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 あの雨の日の契約から十七年。本当に様々な事があった。

 Drの勧めで外界へと旅立った青龍は、努力の末に見事夢を叶えた。現在は個人事務所を構え、一児を養う立派な母親だ。


―――それにしても、よくも毎回新しい料理屋を探してこられるものだな。

―――顧客の一人にグルメ専門記者がいて、会う度にお勧めのレストランを紹介されるんだ。要望があるなら、今度会う時までに訊いておくが。

 

 末妹とは今でも専用携帯を介して連絡を取り、年に二、三回は直接顔を合わせる仲。家族等を欺くため始めた変装も、最近はすっかり慣れた物。長髪のカツラを被り、それらしい洋装をすれば、こんな私でも一人前の女に見えるのだから不思議だ。

「?どうした、流流?」

 五龍都唯一の展望台。普段通り取り留めの無い話に興じていた私は、ふと隣の友人を見やった。

 最古の“羅刹鳥”は、何時に無くぐったりと頭を垂れている。赤い眼も何処か気だるげな上、陽光すら眩しいのか瞼を半分閉ざす有様だ。

「気ニシナイデ……最近、時々コウナルノ。飛ブノモ酷ク億劫ニナッテ……食欲モ、アナタト友達ニナッタ頃ヨリ随分減ッタワ」

「何?おい、何故今まで黙っていた!?」

 言いつつ胸部の羽毛へ手を差し入れ、素人ながら触診を始める。

「代々黒龍の日記には特に何も書かれていなかったが、若しやお前達にも罹る病があるのか?ふむ……駄目だ、分からん。何処か痛む所はあるか?」

 問い掛けつつ周囲を見回す。どうやら彼女以外の“羅刹鳥”は相変わらず元気なようだ。となれば、伝染病の類ではないだろう。一族の中では彼女が最年長なので、可能性が高いのは老衰か。だが不死者に当て嵌まるとは、

「無イワ。尤モ、コノ身体ハ苦痛ヲ感ジナイカラ、ドンナ感覚ダッタカモ忘レテシマッタケレド……」

 悲痛に呟いた彼女は、心配掛ケテ御免ネ、首を左右に振る。

「デモネ、本当ニイイノ。蘇生ヲ望ンダ大哥ダーグーハトウノ昔ニ死ンデシマッタシ、私ハ充分長生キシタ。気懸カリハ禍ダケド、最近ノ彼女ハ一人ジャナイカラ」

「ああ。あの鬼とか言う鱗面の男か」

 本人は巧く立ち回っているつもりだろうが、こちらも生憎現役の暗殺者。跳梁跋扈する者を見つけるのはお手の物だ。

「そうだ、奴に診察を頼むと言うのはどうだ?あれは龍神の眷属だ、少なくとも私よりは何か分かるのでは」

「残念ダケド、彼ニモ数日前ニ診テモラッタノ。原因不明ダッテ謝ラレタ。私ニ気ヲ遣ウ必要ナンテ無イノ二……」

「龍神は?蘇生は奴が行ったのだ、生体維持も朝飯前の筈」

「星」

 ふる、ふる。彼女はこれ程細い首をしていただろうか。触れたが最後、ポッキリと折れてしまいそうだ。

「仮令消滅スルトシテモ、今日明日ノ話ジャナイワ。飛ベナイ程弱ッテキタラ、キチントオ別レスルカラ……アナタハイツモ通リニシテイテ、オ願イ……」

「……後で私の血をやる。それなら流石に口に出来るだろう」

「エエ………アリガトウ、星」  

 礼を述べた先達はファサッ、畳んでいた片翼をゆっくり広げる。そうして雛にやるように、先端の羽毛で私の背を優しく撫ぜてみせた。




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