表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

4



 そうして二分後、ようやく智将は覚醒した。


「ん……黒姐………!?」グイッ。「後少しだろう。私などに構わず読め」


 強引に俯かされた末妹は、済まない、小声で詫びてから読書を再開。だが捲る左手の速度が尋常ではなかったので、下手な気を遣うな、再度注意を飛ばす。

「?―――ああ、問題無いさ。小さい頃、父から速読の訓練を受けて以来、ずっとこのスピードだ」パラッ。「今はまだ眠気が残っているから、寧ろ遅い位だ」

 フッ、と息を吐く。

「兄長が覗き込んでいる時は流石に合わせるが―――研究熱心、とは少し違うな。私はただ、知識欲が人より旺盛なだけで」

 ペラッ。

「現にこの小説も、凡そ策を編む役には立たない」

 そう弁解する智将の静かな蒼目に、死者で埋もれたこの都は映っていない。遥か遠くの地、光輝ける未来を見据えていた。と、パタン。本が閉じられる。

「待たせて済まない。早く中へ入ろう」

 起立した彼に引かれる腕は、雨滴を受け若干冷えていた。床を汚す程ではないが、僧服も全体にぐっしょり濡れている。

 窓辺で私を解放した青龍は、急ぎ足で風呂場へ。バスタオルを抱え戻る様は、まるで童のよう。

「一先ずこれで拭いていてくれ。浴槽に湯を張ってくる」

「必要無い」

 肌に張り付く僧服の上半分を脱ぎ、受け取った布で頭から順番に拭う。

「風邪を引くのはお前の仕事だ」

「しかし」

 ゴシゴシ。

「ところでそれは何の本だ?」

「弁護士が主人公の法廷フィクションだが……」フィッ、背を向けつつ頭を下げる。「……済まない。唐突過ぎてつい反応が遅れてしまった」

 うっすら頬を染めての弁解。数瞬思案した後、はっははは!!私は噴き出した。

「??」

「ふふ……無性の裸体で赤面とは。青龍、お前は実に愉快な娘だな」

 膨らむ気配すら無い胸を張り、一頻り笑う。

「そこまで可笑しがらなくてもいいだろう。精神的にはどうあれ、少なくとも私はあなたを男性であり女性でもあると認識している。だから」

「自分の病気治癒より先に、私へ両性の儀式を、と?」

 つくづく酔狂な参謀だ。

「当然だ。混血児の私などより、黒姐の方が純粋に戦闘能力が高いのだ。全く、あの人は長として正しく優先順位をだな……」ブツブツ。

 粗方清拭を終え、服を纏い直す。着替えたいのは山々だが、生憎まだこの健気な妹との会話を終える気にはなれなかった。

「では青龍。その弁護士とは何だ?」

 標的の職業として、二、三度耳にした事はある。しかし法律関係者と言う以外無知に等しい。

 すると彼女は口元を綻ばせ、仕事内容は多岐に亘るが、そう前置きした。

「一般的なイメージは法廷弁護士、つまりは正義の味方だ。実情は財産管理等に携わる事務弁護士の方が多いのだが、矢張り弁護士の花形と言えば裁判だからな」

「ふむ。その正義、我等“龍家”とどちらが強い?」

「ふむ……一概に比較は出来ないな。何せ弁護士の武器は弁論と証拠、どちらも人を殺めない物だ。そもそも戦うフィールドが違う」

「成程。何となしにだが、お前が憧れる理由が理解出来た気がする」

「おかしいか?」

「いや。寧ろこの都は、聡明なお前には狭過ぎる」

 幾分体温を取り戻した右手を差し伸べ、はち切れんばかりに知識の詰まった頭蓋を撫でる。


「良し。もし、お前がその弁護士とやらになれたなら―――私が記念すべき最初の客になってやろう。どうだ、不服か?」


 暗殺者らしからぬ申し出に、いいや、私で良ければ喜んで。首肯した家族は、何処か辛そうに睫毛を伏せた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ