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褐色少女の独立戦争  作者: mashinovel
第三章  王国の反撃
17/63

16. 独立第305機械化歩兵大隊

 「始まりの街」に「空」が落ちてきた直後、奴らはやってきた。

 ダニーク解放戦線最大の宿敵。

 ノルトスタントール王国陸軍ファーンデディア管区方面軍所属独立第305機械化歩兵大隊。

 あの日、マッコイ率いる地獄の猟犬共が、初めて私たちの前に姿を現した。


 私は、奴らを絶対に許さない。

 圧倒的な質量が、褐色肌の原住民・ダニーク人たちが占拠する港湾都市セティアに叩き付けられる。

 200を優に超える大型戦略爆撃機の群れは、瞬く間にかつて人口120万を有していた大都市を瓦礫の山に変えようとしていた。

 その光景を、セティア郊外を走る片側4車線の自動車専用道路から眺める若い女がいた。

 今、道路は封鎖され、何十台もの装甲車や戦車がズラリと並び、それに搭乗する王国軍兵士たちが攻撃命令が下るのを待っていた。

 彼らが待機する専用道路の先には、鉄の暴風雨に晒されるセティアの街が広がっている。

 若い女は、25mm機関砲を回転砲塔に搭載した六輪の装輪装甲車の車体の上に、寛ぐような姿勢で座っていた。

 右手を額にかざし、爆炎が上がる街を見つめる大きく澄んだ紺碧の瞳。

 その長い絹のように細く美しい髪は、まるで血のように紅く、日光を浴びて光沢を放っていた。

 時折吹く風で、女の紅色の髪はふわりと靡く。

 その端整な顔は、さながら古代の女神すら嫉妬を覚える程の美しさである。

 しかし、その身に纏う所々薄汚れた王国陸軍の軍服は、彼女が歴戦の兵士であることを物語っていた。

 軍服の階級章は、彼女が伍長であることを示している。


「うっわ~……派手にやってるねー。あたしたちの仕事はちゃんと残ってんだろうね。」


 女は、装甲車の横で専用の折り畳みチェアに座って仮眠を取る男に聞こえるよう呟く。

 着崩したヨレヨレの軍服姿の無精ひげ男は、日光を遮るため顔にかけていた新聞を取ると、女の方を向いて答えた。


「仕事残ってたら、面倒だろ?

 空軍様にはもっと頑張ってもらいたいくらいだぜ。」

「でもさ、ダリルのオッサン。あれじゃ、セティアが吹っ飛んじまわないか?

 あそこって、ウチらの物流の要だろ?」

 

 紅髪女が視線を街に向けたまま無精ひげ男に問い掛ける。

 男は「優等生」の疑問に、ニヤリと笑みを浮かべて答えた。


「お?流石、元王国女子学園のお嬢様は違うね。

 他のボンクラ共は、そんなこと全く気にしてなかったぞ?」

「茶化すなよ、オッサン。実際、どうすんの?油も弾も無しじゃ戦争出来ないよ?」

「気にすんな。あの街が吹っ飛んだところで、俺たちにはもう影響は無いさ。

 女王様が親政を始めてくれてたお陰で、民間物流会社のトラック全部を徴発出来た。

 しかも運転手付きでな。

 それに加えて、ファーンデディア中の建設会社を動員してアディニア郊外に巨大物流センターを超突貫工事で作らせてる。来週には稼働を始めて、俺たち向けの油と弾、ついでに飯はそこから全部配達されることになってる。

 つまり、あの街はもう用済みってことさ。」


 ヨレヨレの軍服姿の男、ダリル・マッコイ陸軍准将は、若い紅髪の女の問いに、スラスラと答えを寄越した。

 それでもまだ女には気掛かりが残っているようだった。


「用済みって……民間人たちも一緒に吹き飛ばすの?」

「心配するな。あの街に暮らしてた俺たちの同胞は、ほとんどが殺されるか追い出されるかして残ってない。いるのは、クソみたいな茶色い亜人だけさ。」

「そう。なら問題無いね。遠慮なくぶっ放せるってわけだ。」


 女はそう言うと、傍らの装甲車の上に置いてあった自身愛用の分隊支援機関銃を手に取った。

 5.56mm弾を使用する強力な機関銃。女の軍服の下には、この銃を難なく扱いこなせるだけの逞しい筋肉が備わっていた。汚れた軍服がはち切れそうになるほどの大きさを誇る豊満な胸部の上に工具を乗せ、簡単に銃の最終点検を行う。


「ぶちかましてやれ、レシア。あそこには、お前の両親とアニキの仇がいるぜ。」


 ダリルは、珍しく神妙な顔をしてレシアと呼んだその紅髪の女を見つめる。


「……あぁ、ベルカセムのクソッタレは絶対に生かしておかない。あたしの手で、八つ裂きにしてやる。」


 機関銃の点検が終わり、仕上げにコッキングレバーを引いて弾薬を機関部に固定する。

 紺碧の瞳に激しい復讐の炎が宿る。血の色をした真っ赤な髪が、怒りのオーラで逆立つ。

 女の名前は、レシア・リョーデック。

 ダニーク人武装組織――ダニーク解放戦線――の指導者ゲイル・ベルカセムが大戦勃発当日まで農園労働者として勤めていたリョーデック農園経営者一家の長女。

 彼女の家族は、ベルカセムが引き起こした「ダニーク人民革命」における最初の犠牲者となった。

 レシアは、単身故郷から遠く離れたファーンデディア広域州特別行政区アディニア市にある女子学園に通っていた為、辛くもその難を逃れたが、一夜にして天涯孤独の身となってしまった。

 その後、彼女は直ぐに行動した。実家を焼き滅ぼしたダニーク人に復讐を果たす為、学校を飛び出し軍に入隊したのだ。ファーンデディアにおけるスタントール王国の交戦国・イェルレイム共和国軍相手の最前線で、彼女は獅子奮迅の如き戦い振りを見せつけ、やがてダリルの目に留まることになった。

 彼女は今、ノルトスタントール連合王国ファーンデディア駐留軍において、多大なる戦功を積み「ファーンデディアの精鋭」の呼び声高い独立第305機械化歩兵大隊の一員として、各地を転戦していた。

 そして、遂に彼女は自らの宿敵と相対することとなる。

 両親と兄を殺害した、憎むべき武器を手にした褐色肌の原住民。

 レシアは、彼らを殺し尽くすまで、引き金を引き続けると誓っていた。

 無残に殺された愛する両親と兄に対して。

 

 爆撃機が街の上空から離れていく。

 ダリルの元に、空軍から作戦成功の無線を受けた兵士が駆け寄り、その旨を報告する。

 するとダリルは折り畳みチェアから起き上がり、大きく伸びをしてから紅い髪の女に告げた。


「……さぁ、始めようぜ。派手に暴れるぞ、レシア!」

「わかった、オッサン。皆殺しにしてやるわ!」


 レシアは機関銃を構えたまま装甲車から飛び降り、炎上する大都市を睨み付けた。

 ファーンデディア駐留軍の破天荒な陸軍司令官、ダリル・マッコイ准将直属の遊撃機甲兵団が、その獰猛な牙をダニーク解放戦線に突き立てようとしていた。



……



 さながら地獄のような光景が広がっていた。

 地下の解放戦線本部に戻り、敵機襲来を告げたサーラは、そのまま本部の者たちと共に爆撃をやり過ごした。爆撃自体は約1時間程で終わったが、サーラたちダニーク人には無限にも感じられた。

 地上の騒音や振動が止み、しばらく経って再び地上への階段を登り、外の様子を確認するサーラの目にその光景は飛び込んできた。


 一面瓦礫に覆われ、炎が渦巻く地獄。

 セティア陥落から10日の間に、ダニーク人たちが懸命に築き上げた市内防衛拠点も、そこに配置されていた解放戦線の戦士たちも何もかも消し飛んでいた。


 大勢の同胞たちの無残な死体が街中に散乱していた。

 手足が千切れた者、下半身や上半身を失った者、崩れてきたビルの下敷きになった者、炎に捲かれ黒焦げとなった者……

 街で暮らす無数の女子供老人も、犠牲となった。街陥落後、解放戦線に笑顔で協力してくれていたセティア在住のダニーク民間人たちは、今は物言わぬ死体となっていた。その顔には、死の間際に味わった途轍もない絶望と恐怖が刻まれていた。


 地獄の只中を生存者を求めて進むサーラと解放戦線本部要員。

 すると半壊した地下鉄駅入口から、戦士たちの一団が姿を現した。

 サーラの部下たち、革命親衛隊の面々だった。

 彼女の姿を確認すると、戦士たちから喜びの声が上がる。サーラも直ぐに彼らの元に駆け寄った。


「サーラ!!無事だったんだね!!」


 逞しき筋肉美女の副官ナリータが、サーラに抱き付いた。

 サーラもナリータたちの無事を喜ぶ。


「同志ナリータ!それに皆!無事でよかった……本当に……」

「ちょうど本部から地上の物資を地下鉄に移動するよう指示を受けたところだったんだ。

 爆撃機の大軍を見つけて、大慌てで逃げ込んだよ。

 ……それでも、何人か助からなかった……」


 地下鉄入口から、何人もの褐色肌の同胞たちが這い出てきた。

 戦士に民間人。幼い子供や老人もいる。突然の空襲にもかかわらず、可能な限り民間人を避難させたようだ。

 サーラは、ひとまず自身が信頼を置く戦士たちの無事に胸をなでおろした。


「同志サーラ。一体、何が起こったんでしょうか?」


 地下鉄駅から一番最後に出てきた親衛隊の戦士の一人、褐色の美少年ユーセフが指揮官に状況を問う。

 どうやら地下の奥の方で作業していたらしく、未だに状況を呑み込めていないようだ。


「スタトリアの絨毯爆撃だ。奴ら、街ごと私たちを吹き飛ばしたんだ。」

「なんですって?この街ごと?どうして?奴らにとってもこの街は重要な筈では……」

「わからない。確かに、ここは奴らの物流の要だった。

 でも、この徹底した爆撃は、まるで街そのものが用済みとでも言わんばかりだ……」


 サーラの脳裏に恐ろしい予測が浮かび上がった。

 もしかしたら、本当に「用済み」なのかもしれない。

 スタントール王国が、その持てる工業力を総動員すれば、短期間で別の物流拠点を作るなんて容易い事なのでは?

 だとしたら、来たるべき敵の攻撃を当然に都市奪還を目指すものと想定し、地の利を活かした市街戦で撃退しようとした自分たちの防衛戦略は、根幹から瓦解するのではないか?


 歴戦の少女は、額に冷たい汗を流す。


 街を瓦礫の山に変える程の猛烈な空爆で敵の主力を壊滅させた後、強力な機械化部隊で「残敵」を掃討する。そんな恐るべきスタントール軍の思惑に、彼女は気付いてしまった。

 肩の小型無線機を掴み、本部に警報を出す。 


「ネスト!こちらゴブリン1!!敵が来るぞ!残存部隊はどこだ!?」

『ゴブリン1、こちらネスト。こちらでもまだ把握できていない。損害多数。

 連絡がつかない部隊があまりにも多い。そちらの状況は?』

「ゴブリン2他親衛隊主力の無事を確認したが、死傷者多数の模様。

 至急部隊の再編にかかる。」

『了解、ゴブリン1。こちらも軍の立て直しを図る。』

「大至急だ!スタトリアの機甲部隊が来るぞ!!ゴブリン1、通信終了!」


 サーラは苦虫を潰したような顔をした。やはり味方は壊滅状態か。

 それを不安そうに見つめる親衛隊戦士たち。

 サーラは気を取り直し、信頼する戦士たちを見遣った。


「同志ナリータ、それにユーセフ、同志の皆。聞け、今度は陸軍が来るぞ。今まで相手にした連中とは比べ物にならない程強大な相手になると覚悟しろ。部隊を再編し、防衛戦用意!」

「はっ!同志ベルカセム!!」


 親衛隊の戦士たちは指揮官の命令に敬礼を持って答える。

 民間人を再度地下に避難させると同時に、先程ナリータたちが地下に仕舞い込んだ人民共和国からの軍事物資が詰まった木箱をあけて装備を整える。

 兵士全員に対戦車ロケットランチャーを配布し、自動小銃の弾倉も規定の倍を配る。

 さらに昨日届いたばかりの新型ミサイル……熱追尾式携帯型地対空ミサイルも用意する。

 サーラはマニュアルを片手に操作方法を確認し、戦士たちに手渡す。

 まだこの兵器の操作訓練をしていない為、大いに不安が残るが無いよりマシだ。

 他にも指向性地雷やプラスチック爆弾なども持てるだけ持ち出す。

 生き残った同胞の民間人を地下に避難させ、準備が完了すると親衛隊の戦士たちは瓦礫の山と化した地上へと展開する。

 敵の予想進路と思われる街の目抜き通り等に散乱する瓦礫に地雷やプラスチック爆弾を設置。

 サーラや戦士たちは崩壊したビルの残骸に身を隠し、敵の襲来を待ち構えた。

 ふと瓦礫の山を見ると、以前サーラの命を救ってくれた人民共和国製の戦車が燃え盛る残骸となっていた。先程の猛烈な空爆により、人民共和国が提供してくれた大型兵器のほとんどが破壊されてしまったようだ。もはや、頼りになるのは自分たちの肉体と両手に握る自動小銃のみ。


 状況は絶望的だが、ここで負けるわけにはいかなかった。

 褐色の美少女戦士は、耳を澄ます。

 確かに聞こえる。

 敵軍が発する強力なエンジンの音と、瓦礫や残骸を踏みしだく無限軌道の音。

 そっと潜んだ瓦礫の山から顔を出す。

 地獄と化した街の先に、無数の蠢く大小の影が現れる。

 王国軍機械化部隊が、調子に乗った原住民を抹殺しに来ていた。


 敵部隊が、サーラたち革命親衛隊が陣取る瓦礫の防衛線に近付く。

 傍にいる若い女性戦士を見るサーラ。

 彼女の右手には、指向性地雷の起爆スイッチが握られている。

 サーラはその戦士に、まだ待てと合図する。


「ゴブリン1。ゴブリン各位、私の合図を待て。」

『了解。』


 小型無線機で部隊に同様の指示を飛ばす。

 さらに敵が近付く。

 先頭車両が、トラップ地帯に入り、後続車両も続く。

 敵歩兵の姿もハッキリと視認できる。


 今だ。


 サーラがそう思い、無線機で起爆を指示しようとした次の瞬間。

 それは現れた。

 空気を切り裂くローターとそれを回転させる重厚なエンジンの音。

 

 攻撃ヘリの大部隊だ。

 その数は、優に30機以上。

 ヘリ部隊は全速力でセティアの街の上空に到達すると、機首に取り付けた20mm三砲身ガトリング砲による弾丸の大雨を、街の残骸に潜むダニーク人たちに正確に叩き付け始めた。


 人狩り専用の強力な赤外線サーモを搭載した攻撃ヘリからは、隠れ潜むダニーク人たちの場所が手に取るようにわかるのだ。


 サーラの場所にも20mm砲弾の雨が降り注ぐ。

 少女は間一髪で身を翻しこれを回避。

 しかし、傍らにいた起爆スイッチを握る女性戦士の顔面に砲弾が直撃し、口から上の肉体組織を粉砕した。


「クソッ!!」


 サーラは悪態をつきながら起爆装置を拾うとそのスイッチを何度も押した。

 指向性地雷が一斉に起爆する。

 だが、効果は限定的だった。

 味方ヘリ部隊から敵の位置情報を伝えられた王国軍部隊は、速やかに散開して敵に備えた。

 この為、指向性地雷はその至近にいた2名に重傷を負わせただけで、敵に大きなダメージを与えることは出来なかった。一方、プラスチック爆弾は起爆しなかった。

 なぜだ?

 少女は、危険を顧みず周囲を見渡す。

 あちこちで親衛隊戦士たちが発する苦悶の声や悲鳴が聞こえる。

 先程のヘリによる猛烈な攻撃で、部隊は大打撃を被っていた。

 どうやら、プラスチック爆弾の起爆装置を持った兵士もやられたようだ。

 たちまちサーラのいる瓦礫の周囲に、敵兵士が放つ銃弾がシャワーのように浴びせられる。

 頭を下げ、敵弾をやり過ごす少女。

 赤黒いオーラが、彼女の身体を包む。



 殺す。たとえ、戦えるのが私一人だろうと、スタントール人を残らず殺す!!



 サーラは手にした堅牢な人民共和国製自動小銃のセレクターレバーを「単発」から一気に「自動」へと変更する。

 意を決して瓦礫から飛び出す。

 

 フルオート射撃。


 敵兵に向け、7.62mm弾30発を叩き込む。

 6人の頭部を撃ち抜き、3人に重傷を負わせた。

 しかし、その程度では焼け石に水である。

 すっかり見通しが良くなってしまったセティアの街を、横一列で突き進んでくる王国軍機械化部隊。

 少女に向け、歩兵戦闘車や装輪装甲車の機関砲が襲い掛かる。

 サーラに、猛烈な銃撃の嵐とそれにより巻き起こったコンクリート片による煙が容赦なく襲い来る。

 全力で瓦礫を駆け抜ける。時折フェイントを入れつつ、敵弾をギリギリで回避する。

 街の大通り沿いに建つ、辛うじて原型を留めていたビルの1階へと飛び込む。

 直後、背後で爆発。

 王国軍戦車が放った榴弾の炸裂である。


「ぐあっ!!」


 サーラは爆発の衝撃で吹っ飛ばされ、建物内の壁に背中を打ち付けてしまう。

 肺から一気に空気が漏れ出す。

 心臓が命の灯火を絶やさんと激しく脈打ち、アドレナリンが全身を駆け巡る。

 飛びかけた意識を何とか繋ぎ止め、身体を確認する。

 手も足もついてるし、動く。欠損無し。強かに打ち付けた背中に痛みはあるが、骨や筋肉にまで損傷は及んでいなかった。

 まだ、戦える。少女は立ち上がった。

 右手にはしっかりと自動小銃が握られていた。

 すぐさま点検し、空になった弾倉を新しい物に交換する。

 全く問題無し。やはり最高の銃だ。

 自由をかつえる戦士たちの相棒を構え、圧政者に立ち向かう褐色少女。

 

 敵兵数名が建物の中に入ってきた。

 オモチャのような5.56mm弾使用の自動小銃を構えていた。



 そんな銃で、私を殺せるものか!!



 照星の先に敵兵の頭部を捉える。


 発砲。


 マズルフラッシュが薄暗い半壊した建物内部を断続的に照らす。

 たちまち建物内に侵入した敵兵全てを射殺。

 直後、建物の外から猛烈な敵の応射。

 サーラは崩れ落ちた天井の梁の残骸に身を隠し、これを凌ぎつつ銃を突き出し、ロクに狙いもつけず外に向かって弾をばら撒いた。

 建物外では王国軍機械化部隊の兵士や装甲車が、サーラが潜む建物を解体するが如き勢いで弾丸を叩き込む。

 王国軍の戦車が砲身を動かし、建物内部へ照準を合わせる。

 もはや少女の命は風前の灯火だ。

 

 王国軍戦車の120mm滑腔砲が咆哮する。


 強力な対物榴散弾が、ダニーク人テロリストが潜む建物を吹き飛ばした。

 兵士たちは、油断なく銃を構えて建物の残骸へと進む。

 榴弾の圧倒的な破壊エネルギーは、そこに敵が存在した痕跡すら残さず、建物内部を徹底的に破壊していた。敵の掃討を確認した王国軍兵士たちは、別の戦闘場所に向かう為、瓦礫と化した建物を後にする。

 

 その時、彼らは気付かなかった。

 戦車の砲撃によって瓦礫に埋まった、建物地下倉庫へ続くハッチの存在に。

 彼らは、自分たちに絶対の殺意を抱くダニーク人少女を抹殺する最高の機会を失った。


……


 サーラは、ユーセフや親衛隊戦士の生き残り数名と共に地下の共同排水溝を進んでいた。

 彼女を戦車砲弾による死から救い出したのは、他ならぬユーセフだった。

 彼と戦士数名は、ヘリの攻撃から辛くも逃れ、サーラよりも先に、この半壊した建物へと辿り着いていた。そこで地下へと降りるハッチの存在に気付き、身を隠していた。

 やがて地上で激しい戦闘騒音が聞こえた為、彼がハッチを開けて外を覗くと、そこにはサーラがいた。敵の激しい銃撃に晒される部隊指揮官を安全な地下へと招き入れたのは、まさに戦車砲弾が直撃する寸前だったのである。


「同志ユーセフ。助かった。」


 サーラは素直に礼を述べる。


「礼には及びません、同志サーラ。

 この排水溝を辿れば、いずれ本部に到着する筈です。急ぎましょう。」

「あぁ、そうだな。」


 地元出身のユーセフが先を行き、サーラたち親衛隊戦士を目的地まで導く。

 ここは、彼のようなセティアに暮らすダニーク人にとって幼少の頃からの遊び場だった。

 街中での移動が極端に制限されている都市部在住のダニーク人たちは、このような網目状に張り巡らされた地下空間にその移動経路を見い出していた。

 

「ナリータや他の戦士たちは?」

「……すみません、同志サーラ……

 僕たちもヘリの攻撃から逃げるので精一杯で、皆散り散りになってしまいました。

 でも、ナリータ野戦指揮官殿なら絶対無事です。僕たちのようにきっと地下へ逃げてる筈ですよ。」

「そう願うしかないな。」


 サーラや親衛隊戦士たちは、油断なく周囲を警戒しつつ排水溝を進んだ。

 他の戦士たちのことが気掛かりだが、今は一度本部に戻り態勢を立て直さなければならない。

 先を急ぐサーラたちの前方、排水溝の右側面にある鉄製扉が開き、誰かが入ってきた。


 敵か?


 自動小銃を構えるサーラたち。

 しかし、直ぐに警戒を解いた。仲間だ。親衛隊の別の戦士たちの一団が、重傷を負った仲間や民間人の同胞を抱えて排水溝へと入ってきた。


「……あっ!同志サーラ!!おい、サーラさんがいるぞ!」

「本当?……サーラさん!ご無事ですか!?」

「おい!誰だよ、サーラさんが戦死したなんて言ったヤツは!?」


 戦士たちが口々にサーラの無事に安堵の声を上げる。

 だが、その中にナリータの姿は無かった。


「同志。皆も無事なようでよかった。同志ナリータはどうした?」


 すると戦士たちの表情が暗くなる。

 若い男性戦士が重く口を開いた。


「……同志ナリータは、民間人や重傷者を連れた私たちを逃がす為に、単身敵兵の大部隊に立ち向かわれました……」

「なんだと!?彼女はどうした!?」

「も、申し訳ございません。同志から『先に行け』と強く命令されたので、彼女がどうなったかは……」


 そう答えた戦士の目に、悔しさからくる涙が一筋流れる。

 サーラは戦士の肩に手を乗せ、厳しく詰め寄った自身の不明を詫び、次なる問いを投げかける。


「すまない、同志。それで、ナリータと別れたのはどこだ?」

「この奥です。メンテナンス通路の先は、地下鉄の駅構内に続いてます。

 同志ナリータとは、駅で別れました。」

 

 するとサーラはナリータ救出に向かう旨を伝えた。


「わかった。ありがとう。すぐに向かうわ。」


 これに若いダニーク戦士は驚きの表情を浮かべて制止する。


「えっ?危険です!同志サーラ!

 敵は戦車を伴う中隊規模以上の大部隊でした。いくら同志でも……」

「それでも行く。ナリータを見捨てることなんて出来ない。

 同志ユーセフ、彼らを本部まで必ず連れて行け。

 ここからは私一人で行く。皆、本部に戻れ!革命の灯火を絶対に消すな!!」

「わかりました!同志サーラ!ご武運を!!」


 親衛隊の戦士たちは背筋を伸ばし、部隊指揮官に敬礼する。

 サーラは戦士たちと別れ、一人戦場へ戻る。

 自動小銃を構え、メンテナンス通路奥の扉へと駆ける。

 扉に背中を預けると、ドアノブをゆっくりと回した。

 慎重に扉を開ける。戦闘騒音はしない。

 微かに敵兵らしき話し声が聞こえる。


 サーラは静かに地下鉄駅構内へと侵入した。

 所々天井のタイルや照明が落ち、様々なゴミや物が散乱して構内は雑然としていた。

 銃を構えつつ声がする方へ静かに進む。

 駅のプラットホーム手前の壁まで辿り着く。壁からそっと様子を伺う。


 そこにナリータはいた。

 両手を後頭部で組み、跪いている。

 上半身の戦闘服は大きく破け、逞しい筋肉と豊満な乳房が露わになっていた。

 全身傷だらけだった。

 跪いた彼女の周囲には、薄ら笑いを浮かべたスタントール王国軍兵士が多数。

 ナリータの身体を自動小銃の銃口で小突いたり、スパイク付きのコンバットブーツで蹴るなどの暴行を加えている。彼女はそれを、歯を食いしばり何とか耐えている。

 その兵士たちの中央、ナリータの真正面に女が立っていた。

 強力な分隊支援機関銃を持った紅い髪の女。

 サーラは、何故かその女に見覚えがあるような気がした。

 まだ物心ついたばかりの幼い頃、あの葡萄農園で見た気がする。

 血のように紅い髪をした少女。農園の持ち主であるリョーデック一家の娘。

 名前は確か……レシア!


「で、ダニークのクソ女。もう一回聞くぜ?

 お仲間はどこだ?テメェらのアジトはどこにある?」


 紅い髪の女が、機関銃の銃口でナリータの頬を突き回しながら問い質す。

 だがナリータは頑として口を閉ざしたままだ。

 鋭い眼光を、目の前の王国軍女兵士……レシア……に向ける。


「クソみたいな目であたしを見てんじゃねぇよ!ダニ女!!」


 レシアはナリータの六つに割れた腹筋に、強烈な蹴りを見舞う。


「うごっ!!ゲホゲホッ!!」


 ナリータは口から胃液を吐き出し、苦痛に顔を歪める。


「いいか、これが最後だ。テメェら蛆虫共の巣穴は何処だ?答えろ、茶色いダニ虫。」


 するとナリータは壮絶な笑みを浮かべて答えた。


「お前の腐ったアソコの中さ!お仲間に白くて短いナニを突っ込んで探してもらいな!」


 直後、レシアは機関銃の銃口をナリータの額に密着させると、そのまま連続発砲した。

 美しく逞しい褐色美女の頭部に10発近い5.56mm弾が叩き込まれる。

 端整なその顔は原型を留めない程徹底的に破壊され、駅のプラットホームに彼女の脳漿や頭蓋の破片が撒き散らされる。


 サーラの目の前が真っ赤に染まる。


 

 殺す!!レシア!!スタトリア!!地獄に落ちろ!!



 次の瞬間、彼女は壁から飛び出し、自動小銃をフルオートで撃ちまくりながら、敵兵に向かって突撃した。

 突如出現したサーラに、完全に虚を突かれたスタントール兵数人が瞬時に殺害される。

 レシアは分隊支援機関銃を腰だめに構えると、銃を乱射する褐色の亜人少女に容赦ない銃撃を加える。

 音速を超え飛来した弾丸の一つが、サーラの右こめかみを抉るように掠めた。

 頭に強い衝撃が走り、少女はそのまま後ろに吹っ飛ぶように倒れる。

 気を失ったサーラに、油断なく銃を構えて近寄るスタントール兵たち。

 するとそこに、武装したダニーク人たちが駅の奥や地下鉄線路の奥から大挙して現れた。

 激しい銃撃を、王国軍兵士に浴びせる。

 瞬く間に、兵士たちは一人また一人と撃ち倒され、形勢は一気に王国軍側に不利となった。


「クソッ!!なんだこの数は!!」


 レシアはホームのベンチに身を隠し、殺到する原住民武装兵の大軍に応戦するも、とても捌き切れない。


「姐さん!こいつはヤベーよ!!一旦退こう!」


 仲間の王国軍兵士の一人が、レシアに撤退を具申する。


「クソッタレが!!後退!後退!!」


 やがてレシアとその取り巻きの王国軍兵士たちは、牽制射撃を繰り返しながら、駅の改札口を越えて地上へと続く階段を登り姿を消した。

 

「サーラさん!!」


 戦士の一人、ユーセフがサーラの元に駆け寄る。

 彼らはサーラと別れた後、無事に本部へ戻り、応援部隊を連れて急いで戻ってきたのだ。


 最高の革命戦士である歴戦の少女が、頭から血を流して気を失っている。


「こっちだ!誰か来てくれ!同志サーラが負傷!!」


 すぐさま周囲の褐色肌の戦士たちが深刻な顔をして集まる。

 医学知識を持つ女性戦士が、サーラに応急処置を施して頭に包帯を巻く。

 そして彼女の身体を持ち上げると、ユーセフの背中に背負わせた。

 別の戦士が、無残な遺体となったナリータの身体を持って線路の奥へと向かう。

 プラスチック爆弾を手にした戦士らは、駅の階段入口や改札口に爆弾をセットすると、すぐさまこれを吹き飛ばした。地上へと続く階段は爆発によって完全に瓦礫で埋まり、何とか敵の地下への再度侵攻を防ぐことに成功する。

 

 サーラは気を失ったまま、ユーセフの背中に揺られながら解放戦線本部へと帰還した。



 セティア占領から10日後に始まった王国軍の大反撃により、ダニーク解放戦線は尋常ならざる大損害を被った。

 市内に展開していた主だった解放軍戦闘部隊は壊滅。

 数え切れない程のセティアで暮らすダニーク人の女子供老人が殺害された。

 翌日、スタントール王国軍は「セティア奪還」を宣言。

 セティア反攻作戦の中核を担い、たった一日で街を取り戻した独立第305機械化歩兵大隊のことは、彼の国の新聞やテレビで大々的に報道され、彼らは一躍ファーンデディアの英雄となった。




 歴戦の少女サーラが、地下深くの解放戦線本部に無数に用意された負傷者用ベッドの一つで目を覚ましたのは、「セティア奪還」から3日後のことだった。

※この後書きは本編とほとんど関係ありません※


【新暦1925年2月4日付 スタトリアン王国通信社(中道右派メディア)

                 戦時特別報道新聞 一面記事より抜粋】

●共和国陣営に重大な戦争犯罪の疑い 中立国の大戦介入の可能性も●

 ロングニル王国連合政府は2日、国内のハイエルフ自治国家・アレフィー自治領がアーガン人民軍及びエルエナル南方派遣軍により、ほぼ壊滅したことを明らかにした。

 アレフィー自治領は、国際自然保護条約によりハイエルフの高度自然文化の保護の為に一切の機械文明の介入が禁じられたハイエルフの自治国家(外交・国防はロングニル依存)であるが、ここに共和国陣営の戦闘部隊が侵入し、無抵抗なハイエルフを一方的に虐殺した疑いがもたれている。

 現在、ロングニル政府は「状況を調査中」としながらも「難民となって逃れてきたエルフたちの証言によれば、彼らの絶滅を目的とした組織的虐殺が行われた可能性が極めて高い」としている。もし、これが事実なら「民族虐殺」という世界史上類を見ない重大な戦争犯罪行為であり、これまで大戦への不介入を貫いてきた中立諸国や東方大陸諸国の反発は必至とみられ、共和国陣営側にとって形勢は大きく不利となる公算が出てきた。

 カリーシア・シノーデルⅡ世女王陛下(古き王国よ偉大なれ)御親政下王国政府は昨日3日、非難声明を発表。「かかる共和国の大罪を、女王陛下は決してお許しにならない。殺戮犯罪集団である人民主義者と全体主義者は死を持ってその罪を償うべきだ」とし、我が国国内の人民主義者へのより一層の取り締まり強化を行うと明言した。


(後略)

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