までも何度かこのようなことはあった。

 単独または数機の爆撃機や戦闘機が、わざと偵察目的で飛来してくるのだ。

 対空兵器用の砲弾やミサイルは人民共和国から提供されるに頼っていて備蓄が限られる上、攻撃することでこちらの防空体制を敵に教えることになる為、このような単独または数機で飛来する敵機への攻撃は基本的に厳禁とされていた。

 故に、彼らは単独で飛来したその爆撃機を見逃した。

 街の要所に設置された対空ミサイルや対空機関砲は、その力を発揮することなく沈黙した。


 永遠に。


……


「フランドル01より王国ロワイヨムへ。

 目標都市上空に到達。目標、オーレン県警察本部ビルを確認。

 ……指示を乞う……」

『こちら王国ロワイヨム。フランドル01へ。

 起爆認証コード、5-1-6-8-7-9-9-9-3-0を実行せよ。』


 飛来した爆撃機の機内。長距離専用無線機を操るベテラン無線士は、「本国」総司令部から送られてきた認証コードを無線機傍に据え付けられた専用入力端末に打ち込んだ。

 無線士の男は、革手袋の中の手にじんわりと緊張の汗が滲むのを感じた。

 認証コードの入力が完了すると、薄暗い爆弾倉の中で鎮座する「積荷」の端末にそれまで灯っていた赤ランプが緑に変わった。無線士の傍らの専用入力端末も同様に緑色のランプを灯す。


「機長、コード入力完了……起爆システムの起動を確認。」

 

 無線士は何とか仕事を完遂させたことを、直属の上司たる爆撃機機長に機内無線で報告した。

 次は機長の最終承認だ。

 コックピットで報告を聞いた熟練パイロットのフェターナ人女性機長は、隣に座るネクタス出身の副機長の男と目を合わせると頷きを送った。

 副機長の男は、緊張した面持ちで頷きを返した。


「爆弾固定器を解放する。準備。」


 機長のベテラン女性パイロットはそう告げると胸元のポケットから小さな鍵を取り出し、自分と副機長の座席の中間部分コンソールに取り付けられた左右二つ並んだ鍵穴の一方に、その鍵をセットした。

 同時に副機長の若いパイロットも、同じような鍵を取り出してもう一方の鍵穴にセットする。


「1、2、3、解放!」


 全く同じタイミングで鍵を回して開錠する。

 すると爆弾倉の「積荷」を拘束していたセーフティが解除された。

 コンソールの小さな赤ランプが緑に変化。

 それを確認した副機長が機長に報告する。


「固定器の解放を確認しました、機長。」


 ベテランパイロットのフェターナ人女性は、コックピット脇の投下目標地点を映し出す機体下部の照準カメラを確認する。カメラと地上を遮る雲は一つもなく、鮮明に地上の様子を確認できる。

 照準器の十字のクロスが、正確に目標建物と合わさっていた。

 高度の最終確認。自動操縦の機体は投下適正高度のまま変わっていない。

 準備は全て完了した。

 あとは、爆弾倉で放たれるのを待つ「積荷」を落とせばいい。

 直後、彼女は言った。


「フランドル01!投下!投下!!」


 爆弾倉のハッチが開き、「積荷」が地上に向けて落下する。

 「積荷」……それは30キロトン級「戦略型」新型エネルギー爆弾。

 またの名を原子爆弾という。


 爆撃機から解き放たれたそれは、ファーンデディア広域州南部オーレン県オラン市中心部オーレン県警察本部ビル直上、数百メートルの地点で「爆発」した。

 時刻は新暦1926年12月24日12時55分。


 その瞬間は、この異世界の歴史に刻まれることになった。


 以下は「その瞬間」を迎えた時の関係者の記録である。



……●スタントール王国ファーンデディア標準時10時00分、

   オラン市・旧南ファーンデディア中央大学構内●……


「あっ!サーラおねえちゃんだ!」


 緑色の戦闘服にコンバットハーネスという出で立ちの褐色少女の下に、大勢の少年少女が駆け寄ってきた。

 少女は優しく微笑みながら、両手を広げて子供たちを歓迎する。

 その名はサーラ・ベルカセム。

 彼女の名は、今やダニーク人であれば誰でも知っていた。

 ダニーク解放戦線の革命指導者の長女にして、歴戦の戦士。

 少女が子供たちに囲まれるここは、解放戦線が運営する「公営孤児院」である。


 ファーンデディア一帯のダニーク人自治町村落に対する王国軍・警察の虐殺行為を伴う「自治体解体処分」によって、両親を失った孤児が大勢生まれた。

 そこで解放戦線は、解体処分を受けた町村落を巡回しては取り残された孤児を救い出し、拠点都市の一つであるオラン市に孤児院を開設したのであった。

 上は10代前半から下は0歳児まで、数百人の子供たちがかつて南部オーレン県最大の大学があった施設構内にて不自由なく暮らしていた。

 同じように「解体処分」で子供を奪われた母親たちが、自ら進んで孤児院の運営を担っている。

 

「やぁみんな。元気そうだね?」


 サーラは心からの笑みを浮かべて、真っ先に駆け寄ってきてくれた4歳の少女を抱き上げた。


「サーラおねえちゃん!みてみて、おねえちゃんの“おにんぎょう”つくったの!

 おねえちゃんにあげる!!」


 抱き上げられた少女は、小さな手製のぬいぐるみをポケットから取り出してサーラに見せた。

 二頭身の小さな人型のぬいぐるみ。

 茶色の丸い顔に赤色のビーズの両目があり、身体は緑色の軍服のような格好。

 そして背中には厚手の布を切り出して作った「自動小銃」が斜めに取り付けてある。

 縫い方は粗く所々綿が出ていてとても「美品」とは言い難いが、幼い少女が精一杯心を込めて作成したことが一目でわかるような代物だった。

 サーラは優しく少女を地面に降ろすと、ぬいぐるみを受け取ってから彼女の頭を数回愛撫した。


「ありがとう、ラナ。とても素敵よ。一生、大切にするわ。」

「うん!サーラおねえちゃん、だいすき!

 これからも、おとうさんとおかあさんにひどいことした“すたんとーるじん”を、たくさんやっつけてね!」


 少女の屈託ない愛らしい笑顔。

 サーラは神妙な顔つきとなって少女の両手を握ると、固く「約束」をした。


「任せて、同志ラナ。スタントール人は全て殺してあげる。約束よ。」

「ありがとう!()()()サーラ!」


 すると、他の子供たちもサーラに自身が作った自慢の作品を見せびらかそうと我も我もと声を上げた。


「サーラおねえちゃん!おいら、おねえちゃんの()をかいたんだ!」

「おねえちゃん!わたしも、おねえちゃんにおまもりつくったよ!」

「どうしサーラ!ぼくも、ぼくも!」


 サーラはワイワイと騒ぐ子供たち一人一人丁寧に応対し、彼ら彼女らの渾身の作品を称賛したり受け取ったりを繰り返した。

 歴戦の革命戦士の少女は、この孤児院の訪問を1ヶ月に最低1回は行っていた。

 子供たちの「希望」を絶やさない為に。そして、革命のともしびを繋ぐ為に。

 もし自分たちが革命を達成できずとも、それを確実に次世代に託さねばならない。

 一過性の「暴動」で、ダニーク解放戦線の戦いを終焉させるわけにはいかないのだ。

 それになによりも、今やダニーク人少年少女にとって憧れの存在とでも言うべきサーラの訪問は、親を失って心に深い傷を負った子供たちに、この上ない希望と癒しをもたらしていた。

 

 一通り子供たちからの歓待を終えたサーラの前に、数名の孤児院職員の女性たちが現れた。


「同志サーラ。いつも本当にありがとうございます。

 どうか、これをお受け取りください。

 院の子供たちが作ったパンです。是非、お召し上がりください。」


 院長を務める小麦色の肌が美しい30代後半のダニーク人女性が、笑顔と共に白い清潔な布で覆われたバスケットをサーラに手渡した。

 孤児院の子供たちが、以前パン屋を営んでいた職員の先生から教えてもらいながら作った手製のベーグルパンがバスケット一杯に幾つも入っていた。

 形はいびつながらも、ふっくらとしたドーナツ状のパンには食欲をそそる茶色い焼き色が全体にしっかりとついていた。


「ありがとうございます。同志。美味しくいただきます。

 もし何かお困りのことがあれば、いつでもご連絡ください。」

「ふふっ。ありがとう、同志サーラ。

 今は大丈夫です。お陰様で食べ物も薬も十分にあります。

 あなたに、廃却されし神々のご加護がありますように。」


 院長はサーラにそう告げると、軽い抱擁を交わした。

 サーラは子供や孤児院職員たちに見送られながら、孤児院を後にしようとする。

 だが、サーラに手製人形を渡した4歳の少女ラナが中々離れたがらない。

 ラナは、孤児院の門の前に停められた人民共和国製軍用自動車の傍までついてきてしまった。

 軍用自動車の運転席にはサーラ専属のドライバーである若いダニーク人戦士の男が座り、幼い女の子がサーラから離れたくなさそうにする様を、微笑ましく思いながら見ていた。


「ラナ、ごめんね。おねえちゃん、また来るから。

 バイバイね。」


 サーラはラナに微笑みを向けつつ別れを告げる。

 ラナは悲しそうな顔を返し、おねだりをする。


「ほんと?またあえる?」

「えぇ、約束するわ。また会いに来るから。」

「……」


 だがラナは悲し気な顔のままだ。

 サーラも普段とは少し違うラナの様子に、表情を曇らせる。

 優しい口調でラナに問いかける。


「どうしたの、ラナ?なにか気になることでもあるの?」

「……ラナね、もうおねえちゃんにあえないようなきがするの……」


 今にも泣きだしそうな顔をしていた。

 サーラはしゃがんで幼い女の子の頭を優しく撫でつつ「そんなことはない」と否定する。

 するとラナはサーラに抱き付いてきた。


「サーラおねえちゃん……バイバイ……だいすき……」


 ラナはサーラの耳元で囁くようにそう言うと、彼女から離れて門に居た院長の下へと戻っていった。


「……?」


 サーラの頭に疑問符が浮かぶ。

 時々、ラナはまるでちょっと先の未来が見えているかのように先んじて行動したり、意味深なことを言うことがあった。

 サーラの孤児院訪問の際も、いの一番に駆け寄るのは決まってラナだ。

 そんな彼女が「もう会えない」と言った。

 心にしこりを残しつつも、サーラは次なる任務に備え、オラン市から車で2時間ほど離れた南部オーレン県の小規模都市・ティアレ市郊外にある山岳部地下の解放戦線作戦本部「ネスト」へと戻った。


 オラン市を出発して2時間後、作戦本部に戻ったサーラは弾薬に手榴弾他各種装備品を整えると、数名の部下を従えて次の任務に就く。

 スタントール王国による「自治体解体処分」を免れた、「王国自治体管理下原住民町村落」に区分されている「解放戦線支援町村落」への定期安全巡回が、サーラの「日常」任務だ。

 十分な対空偽装が施され、遮熱ネットで覆われた洞窟の入口のような形に偽装する地下本部出入口から出て、入口傍に停車している軍用自動車に乗り込もうとした、まさにその時。


 アナログ式腕時計の針は12時55分を指し示した。


 突如、日の出のような強烈な閃光がオラン市の方角から放たれた。

 遮熱ネットと木々の隙間から、目の前が真っ白になるほどの光が差し込んでくる。

 たまらず目を背け、閃光から身を守るように顔を片手で覆うサーラ。

 その直後、壮絶な震動が大地を襲い、耳をつんざくような爆発音が大気を震わせる。

 視界が回復し、光が放たれた方角を見たサーラ他解放戦線の戦士たちの緋色の瞳を通じて、それはくっきりと彼らの脳裏に焼き付かれた。


 オラン市の全てを飲み込むような、巨大なキノコ雲の姿。

 

 この異世界に存在するあらゆる禍々しき存在さえ、裸足で逃げ出してなりふり構わず助命を乞うような圧倒的邪悪さがそこにあった。

 

「な……なにが、起こったの……?」


 普段は冷静に戦況を読み、的確に状況判断する歴戦の少女も、その筆舌に尽くしがたい「ソレ」を前にして続く言葉が出ない。

 他の戦士たちも同様だ。

 まるで神の火に焼かれるソドムとゴモラの有様を振り返り見たロトの妻のように、彼らはしばし呆然としていた。

 彼らは塩の柱にこそならなかったものの、如何なる表現をもってしても言い表せない程の圧倒的な破壊を前に、次なる行動を取れないでいた。



……●スタントール王国ファーンデディア標準時13時15分

   (アーガン標準時との時差 マイナス7時間)

   アーガン人民共和国首都・カムラク 内務人民委員会本部ビル地下●……


 夜が明け、朝の訪れを宣言する光が照らし始めた「労働者の国」の首都・カムラク。

 鉄筋コンクリート造10階建ての黄色い外壁タイルで覆われた建物の廊下を、人民軍政治将校の男が全力疾走して目的の部屋に向かっていた。

 男は扉をノックもせずに開け放つと、その部屋の中で寝間着姿のまま自宅から連行され椅子に縛り付けられた老人を執拗に「尋問」する若い女に向けて叫んだ。


「カ、カレンお嬢様!!一大事にございます!!……ハァハァ……」


 カレンと呼ばれたその女は、閉じているかのように細い目が特徴的な美しい顔を訝し気に歪め、「至福の時間」の一つを邪魔されたことに不快感を示した。


「なんだ、グラシカ?私の楽しみを奪うほどの報告か?」


 絶対零度のオーラが女から放たれる。

 専用の人民軍上級政治将校の軍服を纏う美女は、両の拳に染み付いた老人の血をタオルで拭いながら、突然「尋問室」に出現した腹心の部下である偉丈夫の大男……グラシカに近づいた。

 尋問室入口傍で待機するカレンの妹シクラも、グラシカに胡乱な眼差しを送った。


「ハァハァ……申し訳ございません、カレンおじょ……失礼、同志アクラコン。

 大至急の知らせにございます……部屋の外でお話ししましょうか?」


 グラシカは椅子に縛り付けられた血塗れの老人の姿を確認し、遠慮がちに問う。


「よい、このクズ肉のことは気にするな。なんだ?」


 カレンは早急なる報告を促した。

 人民軍政治将校の大佐は簡潔に報告した。


「はっ。ファーンデディアの工作員からの報告です。

 ……解放戦線の拠点都市の一つ、オラン市が核の炎に包まれました……」

「なんだと!?」


 カレンの顔に驚愕の表情が浮かぶ。

 傍らに侍るシクラも、同様に驚きを隠せない。

 その他、カレンの護衛として尋問室内にいた2名の政治将校も動揺する。


「……あの馬鹿女、遂に発狂したか?

 親政を終える最後の最後に、とんだ置き土産を残していきやがったな!?」

「はい。もうまもなく我々の偵察衛星がファーンデディア上空に差し掛かりますので、裏も取れるでしょう。

 超高高度長距離偵察機も飛ばしますか?」


 グラシカが人民共和国の実質的最高権力者に追加の情報収集行動を実施するか確認を取る。

 カレンは直ちに実行するよう命令した。


「当たり前だ。今すぐ飛ばせ。

 ……ダニーク解放戦線側の被害は?死傷した幹部はいるか?」

「いえ、工作員によればベルカセム書記長をはじめとする解放戦線主要幹部は皆、セティアで幹部会議をしており無事です。

 あの素晴らしき少女戦士のサーラも、オラン市から離れた作戦本部にいた為、無事なようです。

 ただ、オラン市で活動していた我が共和国から派遣の行政指導官役工作員数十名との連絡が取れません。恐らく、死亡したものと思われます。」

「……そうか、解放戦線側に人材面での直接的損害は無かったということか。

 工作員の代わりなんぞいくらでもいるから問題は無いが……

 我々の橋頭保のような港街を失ったのは大きいな。」


 そういうとカレンは次なる謀略に思考を走らせる。

 数瞬の間を置いて、次の指示を出した。


「グラシカ、至急ザイツォン様にもご報告しろ。

 そして、あの“国際機関”に早速仕事をしてもらうことにしよう。

 ……上手くいけば、“聖域”を作れるかもしれん……

 ふふふっ。カリーシア、貴様には本当に感謝しかないなぁ……

 今なら貴様のケツを舐めてやってもいいぞ?フハハハハッ!!」


 先程の倍以上の壮絶な氷点下のオーラが「尋問室」を包み込む。

 そのオーラを感じ取った「尋問中」の人民共和国首都専衛軍司令官の老人は惨めに失禁し、2名の屈強な政治将校の男たちさえも壁際へと退いた。

 一方で、斯様なおぞましいオーラを至近で浴びている筈の2人の人物……シクラとグラシカは、全く動じていない。

 むしろ、自分たちが仕える「主君」の次なる謀略に期待感すら滲ませていた。


 大戦終結後、王国陣営の盟主・ロングニル連合王国が中心となって結成されたばかりの史上初となる国際的紛争調停機関……独立国家調停機構。


 奴らに記念すべき「初仕事」をくれてやろう。

 

 カレンは、強大なる敵対超工業大国が放った「人民細胞」を死滅させるが如き核攻撃を、すぐさま「好機」に切り替えたのである。



……●スタントール王国ファーンデディア標準時12時45分

   南部オーレン県自動車専用道路 オラン市手前30kmポスト付近●……


 山を切り崩し谷を埋めて建設された南部ファーンデディアの自動車専用道路。

 片側2車線のアスファルト道路の上に多数の装甲車や戦車が展開し、大勢の王国軍兵士たちが「その時」を待っていた。

 彼らは皆、灰色の戦闘用防護服を身に纏い、頭部をすっぽりと覆うガスマスクを被っていた。

 装甲車や戦車の車体には白文字で「305」とペイントされている。

 「ファーンデディアの精鋭」にして解放戦線の宿敵、独立第305機械化歩兵大隊。

 精鋭中の精鋭たる彼らには今回、「特別任務」が課せられていた。

 

 核攻撃後のオラン市内制圧及び都市破壊評価の実施、そして後続の科学者らが行う核攻撃による各種専門調査の為の仮設拠点建設とその護衛である。

 

 血のように紅い髪をした女が装甲車の上に腰掛けながら、その豊満な胸部を無理矢理防護服に押し込んで窮屈そうに愛用の分隊支援機関銃の最終点検を行っていた。

 頭部に被るべきガスマスクは、パーカーのフードのように首の後ろに垂らしたままだ。

 その装甲車の傍らでは305大隊の大隊長とファーンデディア駐留軍野戦指揮官の男が、部隊の展開進路について最終確認の打ち合わせを行っていた。


 紅い髪の女……レシア……が不精髭を生やしヨレヨレの軍服を着た野戦指揮官の男に不満を漏らす。


「ダリルのオッサン!なんでこんなクソみたいな防護服を着なきゃなんねぇんだよ!」


 するとダリルはレシアの方に顔を向け、ニヤリとしながら答えた。


「しょーがねぇだろ?合うサイズが無かったんだ。

 大体、嬢ちゃんのオッパイがデカすぎるんだよ。ちったー痩せろ。」


 冗談めかして言うダリル・マッコイ陸軍准将。

 これにレシア・リョーデック少尉は怒りを露わに言い放つ。


「あんだとエロオヤジ!!好き好んでパイオツをデカくしてねぇーよ!!

 そうじゃなくて、生き残ったクソッタレダニークとドンパチするかもしれねぇってのに、こんな服着てたら満足に戦えねぇって言ってんの!」

「着たくなきゃ着なくてもいいぜ?

 ただし、その場合はガキが産めない身体になっちまうかもしれねぇーぞ?」


 首を傾げるレシア。その疑問は消えていないようだ。

 溜息を一つ吐き、ダリルはニヤけ面をやめ真剣な表情になると言葉を続ける。


「いいか?これから原子爆弾が炸裂した直後の街に展開するんだ。

 強烈な残留放射能がそこらに漂ってる可能性がある。

 放射能って奴はあらゆる生物の身体を“焼く”んだ。

 火傷を負わせるとか、そんな生易しいもんじゃなくて細胞レベルで身体の組織を破壊するんだ。

 その防護服はそんな恐ろしい放射能から身を守ってくれる。

 しっかり頭のマスクも被って絶対に隙間を作るなよ?

 オッサンとの約束だぜ?」

「……わかったよ、オッサン。」


 ようやく合点がいったレシアは、大人しくダリルの言に従った。

 機関銃の点検を終えてコッキングレバーを引くと、後ろに垂らしていたマスクを装着した。

 真紅の髪を束ねて頭部をすっぽりと覆うと、留め金具で確実にガスマスクと防護服の隙間を埋める。

 全ての準備が完了した。

 左手首に装着した軍用腕時計を見る。

 針は12時53分を指し示した。


「じゃあ、トランキエ。後は頼んだぞ。

 俺はここの前線作戦本部から作戦指揮を執る。現場はお前に任せた。」

「了解です、オヤッサン。

 なんかあったら呼ぶんで、そんときはそのヨレヨレの格好のまま来てください。」


 305大隊の大隊長、トランキエ大佐が冗談めかして言う。

 ダリルはニヤリとしながらトランキエの背中を叩き、「ふざけるな!」と返した。


「おーい、レシア嬢ちゃん。そろそろ「ピカッ!」と行くぞ。

 オランの方を直視すんなよー。」


 トランキエは、ガスマスクを被った305大隊最強のタンクスレイヤーの女に警告を発する。

 レシアは親指を立てた右手を突き出し「了解」の意思表示をする。

 その防護服の胸部は、明らかに女の持つ巨大な乳房によって膨れてしまっていた。


「……デカパイではちきれないか、あの防護服。」

「まぁ、大丈夫でしょ……多分。」


 大隊長の男と陸軍准将の男が、装甲車の上にいるレシアを見ながらぼやいた。


 その直後。


 猛烈な閃光が自動車道路の先の山間やまあいから差し込んでくる。

 305大隊の兵士たちはすぐさま視線を逸らし、目を手で防護した。

 光が放たれた直後、大地は震え、耳を貫くような轟音が響き渡る。


 そして巨大な禍々しいキノコ雲が立ち昇った。

 ダリルとトランキエにとって、これを見たのは2回目だ。

 共和国との戦いが終わった後で「本国」の戦場へと転戦した際、オーク連中の支配する要塞都市を吹き飛ばしたキノコ雲を遠くの別戦区から眺めたのが1回目である。

 その時は核の炎に包まれた直後の街を見に行くことはなかったが、報告書で想像を絶する「惨状」を知った。

 今回は、自分たちの部隊が「それ」を直接確認しに行かなければならない。

 気は進まないが、これも仕事だ。

 だがこの一撃で、ダニーク人テロ集団は壊滅的被害を被った筈だ。

 ようやく、ファーンデディアでの戦争も終わる。

 305大隊の兵士たちは、最後の大仕事に取り掛かった。

 レシアは装甲車の上部ハッチを開けると、中へと飛び乗った。

 トランキエも傍らに停車していた指揮装甲車の後部ハッチを開けて乗り込む。

 大隊各位のそれぞれの担当車両への搭乗完了を確認したダリルは、肩の小型無線機を引っ掴むと、自身の精鋭部隊に命令を下達した。


「よーし、野郎共。ダニちゃんたちがちゃんと死に絶えてくれたか見に行ってこい。

 305大隊総員、前進!オラン市を完全制圧せよ!」

『了解!マッコイ准将!』


 自動車専用道路に停車していた装甲車や戦車が、勇ましくエンジンの咆哮をあげて動き出す。

 邪悪なキノコ雲が居座るオランの街へ向けて。



……●スタントール王国ファーンデディア標準時13時20分

   ファーンデディア南部オーレン県 ティアレ市近郊 

    ダニーク解放戦線地下作戦本部「ネスト」地上出入口付近●……


「ど、同志サーラ。あれは一体なんでしょうか?」


 凄まじい轟音と震動に本部から大勢のダニーク人戦士たちが飛び出してきていた。

 彼ら彼女らは、皆唖然とした表情のまま一点を見つめていた。

 オラン市があった方角から立ち昇る巨大なキノコ雲を。


 そんな戦士の一人である10代後半の美青年ユーセフが、信頼を寄せる部隊指揮官の少女に状況を確認する。


「……あれは、新型エネルギー爆弾の攻撃だ……」


 たちまち周囲の戦士たちが騒めく。


「えぇっ!?あの、北のオークたちの街を焼き滅ぼした新型爆弾ですか!?」


 ユーセフが信じられないといった様子で確認する。


「あぁ、間違いない。新聞の写真で見たのと全く同じだ。

 あの爆弾で攻撃すると、悍ましいキノコ状の巨大な爆発雲が発生するんだ。」


 そこまで言ってサーラはハッとした。



 孤児院の子供たちはどうなった!?

 あの子たちは……ラナは!無事なのか!?

 ……今すぐ街に行かなければ……もし無事なら助けないと!!

 

 

 サーラは傍らに停車してある人民共和国製軍用自動車の運転席に飛び乗り、エンジンを始動して車を発進させようとする。

 ユーセフは指揮官の意図を一瞬で見抜き、制止しようとする。


「ど、同志サーラ!?まさかオランへ行くおつもりですか?

 危険です!!」

「止めるな、ユーセフ!!……子供たちが……孤児院の子供たちの無事を確認しなければ!!」

「同志サーラ!危険ですよ!!」

「同志ベルカセム!待ってください!私たちも行きます!!」


 褐色肌の戦士たちは自分たちがやるべきことを理解した。


 とにかくオランの街へ。

 新型エネルギー爆弾という恐るべき超兵器の攻撃に晒された街の状況を確認しなければ。

 そして……生存者を救出しなければ!


 慌ただしく出発準備に取り掛かろうとする解放戦線の戦士たち。

 するとそこに人民共和国からやって来た解放戦線支援工作員数名が現れ、今にもオランに向け飛び出そうとする「人民細胞」のダニーク戦士たちに警告を放った。


「ダニークの労農人民同志諸君!!

 落ち着け!あれが新型爆弾の攻撃なら、今頃街は完全に壊滅している!

 それに大量の放射能が満ちている可能性がある!そのまま飛び出すのは極めて危険だ!」


 サーラはこれに強く反論した。


「それでも行かないと!!あそこにいるのは、ほとんどが公務員の非戦闘員や女子供老人ばかり!

 今すぐに私たちが行って、地獄の中にいる彼らを救い出さなければ!!」

「……」


 人民共和国の政治将校は、揺るがぬ決意の表情を浮かべる歴戦の革命戦士の顔を見て、しばし沈思黙考した後、ある提案を出した。

 

「……実は我々が保有している資材の一つに、試作品の対放射能防護戦闘服がある。

 数は全部で20着しかない。どうしても街の様子を確認しに行くというのなら、兵を選抜して部隊を編成してもらえないだろうか。

 我々も3名同行する。残り17名の選抜をお願いしたい、同志ベルカセム。」

「わかりました、同志政治将校!

 ユーセフ、ヤシュク、アネット、アスラン!兵を選抜しろ!!

 準備を大急ぎで整えて、直ちにオランへ向かう!」

「了解!同志サーラ!!」


 サーラから指名された4名のダニーク戦士たちはそれぞれの同僚や指揮小隊の戦士から「調査戦隊」を選抜し、戦闘準備を整える。

 サーラは人民共和国政治将校から、最もサイズの小さい小柄な女性用の防護戦闘服を受領する。

 緑色の戦闘服の上に装備したコンバットハーネスを取り外して黄色の防護服を身に纏う。

 その防護戦闘服専用の弾帯ベルトを身に着けると自動小銃用のバナナ弾倉を5つ装備した。

 手榴弾や各種爆薬、包帯や野戦救急キットをウェストバックに詰め込めるだけ突っ込む。


 他の戦士たちも準備を整え、作戦本部地上出入口前に整列。

 人民共和国政治将校3名も待機している。

 サーラは17名の防護服を纏った同胞戦士を前に、簡潔に指示を出した。


「同志諸君、行くぞ!オランの状況を確認し、生存者を救い出す!」

「はっ!同志サーラ!!」


 直後、彼らは軍用車両数台に分乗して出発した。

 車の荷台には、やはり積めるだけの医療品を乗せている。

 さらに念のため、対戦車ロケットや対空ミサイルも複数持っていく。

 

 一体、オラン市の状況はどうなっているのか?

 作戦本部の通信要員たちは懸命にオラン市守備隊との通信を試みたが、全く連絡がつかない。

 サーラの脳裏に、ベゼラ基地奥深くの中央弾薬庫で見た魔王の玉座が如く鎮座する新型エネルギー爆弾の悍ましい姿が思い出されていた。

 あの時、自分はこう考えてしまった。

 もし、これが自分たちの「解放区」に投下されたらどうなるだろうか、と。

 まさか、それが現実のものになってしまうとは……

 加えて孤児院の幼子ラナが去り際に言ったことがフラッシュバックする。


『……ラナね、もうおねえちゃんにあえないようなきがするの……』

 

 サーラの心臓がドクンと鼓動する。

 


 ……ラナ、無事でいて……今からあなたを救いに行くから……

 お願いだから、そこで待ってて!!

 名前を奪われた私たちの神々様!どうか、あの孤児院の子供たちを……ラナを!

 護ってください……お願いします!!



 だが廃却されたダニークの神に、その願いを聞き届ける力は無かった。

 

 作戦本部を出発した約2時間後。

 オランに辿り着いた防護服姿のダニーク人戦士たちは、この世の地獄を見ることになる。

※この後書きは本編とほとんど関係ありません※


【新暦1926年12月27日付 ロングニル・ワールド・トゥデイ社放送

            特別報道番組「スタントール 核攻撃の衝撃」より抜粋】

●ノルトスタントール連合王国の蛮行再び 自国領を核攻撃(首相生出演)●


(前略)


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「……では、今回のスタントールによる自国領ファーンデディアでの核兵器使用は、王国同盟からの追放や独立国家調停機構・安全保障常任理事国からの解任事由には当たらない、とのことですか?」


・ヴァッグ・ガルゴード首相(オーク男性・ロングニル王国連合首相 以下、首相)

「はい。今回の核攻撃は飽く迄“自国領内”での攻撃であり、追放・解任事由に当たる“他国への無差別的核攻撃”とは言えない、というのが政府閣僚のおおよその見解です。

 実際、私もこれを持って追放することは難しいんじゃないかと、考えております。

 ……最も、とても悔しいことですが我々が盟主を担う王国陣営を追放されたところで、国内総生産の8割を内需で賄っているあの国にとって、それほど大きな打撃は無いでしょうが……

 現在、閣僚及び高級官僚を中心に慎重に議論を重ねているところであります。」


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「しかし……私には、あまりにも理性を欠いた重大な国家犯罪のように思えてなりません。

 相変わらずスタントール当局は、我がロングニル取材班のファーンデディア入域を大幅に制限しているので、現地の正確な最新情勢を確認できてはおりませんが……

 それでも、アーガンのプロパガンダ放送やスタントール現地メディアの報道を確認しただけでも、ダニーク人を中心に10万人前後の死傷者が出ているのはほぼ確実です。

 これについて、我が国として何らかの声明を出すべきではないでしょうか?」


・首相

「正直に申し上げて、難しいと言わざるを得ません。

 ただ、昨日、アーガン人民共和国とディメンジア国家社会主義国が連名で、独立国家調停機構に対しスタントールによるダニーク民族虐殺阻止を目的とした南部ファーンデディア一帯の飛行制限空域の設定と、調停機構軍の展開を求めて来ました。

 我が国としては、これを年明けに開催予定の第1回独立国家調停機構・安全保障理事会の重要議題として取り上げたいと考えております。」


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「それは素晴らしいと思います。

 しかし、当然スタントール側の強い反発が予想されると思いますが、首相は如何お考えでしょうか?」


・首相

「そうですね……ですが、スタントールはつい先日、国民投票により女王独裁が否定され、遅くとも来年早々には親政が終了します。

 今後、私たちが相手にするのは、あのヴォーレンクラッツェを火の海にしようとした向こう見ずな若い女王ではなく、いくらか理性的な文民政府閣僚となるでしょう。

 それに今回の核攻撃も、女王による独断的な命令によるものであることも確認されております。

 本来の立憲君主制に戻れば、いかにスタントールと言えどもう無茶は出来ないでしょう。」


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「なるほど……では別の質問です。

 先程、アーガンとディメンジアの訴えについて、飛行制限に加えて“調停機構軍”の展開を求めている、との首相のご発言がありましたが、この“調停機構軍”とは具体的にどのような組織になるのでしょうか?」


・首相

「はい。これは特にフリーデライツ国王陛下が強く望まれていた構想で、全世界各地の様々な国家間紛争や内紛に直接介入し、人道的な危機に陥っている国家や民族の救済と暴力行為の停止を目的とした超国家的な軍事機構です。

 具体的には、我がロングニル軍が中心となり、展開先の紛争や内紛に関する利害関係が無い世界各国軍部隊による平和維持軍を編成します。

 紛争や内紛のどちらか一方の当事者からの訴えを元に現地に展開し、速やかに戦闘行為を停止させ紛争の実効力のある調停を実施。その後、武装勢力などの武装解除や暫定的な治安維持活動の他、インフラ整備を行うことまで考えております。

 もし、今回のファーンデディア派遣が決定すればその第一号となるでしょうが、さすがにスタントール側がそれを了承するとは考えられません。」


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「でも、ダニーク人側が求めれば実現するのでは?」


・首相

「スタントールは独立国家調停機構の安全保障常任理事国です。

 常任理事国には“拒否権”という強い権限がありますので、それを行使されれば議案の成立は事実上不可能となってしまいます。」


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「それでは意味が無いのでは?

 ダニーク人たちが殺戮し尽されてしまっては、調停機構軍そのものが机上の空論で終わってしまうように思うのですが?」


・首相

「……手厳しいですな……しかし……まぁ、その通りです。

 そこで、我々は現在“とある国”と共に対応を検討中です。

 最悪、機構軍は無理でも、せめて飛行制限空域の設定ぐらいは何とかならないかと考えております。」


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「……なるほど、“とある国”ですね……

 最後に、我がロングニルとしてダニーク人側への具体的な支援は無いのでしょうか?」


・首相

「軍事的な支援は絶対に行いませんが、医療や社会インフラ整備支援等人道面で支援できないかと検討中です。

 ただし、これには『そのような支援をすれば、事実上ダニーク解放戦線を“国”として認めることに繋がり、スタントールとの決定的な軋轢を生むことになる』と懸念する政府関係者もいますので、未だに具体案にすら辿り着いていないのが現状です。

 ですが、もしダニーク人が求めるのであれば、我がロングニルは全てのダニーク人を移民として受け入れる態勢は整えております。そのことを、ダニーク人の皆さんには是非、知っておいていただきたい。」


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「ありがとうございます、ガルゴード首相。

 我が国が如何なる民族・種族も決して見捨てないことを、改めてお伝えいただきました。

 本日はご多忙の中、当番組への急な出演要請を快諾していただき、改めて感謝申し上げます。

 ありがとうございました。」


・首相

「ありがとうございます。」


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「それでは、本日の特別報道番組“スタントール 核攻撃の衝撃”はこれにて失礼します。

 ご視聴、ありがとうございました。」


(番組放送終了)

(しかし、スタッフのミスにより映像はそのまま流れる)


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「本当にお疲れ様です。首相。」


・首相

「……あぁ、全くやっておられんよ。あのスタントールの気狂い連中には心底うんざりだ。」


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「やっぱり首相はスタントールがお嫌いですか?」


・首相

「……“唾棄すべきオークを地上から根絶せよ。緑虫は皆殺しだ。”等と公文書で当たり前のように記載する国を、好きになれると思うか?」


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「絶対無理ですね。正直、頭がどうかしてるとしか思えません。」


・首相

「あの大馬鹿女王め……ワシがディメンジアの戦士ならこの手で首を引き千切ってやるところだ。」


(直後、スタッフが駆け寄って2人に映像が流れたままになっていたことを告げる)


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「なんですって!?なにやってんの!すぐに中止!中止して!!」


(「しばらく、このままお待ちください」の文字表記)

(その後、数秒間カラーバー画面に切り替わる)

(コマーシャルが流れ始める)

(番組放送終了)

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