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褐色少女の独立戦争  作者: mashinovel
第五章  戦乱のファーンデディア
33/63

32. 第一次ベゼラ攻防戦 後編

 この世界で最も禍々しい存在とは何だろうか?

 そう問われて、人々は何と答えるだろうか。

 遥かいにしえの時代に封印された邪神や魔王、あるいは人跡未踏の山脈の奥で眠る古代龍エンシェントドラゴン、聖職者ならば死霊術や邪神教徒とでも答えるだろう。


 だが、私は見た。

 白い肌をしたガーゴイル共の軍事基地。

 その地下深くに眠る人類が生み出した「悪魔」を。


 新型エネルギー爆弾。

 核分裂反応を用いた小さな太陽。


 私はあの爆弾の姿を、生涯忘れることは無いだろう。

「よう。交代の時間だぜ。」


 真夜中の監視塔。

 その最上階にて、ナイトビジョンを内蔵した双眼鏡で目の前に広がる森林地帯を監視していた兵士が、背後から同僚の兵士に声を掛けられる。

 双眼鏡を下ろしたその王国軍兵士は、大きく伸びをしながら答えた。


「……ようやくか。退屈で戦死するかと思ったぜ。」


 冗談を飛ばす若い兵士。

 それに同期の戦友も破顔して応じる。


「ハッ!俺はコッチが良い!

 基地の周りを覆う森林を眺めてるだけで給料が貰えるんだからな。」

「ふん!この非愛国者め。お前なんぞ、戦車にでも轢かれてろ。」


 少しばかり冗談の言い合いをした後、彼らは警備業務の引き継ぎを滞りなく完了させた。

 

 天空には星々と双子の衛星が煌めき、日付が変わった深夜にもかかわらず、赤茶けた肥沃土で覆われた「祝福の大地」をほのかに明るく照らしていた。

 ここはノルトスタントール連合王国直轄領・ファーンデディア広域州。

 その州を守る駐留軍最大の軍事拠点であるベゼラ王国軍基地。

 王国軍兵士たちが二人一組ツーマンセルで南北を三重に走る金網フェンスの外周を定期警邏し、等間隔で設置された監視塔とサーチライトが「敵」の襲撃を警戒していた。


 そんな彼らの足元、地下排水管渠の中を基地襲撃に来た褐色肌のファーンデディア原住民……ダニーク人武装集団が静かに突き進む。

 ファーンデディアに駐留する王国軍兵士たちの「敵」。

 スタントール人に対する激しい憎しみを抱き、自由を求めて戦う「ダニーク解放戦線」の戦士たちである。

 およそ20人の完全武装の戦士らを率いるのは、まだ10歳の美しい褐色肌の少女。

 解放戦線の聡明な若き指導者ゲイル・ベルカセムの長女にして最強の革命戦士。

 名をサーラ・ベルカセムといった。

 この世界で誰よりもスタントール人を憎み、誰よりもスタントール人を殺してきた少女。

 サーラは銃口に消音器を取り付けた愛用の人民共和国製自動小銃を油断なく構え、排水管渠のメンテナンス通路を進んでいた。

 彼女の後ろに続くのは、豊富な実戦経験を有する革命親衛隊の精鋭中の精鋭たち。

 足元を通路用照明の蛍光灯の光が照らすだけの薄暗く澱んだ空気が支配するコンクリートで出来た狭い通路の中を、ほとんど音を立てることなく、呼吸さえも最小限に抑えつつ目的地のベゼラ基地中央弾薬庫を目指していた。


 サーラは右手を掲げて後続の戦士たちに「止まれ」を合図する。

 管渠の先が開けて基地内部の地下排水処理施設が姿を現した。

 サーラが先導し、銃を構えて施設内部の敵を警戒する。

 敵影無し。

 解放戦線のダニーク戦士たちは、憎き王国軍主要基地内部への潜入を果たした。

 処理施設内部の安全を確認した後、再集結する。

 サーラの前に居並ぶ20人の若きダニーク人戦士たち。


「同志ユーセフ。」


 サーラは、自身が信頼を寄せる革命戦士の美少年の名を声量を絞りながら呼ぶ。


「はい、同志サーラ。」

「別働部隊の指揮を任せる。敵に発見されること無く基地各所にプラスチック爆弾を仕掛けて、私の合図と共に吹き飛ばせ。

 同志の上げる狼煙が、このベゼラを灰にする。」

「お任せください、同志サーラ。必ず任務を達成してみせます。」


 ユーセフは顔を引き締め、任務完遂を誓った。


「よし、では任務開始だ。

 同志アネットとヤシュク他10名は私に同行しろ。中央弾薬庫を目指すぞ。」

「了解。同志サーラ。」


 解放戦線の精鋭、革命親衛隊の戦士20名は二手に別れて各々の任務達成を目指して出発した。


 サーラ他解放戦線の戦士たちは皆、中央弾薬庫までの移動経路を既に頭に叩き込んである。

 処理施設の管理扉を慎重に開き、コーナーのクリアリングを確実に行いながら着実に先を進む。


「ハハハッ。そりゃ傑作だ!

 ジョアンの奴もとんだ災難だったな!」


 処理施設から基地施設管理局へと続く通路の先から、敵兵らの笑い声が聞こえて来た。

 すかさずサーラは右手を挙げて部隊に「停止」を命じる。


「全くだよ。アイツもダニーク女の売春婦なんかに手を出すからそういう目に遭うんだ。

 あの褐色女の爆乳に目を奪われた隙に睡眠薬入りの酒を飲まされて、結局何も出来ずにパンツ一丁で一晩放置されたんだからな。本当に馬鹿野郎だぜ。

 ああいうのを、王国軍の恥晒しって言うんだ!」

「ちげぇねぇ!ハハハッ!!」


 売春宿通いをした恐ろしく無能な兵士の馬鹿話で盛り上がっているようだ。

 サーラは自動小銃をしっかりと構え、通路先の角に向けて照星を睨む。

 ダニーク人たちが待ち構えるとも知らずに、角を曲がって姿を現した呑気な2人の王国軍兵士。


 直後、発砲。


 消音器はその機能を完璧に発揮し、サーラの自動小銃が発した銃撃音を極小化した。

 7.62mm弾2発が王国軍兵士の頭部を正確に貫く。

 2人の兵士は何が起こったのか理解する暇も無く、唐突にこの世を去った。


「よし、クリア。前進。」


 2人の敵兵の死体を跨いで、サーラは先を行く。

 その後に、若い褐色の美女アネットと数名の戦士たちが続く。

 殿しんがりを務める逞しい偉丈夫の大男ヤシュクは後方を警戒。

 敵に気付かれた様子は全く無い。

 こちらが恐ろしくなる程に、王国軍は無警戒で警備は弛緩し切っている。

 

 それもそのはず。

 今、このベゼラ基地を守っているのは1個連隊規模の実戦経験が殆ど無い基地守備隊のみで、主力の機甲師団や「ファーンデディアの精鋭」の呼び声高い独立第305機械化歩兵大隊は、ベゼラ基地司令官にしてファーンデディア駐留軍の実質的総司令を担うダリル・マッコイ准将の直接指揮の下、遠く北半球の戦場へ出掛けて不在だ。

 大戦中、イェルレイム民主共和国空挺兵団の猛攻を退けた基地守備隊の面々は王国軍の各前線部隊に配置転換され、今、このベゼラを守るのは軍学校を出たばかりの若手や徴兵者などの「未熟」な兵士ばかりとなっていた。

 

 今こそがサーラたち解放戦線側にとって、忌々しい「ベゼラの丘」を粉砕する最高の機会なのである。


 基地施設管理局の建物を出たサーラたちは、周囲を十分に警戒しながら中央弾薬庫があるベゼラ基地中央指揮統括センターへと進んだ。

 戦車が行き来できる程の広さがある構内舗装道路を突っ切り、対岸の指揮センターに到達。


 サーラがセンター裏口の鉄製扉に手を掛けようとした正にその時。

 一人の若い兵士が建物の中から外へと出てきた。

 タバコをくわえたその兵士は、戦闘服の第二ボタンまで外したラフな格好をしており、夜空を見ながら表で一服しに来たようだ。

 腰のホルスターに自動拳銃がある以外は、武装は無い。


 思わず目が合うサーラと王国軍兵士。


「えっ?」


 若い王国軍兵士は素っ頓狂な声を上げる。

 サーラは瞬時に反応した。

 自動小銃を背中に回すと腰の弾帯ベルトからコンバットナイフを取り出し、目にも止まらぬ速さで兵士の喉元を一刺しした。


 そのまま建物内部へと倒れ込む2人。

 兵士の喉からは夥しい血が溢れ出て、建物廊下の床を真っ赤に染める。

 サーラは突き刺したナイフを抉り、傷口を大きく開けて兵士の血管に大量の空気を流し込む。


「ウゴッパッ!ゴフゥ……」


 血に溺れた兵士のか細い断末魔。

 一服しに外へ出ようとしただけの青年兵士は、その僅か20数年余りの人生を強制終了させられた。

 

 すぐさまアネット他同行の戦士たちがサーラのフォローに入る。

 建物内部へと突入し、裏口一帯の安全を確保。

 最後に殿のヤシュクが入ってきて裏口の鉄扉を閉めた。

 サーラは自身の顔に飛散した敵兵の鮮血を戦闘服の袖口で拭う。

 ナイフを仕舞い、背中に回した自動小銃を両手に持ち直す。

 男性戦士が、裏口近くにあった小さな用具室の中にサーラが殺害した敵兵の死体を仕舞い込んだ。

 褐色少女の戦隊指揮官が配下の戦士たちに小さな声で命令を下す。


「行くぞ、同志諸君。

 まずはこの先の監視カメラ制御室を制圧する。」


 戦士たちは無言で頷く。

 音を立てず、慎重に、しかし素早く、10名の褐色肌の戦士たちはセンター内部を進む。

 第一目標の監視カメラ制御室は、裏口から暫く進んだ1階奥にあった。

 制御室と廊下は小窓付きの鉄扉で仕切られている。

 サーラは慎重に小窓から中の様子を覗き込む。


 ヘルメットもつけていない兵士が2人、退屈そうに100台近い基地外周を映した監視カメラの映像を眺めていた。

 基地内部の映像は無い。

 制御室のモニターの半分は真っ黒になっていて何も映し出されていない。

 人民共和国からの提供情報の通り、予算削減の名目で基地内部の監視カメラは意図的に電源が切られていた。

 実際は単なる怠慢以外の何物でもない。


 ベゼラはファーンデディア駐留軍最大の軍事拠点であり、単なるテロ集団に過ぎないダニーク人共がここを攻撃する筈がない。


 そんな根拠も無い浅はかな考えが、主力部隊と基地司令が不在となっていよいよ暇になったベゼラ基地守備隊を支配していたのである。

 だがそのおかげで、サーラたちは難なくベゼラ侵入を達成出来た。

 今、ユーセフが指揮する別働部隊が王国軍側に気付かれること無く各所にプラスチック爆弾をセットできているのも、彼らの怠慢の賜物であった。


 サーラは音を立てないよう、ゆっくりと小窓付き鉄扉を開いて制御室内部へと侵入した。

 それにアネットも続く。

 2人はナイフを逆手に持ち、目で互いに合図を送ると、オフィスチェアに腰掛ける王国軍兵士2人を背後から襲撃した。


「うおっ!?ガッ……」

「なっ!ウグッ!」


 ほぼ同時に敵兵の喉を掻き斬り殺害。

 ベゼラ基地の監視カメラ制御室は制圧された。


「同志ヤシュク。戦士2名と共にここに残り制御室を確保しろ。

 基地内カメラを起動して、私たちをここから援護せよ。」

「了解だ、サーラ。任せとけ。

 異変があったら直ぐに知らせる。」


 偉丈夫の褐色戦士がニヤリと笑みを見せて応じる。

 サーラは残った戦士たちに改めて指示を出す。


「さぁ、弾薬庫だ。同志諸君。

 新型爆弾を拝見しに行こう。」

「了解。同志サーラ。」


 戦士たちも返答する。

 サーラとアネット他6名の褐色肌の戦士集団は、センター地下深くの最終目的地を目指して監視カメラ制御室を出発した。


……


 地下へと続く長い階段を降り、サーラたちは弾薬庫へと続く大型トラック用地下車路スロープに出た。

 深夜ということもあり、行き交う車両は全く無い。

 数名の敵兵が警邏していたが、サーラたちは苦も無く敵を無力化した。

 車路の脇の歩道部分を、周囲警戒を厳にしながら降りて行く。


 遂に中央弾薬庫のメインゲートが姿を現した。

 ゲートの両脇に自動小銃で武装した王国軍兵士が2人づつ警備に当たっている。


 その警備兵の背後、ゲートの両脇には拉致して拷問した王国軍物資管理担当将校の証言通りに、扉を開ける為の指紋認証用開錠装置が設置されてあった。

 

 サーラとアネット他戦士たちはゲート正面の通路に置かれた各種物資が入った木箱やコンテナの陰に隠れ、メインゲートとそれを守る敵兵の様子を確認する。

 ゲートの左脇に、大型軍用トラックが1台駐車されてある。



 丁度いい、あれに人民共和国が熱望する「例の物」を積み込もう。



 サーラの意図を、共に激戦をくぐり抜けてきた戦友たちは瞬時に理解した。

 少女は戦士たちを視線を送ると、自動小銃を敵兵に向けて構えた。

 配下の戦士たちも、コンテナや木箱から身を乗り出して銃を構える。


 直後、敵兵に向かって一斉射撃。


 消音器によって極小化された銃声が弾薬庫前を包み込む。

 ベゼラ基地の心臓部を守っていた4人の王国軍兵士たちは、突然現れた褐色肌の野蛮人連中の攻撃を前に何も抗うことが出来ず瞬く間に射殺された。


 制圧である。


 ベゼラの心臓が、サーラたちの前に無防備な姿を晒していた。


「同志アスラン。アレは持っているな?」

「もちろんです。同志。」


 サーラは配下の青年戦士に確認する。

 褐色の美形戦士は、肩から下げた雑嚢ざつのうの中から血で薄汚れた白い布に包まれた「アレ」を取り出す。

 拷問の末殺害した王国軍将校の10本の指である。

 サーラはその中の一つ、右手親指を取ると指紋認証装置に押し付けた。 

 ピーッという機械音が響いた直後、ゲートを厳重に閉じていた5本の鋼鉄製施錠棒が次々と引き抜かれていき、分厚い鉄の壁が天井へとせり上がっていった。


 開錠成功だ。

 当初、ヤシュクは死体の指で開錠できるか不安視していたが、問題なく開錠に成功出来た。

 まだこの異世界において指紋認証システムは誕生したばかりであり、現実世界のような生体指紋認証システムのようなものは開発途上にあった。


 さっそくサーラの肩に取り付けられた小型無線機に、監視カメラでその様子を見ていたヤシュクから通信が入る。


『やったな!サーラ!

 周囲に敵影無しだ。お宝を分捕ってやれよ!』

「了解した、同志ヤシュク。

 引き続き警戒にあたれ。」

『了解!ブメディエンヌ、通信終了。』


 2名の戦士を入口確保に残し、サーラとアネット、アスランと2名の戦士たちが弾薬庫の中へと侵入した。

 広大な地下空間に、所狭しと膨大な量の武器弾薬が綺麗に収納されている。

 自動小銃から強力な対物重機関銃、迫撃砲に対戦車ロケットランチャー。

 それらの各種弾薬と航空機用の爆弾や機関砲弾が種類ごとに山のように積まれている。

 思わず目移りしてしまうが、彼女たちの目的物はこんな物では無い。


 それは弾薬庫の一番奥に、まるで恐るべき魔王の玉座のように鎮座していた。


 新型エネルギー爆弾が二つ。それぞれ専用の運搬用台座に固定されている。

 戦略核攻撃用の超大型爆弾である。

 やや細長い卵型の形状をし、端部には四角形の尾翼が取り付けられており、特徴的な対地測距用アンテナが頭頂部の左右に生えている。

 漆黒の超巨大爆弾は、途轍もない異様な禍々しさを放ち、見る者に恐怖すら与えていた。


「な、なんだ、これ……」

「これが、新型爆弾……?」


 思わず気圧される褐色肌の戦士たち。

 歴戦の戦士であるサーラさえも、名状しがたい恐怖のようなものを感じていた。


 スタントール軍がこの新型エネルギー爆弾を使って宿敵・ディメンジア国家社会主義国のオークたちの工業要塞都市を徹底的に破壊したことは、全世界の報道機関が詳細に報道していたこともあり、当然ダニーク人たちにも知れ渡っていた。

 想像を絶する圧倒的な破壊力。

 直撃した者は文字通り消滅してしまい、爆心地から数十キロ離れた場所に居た者でさえ、皮膚が爛れ落ちる程の火傷を負って苦しみながら死亡した。

 ディメンジアの屈強なオークたちを襲った無慈悲な殺戮は、ほぼ同時期にベルベキアによって行われたエルエナル7大都市の同時核攻撃と共に、全世界に衝撃を与えた。

 

 絶対的な死をもたらす超兵器が、今、自分の目の前に存在する。

 サーラのこめかみを、冷たい汗が流れ落ちる。

 これまで幾度もの激戦で決して感じることの無かった恐怖が、歴戦の少女に到来する。 

 だが彼女はそれを振り払い、任務に集中することにした。


「……これは大き過ぎる……

 これの運搬には、恐らく専用の大型トレーラーが必要だ。

 私たちが貰っていくのは、そこにある小型の“戦術用”のヤツにしよう。

 同志アスラン、ゲート前のトラックを持って来い。

 他の者は積み込み準備だ。急げ!」

「り、了解!同志サーラ!」


 言葉に言い表せない恐怖に苛まれようとしていた若い男性戦士のアスランをはじめとする革命親衛隊の精鋭たちは、サーラの言葉で為すべきことを思い出し、その恐怖を拭い去った。

 それぞれの仕事に取り掛かるダニーク人たち。

 だがサーラの緋色の瞳は、巨大な超兵器の姿を捉えて離さなかった。



 もし、これが私たちの「解放区」に投下されたら……

 ……やめよう。今は任務に集中しなきゃ……



 サーラは頭を左右に振って、脳裏をぎった戦慄すべき予測を振り払った。

 元・長距離運送トラックのドライバーだったアスランは、慣れた手付きで王国軍大型軍用トラックを操り、バックで弾薬庫奥までやって来た。

 元・港湾労働者の男性戦士が、弾薬庫の隅に停車してあったフォークリフトを見事に操縦して「戦術核」爆弾が3つ、ラチェットバックルが付いたラッシングベルトで荷崩れしないようしっかりと固定された鉄製パレットを掬い上げる。

 アネットがトラック荷台に飛び乗り、フォークリフトの戦士にパレットの置き場所の合図を送る。

 パレットは無事にトラック荷台に収まり、アネット他戦士たち数名が弾薬庫内で発見した固定ベルトやトラックロープを使って「積み荷」を確実に固定する。

 トラックと共にサーラたちは弾薬庫を出る。

 本来なら弾薬庫内部にも爆弾を仕掛けて吹き飛ばしたいところだが、あの恐ろしい戦略型エネルギー爆弾が誘爆することを恐れて泣く泣く取りやめた。


……

 実際のところ、これは杞憂であった。

 核爆弾とは、正規の爆破プロセスを経なければ決して「核爆発」は起こさないのである。

 ましてや、その正規の爆破プロセスを経ても尚、内蔵されたウランの核分裂反応が100%完璧に行われるわけではない。

 事実、広島に投下されたウラン爆弾の「リトルボーイ」は、積載されたウランの約1.5%程度しか実際には核分裂反応を起こさなかったと推定されている。

……


 ともあれ新型爆弾強奪任務は達成である。

 あとはこのトラックを基地から無事に脱出させ、「総攻撃」開始の狼煙を上げるのみ。

 ベゼラを灰にする時だ。


「同志ユーセフ。聞こえるか?状況は?」


 サーラは無線封止を解除し、別働部隊指揮官に状況確認を行う。

 無線で連絡が来たことの意味を直ちに理解したユーセフは、声を弾ませ返答した。


『同志サーラ!任務成功、おめでとうございます!

 こちらも手持ちのプラスチック爆弾全ての設置を完了しました。

 いつでも狼煙を上げられます。』

「宜しい。では始めよう。

 ベゼラを灰に!スタトリアに死を!!」

『了解!同志サーラ!

 ダニークのファーンデディア、バンザイ!!』


 直後、ベゼラ基地各所で次々と爆発が発生した。

 基地全体を、猛烈な爆風と振動が襲う。

 サーラ指揮下の弾薬庫攻撃分隊の面々は、すぐさまトラック荷台に飛び乗った。


「今だ!!総員、トラックに乗れ!

 基地ゲートまで一気に突破しろ!!

 同志アスラン、全速力で突っ切れ!!」

「了解です!!同志サーラ!!

 ぶっ飛ばしますよ!!しっかり掴まっててください!」


 運転手のアスランは、目一杯アクセルを踏み込むと同時にギアを一気にトップに持っていく。

 一挙に加速した大型トラックは、通路内の小型車両や物資を弾き飛ばし、さらに突然の爆発に動揺する施設内警邏中の王国軍兵士さえも轢殺して、弾薬庫から地上へと続く車路とスロープを突き進んだ。


 地上へと飛び出した核を積んだトラック。

 そこら中で建物が瓦礫の山と化し、炎が渦巻いている。

 ユーセフたちは見事に任務を達成していた。

 「未熟な」基地守備隊は完全に混乱している。

 爆風で身体を吹き飛ばされて絶命する戦友を前に取り乱す若い兵士たち。

 重傷を負った者が発する助けを求める絶叫が、ベゼラを満たしていた。

 さらにユーセフが指揮する別働部隊はわざと消音器を取り外して各所で銃撃を開始し、王国軍の混乱に拍車を掛かる。


 そんなカオスの只中に陥ったベゼラ基地にあって、構内道路の制限速度を大幅超過して爆走する大型トラックに気付いた者は極僅かだった。


 基地西側にある出入口メインゲートが見えてきた。

 詰め所の兵士たちは、突如大規模な爆発が立て続けに発生した基地の様子を困惑しながら見ていたが、突然猛スピードで現れた王国軍大型トラックの異様に気が付いた。


「おい!そこのトラック!今すぐ止まれ!

 どこに行くつもりだ!!」


 ゲートを守る王国軍兵士が拡声器でトラックに警告する。

 それに周囲の兵士たちもトラックに向けて自動小銃を構える。

 一方、トラック荷台のサーラは、猛スピードによる揺れを物ともせず、人民共和国製対戦車ロケットランチャーを構えると照準をメインゲートの中央詰め所に定めた。


 発射。


 ロケットは飛翔翼を展開して毎秒115メートルの高速でトラック荷台から飛び出した。

 三角錐の形状をした弾頭は、ゲート中央詰め所の中に居た王国軍兵士の頭部を直撃。

 大爆発が発生。

 詰め所とゲートを完全に破壊し、トラックの行く手を阻む物は無くなった。


「同志アネット!それにアスラン!

 後は頼んだぞ!私はここに残って、戦車兵団による総攻撃を援護する!!」

「了解!!同志サーラ、ご武運を!!」


 そう言うとサーラはトラック荷台から飛び降り、受け身を取って地面を転がる。

 すぐさま立ち上がり、トラックがゲートの瓦礫を吹き飛ばして外へ脱出する様を見届けた。

 直後、肩の小型無線機に向かって別働部隊に檄を飛ばす。


「同志ユーセフ。それに皆。

 トラックは無事に基地を脱出した。

 さぁ、総攻撃開始だ!!西のメインゲートに集結しろ!!」

『了解!!』


 トラックが基地を脱出するのを待っていたかのように、ベゼラ基地南北の森林地帯から重奏なエンジンの嘶きと無限軌道が奏でる行進曲が轟いてくる。

 ダニーク解放戦線最強の機械化部隊・ケンタウロス戦車兵団によるベゼラ基地総攻撃開始を告げる開幕曲だ。

 50輌の人民共和国製主力戦車、対空戦車や兵員装甲車をはじめとする各種戦闘車両約200台からなる機甲部隊。徒歩で攻撃参加する兵員も含めて総勢1万5千の大規模兵力による総攻撃だ。


『ゴブリン1!聞こえるかい?

 こちらケンタウロス1!盛大におっぱじめるよ!!

 今どこに居る?』

「ケンタウロス1。こちらゴブリン1。

 私は西側基地メインゲート付近に居ます。基地内残留のゴブリンは私を含め14。

 現在、メインゲートにて部隊再集結中。」

『了解!なら、派手に行くよ!!援護をお願い!』

「ゴブリン1、了解。同志たちの攻撃を援護します。通信終了。」


 サーラが「ケンタウロス1」こと逞しい筋肉美女のモルディアナと通信を終えた直後、ユーセフ率いる別働部隊の戦士10名がサーラの下に集まってきた。

 負傷者無し。皆士気激昂し、戦意は最高に高まっている。


「同志サーラ。革命親衛隊破壊工作班、任務完了です。

 損害はありません。」


 別働部隊指揮官の美少年ユーセフが背筋を伸ばして敬礼する。

 サーラは一度だけ頷くと、指揮下に戻った戦士たちの顔を見渡す。

 歴戦の革命戦士の少女は、作戦の仕上げを告げる命令を下す。


「同志諸君。始めよう。

 戦車兵団を全力で援護する為、基地内で大暴れするぞ!

 動く白い人間は全て撃て。」

「了解!!同志サーラ!!」


 ダニーク解放戦線の戦士たちは自動小銃を構えて散開した。

 基地各所に展開した褐色肌の戦闘員たちは、視界内に敵兵を捉え次第容赦なく銃撃を加える。

 突然の爆破テロで混乱の極みにあるベゼラ基地守備隊は、ほとんど一方的に射殺されていった。

 さらに追い打ちをかけるように、ケンタウロス兵団の砲兵部隊が迫撃砲や野戦砲による爆撃を降り注がせる。

 ユーセフたちが爆破できなかった基地内残存施設も次々と破壊されていく。


「いったい何が起こってるんだ!!隊長は何処に居るんだよ!!」

「た、隊長なら兵舎ごと吹っ飛ばされたらしい……指揮官は誰だ!?」

「知るかよ!と、とにかくトーチカに退避しないと……」


 混乱し、怒号を飛ばし合うスタントール兵の一団に向けて、褐色少女は消音器を取り外した人民共和国製自動小銃の照準を合わせる。


 連続発砲。


 一瞬にして5名程の白人兵士の一団は地面に倒れ伏した。

 極めて正確な銃撃。5人全員心臓や頭部を撃ち抜かれて即死であった。


 その直後、ついに彼らが到着した。

 三重の頑丈な金網フェンスを無限軌道で粉砕し、ダニーク人機甲戦力の主力がベゼラ基地へと突撃する。

 押し潰した卵のような円形砲塔に105mm戦車砲を搭載した車高の低い人民共和国陸軍の主力戦車。

 その円形砲上部塔の砲手用ハッチには非常に強力な14.5mm弾を使用する大型対空機関銃がマウントされており、解放戦線戦士が機関銃を操って逃げ惑う哀れなスタントール兵に猛烈な銃撃を叩き込む。

 砲弾の様な14.5mm弾の直撃を受けた白人兵士は、瞬時に血煙迸る肉塊と化した。


 サーラの目の前に、一台の主力戦車が現れた。

 戦車長キューポラが開けられ、戦車の中から妙齢の褐色美女が姿を見せる。

 モルディアナだ。サーラに笑みを向ける。


「サーラ!!隣へ!機関銃につけ!

 スタトリアをミンチにしてやろうぜ!!」


 モルディアナが娘同然の褐色少女に同乗を促す。

 それにサーラも応じる。


「わかりました!同志!」


 軽快な身のこなしで円形砲塔の機関銃座に取り付くサーラ。

 太いコッキングレバーを力いっぱい引き、14.5mmの「殺戮の意志」を機関部に送り込む。

 両手で銃把をしっかりと握り、トリガーボタンに親指を乗せた。


「よーし!!戦車前進!!

 スタトリアを皆殺しにしろ!!」


 モルディアナの号令が灰となりつつあるベゼラ基地に轟く。

 解放戦線の戦士たちは咆哮を持って指揮官の命に応ずる。


「オオォォーー!!」


 もはや一方的殺戮であった。

 混乱の極みにあるベゼラ王国軍基地は、その古い歴史に幕を閉じようとしていた。

 基地中に散らばる王国軍兵士の肉片と死体、瓦礫と化した基地施設。

 サーラも大型対空機関銃を難なく操り、視界に入った敵兵を肉塊に変身させる。

 監視塔の一つが戦車砲で吹き飛ばされ、その最上階で監視任務にあたっていた若い王国軍兵士が地面に投げ出される。


「ううっ!ク、クソ……なんなんだ……何が起こってるんだ……」


 辛うじて受け身を取り、何とか立ち上がろうとした彼の目の前に敵戦車が迫りくる。

 高速回転する戦車の履板が、兵士の視界を覆い尽くす。


「う、うわっ……ぎゃああぁあぁー!!」


 戦車は敵兵を一切の容赦なく轢き殺した。

 兵士の身体は押し潰され、無限軌道が激しく引き裂く。

 肉の潰れる音が聞こえてくる。

 兵士を轢殺した戦車の砲塔上部機関銃座に座る褐色少女は、その憎き敵が潰れる「心地よい」音を聞きながら、壮絶な笑みを浮かべる。



 無様に死に絶えろ。スタトリア。

 ナシカが受けた苦しみを知れ。



 惨たらしく殺された愛する妹の無念の一片が、少しばかり晴らされるのを感じる。

 もはや勝利は目前だ。

 敵は完全に混乱し、全く持って組織抵抗を示していない。

 

 勝った。


 ベゼラ攻撃作戦に参加する全てのダニーク解放戦線戦士がそう確信した。


 その時である。


 突如、ベゼラ基地内の大型滑走路中央部から、非常に強烈な閃光が発生した。

 目が眩む程の猛烈な白い光。

 たまらず戦車兵団の褐色戦士たちも攻撃を中断して目を閉じ、光から身を守る。


 光が収まり、視野が回復したダニーク人たちの緋色の瞳が驚愕に見開かれる。

 猛烈な光が発生した滑走路中央部に、突然王国軍の大規模な機械化部隊が出現したからだ。


…………


「……クソ、やっぱりバレたか。」


 時間はベゼラ基地にケンタウロス戦車兵団が突入する1時間程前に戻る。

 北半球のエルエナル民主統合共和国。

 その首都・ブルドヴェルを攻撃する極北の超大国・ベルベキア連邦軍を、街を一望する山岳ハイウェイで監視していた王国陸軍機甲部隊「ファーンデディアの精鋭」独立第305機械化大隊の面々は、閃光と共に出現したベ連邦軍兵士の集団に完全に包囲されていた。

 大隊を指揮する破天荒な指揮官、ダリル・マッコイ准将は観念したように両手を上げる。

 しかし、血気盛んな部下たちは銃口を四方の「敵兵」に向けて戦闘態勢を取っていた。


「オッサン!!交戦許可を!」


 部下の一人である「女王陛下のお気に入り」ことレシア・リョーデック少尉は、指揮官のダリルに指示を仰ぐ。

 血のように紅い髪に豊満な乳房を誇る美女が構える分隊支援機関銃に、僅かのブレも無い。

 王国軍精鋭兵士たちに動揺はない。

 彼らは既にこの「ベルベキア」の意味不明さをよく知っていた。

 世界の数世代先を行く超先端科学技術を有する不気味な半鎖国国家の軍隊は、光と共に突然現れる。

 王国軍情報部では、これらの現象は恐らくSF映画等で登場する「転送テレポーション」技術だろうと推測されていた。

 スタントールをはじめとする他の大陸諸国では文字通り「架空の技術」であるが、極北の超大国は既に実現させ当たり前のように運用しているのである。

 原理も運用方法も何もかもが謎に包まれた科学技術。

 彼らと相対する者は、ただ戦慄するしかなかった。

 しかし、スタントール側は何とかして不気味な「次なる敵」の正体を暴こうと全軍を上げて密かに調べを進めていた。彼ら305大隊も、そんな調査任務を遂行している最中であった。


「だから、アホかってんだよ。レシア嬢ちゃんよ。

 こいつらに弾が当たらねぇことぐらい、お前さんも知ってるだろ?

 いいから、銃を降ろせ。」


 ダリルは交戦許可を求めるレシアをはじめ、戦闘態勢を崩さない配下兵士に対して宥める様に命じた。

 これも彼らは経験済みだ。

 ベルベキア兵の周囲には未知の光学バリアが展開されており、あらゆる銃撃や爆風を完全に無力化してしまう。

 305大隊の兵士たちは、渋々指揮官の命令に従った。


「……クソッタレ……で、私たちはどうなるんだよ?」


 レシアがダリルに向けぼやく。

 するとベルベキア兵の一団から長い銀髪を靡かせる新雪のような純白の肌をした絶世の美女が進み出て、ダリルの代わりにレシアの問いに答えた。


「停戦合意によれば、お前たちはもうエルエナル首都圏には居ない筈。

 にもかかわらず居座っているのは、我々にとっても迷惑だ。

 こそこそと覗き見されるのも面白くない。

 自分たちの国へ帰るといい。」


 その美女、シルヴィスク・イヴァノヴァ連邦軍統括元帥は厳かに告げた。

 それにダリルが返答する。


「……了解ですよ、ベ連邦の元帥殿。

 じゃあ、夜が明けたら撤収しますんで。どうかお構いなく。

 ささ、南半球の野蛮人なんかほっといて、ブルドヴェル攻撃にお戻りください。」


 ダリルはあえて軽い調子で言った。


 何とか時間を稼ごう。

 あと少しで、何かベルベキアのからくりの一端が分かるような気がしていた。

 ここは上手く切り抜けて、もうちょっとだけ覗き見をしてから早々と撤収しよう。


 そうダリルは考えた。

 だが、銀髪美しい美女元帥はその意図を瞬時に見抜き、即時撤収を強制した。


「いや、今すぐ出て行ってもらう。

 私たちが特別にお前たちを母国へと『送り届けて』やろう。

 対象は今現在エルエナル首都圏に居る全てのスタントール人とその機材だ。

 かかった費用は後程、お前たちの女王に請求する。」


 シルヴィスクはそう言うと、腰に差した大きなカプセル状の機械を取り出した。

 機械中央部のベルトを2、3度回して「起動」する。

 銀色の外観が赤色に変色し、異様な作動音が聞こえてくる。

 それを連邦軍元帥はダリルに向けて放り投げた。


「おっとっと……なんだ、こりゃ?」


 王国軍准将は思わずキャッチする。

 両手で掴んだ機械のベルト部分が高速回転を始めた。

 次の瞬間、猛烈な閃光がダリルやレシア他305大隊の兵士全員と彼らが駆る戦車や装甲車を包み込む。

 視界が白一色となり何も見えなくなる。

 思わず目を固く閉じる王国軍精鋭兵士たち。

 やがて光が収まり、ゆっくりと目を開けると、彼らの眼前には見慣れた「故郷」の軍事基地滑走路が広がっていた。


 だが、そこに「居てはならない連中」がそこら中に居た。

 人民共和国製主力戦車や装甲車両に乗る、完全武装した褐色肌の原住民共。


「ここは……ベゼラか?」


 レシアは誰に言うでも無く現状を確認する。

 燃え盛る自分たちの家。そこかしこに転がる基地守備隊兵士の死体。

 ダリルは瞬時に状況を理解し、全兵士に命令を発した。


「敵襲!!敵襲!!撃ちまくれ、クソッタレ共!!

 ダニークだ!!」


 305大隊の精鋭たちは、信頼する指揮官の命令にすぐさま応じた。

 大隊の戦車や装甲車はエンジンを迅速に始動させ、褐色亜人の大軍に戦いを挑む。

 壮絶な憤怒の表情を見せるレシアもまた、傍らに置いてあったロケットランチャーを掴むと装甲車から飛び降りて走り出した。


 ファーンデディア駐留軍最強の機械化部隊とダニーク解放戦線最強の機甲兵団が、正面から激突する。

 後の歴史書に言う、「第一次ベゼラ攻防戦」の最終幕を飾る鋼鉄飛び散る激戦、「ベゼラ戦車戦」の始まりであった。

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