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 暗転の後、次に投影されたのは自室だ。


―――何故恨む必要がある?あれは毒への耐性を高めるための処置だったのだろう?


 当時の私は父同等いや、それ以上に愚かで浅はかだった。亡霊の血を半分受け継ぐ末妹、青龍に嫉妬する程度には。

 先代の急な客死に因り、若干十六歳にして“龍家”入りを命じられた少女。だが予想通り知略はともかく、身体能力は我等に遠く及ばないレベルだった。

 それでも特に兄長が目を掛け、襲名後間も無く奴は我等三龍と同等扱いとなった。長年の辛い修行も経ず、だ。面白い筈が無い。

 体内に蓄積した砒素が抜け、退院したのが一昨日の昼。そして昨夜ここへ、私の部屋へと訪れた。だが、


―――勿論秘密にしておくさ。私は黒姐、あなたを心から尊敬しているのだから。

 

 絶対的信頼。疑いを知らぬ無垢な心に、私は己がちっぽけな僻みを木っ端微塵にされた。同時に深く自覚してしまった、言い表しようの無い苛立ち。あの小娘と話していると、未経験な感情ばかり呼び起こされる。

 今朝から自室に籠もり紫微斗数で奴を視るも、結果は曖昧模糊の一言。占者の精神状態を反映し、肝心の解釈が揮わなかったのが主原因だ。


「ん……雨雲か」スッ。「今にも降り出しそうだな」


 バルコニーに出、数ヶ月振りに暗い灰色の空を仰ぐ。途端ポツリ、と額に一滴。

 雫を袖で拭いながら室内へ戻りかけ、はたと階下を振り返った。果たして二階下。私と同じ留守番役は安楽椅子に座り、天候の変化にも気付かず読書に勤しんでいた。

「おい、青龍!雨だぞ、中に入れ!!」

 手摺りから上半身を乗り出し忠告してやるも、見事に無視。没入中か、生意気だと兄長がボヤく訳だ。

 久方振りに邪眼を全開にし、刻々と怪しさを増す曇天を仰ぐ。今日の空はすこぶる機嫌が悪そうだ。

「……(首を緩く振り)全く、つくづく手間の掛かる」

 自室を後にし、早足で階段を下る。奴と長の部屋の扉をノックするも、予想通り返事は無かった。失礼、一声掛けて室内へ。

 持ち主達の性格を反映し、兄妹の私室は整理整頓が行き届いていた。特に目に付くのは中央のキングサイズベッドと、部屋の隅の書籍か。先代青龍の書庫から拝借したのだろう。古今東西、あらゆる地方の戦術書が縦に数列積み上げられていた。

「おい、青……」

 開放された窓を潜ると、虚弱体質者は暢気に舟を漕いでいる最中だった。呆れつつも右腕を奴の頭上に掲げ、僧服の袖を雨盾とする。

 溜息を吐き、太腿の上に広げられた紙面に目を落とす。戯作物か?仕事熱心な彼女にしては珍しかった。




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