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褐色少女の独立戦争  作者: mashinovel
第五章  戦乱のファーンデディア
34/63

33. ベゼラ戦車戦

 閃光と共に奴等は出現した。

 我らがダニーク解放戦線の宿敵、「ファーンデディアの精鋭」独立第305機械化歩兵大隊。

 勝利を確信した私たちの前に、奴等が立ち塞がる。

 鋼と炎が飛び交う激しい戦車の戦い。

 

 「ベゼラの丘」を巡る戦いは、最終局面を迎えた。

 戦車。

 それは陸戦最強の兵器である。

 味方兵士には絶対の安心を与え、敵兵士には絶望の脅威となる。

 強力な主砲と副砲の機関銃は的確に敵を倒し、その鋼の装甲は味方兵士の盾になる。

 近代国家においては、この戦車の性能と保有数こそ各国陸軍の強弱を図る基準の一つとなり、特に自国産戦車を有することは優秀な工業力を持つ先進国としてのあかしと言っても過言ではない。

 航空戦力には全くの無力であり、強力な歩兵用対戦車兵器の出現で一時は不要論さえ叫ばれたものの、その高い機動力と打撃力、何よりも圧倒的な存在感は機械化部隊の要として決して欠かすことは出来ない。

 それはこの異世界にあっても同様である。

 「蒸気の時代」と呼ばれる蒸気機関発明を契機とした近代技術発展の時代、繰り返される人間国家対亜人国家の戦乱の中で、人間国家の最右翼・ノルトスタントール連合王国で「蒸気陸上戦艦」なる多砲塔無限軌道装甲車が出現。

 やがて内燃機関と鋼鉄大量生産技術の発明によって開闢した「鋼鉄の時代」にて、オークによる軍事独裁国家・ディメンジアと赤道一帯の獣人国家による亜獣人大同盟軍とスタントール王国との大戦の際に菱型戦車が出現すると、その後も数多く発生した戦乱を経て現在のような主力戦車へと発展してきた。


……

 

 ここは、そんな強大な工業力を有する「人間国家」ノルトスタントール連合王国の直轄領である肥沃な農耕地と膨大な地下資源を産出する「祝福の大地」ファーンデディア広域州。

 そのファーンデディアにて最大の王国軍主要軍事基地ベゼラは、スタントールを憎み、彼の国からの独立を求める褐色肌の原住民・ダニーク人の武装組織による大攻勢を受けて灰塵に帰そうとしていた。

 

 その武装組織・ダニーク解放戦線において最強の革命戦士である少女の緋色の瞳が、驚愕に見開かれる。

 少女の名はサーラ・ベルカセム。

 彼女が機関銃座に座る強力な主力戦車は、海を二つ超えた先にある「労働者の国」アーガン人民共和国からダニーク人へと無償提供された代物だ。

 押し潰した卵のような円形砲塔に105mm戦車砲と14.5mm対物重機関銃を搭載。

 全体的に車高を低くし、被弾性と被発見性を抑えた設計がなされている。


 サーラが驚愕したのは他でもない。

 彼女をはじめとするベゼラ基地攻撃に参加した全てのダニーク戦士たちが勝利を確信したその瞬間に、突如猛烈な閃光が基地内の滑走路で発生したかと思うと、王国軍の機械化部隊が姿を現したからだ。

 装甲車の車体や戦車の砲塔に白文字でペイントされた「305」の部隊コード。

 解放戦線の宿敵、かつて空爆で灰となった港湾都市・セティアでダニーク人戦士を一方的に狩り立てて無数のダニーク民間人を「最終的解決」の名の下に殺戮した「地獄の猟犬」たち……独立第305機械化歩兵大隊。

 練度や装備で劣るダニーク解放戦線が王国軍の要であるベゼラ基地に破壊の限りを尽くせたのも、この基地を本拠地とする彼らのような「精鋭」が不在だったからだ。

 

 それが突然光と共に現れた。


 褐色肌の精悍な顔つきをした戦士の男女たちは、魔法のように出現した宿敵に驚くばかりである。


「……な、なんでコイツらがここに居るんだ?」


 サーラが機関銃座に座る戦車の戦車長にして解放戦線側最強の機甲部隊・ケンタウロス戦車兵団の指揮官である妙齢の褐色筋肉美女モルディアナは、その時ダニーク人の誰もが感じた疑問を口にした。

 本来なら然るべき対応策を迅速に出さなければならない筈の彼女は、状況が呑み込めず混乱している。


 そんなダニーク人の隙を、歴戦の王国軍機械化部隊の精鋭たちは見逃さなかった。

 305大隊の兵士たちは、有能な指揮官の命令により瞬時に状況を把握。

 大隊の戦車や装甲車の搭乗員たちは直ちにエンジンを始動すると、戦闘機動に入った。 

 王国軍戦車の1台が、炎揺らめく基地の内を我が物顔で闊歩する人民共和国製のダニーク軍戦車に照準を定める。

 夜間だが、基地内施設から巻き起こる炎が敵戦車をハッキリと浮かび上がらせていた。

 ベテランの王国軍砲手は、暗視装置に頼ることなく目視で敵ダニーク軍戦車を捉える。

 照準器の十字クロスが円形砲塔と重なった直後。


 砲撃。


 王国軍「第2世代」型主力戦車の120mm滑腔砲から極めて強力な装弾筒付翼安定徹甲弾が発射され、ダニーク軍戦車側面装甲に命中するや大爆発を発生させて円形砲塔を天高く吹き飛ばした。

 まるで皿のように砲塔がひっくり返った人民共和国製主力戦車は、一撃で撃破された。

 搭乗していたダニーク解放戦線の戦車兵5名は即死である。


 サーラはモルディアナに警告する。


「同志モルディアナ!!305です!!

 戦車兵団全軍に警報と反撃命令を!!今すぐ!!」


 その言葉にハッとするモルディアナ。


「……わ、わかった!!

 ケンタウロス1より全軍へ!!警報!!警報だ!!

 305出現!!王国軍精鋭機械化部隊!ベゼラ中央滑走路に出現!!

 全軍、総攻撃開始!!ここを奴らの墓場にしろ!!」

『了解!ケンタウロス1!!』


 ダニーク軍側も態勢を立て直し、宿敵305大隊との戦車戦に突入する。

 ここに、第一次ベゼラ攻防戦の最終幕を飾る「ベゼラ戦車戦」が開幕した。


……


 血のように紅い髪をした若い王国軍女性兵士が、装輪装甲車の屋根から飛び降りた。

 スリングの付いた5本の筒状使い捨てロケットランチャーを背負い、両手には強力な分隊支援機関銃を装備。

 5本分のランチャーのスリングが彼女の暴力的なまでに豊満な胸部の谷間に深く食い込み、豊かな二つの山を否が応でも強調している。

 その美しく整った顔と魅入られるような紺碧の瞳は、激しい殺意と憎悪に歪んでいた。


「オッサン!!」


 紅い髪の女……レシア・リョーデック少尉が305大隊最高指揮官の男に向かって叫ぶように指示を乞う。


「レシア!!ぶちかましてやれ!!

 遠慮は無しだ!目に付いたアカ印の戦車と装甲車を、全部オシャカにしろ!!」


 ヨレヨレの軍服に無精ひげといった出で立ちの王国軍将校の男……ダリル・マッコイ准将は、最も信頼する部下にして305大隊最強のタンクスレイヤーに至上命令を発する。

 レシアの顔に壮絶な笑みが浮かぶ。

 血の色をした髪が、全身から迸る黄金色の戦闘オーラによって煽られる


「イエッサー!!ダリル准将!

 皆殺しだ!!第1小隊のクソッタレ共、あたしに続け!!」

「了解!姐さん!!」


 レシアは配下の小隊各員に命令する。

 紅い髪の女が指揮する小隊の王国軍兵士たちも、ロケットランチャーを背負い自動小銃を構えて彼女に続く。

 レシアと兵士たちは搭乗していた装甲車を離れると、ダニーク軍戦車兵団の只中へと突っ込んでいった。


 早速レシアの前に敵戦車が出現する。

 瓦礫の山と化したヘリ用格納庫の背後から、円形砲塔を備えた「人民主義者お手製」の主力戦車1台が姿を現す。

 戦車の周囲には褐色肌の戦闘員が数名。

 どうやら敵は再集結を図っているようだ。

 ダニーク軍戦車出現とほぼ同時に、レシアは分隊支援機関銃を腰だめに構えた。


 フルオート射撃。


 5.56mm弾の雨が、戦車を守るように展開する原住民共の武装兵を瞬時になぎ倒した。

 その直後、背中のロケットランチャー一つのスリングを乱暴にひっつかんで両手に持つ。

 あらゆる射撃動作を並の王国軍兵士の数倍以上の速さで完了させると、簡易照準器からダニーク軍戦車を睨む。

 照星の先では、敵戦車が105mm戦車砲の砲口をレシアたちに向けようと円形砲塔を動かしていた。

 レシアは待った。

 敵戦車の砲口が自分たちを向いた瞬間。

 その時に姿を現す戦車最大の「弱点」を。

 105mm砲の砲身の下、砲塔と車体の隙間に「それ」はある。

 ターレットリングと呼ばれる部分。

 威力の低い使い捨てロケットランチャーでも主力戦車を破壊できる唯一と言ってもいい箇所。

 紅い髪の女は、その瞬間を決して逃さなかった。

 

 筒状のロケットランチャー本体の撃鉄を押し込み、発射。


 発射直後に安定翼を展開したロケット弾が、ダニーク軍戦車兵が対歩兵用榴弾を砲撃するよりも早くターレットリングに飛び込んだ。


 直後、爆発。


 弱点を貫いたロケット弾は戦車内のダニーク兵を細切れにした上で内部の砲弾に誘爆を促す。

 人民共和国製主力戦車は、その特徴的な円形砲塔を空中へと吹き飛ばされて擱座した。

 レシアが持つ王国軍史上最高の戦車撃破スコアに「ダニーク軍主力戦車:1」が記録された瞬間であった。

 タンクスレイヤーの紅髪女は、只の金属製の筒となったロケットランチャーを放り捨てて走り出す。

 家族を殺した原住民共の血を求めて。


……


 レシアの家族を殺した張本人の褐色少女は、戦車兵団の指揮戦車砲塔上部備え付けの機関銃座に座り、その極めて強力な対物機関銃を手足のように操って305大隊との激戦を繰り広げていた。

 砲弾のような14.5mm弾が、幾発も王国軍の六輪装輪装甲車に叩き付けられる。

 装甲の一部が破られ、砲弾がエンジンを直撃した。

 ガソリンに引火した敵装甲車が激しく炎上する。

 装甲車の乗員たちは、たまらず炎に捲かれて車外へ飛び出してくる。

 褐色少女サーラは、一切の容赦なく重機関銃の雨を敵王国軍兵士に浴びせた。

 炎上する装甲車から辛くも逃げ出した王国軍兵士の頭部に14.5mm弾が直撃。

 若いスタントール人男性の頭は血煙となった。木端微塵である。

 頭を失った胴体は力なくベゼラの丘に倒れ伏した。



 次だ。



 サーラは亡き妹へ捧げる次なるにえを求めて銃座を動かす。


 そんなサーラが機関銃座に座る戦車の車内では、ダニーク人戦車兵たちの戦いが続いていた。


「徹甲弾、装填完了!!」


 褐色肌の若い女性装填手が砲弾を砲尾に押し込むと閉鎖装置が働いて「装填完了」を告げた。


「目標、1時方向!スタトリア歩兵戦闘車!

 一発で仕留めろ、サーム!!」

「了解!モルディアナ姐さん!!」


 サームと呼ばれた砲手を務める元・港湾労働者の若い男が、戦車長にして解放戦線戦車兵団指揮官である褐色筋肉美女モルディアナの指示に応じた。

 取手の付いた砲塔回転ハンドルを砲手が素早く回すと、主砲の照準器が戦車正面側を基地内の炎に照らされながら走行する王国軍歩兵戦闘車を捉えた。

 サームは、その照準器中央にあるピラミッド状の三角形頂点を敵装甲車の砲塔に重ね合わせる。

 照準器の左右に配置された距離測定表示を確認。敵との距離を割り出して照準ハンドルを回し、照準を適正距離に調整する。

 砲手の目は必中の確信に見開かれ、照準ハンドルに備わった撃鉄を引いた。


 砲撃。


 円形砲塔の105mm砲から、巨大な徹甲弾が放出される。

 砲撃による衝撃で戦車の車体が一瞬揺れた。

 直後、砲尾の閉鎖装置が開放されて白い煙と共に薬莢が弾き出される。

 

 徹甲弾は砲手の狙い通りに歩兵戦闘車の砲塔を直撃した。

 王国軍自慢の歩兵戦闘車が爆発する。

 35mm機関砲と対戦車ミサイルを搭載した装甲車の砲塔は粉砕され擱座。

 砲塔にいた王国軍戦闘車乗員は即死であった。

 追い打ちをかけるように、重機関銃の豪雨が擱座した歩兵戦闘車に浴びせられ、脱出を図った敵搭乗員らを肉片に変えていく。


 敵撃破を認め、周囲の戦況を確認するべく砲塔の戦車長ハッチを開けて外へと身を乗り出すモルディアナ。

 すぐ隣には砲手用ハッチにマウントされた重機関銃を撃ち続ける愛する褐色少女が居る。

 その少女が兵団指揮官に機関銃の銃声に負けじと叫ぶように言った。


「同志モルディアナ!お見事です!

 同志が撃破した歩兵戦闘車から脱出した敵兵は、全て排除しました!」

「ふふっ。ありがとう、サーラ。

 ……うん?あれは……」


 モルディアナは、娘のように愛する少女サーラの背後に敵戦車が自身の戦車に狙いを定めているのを確認した。

 回避行動を操縦兵に指示するべく、すぐさま口元のマイクに手を添えた。


「エラム!!4時方向に敵戦車!

 こっちを狙ってるぞ!!緊急回避行動!全速前進!!」

『了解!同志!!』


 車体前方の操縦席に座るダニーク人男性戦士の右耳の通信受信イヤホンに、褐色筋肉美女の命令が瞬時に届く。

 エラムと呼ばれた操縦兵は元・建設現場作業員だ。

 数多くの建設重機を操った経験を持つ彼は、人民共和国製主力戦車の座席左側に配置された重たいギアレバーを難なく操作してギアチェンジを行い、右側の操縦桿を勢いよく前に倒すと戦車を前進させた。

 その直後、王国軍戦車の放った強力な徹甲弾がモルディアナの戦車後部を掠めて炎逆巻く基地施設の瓦礫に命中した。

 

 次弾が来る。


 モルディアナは直ちに配下の戦車兵たちに指示を飛ばす。


「エラム!このまま一気に間合いを詰めろ!

 敵戦車に肉薄して、ゼロ距離射撃で仕留める!

 サーラ、あなたは引き続き敵兵を排除して!

「了解!同志モルディアナ!!」


 ダニーク軍の指揮戦車はエンジンを大きく唸らせる。

 超信地旋回をして車体の向きを変えると、先程こちらを砲撃してきた王国軍戦車に向かって全速力で前進した。

 無限軌道が悲鳴のような嘶きを上げる。基地構内アスファルトを穿ちながら、巧みに瓦礫や半壊した建物を盾にしつつ敵戦車に肉薄する。

 流線形の砲塔と車体に油圧サスペンションを備えた液冷12気筒ディーゼルエンジンを備えた王国軍戦車は、近付いてくる敵との距離を取る為、慎重に後退を開始。

 しかし、モルディアナの戦車の方が早かった。

 人民軍機甲兵力の中核を担う「労働者の国」の主力戦車は、王国軍主力戦車の右側面に肉薄した。


……

 ダニーク側の戦車と王国軍側の戦車の性能差は大きいと言わざるを得なかった。

 主砲もダニーク軍の人民共和国製戦車が105mm戦車砲なのに対し、王国軍は120mm滑腔砲と口径と砲自体の性能がまるで違う。

 滑腔砲は砲身内にライフリングが無い純粋な筒状の大砲であり、安定翼を取り付けた新型の対戦車徹甲弾、装弾筒付翼安定徹甲弾……通称:APFSDS弾を用いることで長射程でも威力減衰が低く抑えられて高い攻撃力を保ち、非常に高い命中率を誇る。

 斯様な高性能を誇る滑腔砲だが、当然製造コストは通常大砲よりも高く、使用砲弾も専用のものに限られる上にやはり高価。さらにはカタログスペック通りの性能を発揮するには専門知識を有した整備兵による定期メンテナンスも必須となる。

 スタントールのような強大な工業力と豊富なマンパワーを持つ超大国でなければ、滑腔砲を装備した戦車を全軍配備するのは難しい。

 一方の105mm戦車砲は通常のライフリングが施された大砲である。

 使用する徹甲弾も通常弾頭であり、ターゲットとの距離が大きくなればなるほど威力、命中率共に悪化するが、コストは滑腔砲よりも安く製造に関する長年のノウハウの蓄積もあり、ある程度の工業力を有する途上国でも十分に生産可能である。

 故に基本性能を犠牲にしてでも、実績と生産性の高さを優先してこの主砲を自国戦車の主兵装としている国は多い。

……


 褐色肌の砲手が睨む照準器の視界いっぱいに、憎き王国軍戦車側面エンジンルームの排煙口が広がる。

 緋色の瞳の瞳孔が狭まり、三角形の照準と敵戦車排煙口を重ね合わせた。

 直後、サームは照準ハンドルの撃鉄を引く。

 

 砲声と同時に着弾。


 排煙口に叩き込まれた105mm戦車砲の徹甲弾は、王国軍主力戦車のエンジンを完全に破壊した。

 敵戦車から黒煙が立ち昇り、撃破されてしまったことを周囲に告げていた。

 それを見ていたダニーク解放戦線の戦士たちから歓声が上がる。


「凄い!モルディアナの姐さんがスタトリアの戦車を撃破したぞ!!」

「やったわ!!私たちも続くのよ!」

「ざまぁみやがれ!スタトリアのブリキ戦車め!」


 解放戦線側の士気は上がり、王国軍を殲滅せんと戦いを加速させていく。

 しかし、敵である305大隊の将兵に一切の動揺や士気の低下は見られない。

 むしろ、味方がやられて劣勢となっている筈なのに、敵の攻撃は洗練され苛烈なものへと変貌していった。


 モルディアナの指揮戦車が「転送」されてきた305大隊の戦車全2台の内の1台を撃破したのとほぼ同時に、再び滑走路に閃光が走った。

 305大隊の本隊の「帰還」であった。

 

……


「……っと……なんだ?ここはベゼラか?」


 ダリルが直接指揮する支隊とは別行動を取っていた305大隊の本隊。

 「転送質量」の大きい彼らは、ダリルの支隊から遅れての到着となった。

 その本隊を指揮する大隊長の優男は自分たちの居場所を確認するように呟いた。


『トランキエ!!敵襲だ!!ダニークの戦車部隊!!

 全部隊、戦闘機動に入れ!ベゼラから叩き出せ!!』


 直後、基地司令であるダリルからのダイレクト通信が大隊長の通信機に届く。


「オヤッサン!?……了解!!

 野郎共!早速仕事だ!!ぶちのめせ!!

 小隊ごとに速やかに展開!目に付いた茶色い奴等を全て撃て!!」

『了解!!トランキエ大隊長!!』


 大隊長……ギデオン・トランキエ大佐は、すぐさま状況を理解し部下に命令を下達する。

 大隊本隊の「帰還」により、王国軍側の稼働戦車は一挙に40台を超え、形勢は瞬時にダニーク側が不利となった。


「トランキエのオッサン!!」


 駆け寄って来たレシアが、大隊指揮戦車の砲塔上部戦車長ハッチにいたトランキエに向かって叫んだ。

 既に「開戦」当初に背負っていたロケットランチャー5本は無くなり、その美しい顔は煤けて汚れていた。

 紺碧の瞳は激しい闘志に燃え、戦意は著しく高揚している。


「おう!レシア嬢ちゃん!

 もう派手にかましてるみたいだな!!」


 トランキエも破顔してそんなレシアの健闘を讃える。

 一方、レシアは戦場に到着したばかりのトランキエにある重要情報を伝えた。 


「ベルカセムだ!!あのクソ女がいる!!

 戦車に乗って機関銃をぶっ放してやがる!

 多分、あれが連中の指揮戦車だ!

 あたしに兵隊と戦車を貸してくれ!!」


 トランキエはレシアの瞳を真っ直ぐ見つめる。

 引き込まれそうな程に美しい紺碧の瞳は、確信と覚悟を宿していた。


 

 必ず、あの女を殺す。



 そう彼女の瞳は告げていた。

 歴戦の野戦指揮官であるトランキエは迅速に判断を下す。


「わかった、少尉。貴様に大隊本部付き戦車小隊を貸してやる。

 部隊を指揮し、必ずベルカセムと指揮戦車を仕留めろ!

 最優先命令だ!」

「イエッサー!!トランキエ大佐!」


 レシアは「指揮下」に入った王国軍戦車に飛び乗ると、部隊に目標地点を指示した。

 それに本部付き戦車小隊の戦車3台と機械化歩兵約30名、レシアの第1小隊の面々が続く。

 絶対の殺意を抱いた紅い髪の女が指揮する王国軍兵士たちは、今まさにモルディアナとサーラを始末せんと襲い掛かろうとしていた。


……


 形勢が逆転してしまったことを、サーラは理解した。

 先程の閃光と共に305大隊の本隊が姿を現すと、ダニーク軍側の損害が更に増していた。

 味方部隊から損害を知らせる連絡が、ひっきりなしに入って来る。


『ケンタウロス5!やられた、脱出する!』

『ケンタウロス1へ!こちらケンタウロス3-5!味方対空戦車がやられた!

 機械化第2歩兵小隊、損害多数!!救援を!』

『こ、こちらケンタウロス8!!敵に囲まれました!!

 あぁ、狙われてる!回避し……』


 追い打ちをかけるような通信が、ベゼラ南部の森林地帯に隠された前線作戦本部にて統括参謀役を務める元・役所職員のバシルから入る。


『ゴブリン1、こちらフロントネスト。

 移動式対空レーダーが接近する複数の機影を感知。

 速度からして、恐らく攻撃ヘリだ。

 対空警戒を!』


 さらに基地管理棟の制御室にて内部監視カメラを確認する大男の褐色戦士ヤシュクからも通信。


『サーラ!不味いぞ、305の本隊のご到着だ!

 敵戦車、およそ50台!数的にもコッチが不利だ!

 どうする!?』


 その直後、ヤシュクの背後から銃声が聞こえてくる。


『クソッ!!サーラ、敵に発見された!!

 これより、監視カメラ制御室を放棄して部隊と合流する!!

 ブメディエンヌ、通信終了!!』


 サーラの可憐な顔が悔しさに歪む。

 その間にも、味方部隊から損害発生を伝える通信は途絶えない。

 

 

 あと少し……あと少しで!

 このベゼラを灰に出来たというのに!!

 またしても305大隊にしてやられた!

 セティアの屈辱を晴らすどころか、このままでは全滅してしまう……



 サーラは隣にいる、戦車長ハッチから身を乗り出して戦況を確認する戦車兵団指揮官のモルディアナを見た。

 彼女も苦渋の表情を浮かべていた。


「……サーラ……悔しいね。

 あとちょっとだったのに……」

「はい……同志モルディアナ……これ以上の損害が出る前に、撤退しましょう。」


 サーラは絞り出すように意見を述べた。

 モルディアナは悲しさを帯びた笑みを彼女に返す。


「よし。今回はあいつらの勝ちってことにしといてやろう。

 ……次は、連中を宇宙までぶっ飛ばしてやろうぜ……」

「はい、同志モルディアナ。」


 妙齢の褐色美女の野戦指揮官は、愛する少女に一度だけ頷くと指揮部隊全軍に向けて命令を下した。


「ケンタウロス1よりケンタウロス戦車兵団並びに革命親衛隊へ。解放戦線全軍に告げる。

 撤退せよ!!部隊ごとに遅滞行動を取りつつ森へ後退!!

 ベゼラから離れるんだ!!」

『了解!ケンタウロス1!!』


 ダニーク解放戦線の各部隊は統制を失うことなく、南北の奥深い森林地帯へと後退を始めた。

 王国軍側のヘリ部隊が戦場に姿を現したが、残存の対空戦車がすぐさま数機撃墜して敵ヘリ部隊の出鼻を挫いた。


「さぁ、私たちもずらかるよ!

 ……あ、あれは!?」


 モルディアナは視線の先にまたしても敵王国軍戦車の姿を捉えた。

 それも複数。戦車右側面、2時から4時の方向にかけて展開している。

 既にこちらに砲口を向け、今まさに砲撃しようとしていた。

 さらに戦車の正面には建物瓦礫の陰から紅髪の女が現れてロケットランチャーを構えている。


「あ、姐さん!!正面に敵対戦車兵!!」


 操縦兵からの警告が車内に響く。

 サーラも急いで正面を向き、宿敵の王国軍女性兵士に機関銃の銃口を合わせようとする。

 しかし……



 もう間に合わない!!



「サーラ!!」


 モルディアナは愛する少女の名を叫ぶと同時に、隣の機関銃座に座る彼女の襟首を掴むと勢いよく戦車左側面へと放り投げた。

 突然宙を舞う羽目になったサーラは、そのまま地面に叩き付けられた。

 全身を衝撃が襲う。

 その直後だった。


 モルディアナの乗ったダニーク軍指揮戦車が爆発した。


 円形砲塔は空高く舞い上がり、褐色筋肉美女の身体が弾き飛ばされる。

 サーラは母親同然の女性の名前を叫んだ。


「モルディアナーー!!」


 少女は立ち上がり、戦車から吹き飛ばされたモルディアナの下へと駆け寄った。

 先程まで自分が機関銃座についていた指揮戦車は、傍らで激しく炎上していた。

 基地構内舗装道路の中央部に横たわるモルディアナを抱きかかえるサーラ。

 サーラは彼女の身体を上から順に確認した。

 弱々しいが息はある。頭からは幾筋もの血が流れ、服もあちこち破れて血が滲んでいる。

 そして……右足は膝から下が無くなっていた。骨と肉がむき出しになり、大量の血が流れ出ている。

 サーラは自身の戦闘服の袖を破り、患部を抑え付けて流血を止めようと試みる。

 やがて、一時的に気を失っていたモルディアナが意識を取り戻した。


「……サ、サーラ……なにやってるんだい……

 早く逃げて……」

「ダメ!モルディアナ!喋らないで!!」


 サーラは懸命にモルディアナの失われた右足を抑えて流血を止めようとする。

 モルディアナは尚も言葉を続けた。


「サーラ……あなたは……私たちダニーク皆の誇りよ……

 お願い……に、逃げて……革命を……独立を成し遂げて……」

「モルディアナ!あなたを死なせはしない!!絶対に!!」


 命の灯火が消えかかろうとする褐色美女は、愛する「娘」の頬に震える右手を添える。

 サーラはその手を掴む。

 モルディアナは今にも消えてしまいそうな声で呟いた。


「……優しい娘だね……サーラは……」

「ダメ……死なないで…………母さん……」


 サーラは血の繋がりも無い彼女を「母」と呼んだ。

 それに満足したかのように笑みを浮かべると、モルディアナは瞳を閉じて意識を失った。

 サーラは迅速に脈と呼吸を確認する。

 非常に弱くなっているが、命の灯火は消えていない。

 彼女はまだ生きている。

 少女は涙を零さなかった。

 モルディアナの腕を自身の肩に掛けると、立ち上がろうとする。

 そこへ分隊支援機関銃を装備した紅い髪の女が、背後からゆっくりと姿を現した。


「おい、クソッタレのダニ虫サーラ・ベルカセム。

 そのクソ筋肉ダルマを連れて何処へ行くつもりだ?

 あたしと遊ぼうぜ!?」


 背後を振り返り、声の主を確認するサーラ。

 その片手には人民共和国製自動小銃がしっかりと握られている。


「レシアッ……!!」


 壮絶な笑みの紅髪女の背後には、複数の王国軍兵士の姿もあった。

 銃を構え、サーラをいつでも射殺出来る態勢を整えている。


 もはやこれまでか。


 サーラは自身の死を覚悟し、敵と刺し違えるべく自動小銃の銃口を上げようとする。

 王国軍兵士とレシアがそれを察知して5.56mm弾の雨を彼女に降り注ごうとしたその時。


 王国軍の装甲軍用自動車1台がタイヤが上げる悲鳴と共に猛スピードで出現した。

 天井にマウントされた対物機関銃には褐色肌の大男が座り、レシアとその配下の王国兵共に向かって12.7mm弾の雨を叩き付ける。

 レシアは瞬時に飛び退き、傍らの基地建物の瓦礫に身を隠した。

 他の王国兵たちも同様に回避行動を取るが、反応が遅れた数名が射殺される。

 褐色肌の戦士たちが略奪した王国軍装甲軍用自動車は、サーラの直ぐ傍に急停車すると後部座席の装甲ドアを開け放った。

 直後、サーラの副官であるユーセフが飛び降りる。


「同志サーラ!!ご無事ですか!?」


 助手席のドアも開かれ、降りてきた若いダニーク人戦士が自動小銃を構えて発砲する。

 その軍用自動車の天井の重機関銃座に陣取る大男、ヤシュクはあらん限りの弾丸を敵兵に叩き付けていた。


「ユーセフ!!モルディアナを乗せろ!!急げ!!」


 サーラはユーセフにモルディアナを預ける。

 ユーセフは重傷を負い意識を失った褐色筋肉美女の身体を手早くかつ慎重に車内へと入れ込んだ。

 モルディアナの身体を反対側の後部座席に座る女性戦士が受け取ると、応急処置を始めた。

 サーラは自動小銃を構え、瓦礫に隠れるレシアに銃口を向けて戦闘に突入しようとする。

 それを機関銃を乱射するヤシュクが大声で制した。


「サーラ!!空軍だ!!王国空軍が来るぞ!!

 ネストのバシルが敵の通信を傍受した!!

 北のデルカン基地から爆装した戦闘爆撃機が急行中!!

 対空戦車でも抑えられない!!すぐに離脱しないと、ヤバイぞ!!」


 サーラは苦虫を噛み潰したような顔となる。


「クソッタレ!!……撤退する!!」


 歴戦の少女は銃を下ろし、革命親衛隊の精鋭たちが敵から奪取した装甲軍用自動車に飛び乗った。

 直後、炎上するモルディアナの指揮戦車残骸を押し潰して王国軍戦車が出現。

 急発進して離脱を図る原住民を満載した軍用自動車に向けて砲撃する。

 だが砲弾は外れ、自動車背後のアスファルトを穿った。

 サーラとヤシュク、ユーセフ他基地内に残っていた革命親衛隊の生き残り約5名及び瀕死の重傷を負ったモルディアナを乗せた軍用自動車は、辛くも敵空軍到着前に南部の奥深い森林地帯へと飛び込み、305大隊の精鋭によって倒された無数の同胞の屍が転がるベゼラを脱した。


 その頃、現場空域に到着した王国空軍の戦闘爆撃機部隊は、ベゼラから後退するダニーク軍機械化部隊へ容赦ない空爆を繰り返して敵に更なる大量出血を強いた。結果、この第一次ベゼラ攻防戦でダニーク解放戦線は主力とも言えるケンタウロス戦車兵団の兵員・機材の3割を失う大損害を出した。

 加えて野戦指揮官にして主要幹部のモルディアナも生死の境を彷徨う重傷を負い、組織として大きな痛手を被った格好となったが、人民共和国の派手なプロパガンダがその「功績」を大いに讃えたことで、解放戦線の名はスタントールに反感を抱く共和国陣営諸国のみならず王国陣営諸国にさえも轟くこととなった。

 戦術的には敗北だが、戦略的には部分的にせよ勝利を収めていたのである。


 一方、戦いの夜が明けて辛くもベゼラを守り抜いた305大隊が、中央弾薬庫から「新型エネルギー爆弾」3発が略奪されていることに気付いたのは、その日の夕方だった。



…………


 第一次ベゼラ攻防戦が解放戦線側の「敗北」に終わってから3日後の深夜。

 南部オーレン県県庁所在地にして解放戦線の「解放地区」主要拠点都市・オラン市の港に、冷徹な雰囲気を纏った不気味な美女が配下の政治将校を大勢引き連れて待機していた。

 直ぐ傍の接岸ドックには、巨大な漆黒の潜水艦が横付けされている。

 船体上部のハッチは既に開かれており、車両用タラップも降ろされて「積み込み準備」は万端である。

 冷徹な美女の顔には、邪悪な笑みが浮かんでいる。

 やがて彼らの「待ち人」がやって来た。

 スタントール王国製の軍用大型トラック。

 それを褐色肌の青年・アスランが運転し、助手席には褐色少女が座っている。

 荷台には数名のダニーク人戦士たちが「積み荷」を守るように完全武装で搭乗していた。


 トラックは専用の人民軍上級政治将校の軍服を纏う冷血女の前で停まった。

 女の名前はカレン・アクラコン。

 ダニーク解放戦線を強力に支援するアーガン人民共和国の実質的最高権力者。

 表向きの肩書は内務人民委員長である。

 トラックから褐色少女……サーラ……が降り立つと、カレンの方から近付いてきた。

 人民共和国の代表として、解放戦線の代表者に感謝の言葉を伝える為に。

 

「同志サーラ。お見事です。

 任務を達成しただけでも我々としては大満足なのに、あなたは賢明にも「新型エネルギー爆弾」の「新型」……「戦術型」なる爆弾を入手してくれた。

 人民共和国の全労農人民を代表し、あなた方ダニーク解放戦線へ深く感謝を申し上げます。」

「ありがとうございます。同志カレン。

 そのようなお言葉を頂き、あのベゼラで戦死した同胞たちも、きっと廃却されし神々の御許で喜んでることでしょう。」


 カレンは友好的な笑みをサーラに向ける。

 アスランも運転席を降り、それに合わせるかのように荷台で「積み荷」……新型エネルギー爆弾「戦術型」3発……を守っていた戦士たちも降車した。

 彼らと入れ替わる形で、カレンの背後にいた人民軍政治将校らがトラックに乗り込み、タラップを登って口を大きく開けた潜水艦の体内へと消えて行った。

 それを見届けるや、カレンはサーラ「個人」へ言葉を掛ける。

 

「ふふっ……素晴らしい……サーラさん。

 あなたは私の期待にいつも答えてくれる。本当に頼もしいわ。」

「勿体無いお言葉です。同志カレン。」


 先程の友好的な笑みから微妙に変化したカレンの微笑み。

 冷血女は、次なる言葉を投げかける。


「それで……あなたはこれからもスタントール人を殺し続けることに、変わりはありませんね。」


 確認かあるいは警告か、どちらとも取れないような言い方だった。

 サーラは一瞬キョトンとして相手の質問の意図するところを理解できなかった。


 彼女にとってあまりにも当たり前のことを問われたからだ。 


 彼女は当然のように答えた。


「はい。ファーンデディアに巣食う奴等を殺し尽くすまで、私は戦いをやめません。」


 その顔は絶対に揺るがない決意を示していた。

 カレンは少女の顔を見て、微笑んだまま頷いた。


「……素晴らしい。あなたは人民革命を戦う全ての革命戦士の手本です。

 独立を勝ち取るその日まで、私たちの支援が途切れることは決して無いことをお約束しましょう。

 お父上にも、宜しくお伝えください。」

「はい。ありがとうございます、同志。」

「それじゃあ、また会いましょう……サーラさん……」


 カレンはサーラに「暫し」の別れを告げると、潜水艦の方を振り返って歩き出した。

 彼女の背後にいた政治将校らも、サーラに向け敬礼した後にカレンに続いた。


 その後、潜水艦のタラップは格納されて上部ハッチが閉じられると、漆黒の巨体は水中へと姿を没した。

 自分たちが強奪した核兵器を積んだ人民共和国の巨大潜水艦が去り行く夜の大海原を、サーラと解放戦線の戦士たちはしばらくの間見守っていた。


……


 その潜水艦内。

 カレンは積み込まれた「戦術型核爆弾」を、まるで最高の玩具を前にした子供のように飽きることなく見つめている。

 冷血女からは強烈な絶対零度のオーラが迸り、周囲に侍っていた政治将校たちさえも彼女から二歩ほど下がらざるを得なかった。



 カリーシア……素晴らしいプレゼントに感謝するぞ。

 貴様の部下共の無能さと私の「人民細胞」の優秀さがもたらしたこの最高のオモチャ。

 あぁ……分解するのが待ちきれない……

 ザイツォン様もさぞ、お喜びになることだろう……

 ……これで、名実ともに我が共和国も「核保有国」だ!

 カリーシア!!貴様と貴様の愚民共の頭上に、こいつを叩き付けてやる!!



「フッ……フハハハハハッ!!フハハハハハッッ!!」


 もはや大いなる愉悦による笑いを抑えられない。

 宿敵・ノルトスタントール連合王国の国家元首、カリーシア・シノーデルⅡ世への仄暗い殺意が笑いと共に迸る。

 

 そんなカレンの様子を遠巻きに見ていた潜水艦艦長の男、クラゲナンと彼が信頼する若い副長の2人のベテラン潜水艦乗りは、互いに目を合わせると肩を竦めた。


 やはりどんなに美人でも、この女に魅力は微塵も感じない。


 約1ヶ月、このおぞましい内務人民委員長様と狭い艦内で一緒に過ごす羽目になる母国までの長い航海に、潜水艦乗組員たちの気持ちは暗くなる一方だった。

※この後書きは本編とほとんど関係ありません※


【新暦1926年10月1日付 ロングニル・ワールド・トゥディ社放送

                通常報道番組「今日の世界」より抜粋】

●女王独裁の続くスタントール 高まる専制への批判●


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「こんばんは。本日よりヴェンデンゲンのスタジオから通常編成で番組をお送りします。

 ……昨日、アーガン人民共和国総書記長、ザイツォン・ベタシゲン氏とヴァッグ・ガルゴード首相が会談を開き、最終的な両国有事事態の完全終結で合意しました。

 実に2年にも及んだ大戦は、これをもって正式に終結しました。

 その一方、東の「同盟国」ノルトスタントール連合王国はアーガン人民共和国側との和平合意を断固拒否しており、我がロングニル王国連合政府内からは『もはやスタントールを王国同盟から除外すべき』との強硬意見も出る等、我が国世論を中心にスタントールへの反発は強まっています。」


・アナウンサー(キャットピープル男性)

「ニャ。そのスタントールが直轄領としているファーンデディニャでは、スタントール当局と独立を求める先住民のニャニーク人との間で今も激しい戦闘が続いてるニャ。

 スタントールとニャニーク双方が話し合いでの解決を拒否している現状、戦闘収束の見通しは立ってないニャ。

 それにニャーたちロングニルの度重なる抗議も無視して、未だにスタントールはニャニーク人の組織的虐殺と強制収容を続けてるみたいニャーで、今後、ニャーたちとベルベキニャ、スタントールの3ヶ国で予定していたエルエニャル分割統治からスタントールを外すことも検討中ニャ。」


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「また、当局記者によるファーンデディアへの現地取材をスタントール大使館に申し入れましたが、スタントール側は今は戦時中であること、加えて当局取材記者が亜人であることを理由にこれを拒否しました。

 我がロングニル・ワールド・トゥディ社は、このような人種差別的で高慢な態度を取り続けるスタントールに対し強く抗議します。」


・アナウンサー(キャットピープル男性)

「そんなスタントールの国家元首、カリーシア・シノーデルⅡ世女王ニャンは、大戦が事実上の終結を迎えたにもかかわらず、未だに国王独裁を継続中ニャ。

 これにはスタントール国内からも反発が出てるみたいニャーで、王都・フェリスでは、連日のように民主化を求める左派と女王統治継続を求める右派のデモ隊が衝突を繰り返して多数の死傷者が出るようニャ。

 ファーンデディニャの戦争、王都の騒乱とスタントールは国内が危ニャイ状況みたいニャーから、外務省は当面の間、スタントールへの渡航を見送るよう警告してるニャ。」


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「はい。以上、大戦終結及びスタントール関係のニュースをお伝えしました。

 ……次のニュースです。

 大戦による戦災補償に関し、王国連合政府はベルベキア連邦提供の戦災復興支援、所謂「イヴァノヴァ・プラン」を元とした戦災補償金の一時給付を開始しました。

 これは……」


(後略)

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