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褐色少女の独立戦争  作者: mashinovel
第五章  戦乱のファーンデディア
32/63

31. 第一次ベゼラ攻防戦 前編

 大戦は終わった。

 でも、私たちの戦争は終わらない。

 白い肌のガーゴイル共を殺し尽くし、自分たちの国を手に入れるまで。


 ベゼラ。

 私たちの大地に巣食う奴らの軍の一大拠点。

 ここを叩き潰し、痕跡すら残さず破壊しつくすことこそ、私の最大の使命……だった。

 激しい炎が逆巻き、無数の煙が大都市を覆っていた。

 その上空を、異形の航空機が無数に飛び交っている。

 燃え盛る街の名前は、ブルドヴェル。

 北半球の超大国にして共和国陣営の「元盟主」、エルエナル民主統合共和国の首都である。

 今、この建国100年程の歴史の浅い活力溢れる大国は、完全なる滅亡を迎えようとしていた。


……


 三つの巨大大陸を巻き込んだ「大戦」は、今まさに最終局面を迎えていた。

 一時は銃弾飛び交う修羅場と化した「大戦和平会談」も、ようやく本格的な対話が始まり、王国陣営諸国と共和国陣営諸国の和平合意に向けた様々な具体的取り決めが何とか纏まりつつあった。

 当初は、2週間で完全終結と国際的紛争調停機関の枠組み合意まで行く予定だったが、「ある王国」の強い反発により和平合意の枠組み形成の段階で、一旦閉幕となってしまった。

 「ある王国」とは、和平会談の会場を一時は血に染めた超工業大国・ノルトスタントール連合王国。

 その王国の全権を支配する国家元首の女王カリーシア・シノーデルⅡ世は、対話にこそ応じたものの、具体的な和平の条件について、共和国陣営の現盟主・アーガン人民共和国と対立姿勢を崩さず、交渉は難航。

 結局、王国陣営の盟主・ロングニル王国連合が押し切る形で、和平合意の枠組みが取り決められ、次回の会談へと持越しとなった。

 ノルトスタントール連合王国への諸外国の反発は強く、大戦から途中参戦した中立国や、大海の向こうにある東方大陸諸国の一部では、スタントール製品の不買運動さえ始まっていた。


……


 そんなスタントール軍の一部が、この炎渦巻く地獄と化したブルドヴェルを一望する山岳ハイウェイの一角で、街の様子をつぶさに監視していた。

 数台の装輪装甲車と歩兵戦闘車が1台、それに120mm滑腔砲を搭載した戦車が2台、ハイウェイを占拠していた。


 装輪装甲車の車体の上で、ラフな姿勢で座りながら長距離監視用光学双眼鏡を覗く、血のように紅い髪をした豊満な乳房を持つ若く美しい女兵士がいた。

 傍らには、彼女が愛用する強力な分隊支援機関銃が置かれている。


「……つまんねぇ……つまんねぇーよ、オッサン!」


 女は苛立ちを隠しもせず、大きな声でぼやく。

 紅髪の女の名は、レシア・リョーデック。

 まだ20歳にも満たないスタントール人の若い女性。

 彼女の双眼鏡の先で、極北の地からやってきた大軍勢が大戦を引き起こした張本人がいる大都市を焼いている。

 わざわざ遠く赤道を越えて南半球の母国からエルエナルまで来たというのに、やることと言えば極めて先進的な科学技術を有する不気味な「同盟国」、ベルベキア連邦の軍勢がエルエナルを蹂躙する様を監視することだけだった。

 レシアだけでなく、彼女の部下や同僚たちにも退屈な空気が流れていた。

 それを代表するかのようなレシアのぼやきに、「オッサン」が答える。


「まぁ、そう言うな。これも仕事の内さ。

 お前もヴォーレンクラッツェで体験したろう?あのベルベキア連中の意味不明さをよ。」


 ヨレヨレの軍服姿に無精ひげを生やした、実にだらしない風体の男。

 軍服の階級章はこの男が准将であることを表していたが、彼の配下の兵士たちは准将への絶対的な信頼を寄せてはいたが、士官に対する礼節を示したことは一度も無い。

 男の名はダリル・マッコイ。

 女王からも信頼されている有能かつ破天荒な野戦指揮官である。

 

「こっから眺めてるだけで、何が分かるってんだよ、オッサン!」

「ならどうしたらいいってんだ?レシアの嬢ちゃんよ。」


 レシアは双眼鏡を下ろし、ダリルに紺碧の瞳から鋭い眼光を放つ。


「決まってんだろ!?

 エルエナルのクソ野郎共と、ついでにキモいベルベキアのカス共をぶっ飛ばして、大戦を引き起こした張本人のローズ・ヴェルナルド終身大統領とか言うクソッタレを、穴倉から引きずり出してやるんだよ!!」

「アホか、お前!

 んなことしたら、次にベルベキアの連中が殴り込んでくるのはウチの国になるぞ!?

 いいから、黙って見てればいいんだよ。

 そもそも、俺たちは「和平合意」によれば、もうエルエナルには「いない」ことになってんだ。

 だから大人しく、ベルベキアの連中の戦い振りを拝んでおきゃあいいんだよ。」


 ダリルはレシアに窘めるように言う。

 それにレシアは憮然とする。


「ケッ!あんなキモい奴らのケツを拝むだけかよ。」

「いいか……レシアだけじゃねぇ。テメーら全員、よーく拝んどけよ。

 注意深く、奴らの戦い方をじっくりと観察するんだ。

 そうすれば、「次に」奴らと戦う時に、絶対に役に立つ。」


 ダリルのその言葉に、周囲にいた王国軍兵士たちが反応する。

 准将が直接指揮する直属部隊、「ファーンデディアの精鋭」独立第305機械化歩兵大隊の精鋭兵たちは、指揮官の意図を瞬時に理解した。


 「次の」戦争の為に。

 「次なる敵」の戦い方を観察し、分析し、理解する。


……


 今までベルベキア連邦は半鎖国体制を取り、国際政治に全く関与せず国情がほとんど不明の不気味な国家だった。

 それが今回の大戦で、エルエナルが彼の国に軍事侵攻を仕掛けたことで「眠れる獅子」を叩き起こしたのだ。

 先の和平会談でも、ベルベキアはその存在感を大いに誇示した。

 大戦で甚大な被害を被った全ての王国陣営諸国への極めて大規模な無償援助と、自身が有する先端科学技術の一部を世界へ提供といった「戦災復興支援策」は、国際政治に大きな衝撃を与えた。

 これらのベ連邦提供の支援は、通称「イヴァノヴァ・プラン」と言われ、既にロングニルやその周辺同盟王国などにベ連邦からの莫大な支援が届いていた。

 大戦の復興という名目を掲げ、実に恐るべき速さでベルベキアは環状大陸の主要先進国に影響力を伸ばしていたのである。


 だがこれに強い反発を示したのも、他ならぬスタントールである。

 スタントールはベルベキアからの復興支援を拒否し、飽く迄独自に復興する道を選んだ。

 そして、そのような決断を下した女王を、スタントール国民は万雷の拍手を持って歓迎したのであった。あらゆる報道機関が、女王の「英断」を褒め称えて古き王国の偉大さを寿ことほいだ。


 そんなスタントールに王国陣営諸国は反発したものの、女王親政下のごく短い期間で、今や世界最大の超大国・ロングニルと肩を並べる程の超大国へと発展した彼の国に、具体的な対抗措置を取った王制国家はいなかった。

 先程述べたような不買運動などの実行力のある反発を示したのは、飽く迄スタントールと直接的な関係の薄い元・中立国や他大陸の国々などの王国陣営外の諸国のみであった。


……


 レシアは再び双眼鏡を睨む。

 エルエナル首都・ブルドヴェルの街中を、見たことも無い極めて異形の陸戦兵器が闊歩している。

 四足歩行の「多脚戦車」に、無限軌道やタイヤが無く僅かに宙に浮いた状態で走行する装甲車。

 それらに、漆黒のフルフェイスヘルメットに同じく黒のジャンプスーツ姿の兵士たちが続いている。


 彼らの「光線銃」の直撃を受けたエルエナル兵が、瞬時に骨だけになってしまう。


 和平会談の会場屋上で、ベルベキア兵がスタントールの女王を撃った時、恐らく彼らは光線銃の「出力」を最弱に落としていたのだろう。

 女王が全身に耐えられない痺れを感じただけで済んだのは、彼らなりの「寛大な配慮」だったようだ。

 

 また、エルエナル兵が必死に応戦を試みるも、彼らの銃弾や砲撃は悉くベルベキア兵の手前で完全に「無力化」されている。

 「光学バリア」だ。

 これも和平会談の屋上で、既にスタントール兵たちは体験済みだ。

 どれだけ銃弾を浴びせても、バリアを展開したベルベキア兵を倒すことは出来ない。

 エルフや魔導士など、魔法を使う者たちも似たような防壁魔法を展開することが出来るが、展開中は身動きを取ることが出来ず、防壁自体の展開できる時間も、術者の力量によって変わるがおよそ10分から1時間が限界である。

 その点、ベ連邦の「科学技術」が生み出した防壁は無敵と言っても過言ではなかった。

 あの防壁を破らない限り、勝ち目は無い。

 ……何か弱点は無いか。

 スタントール兵たちは必死になってベ連邦軍を密かに観察していた。



…………



 ダリル率いる独立第305機械化歩兵大隊が、遠く北半球に出かけて不在にしているスタントール王国直轄領・ファーンデディア広域州。

 ここを守る王国軍のことを、ファーンデディア在住のスタントール人(通称:センチネル)や褐色肌の原住民であるダニーク人は「ファーンデディア駐留軍」と呼んでいる。

 正式名称は「ファーンデディア管区方面軍」。

 駐留軍の通称は、およそ1500年前にスタントール建国王カズキ・シノーデルが「ファーンデディア・コンクエスト」と呼ばれるファーンデディア遠征行を完遂し、自身の軍をこの地に残していったことに由来する。


 その駐留軍最大の軍事拠点が、南部ファーンデディアに存在するベゼラ王国軍基地である。

 2本の巨大滑走路と約2個機甲師団が常駐する恒常的な巨大軍事基地。

 ダリルの本拠地にして、レシアのマイホーム。

 「ファーンデディアの精鋭」、独立第305機械化歩兵大隊の出撃基地だ。


 このベゼラを、305大隊の留守を狙って灰にするべく、怒れる褐色肌の原住民たちが襲い掛かろうと目論んでいた。

 彼らの名は、ダニーク解放戦線。

 スタントールによる抑圧的な支配から逃れる為、ファーンデディアに自分たちの国を築くべく戦い続ける人民主義系武装集団。

 その指導者ゲイル・ベルカセムの愛する娘にして解放戦線最強の戦士ことサーラ・ベルカセムは、南部ファーンデディア・オーレン県ティアレ市近郊の山岳地帯に存在する解放戦線地下拠点基地にて、自身愛用の小型自動拳銃の点検を行っていた。


「ああぁぁああぁぁ!!や、やめてくれ!!やめろ!やめろ……

 ぎゃああぁ!!」


 突然、男の泣き叫ぶ声が響き渡る。

 基地内部の「尋問室」から聞こえてきた。

 銃の点検を終えたサーラが、尋問室に向かう。

 扉を開け、中に入ったサーラの緋色の瞳に、椅子に座らされた無様な白人中年男の姿があった。

 白人男の前には、金属製の机を挟んで座る屈強な体格をしたダニーク人戦士の男が血塗れのコンバットナイフを握っていた。


「さぁ、同志。残りの指はあと3本だぞ?

 素直に全部ぶちまけてくれないか?そうすれば、俺の手間も省ける。」


 銀色の金属製机も血で汚れ、計7本の白い指が転がっている。

 ダニーク人戦士の男によるスタントール人男性への苛烈な拷問が行われていた。

 そのダニーク人の男……ヤシュク……は、若干の笑みを含んだ困り顔で白人男に知りたい情報を喋るよう促していた。

 そんなヤシュクに、サーラは声を掛ける。


「ヤシュク。手古摺っているようだな?」

「おぉ、サーラか。そうなんだ。こいつで間違いない筈なんだが、一向に口を割らん。

 どうすればいい?」

「そうだな……スタトリアの女王が好んで使う手法を、我々もやってみよう。」


 サーラはそう言うと、尋問室の外で待機する戦士の一人に指示を出す。


「同志、「アイツ」を連れてこい。」

「わかりました。同志サーラ。」


 戦士はその場を離れ、何処かへと走って行く。

 それを拷問を受ける白人男が、肩で息しながら強がる。


「ハァハァ……ク、クソッタレのダニ虫が……お、お、俺は何も喋らないぞ……

 地獄の底で呪われるがいい……ハァハァ……

 ダニ亜人のクズ共が……」


 間髪入れず、ヤシュクが男の顔面に強烈な右ストレートを叩き込む。

 男の鷲鼻がへし折られ、盛大に血が吹き出す。前歯も数本折れた。


「ぎゃあぁ!!」

「黙りやがれ、スタントールのクソッタレが。

 大人しく待ってろ。」


 屈強な元・王国軍兵士の男は、減らず口を叩く拷問相手を一撃で黙らせる。


 男は駐留軍最大の基地ベゼラへの物資輸送計画の管理責任者を担う王国軍将校である。

 サーラたち解放戦線は昨日、この男が基地から自宅へ帰る途中の山道で待ち伏せし、その身柄を拘束した。

 ベゼラの基地に保管されている「ある兵器」の所在を確認する為に。


 彼ら解放戦線の最大の支援国であるアーガン人民共和国から発せられたある「要請」が、全てのキッカケであった。

 ノルトスタントール連合王国が有する核分裂爆弾、通称「新型エネルギー爆弾」を一つ略奪してほしい。

 これが、人民共和国から解放戦線へと最優先で伝達された「要請」である。

 要請と言えば聞こえはいいが、実際はほぼ「命令」であった。

 しかし、サーラたち解放戦線に人民共和国は、その卓越した諜報能力をもって集めた「爆弾があると思われる」ベゼラ基地に関する詳細な内部構造をはじめとする機密情報を提供してくれていた。

 これは解放戦線にとって、かねてより目障りこの上ないと思っていたベゼラ基地を破壊する最大のチャンス到来でもあった。


 程なくして、サーラから指示を受けた戦士が頭部を麻袋で覆われた白人男を連れて来た。

 必死に身を捩って抵抗を示す男に、連行するダニーク人戦士は容赦ない暴行を加える。

 彼を尋問室の中に入れると、戦士は麻袋を取り払った。

 露わになった若いスタントール人の男の顔を見るなり、王国軍将校の中年男の顔が青ざめる。


「ロ、ロブレヒト……な、なんでお前がここにいる?」

「オ、オヤジ……すまない……本当にすまない……」


 ロブレヒトと呼ばれた若い男は、父親に向かって項垂れる。

 その顔は悔しさと恐怖で歪んでいた。

 父親である王国軍将校は、尋問室入口に佇む最重要指名手配犯のダニーク人女テロリストに向かって声を絞り出すように問い掛ける。


「……な、な、なんで?……なんで息子がここに居る?」

「我々が拉致した。

 コイツを連れて来た若い女性戦士の同志によれば、ノコノコと彼女の後についてきたそうだ。

 そうだな?同志アネット?」


 サーラは、尋問室の外で待機する豊満な乳房を誇る若いダニーク人女性戦士に確認する。

 アネットは悪意を含んだ微笑みを見せながら答えた。


「はい、同志サーラ。

 アディニア工科大学に通う彼に、私が少し胸元を開いて話しかけると、驚くほどすんなり同行してくれました。」


 王国軍将校の中年男の顔に、怒りと悲しみが入り混じった何とも形容しがたい表情が浮かぶ。


「あぁ……なんてことだ……

 ロブレヒト!お前はなにやってんだ!

 ダニーク女のケツを追いかける為に、大学にやったつもりはないぞ!!」

「……すまない、オヤジ……本当にスマン……」

「た、頼む!息子は関係ない!

 息子は解放してやってくれ!!俺はどうなってもいい!!」


 ダニーク人戦士たちに向かって必死に懇願するスタントール人の中年男。

 だがそれは、この場に居る全てのダニーク人の逆鱗に触れるに等しい発言だった。


「……そうやって懇願した俺たちの目の前で、お前たちスタントール人は薄ら笑いを浮かべながら家族を撃ち殺したんだ……」


 地獄の底から響くような激しい殺意を含む声が、尋問室奥の壁に寄り掛かるダニーク人の男から発せられた。

 その男……バシル……は、王国軍将校の後頭部の髪を掴むと、机に向かって力の限り白人男の顔面を叩き付けた。


「ぐあっ!!」

「今からお前の息子を斬り刻む。

 お前たちの女王が、俺たちダニーク人にやったことだ。

 お前もじっくりと味わえ。」


 バシルの緋色の瞳が激しくあかく燃えている。

 白人中年男の目に、壮絶な恐怖の色が浮かぶ。


「や、やめろ!それだけはやめろ!!」

「なら、俺たちの知りたいことを全て吐き出してくれ。

 そうすれば、寛大な処置をすると約束しよう。」


 男の対面に座るヤシュクは、両肘を机につきながら両手を組むと穏やかな口調で言った。

 だが、男は再度沈黙する。

 ワナワナと全身を震わせながら、視線を自らの血で汚れた金属製の机に落とす。


「……喋る気が無い様だ。

 同志アネット、やれ。」

「はい!同志サーラ!」


 サーラの指示を受けた褐色の美女アネットは、腰からコンバットナイフを引き抜くとロブレヒトの左耳を一瞬で切除した。


「ぎゃああぁぁっ!!」


 若いスタントール人の男が惨めな悲鳴を上げる。


「や、やめろー!!息子を傷つけないでくれ!!

 頼む!やめろ!!」

「なら、さっさと我々の知りたいことを全て吐け!

 スタトリア!!」


 サーラは金属机に拳を叩き込むと、王国軍将校の男の顔面を覗き込んだ。

 男の碧い目に、褐色美少女の憤怒に歪む顔が広がる。


「……そ、それは……」

「アネット!右耳を斬れ!」

「はいっ!」


 なおも白状を拒む中年男に、サーラは男の息子の肉体部位の追加切除を命令する。

 若い男の悲鳴が、再び響き渡った。


「ぎゃああぁぁ!!いやだ!!痛い!痛い!!」

「うるさい!スタトリアの腰抜け男!!」


 アネットは、ロブレヒトの鳩尾にナックルダスターが握られた右拳を叩き付けた。

 たちまちうずくまり、更なる激痛によって沈黙を強いられる王国軍将校の息子。

 

「いい加減にしろ!!ダニ虫めが!!

 絶対に皆殺しにしてやる!!」


 白人中年男は、自分の立場を忘れて怒りに身を任せて叫ぶが、それをサーラは許さなかった。

 

 発砲。


 サーラは自動拳銃をホルスターから引き抜くと、容赦なく銃撃した。

 男の右足の太腿に9mm弾が叩き込まれる。


「があぁっ!!」

「もう一度でもふざけたことを抜かせば、貴様の惨めな息子の脳天をこれでぶち抜いてやる!!

 さっさと私たちが知りたいことを全て吐け!!」

「……ううっ、クソッ!クソッッ!!なんだってこんな目に……」


 尚も喋ろうとはしない。

 サーラは声を張り上げて、アネットに更なる解体を命令する。


「アネット!!次は左目だ!!」

「はい!同志!!」


 美しいプラチナブロンドの褐色美女が、ロブレヒトの左目にナイフを突き立て、眼球を抉るように取り出した。


「あぎゃああぁぁーー!!」


 若い白人男がまるで断末魔のような絶叫を上げる。


「ああ、あああ、ああ、わかった!わかった!!

 お前たちの勝ちだ!!

 何でも言う!!だから、だから、息子をこれ以上傷つけないでくれー!!」


 将校はようやく観念した。

 もはや、これ以上抵抗しても自分の息子が傷つくだけだ。

 愛する息子を、全盲にする訳にはいかない。

 たとえ、それが忠誠を誓った王国と女王陛下を裏切ることになろうとも……


「では、改めて教えてくれ。

 最初の質問だ。ベゼラに「新型エネルギー爆弾」はあるのか?」


 男の対面に座るヤシュクは、穏やかな表情と声色のまま王国軍将校に問う。

 将校は血が溢れる自身の右太腿を凝視しながら、絞り出すように答えた。


「…………ある。」

「個数と爆弾の種類など、詳細は?」

「……全部で5発。

 大型戦略爆撃機に搭載する「都市攻撃型」が2発と、戦闘爆撃機でも運用可能な、つい先日実戦配備が始まったばかりの小型の奴……「戦術型」が3発……」

「保管場所は?」

「…………ベゼラ基地地下中央弾薬庫だ……」


 サーラとバシル、アネット他数名のダニーク人戦士たちが、尋問室壁際のテーブルに広げられていた人民共和国提供のベゼラ基地構造図を確認する。

 ベゼラ基地のちょうど中央に位置する巨大施設の地下最深部、最も警備が厳重な一角だ。

 ヤシュクは詰めの質問に入る。


「弾薬庫の中に入る為の方法は?」

「……そ、それは……」


 再び沈黙。

 この期に及んで、祖国を裏切ってなるものかと愛国心が働く。

 サーラは立ち上がり、自動拳銃の銃口を王国軍将校の息子に向ける。

 左目を失ったロブレヒトの右目に、死の恐怖が浮かぶ。

 将校は息子の命惜しさに、遂に完全なる売国奴へと転落した。


「ああぁ、わかったよ!言えばいいんだろ!!

 ……最新式の指紋認証キーだ。弾薬庫ゲートの脇に指紋を認証する機械があって、そこに特定の人間が親指を押し付けると、機械が指紋を認識してゲートを開ける仕組みになってる……

 ゲ、ゲートを開けることが出来るのは、基地司令のマッコイ将軍と立入許可を受けた特定の将校だけだ……」

「私から最後の質問だ。

 その親指の持ち主に、当然お前は入っているんだろうな?」


 ヤシュクに代わり、サーラは銃口をロブレヒトに向けつつ最後に確認のような質問を行う。

 スタントール人の中年男は、観念したように頷いた。


「……そうだ。俺も含まれてる……」

「わかった。なら、もうお前たちは用済みだ。

 解放してやる……生きる苦しみから……」


 直後、サーラは発砲した。

 自動拳銃から飛び出した9mm弾がロブレヒトの額を直撃し、後頭部から脳漿が飛散する。

 褐色巨乳美女と「ひと時の楽しみ」を期待した哀れなスタントール人の若者の人生は、ここに強制終了させられた。

 その様を見て、発狂するかのように泣き叫ぶ王国軍の男。


「あああ!!ああああ!!な、な、なんてことを!!

 俺は……俺は!全て喋ったぞ!!約束が違うじゃないか!!

 なんで!なんで、息子を殺した!?

 あああ!!ダニークの蛆虫共!!み、皆殺しにしてやる!!」


 男が絶叫した直後、激怒したバシルが背後から襲い掛かった。

 髪を掴んで頭を後ろに引き倒し、露わになった喉元にコンバットナイフを突き刺した。

 突き刺したナイフで、何度も執拗に喉元を抉る。


「クソッタレのスタトリアのクズめが!!

 俺の家族は、俺と会話をする間もなく泥の中で細切れにされたんだ!

 死ね!死ね!!」

「ゴプッ!ウゴッ!」


 鮮血が白人男の喉から溢れ出て、男の軍服を真っ赤に汚した。

 全身を小動物のように細やかに震わせながら、男から命の灯火が消える。

 それを不安気な顔で見ていたヤシュクは、サーラに質問する。


「……なぁ、サーラ。

 バシルが殺してしまったが、その指紋認証とやらは死体の指でも大丈夫なのか?」

「わからんが、恐らく大丈夫だろう。

 どの道、この男が素直に我々に同行してくれるとは到底思えないし、全て白状した時点で用済みだ。

 スタトリアの指を全て切断して持っていこう。

 それに、開錠出来なければ力づくで開ければいいだけだ。」


 サーラは事も無げに答える。

 それにヤシュクもニヤリと笑みを見せる。


「そういう力押し、嫌いじゃないぜ。」

「よし、では早速取り掛かろう。

 この男が休暇を取っていたのは3日間だ。

 ベゼラ基地の王国軍に怪しまれる前に、速やかに行動を起こす。

 さぁ、始めるぞ!」

「了解!同志サーラ!」


 尋問室内の解放戦線の戦士たちが指揮官の号令の応じる。

 戦士たちは部屋から飛び出すと、関係各所に「ベゼラ攻撃作戦開始」を告げた。


 全ての情報は揃った。

 王国軍将校を捕らえる前から、事前に計画は練ってある。

 ベゼラを地図から消し去る一大攻撃作戦が始まろうとしていた。


 作戦は以下の通り。

 まず、サーラと選抜された戦士……革命親衛隊の精鋭……およそ20名でベゼラ基地内部に侵入する。

 侵入経路は、人民共和国提供の基地詳細図から大凡の経路を策定済みだ。

 ベゼラ基地は、周囲を森に囲われた小高い丘の上にある。

 南北を深い森が覆い、西に基地メインゲートがあって東はちょっとした断崖となっている。

 この東の断崖には、基地へと続く巨大排水溝が存在する。

 その排水溝から基地内部へと侵入。

 侵入後、部隊を二手に別ける。

 サーラと10名は可能な限り交戦を避けつつ、弾薬庫を目指す。

 残り10名は基地各所に分散。出来るだけ多くのプラスチック爆弾を要所に仕掛けていく。

 その後、弾薬庫にて目的の「新型爆弾」を確保したら、手頃な王国軍の大型トラックを奪取して爆弾を積み込み、仕掛けた爆弾を炸裂させて敵に混乱を与える。

 その混乱の中を一気に突破して、爆弾を積んだトラックは西のメインゲートから基地を離脱して味方と合流する。

 そして、最後の仕上げは「総攻撃」だ。



 サーラは尋問室を出ると、ベゼラ攻撃に向けて慌ただしくなった解放戦線地下拠点の中を進む。

 作戦指揮所と書かれた簡単な表札が掲げられた扉を開け、部屋の中で大勢の戦士たちに指示を飛ばす「総攻撃」の全体指揮官を担う妙齢の褐色筋肉美女と向き合った。

 彼女の名はモルディアナ。港湾都市・セティア出身の、逞しいダニーク港湾労働者の顔役。

 今や、サーラにとって「戦場での母親」のような人物であった。

 解放戦線最強の戦士が、最も信頼を寄せる野戦指揮官でもある。


「サーラ!やったね!

 遂にあの忌々しいベゼラを吹っ飛ばせるんだね!」

「はい、同志モルディアナ。

 私は革命親衛隊の精鋭と基地内部に残り、徹底的に奴らを混乱させます。

 同志の「ケンタウロス戦車兵団」到着を全力で支援します。」


 サーラは屈託ない笑顔でモルディアナに答える。

 ケンタウロス戦車兵団とは、モルディアナが指揮するダニーク解放戦線の主力である戦車部隊のことだ。

 人民共和国から提供された105mm戦車砲搭載の主力戦車およそ50輌と、対空戦車をはじめとする各種装甲車両約200台を有するダニーク人側最強の陸戦部隊。

 これを、本作戦最後のフィナーレとしてベゼラに叩き付ける。

 核を奪われ、基地内部で暴れ回るサーラ率いる革命親衛隊の精鋭によるゲリラ攻撃で大きく混乱する王国軍を、「労働者の国」で造られた戦車で蹂躙する。

 今、解放戦線の宿敵とも言える「優秀な指揮官」のダリル・マッコイと、彼直属の戦闘部隊「独立第305機械化歩兵大隊」は遠く北半球のエルエナルに出張中である。

 


 奴らが戻って来た時、奴らには灰となったベゼラを見せつけてやる。



 解放戦線の誰もが、そのような決意を抱いていた。


「ケンタウロス戦車兵団の準備は如何ですか?」


 サーラは鍛え上げられた胸部を誇る褐色美女に状況を確認する。


「準備万端だよ!

 徹底した対空偽装の上に遮熱シートで戦車を覆ってある。

 馬鹿なスタトリア連中に、戦車兵団のベゼラ集結を勘付かれた様子は無いよ!」


 モルディアナは笑顔で褐色少女に答えた。

 いつでも始められる、そう褐色筋肉美女は請け合った。

 サーラは頷きを返し、作戦開始を告げる。


「では始めましょう。私はこれより、一足先にベゼラへ向かいます。」

「あぁ、私も後で行くよ。

 スタトリアのクソッタレ共を、皆殺しにしてやろうぜ!」

「はい!同志モルディアナ!」

「……絶対に死ぬんじゃないよ、サーラ。

 あんたはもう、ゲイルと同じくらい私たち全員の希望なんだから。」


 そう言うとモルディアナはサーラを優しく抱きしめた。

 逞しい元・女性港湾労働者の温かくも力強い抱擁。

 ほのかに香る香水の匂いが、サーラにひと時の安らぎを与える。


…………


 太陽は既に天空に無く、輝く星々と双子の衛星が夜空から僅かな明かりをファーンデディアの大地にもたらしていた。

 ベゼラ基地東面の断崖。

 その崖下に、完全武装した褐色肌の精悍な顔つきをした男女がおよそ20人ほど集まっていた。

 ダニーク解放戦線の精鋭、革命親衛隊の通称で呼ばれる歩兵部隊からの選抜メンバーである。

 指揮を執るのはもちろん、サーラだ。

 居並ぶ戦士たちの顔を、右から左へと見る。

 皆、揺るぎない闘志と敵への憎悪を滾らせている。

 サーラは、自由をかつえる戦士たちに小さな声で作戦開始を告げた。


「行こう、同志諸君。ベゼラを灰にするぞ。」


 無言の戦士たちは、見事に統一された無駄のない動きで敬礼する。

 最も信頼する最強の革命戦士に向かって。

 

 サーラは背中の止め金具を外して愛用の自動小銃を両手に構える。

 少女の褐色の指先に、馴染み深い木製ハンドカバーの感触が伝わる。

 人民共和国製の強力な7.62mm弾を使用するアサルトライフル。

 今回は隠密作戦である為、銃口に専用の消音器を取り付けてある。

 敵に気付かれること無く、「新型爆弾」がある中央弾薬庫まで辿り着かなければならない。

 サーラは亡き妹に、自らと配下の戦士たちの加護を祈った。



 ナシカ、どうか私たちを見守っていて。

 今日も大勢の白肌連中の死体をあなたに届けてあげるわ。



 サーラは素早く、そして静かに基地内部へと続く排水管渠の中へと侵入した。

 それに20人の戦士たちも続く。


 ノルトスタントール連合王国からの独立を求めるダニーク人たちの戦争……「ファーンデディア戦争」において、これから何度も繰り返されることになるベゼラ基地を巡る激しい攻防戦の第一ステージが、今ここに開幕した。

 

  

※この後書きは本編にほとんど関係ありません※


【新暦1926年7月15日付 スタントール人民系地下組織 フェターナ毎日通信社

              (元・左派系メディア 現在は非合法組織)

                      街頭配布ビラの記事より抜粋】

●人民主義の偉大なる勝利へ!ベタシゲン将軍、共和国総書記長に就任●

 血に飢えた狂人の女王、カリーシア・シノーデルⅡ世の残虐極まる圧政に苦しむ全てのスタントール人民同志に朗報である。

 この度、世界人民労働者の故郷にして労農人民が一致団結する偉大なる祖国・アーガン人民共和国において、百戦百勝の人民軍史上最高にして至強の大将軍であらせられるザイツォン・ベタシゲン人民軍元帥が14日、人民共和国総書記長兼人民軍政治局局長に就任なされたことを、人民共和国外務人民委員会広報部局が伝えた。

 若く聡明で優秀な軍人であり全ての共和国陣営の人民にとって希望の星であったベタシゲン将軍が、遂に人民共和国の最高指導者となられた格好だ。

 ベタシゲン将軍は先の大戦和平会談において、スタントールの殺戮魔にして痴女、非道を極めしカリーシア・シノーデルⅡ世の放った暗殺集団を見事に返り討ちにし、さらにロングニルやベルベキアといった列強の干渉さえも退けたことで知られる。

 これは全世界労農人民にとって、最高の報せと言えるだろう。


(中略)


 尚、偉大なる人民指導者にして迷えるプロレタリアート全ての道標、世界人民希望の星にして百戦無敗の大元帥である同志キムケグァンは、高齢と今回の大戦における事実上の敗戦の責を取る為勇退なされた。現在は、人民共和国絶対首都・カムラク郊外の別宅にて療養中であることも伝えられた。

 同志キムケグァン派の重鎮たちは未だに隠然たる勢力を有しており、今後のベタシゲン将軍の国家運営について全ての労農人民たちから注目が集まっている。

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