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褐色少女の独立戦争  作者: mashinovel
第四章  大戦の終わり
27/63

26. 人類が手に入れた太陽

※この第26話にもサーラたち主人公サイドは出て来ません。

 人民共和国サイドの物語となります

 西レヴェリガイア大陸北部。

 赤道の鬱蒼としたジャングルとそこに無数に存在する獣人たちの発展途上国を通り過ぎた先にある温暖な気候の北半球に、その共和国は存在していた。

 エルエナル民主統合共和国。

 大戦勃発の100年前、5つの近代国家が合併して成立した新しく活力に満ちた新興工業大国。

 その実質的国力は、古き歴史を持つ超工業大国・ノルトスタントール連合王国さえも凌ぎ……半鎖国体制を取り国情が不明瞭な極北のベルベキア連邦を除けば……世界の頂点に君臨する超大国・ロングニル王国連合と比類する程の国内総生産を誇っていた。 

 王国陣営諸国とベルベキア連邦に突如軍事侵攻を仕掛けた共和国陣営の盟主国家。

 その最高指導者であるローズ・ヴェルナルド終身大統領は、母国の権力のいただきに立った時、青年時代から抱いていた壮大な夢を実現させることにした。

 それが「環状大陸共同体」構想である。

 全ての「王制国家」と「敵性国家」を殲滅し、共和国陣営諸国による環状大陸の完全統一を果たし、共和国を中心とした世界的な超国家組織を建設するという「夢」だ。


……※世界観設定文章です。読み飛ばし可※……

 この異世界の先進主要国は、「環状大陸」なる超巨大な円形の大陸に存在する。

 ロングニルやエルエナル、そしてアーガン人民共和国などがある「西レヴェリガイア大陸」。

 その東側、巨大な内海を挟んでオークの国・ディメンジアやイェルレイム、スタントールなどが位置する「東レヴェリガイア大陸」。褐色肌の原住民たちが暮らすファーンデディア大半島は、この東大陸の南東の端にある。

 そして、エルエナル領の一部である西レヴェリガイア大陸西端と細い地峡で結ばれる「北ラーバキア大陸」には、不気味な半鎖国国家のベルベキア連邦が存在。

 その南には「南ラーバキア大陸」があり、レヴェリガイア大陸諸国とは全く異なる文化を持ち、地域宗教「グレヴェ教」を信仰する人々の発展途上国が荒野や砂漠に点在している。

 これらの大陸は「世界湖」と呼ばれる超巨大な淡水の海をぐるりと囲み、南北ラーバキア、東西レヴェリガイアの4大大陸を合わせて通称:「環状大陸」と呼称している。

 その環状大陸と海を挟んで南には、強烈な暖流と天然のオゾンホールによって亜熱帯のような気候となってしまい、黒人や異形の亜獣人による途上国がひしめく「シュミシュカ大陸」と呼ばれる南極の大陸が、東には大海の先に「東方大陸」の異名で知られる「アキク大陸」が存在する。

……※設定文章、終わり※……


 だが、そんなヴェルナルド大統領の「環状大陸共同体」構想という「夢」は、「悪夢」となって彼とエルエナルの人々に襲い掛かった。

 まず、ベルベキア連邦に侵攻した統合共和国軍約120万は、その悉くが壊滅した。

 ベ連軍の有する世界の数世代先を行く超先端兵器と、「新型エネルギー爆弾」という非常に強力な大量破壊兵器により、極北戦線に投入された統合共和国の軍勢は文字通り消滅した。

 大反撃を開始したベ連軍は統合共和国西の国境を全面で突破、さらに南からはロングニルと元・中立諸国の連合軍、南東からは怒りに燃える女王が指揮するスタントール軍が彼の共和国に迫り、もはや敗戦は不可避の情勢となりつつあった。


 斯様な世界情勢の中、共和国陣営のもう一つの盟主国家たる「労働者の国」ことアーガン人民共和国は、一時はその国土の3割を占領した敵国・ロングニル領から一気に全面撤退。自国国境線で粘り強い防衛戦を展開し、人民共和国本土に王国陣営連合軍を一兵たりとも侵入させなかった。

 その防衛戦の全体指揮を執る優秀な若き人民軍の将星であるザイツォン・ベタシゲン将軍は、今や追い詰められた共和国陣営諸国にとって希望の光であった。


 そんな情勢下にある人民共和国の首都、カムラク。

 人口約800万人を数える世界有数の大都市にして、世界各地に点在する「人民主義」諸国の中で最大の街。人民革命の総本山である。

 北を海に接し、東西と南を峻厳な山岳地帯で覆われた天然の要塞都市であり、南側には「ガルムの門」という大要塞が聳え立ち、未だかつて一度として敵軍の突破を許したことが無い。

 「カムラクが首都である限り、アーガンは滅びない」とまで言われ、このカムラクは「アーガン絶対首都」の雅名で知られていた。

 三本の潤沢な水量を誇る河川が都市を潤し、北の都市沖合の海底からは良質な天然ガスと原油が産出される。

 150年前、絶対的権力を握る皇帝を銃殺した労働者たちによって、壮麗な装飾で彩られた皇帝と貴族の街は、武骨なコンクリートによる労働者の街に造り替えられていた。

 かつて荘厳な皇帝宮殿が聳えた街の中心部には、人民共和国の頭脳となる無駄な装飾を一切省いた鉄筋コンクリート造60階建ての「共和国労農人民委員会中央評議会議事堂」と呼ばれる高層ビルが居座り、それを取り囲むように人民共和国の心臓部とも言える関係省庁が入った大小様々なRC造や鉄骨造のビルが群立している。

 いずれもまともな装飾の類が全くないコンクリートの箱で出来た風景。

 その一帯の通称は「カムラク人民革命広場」。

 「労農人民の完全なる平等」を謳った150年前の革命指導者の意志が、そこに遺憾なく発揮されていた。

 このような革命広場をはじめとするカムラクの無機質極まる街並は、「アーガン・アヴァンギャルド」の通称で呼ばれる「人民共産主義的前衛芸術」をその元凶としていた。

 

……


 革命広場を構成するビルの一つに、ある女の「城」は存在する。

 アーガン人民共和国労農人民委員会の一つ、内務人民委員会。

 黄色い外壁タイルに覆われた鉄筋コンクリート造10階建てのビルが、その「城」である。

 地下1階の取調室は、この異世界最大の超巨大ダム・コクランダムの湖底と繋がっていると言われている。取調室に連行されたが最後、行き先は食人種族の半魚人が暮らすダムの底と相場が決まっているからだ。

 故に、人民共和国のみならず彼の国の内務人民委員が影響力を有する全ての人民主義衛星国の国民は、この黄色いビルを「ダムへの片道乗車駅」と呼び、非常に恐れていた。


 そんな内務人民委員の実質的頂点に君臨する、専用の人民軍上級政治将校の軍服を纏う女。

 その名は、カレン・アクラコン。

 名目的No,1であった内務人民委員長の男は、先日「不幸な」交通事故に巻き込まれ死亡していた。

 目を閉じているかのように細い瞳に、若干の黄色味を帯びた美しい白い肌。

 艶やかな長い黒髪は、ビルの照明や窓から注ぐ昼間の太陽の光を受けて輝いていた。

 まるで銀幕の大女優のような美貌を持っていたが、その纏う雰囲気は冷徹そのもので、側近でさえ気圧される程の冷たさを放っていた。

 内務人民委員会ビルの中、高級幹部会議室へと向かう廊下を、冷血女は歩いている。

 その直ぐ傍らを、女の冷徹さを微塵も感じることなく2人の人間が付き従う。

 この異世界で、カレンとまともに目を合わせて話をすることが出来る非常に数少ない人間たち。

 カレンの右側を歩くのは、きめ細かな黒髪を三つ編みにした細目の美女である妹のシクラ。

 左側を削り出した岩盤から飛び出してきたかの如き屈強な体格の大男で人民軍政治将校の大佐、グラシカが歩いている。


 カレンは己が城内の廊下を、ある書類を読みながら歩いていた。

 視線は書類に落としつつ、彼女は左の大男に確認をする。


「グラシカ、再確認する。この情報に間違いないな。」

「はい、カレンお嬢様。

 エルエナルの人口100万人を超す大都市が7つ、ほぼ同時に地上から消滅しました。」


 カレンが熟読する書類は、北半球の同盟国を襲った途轍もない「悲劇」に関する現地工作員からの報告書である。

 そこには、地獄さえもリゾート地に感じられるような凄惨極まる状況が箇条書きで簡潔に記載されていた。


 ベ連軍によるエルエナル民主統合共和国本土への同時核攻撃。

 「新型エネルギー爆弾」による圧倒的な破壊力がもたらした詳細な「戦果」が、凍り付いた血が流れる女の脳に入力される。

 正直に言って、カレンが当初想定していた以上の激しい破壊力であった。

 爆心地から半径10キロ圏内は完全に壊滅。特に半径5キロ圏内の建物や人間は「蒸発」しており、さらに半径20キロ圏内の人間の大半が、皮膚が炭化するほどの致命的な火傷を負っていて数日以内にほぼ全員が死亡するものと思われる、と明記されている。

 また、極めて強力な放射線も検出されており、カレンの手元に送られた報告書の内容全てが人民軍科学アカデミーの核物理学者たちの説明内容とピタリと符合していた。

 疑いようも無く、核分裂反応を用いた「新型エネルギー爆弾」による攻撃である。

 読了した報告書をグラシカに渡し、カレンはさらに尋ねる。


「それで、統合共和国政府の対応は?」

「完全に混乱しております。

 当のヴェルナルド大統領は大統領官邸の地下防空壕に引きこもって職務を放棄。

 軍は、陸海空軍が今回の惨劇に対する責任の擦り付け合いを展開して崩壊寸前です。

 もはや、あの国は救えないでしょう。」

「それでいい。救う価値などない。

 現地工作員は、引き続き7つの爆発地点で情報収集に当たらせろ。」

「わかりました、お嬢様。

 ただその場合、工作員も放射能に焼かれていずれ死ぬ恐れがありますが、よろしいでしょうか?」

「構わん。代わりなど掃いて捨てる程いる。新型爆弾に関する情報収集を最優先とせよ。」

「承知しました、お嬢様。」


 グラシカは、カレンに対して深々と頭を下げて踵を返すと、アクラコン姉妹とは反対方向へと歩き去った。

 敬愛する「お嬢様」の命令を忠実に実行させる為に。


「お姉様。シクラはこの爆弾とどう戦えばいいでしょうか?爆弾を積んだ爆撃機を奪ったら良いでしょうか?」


 愛する妹は真剣な表情で姉に指示を乞うていた。

 このシクラの極めて高度な戦闘技術を駆使すれば、それも可能かもしれない。

 だが、カレンはそんな世界で二番目に愛する純真な妹に、表裏の無い微笑みを見せて答える。


「シクラ。それは貴方でもちょっと難しいでしょう。

 敵の新型爆撃機は高高度から音速を超えて飛来するようですし、爆撃機の出撃基地は得体のしれない極北の大地の奥深く。物理的な手段は困難が予想されるので、ここは少し強引な搦め手で攻めましょう。」

「わかりました、お姉様。

 またしてもお姉様の策謀がどんなことを引き起こすか、シクラはとっても楽しみです。」


 シクラ・アクラコンは後頭部の三つ編みを躍らせるように跳ねると、姉に満面の笑みを見せた。

 姉妹は揃って目的地の部屋に辿り着いた。

 高級幹部会議室。

 ここに、カレンがこの異世界で最も毛嫌いする男たちが彼女を待っている。

 高級木材で出来た頑丈な扉を開けるカレン。

 やや小さめの会議室にはシンプルな円形の机に木製椅子が5つあり、上座には薄くなった白髪交じりの頭髪が痛々しい小太りの80代の男が座り、その右隣の席に上座の男の腰巾着である顰め面の70代の男、左側には醜く肥え太った60代の男が噴き出す汗をハンカチで忙しなく拭きながら座っていた。

 この人民共和国の「名目的」な最高幹部。

 上座の男は「偉大なる人民指導者にして迷えるプロレタリアート全ての道標、世界人民希望の星にして百戦無敗の大元帥である同志」キムケグァン書記長。

 腰巾着の男の名はジクラキム。人民共和国労農人民委員会の軍事人民委員長にして「絶対首都」たるカムラクを守る為だけに存在する軍事組織・首都専衛軍の最高元帥。

 左のデブ男は、そんな2人の雑用係兼外務人民委員長のラベゴアンである。


「アクラコン!貴様、わざわざ自分の城にまで偉大なる(中略)である同志キムケグァンを呼び出す等と、何を考えておる!!立場をわきまえよ!!」

 

 カレンを視界に捉えるや、大声で怒鳴り散らすジクラキム。

 それにカレンはあからさまな不快感を示しながら言う。


「うるさいなぁ、ジクラキム。なんでお前もいるんだ?お前は呼んでない。」


 とは言いつつ、カレンはこの顰め面が張り付いた翁が来ることは予想していた。

 キムケグァンの行くところ、必ずこの男と雑用係のデブ男がついてくる。


「なんだと!!この非常識女が!!」


 尚もカレンに食って掛かろうとするジクラキム爺を、偉大なる同志が抑え込む。


「まぁ、それぐらいにせよ、ジクラキム。

 今は、同志アクラコンの火急の用事とやらを聞こうではないか。」

「ありがとうございます。同志キムケグァン。」


 カレンは鉄仮面の如き笑みを浮かべる。

 すると1枚の書類をキムケグァンに差し出した。

 胸ポケットから老眼鏡を取り出して内容を確認する偉大なる同志。


「ふむふむ……おぉ、これは誠か!?同志アクラコン!」


 書記長の男の顔が綻ぶ。

 期待していたことが遂に叶ったような表情だった。


「はい、成功にございます。同志。」

「す、素晴らしい!!早速、我が名の下に、全世界へと公表するのだ!!」


 その表情に戸惑いを隠せない腰巾着のジクラキムと雑用係のラベゴアン。


「あ、あ、あの、同志キムケグァン書記長。い、一体、何があったのでございまするか?」


 ラベゴアンが生来の吃音を伴いながら歓喜する書記長に確認する。


「おぉ、ラベゴアン!遂にやったぞ!

 科学アカデミーの科学者連中が、『新型エネルギー爆弾』の開発に成功したと言うのだ!!」


 驚愕に目を見開く腰巾着の癇癪爺さんと雑用係のデブ男。


「なんと!!流石でございます!!偉大なる(中略)である同志キムケグァン!!

 同志の圧倒的なまでの先見の明が、まさに実を結んだのでございますな!

 いやはや、我が人民共和国が世界で二番目の新型爆弾保有国になろうとは……

 これも全て偉大なる同志の御業によるものでございます!!」

「お、お、おめでとうございます!ど、同志キムケグァン!さ、流石でございます。」


 偉大なる同志をひたすら褒め称える2人の老害。

 そんな3人の無様な姿を見て、思わず冷徹な笑みを零すカレン。


 カレンが渡した書類は完全なる虚偽の報告書であった。

 実際はまだ各種準備段階であり、先日、ようやく実験用原子炉の製造に取り掛かったばかりである。

 「新型爆弾」に必須となる鉱物資源であるウランの採掘も、衛星国辺境に設けられた採掘場の基礎工事が始まったばかりで、そのウラン濃縮に必要な重水炉をはじめとする各種巨大プラントに至っては、まだ設計段階にあった。

 

 しかしカレンは、そのような「事実」はひた隠しにして、名目的な権力者であるこの老人3人に、派手に踊ってもらうことにしたのだ。

 

 人民共和国、「新型爆弾」の開発に成功。


 この一報を、偉大なる同志の名の下に世界に発表する。

 真偽など二の次だ。

 発表さえしてしまえば、敵は人民共和国への核攻撃を躊躇するだろう。

 後は、馬脚を露さないよう徹底した防諜に努めれば良い。

 そしてそれはカレンが最も得意とする分野の一つでもある。


 そうして時間を稼ぎ、その間に「嘘」を「真実」にすればいい。

 既にカレンは、科学アカデミーの核関連部門への予算や人員を以前の300倍に増やし、プロパガンダを駆使して人民を大いに盛り立て、国家の総力を賭けた一大プロジェクトに据えている。

 衛星国からも有能な技術者を次々と連れて来ているし、各種関連施設の建設に必要な労働力は矯正収容所に山ほど存在する。

 もしそれでも人手が足りなくなれば「人民革命の敵」のレッテルを貼って連行すればいい。

 肉体労働や危険作業には、山に潜むゴブリンやドワーフを強制連行して従事させる。


 カレンの脳裏に今後の様々な施策が生み出されていく。

 そんな冷血女に、偉大なる同志キムケグァンが満面の笑顔で話しかける。


「同志アクラコン!実によくやった!素晴らしい!

 わざわざワシをここまで呼び寄せたのは、この為か!なるほど!

 ……そんな優秀な同志には、内務人民委員の全てを任せるのが適当だろう。

 先日、交通事故で失われた我らが仲間、同志ベリヤカンの後任として、同志アクラコンを任命する。」


 その言葉に、カレンは深々と頭を下げた。

 老人3人から一旦見えなくなった顔面には、周囲が凍り付くような邪悪な笑みが浮かぶ。


「待ってください!!同志キムケグァン!

 こっ、この女に、内務人民委員を任せるのですか!?

 危険です!どうか、再考を!!」


 ジクラキムが席を立って偉大なる同志に捲し立てる。

 それにキムケグァンは不快感を示した。


「座り給え、同志ジクラキム。

 もう決めたことだ。取り消すつもりは無い。

 亡くなられた母君の共和国への貢献も多大であったしな……

 これからも人民共和国と世界人民革命達成の為、大いに期待しておるぞ、同志アクラコン。」

「ははっ!有難き幸せ、同志キムケグァン!」


 頭を上げ、鉄の如き笑みを見せつけるカレン。


「宜しい。では、ラベゴアン。早速仕事に取り掛かれ。

 『人民共和国、キムケグァン指導の下、労農人民の力を結集させ「新型爆弾」を開発せり』

 とな。東方大陸や南極の野蛮人にもしっかりと知らしめよ。」

「わ、わわ、わかりましてございます。

 い、い、偉大なる(中略)である同志キムケグァン!」


 人民共和国における実質的な権力のほぼ全てを、目の前の女によって奪われていることも知らずに、意気揚々とする偉大なる同志書記長は、実に満足そうに会議室を後にした。

 それにデブ男と腰巾着の翁も続く。


 腰巾着のジクラキムは部屋の去り際、カレンに捨て台詞を残していった。


「……調子に乗るなよ、アクラコン!いずれ、貴様の化けの皮を剥いでやる!!」

「だからうるさいなぁ、ジクラキム。お前のシモの世話をしてくれる半魚人の恋人を紹介してやろうか?あぁ?」

「このっ!!…………ふん……まぁ、精々頑張れ……」


 ジクラキムの威勢が急速に萎む。

 癇癪爺が怒鳴り散らしていたカレンの直ぐ傍に侍るシクラが、強烈な殺気を放つ。

 冷血女の妹が発する血の気が引くような殺意の視線を感じ、ジクラキムは逃げるようにキムケグァンの後を追った。

 扉が閉まり、会議室に残されたアクラコン姉妹。


「お姉様。シクラ、あのお爺さんが嫌いです。殺す時は、是非、シクラに殺らせてください。」

「ダメよ、シクラ。あんな汚い生き物、シクラが手に掛けるまでもありません。近いうちにダムの同志たちに食べてもらいましょう。」

「お姉様。シクラ、半魚人さんたちもあんな老いたクズ肉、嫌いだと思います。」

「なら、同志ジクラキムにはいずれ完成する我らが新型爆弾の威力を間近で体験してもらいましょう……それがいいわ……我ながら名案ね。」

「早く出来るといいですね、爆弾!シクラ、とっても楽しみです!」


 またしても無邪気な妹の笑顔。

 それにカレンも微笑みを返す。


「さぁ、後はザイツォン様を首都にお迎えする準備を整えなければ……」


 カレンが次なる策謀を考えていたその時、その報告は舞い込んだ。

 会議室の扉が乱暴に開け放たれる。

 先程廊下で別れたグラシカが、肩で息する程の全力疾走で現れた。


「ハァハァ……お、お嬢様……一大事にございます……こ、これを。」


 大男が差し出した書面を、訝し気な表情で受け取る内務人民委員長の女。

 その内容を目にし、カレンに衝撃が走る。


「なんと!これは本当か!!」

「はい、お嬢様……ハァハァ……フーッ……失礼しました。ただいま、呼吸を整えました……現地工作員全てからの緊急連絡です。念のため、“被爆国”である彼の国の大使館職員にも確認しました……間違いありません。」

「……ふ、ふふふっ、フハハハハハ!!女王に感謝せねばならんな!!」


 冷血女から周囲を完全に凍り付かせるが如き氷点下のオーラが迸る。

 だが、最側近の2人はそれに全く動じない。

 むしろ頼もしささえ感じていた。


 カレンが受け取った報告。

 それには、ノルトスタントール連合王国が自前の「新型エネルギー爆弾」を、交戦国であるディメンジア国家社会主義国の工業都市に投下したことが記されていた。


 「新型爆弾」を持つ国が、極北の不気味で情報が圧倒的に少ないベルベキアだけでは無く、既に多くの工作員や人民共和国に協力する現地細胞が大勢活動するノルトスタントールも含まれるようになった。

 先程、シクラが提案した物理的解決手段が「この国」相手なら取れるかもしれない。

 そう、ゼロから開発するのに膨大な手間がかかるなら、敵から一つ強奪すればいい。

 入手した爆弾を徹底的に分析させれば、あらゆる論理的学術的手順を大幅に短縮出来る。


 早速準備に取り掛からねば。

 「善」は急げだ。


「同志グラシカ大佐。現地工作員を今までの5倍に増やせ。

 女王親政によって打撃を受けた現地人民細胞の修復を急がせよ。

 そして、あの解放戦線に連絡だ。」

「わかりました!お嬢様……おっと失礼!同志内務人民委員長殿!」


 岩の如き大男はカレンに見事な敬礼を見せた後、またしても廊下を全力で駆け抜ける。

 カレンは会議室の窓から外を見る。

 共和国労農人民委員会中央評議会議事堂の高層ビルの窓ガラスが、昼過ぎの太陽の眩い光を受けて大きく輝いている。

 まるでカレンの野望の成就を祝うかのように。



 これで本当にあと少し。

 もうすぐ、愛しいザイツォン様に最高の国を献上できる。

 ……貴様にはその為の糧となってもらうぞ、カリーシア女王。



 冷血女の脳裏に、倒すべき真の敵の姿が思い起こされる。

 ノルトスタントール連合王国国家元首・カリーシア・シノーデルⅡ世女王への殺意が、遠く人民共和国の首都から発せられていた。

※この後書きは本編とほとんど関係ありません※


【新暦1926年2月3日付 ロングニル・ワールド・トゥデイ社放送

               戦時特別報道番組 戦況報道より抜粋】

●国内避難命令全面解除及び国際情勢関連報道●


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「こんばんは。引き続き、戦況報道をお送りいたします。

 昨日2日、ロングニル王国連合政府は首都ヴェンデンゲンの全面解放を宣言。最後まで市内に残り抵抗していたアーガン人民軍残存部隊の武装解除を完了しました。これを受け、ヴェンデンゲン新市街に出ていた避難命令は解除され、これにより国内の主な避難命令発令対象地域は全て解除となりました。

 しかし、現在も北部の人民共和国国境地帯では戦闘が続いており、尚も情勢は予断を許しません。

 政府は今後、人民共和国側の強固な防衛線を突破してまで敵本土へ侵攻するか、それとも現状を維持しつつ和平交渉を続けるか情勢を見極めたいとしており……」


(スタッフの一人が原稿を急遽差し替える)

(内容を確認するアナウンサー)


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「……はい、たった今速報が入ってきました。ノルトスタントール連合王国が独自開発した“新型エネルギー爆弾”を、交戦国ディメンジアの工業要塞都市・モラグヴァーダに投下した、とのことです。

 はい……スタントール軍によるディメンジアへの核攻撃です。もしこれが事実なら、5日前のベルベキア連邦によるエルエナルへの7都市同時核攻撃に続き、スタントールも核攻撃を実施した形になります…………なんてこと……」


(さらにスタッフが慌ただしく原稿を渡す)


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「……はい……これから行われる予定だった首相による定例記者会見を急遽変更し、王国連合政府による特別緊急声明発表が、間もなく行われます……中継は?……繋がってるのね……はい、では国王陛下による会見の模様をご覧ください。」


(画面が切り替わり、王国連合政府国王宮殿会見場と中継)

(演台に、白スーツ姿の50代白人男性が現れる)


・エルンスト・フリーデライツⅣ世国王(以下、国王)

「あー……本来ならガルゴード首相が会見するのだが、本件に関しては、異例とはなるが私から声明を出させてもらう。

 我がロングニル王国連合が、全ての人間、亜人、獣人、魔獣の法の下の平等を謳う立憲君主民主主義国家であることは周知のことだろうとは思う。

 故に、先日より立て続けに起こっている“同盟国”による新型爆弾を用いた無差別攻撃に対し、我が国は強い遺憾の意を示さざるを得ない。如何に敵対国家とは言え、その国に住む無実の民間人を無差別に殺傷する彼らの有様には、大いに疑問を感じる。

 特にスタントールは、エルエナル方面派遣軍による現地エルエナル民間人への憂さ晴らし紛いの虐殺を繰り返し、自国領ファーンデディアの原住民であるダニーク人に対しても、“最終的解決”と言われる組織的殺戮を行っているという疑惑が持たれている。これは、明らかに人種差別に起因する重大な犯罪である。

 ……話は変わるが、昨日、我が国でも新型爆弾の実験に成功した。

 繰り返して伝える。我がロングニルも、新型エネルギー爆弾を有する核保有国となった。

 しかし、我が国はこれを防衛目的以外では決して使用しない。

 それを踏まえた上で、改めてベルベキア連邦とノルトスタントール連合王国に要請する。

 これ以後、新型爆弾の使用は止めてくれ。

 これ以上の殺戮は無意味である。

 ……この星に住まう全ての人々に平和と平等を。以上である。」


(画面はそのままで、スタジオのアナウンサーによる声明内容報道)


・アナウンサー(ハイエルフ女性)

「……はい、国王陛下による異例の声明発表となりました。えー、繰り返しお伝えします。スタントール軍によるディメンジアへの核攻撃を受け、エルンスト・フリーデライツⅣ世国王陛下による緊急声明が発表されました。我がロングニルも、新型爆弾を有する核保有国となったことを伝えた上で、ベルベキア及びスタントールに対し、これ以上の核攻撃中止を要請しました……はい、今から当局記者による質問が行われます……」


・記者(※ヴァニーシャ人女性) ※ウサギ系亜人

「陛下、ロングニル・ワールド・トゥデイのロッピ・ヴァーニッタです。

 スタントール軍によるエルエナル民間人への虐殺を、私は現地で直に目にして来ました。

 ……到底、理性ある人間の所業とは思えませんでした。今回の陛下による核攻撃中止の要請も、果たしてこの2ヶ国……特にスタントールが素直に聞き入れるかどうか甚だ疑問ではありますが、もし、ベ連邦及びスタントールが今回の中止要請を無視して次なる核攻撃に打って出た場合、我がロングニルが取る具体的な対応についてお伺いします。」


・国王

「うむ、その懸念は大いにある。

 まず、スタントールが我が要請を一顧だにせず核攻撃を継続した場合、残念ながらもう彼の国を王国陣営の同盟国と見做すのは不可能となるだろう。

 故に私は、ディメンジア首都のシャハナルーダ他各都市、エルエナルまたはアーガンのいずれかの大都市に対し、今後、スタントールが核攻撃を実行した場合、我がロングニルは彼の国との国交関係を根本的に見直すことにする。これは首相をはじめ政府閣僚と事前協議の上、決定した事項である。あと、スタントールは我が国が再三求めている政府間協議に全く応じていないことも付け加えておこう。

 次にベルベキア連邦に関しては、昨日、既に次官級会談を行い、明日にも連邦の軍指導者と私が直接面会する予定になっている。半鎖国体制を取り国情不明瞭で『不気味』とさえ言われていた連邦だが……私個人の感想ではあるが……スタントールよりもはるかに理性的に感じられる。

 だが、7つもの都市を核攻撃した事実は変わらない。

 今後も、我が国は連邦に対して慎重を喫し、対応していくことになるだろう。」


・記者(ヴァニーシャ人女性)

「ありがとうございます、陛下。」


(次の記者が質問を行う)


・記者(スタントール人男性)

「ファーンデディアセンチネル新聞社のメラークと申します。

 ロングニル国王陛下、恐れながら我が国に対する先程の『要請』とやらは重大なる内政干渉に聞こえます。我らが偉大なるカリーシア・シノーデルⅡ世女王陛下は、自国臣民を大いに傷つけた敵に対し、深い怒りを覚え、それは全てのスタントール人が共有しています。

 今回の核攻撃も、唾棄すべきオークに対する正当な制裁と言えるでしょう。それを『自分も核兵器持ってるから調子に乗るなよ』と言わんばかりの先の声明は、スタントール人として大いに理解に苦しみます。我が国に対し、如何なる意図があって行動を掣肘するが如き声明を出したのか、その真意をお聞かせ願いたい。」


・国王

「まず、その前に貴方の『唾棄すべきオーク』と言う発言を撤回してもらいたい。

 我がロングニルのガルゴード首相は、誇り高きオーク戦士一族の生まれだ。我が国には彼のような大勢のオークの国民が世の為、人の為に日々頑張っている。そんな彼らを強く傷つけるような発言を撤回してもらいたい。

 質問に答えるのは、その後だ。」


・記者(スタントール人男性)

「お断りします。オークはいにしえの時代より人間の敵であり、それを国民扱いする方が間違っている。」


・国王

「…………なら、貴方はもうこの国に居るべきではない。退出なさい。」


・記者(スタントール人男性)

「わかりました。このような我が国報道機関に対する不当な扱いは、必ずやロングニルに不利益をもたらすでしょう。失礼します。」


(男の発言を機に、会場を退出しようとする複数のスタントールメディア関係者)

(会場内に騒めきが起こる。ロングニル報道機関関係者を中心に怒りの声が上がる)


・記者(ヴァニーシャ人女性)

「ちょっと待ちなさいよ!アンタ、一体何様?ただで帰れると思ってるの?」


・記者(スタントール人男性)

「なんだと、亜人のクソ女!!恫喝する気か!?

 盛りの付いた亜人の雌は、大人しく男のナニでもしゃぶってろ!!」


・記者(ヴァニーシャ人女性)

「なんですって!!このスタントール野郎!ぶっ飛ばしてやる!」


(ヴァニーシャ人女性記者、スタントール人記者に飛び掛かる)

(それをカメラマンや他のロングニル人記者たちが制止する)

(騒然となる会場)


・カメラマン(キャットピープル女性)

「ニャニャ!!ロッピ、落ち着くニャ!!」


・記者(オーク男性)

「落ち着け!ウサギの女子おなごよ!

 貴様の気持ちはよくわかるが、暴力に訴えたら増々連中の思う壺だ!!」


・記者(ヴァニーシャ人女性)

「クソッ!!……スタントールの大馬鹿野郎は、さっさと出てけ!!」


・記者(スタントール人男性)

「言われなくても出て行くさ!!くたばれ!亜獣人のカス共が!!」


(スタントール人とロングニル人による怒号が飛び交う会場)

(国王、その有様を見て、両目の間を指で摘みながら首を横に振る)


(後略)

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