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 事態の急変に驚愕こそしたが、淡々と墓所へ歩を進める。愚民共の無視など、“龍家”にとっては痛くも痒くもない。幽霊めいた錯覚も、慣れればどうと言う事も、


「―――ソレハ違ウ、当代黒龍」バサッ、バサッ!「っ!?今喋ったのはお前か、“羅刹鳥”……?」


 旋回しつつ目の前へ降下した骸喰らい。その顔面より大きく突出する、鮮血色の両眼。そこに投影された己が白目は漆黒に染まり、瞳も禍々しい金色へと変貌を遂げていた。

「ソノ眼コソ、現ノ鏡。龍神ヲ、禍ヲ忘却スル事ヲ拒ンダ私ヘ与エラレシ祝福」

「祝福だと?貴様、今見えている光景こそが真実と……そう言いたいのか?」

 ならば、我等はとんだ道化ではないか。亡者を囲い、為政者一族を気取るなど、端から見れば狂気の沙汰でしかない。

 同時に深く得心が行った。この男が生前、終ぞ固き瞼を開かなかった理由を。五龍の中で己のみが得た、小さき楽園の真理。その絶対的矛盾を誤魔化すには、眼を終始閉ざす以外術は無い。  

「ならばどう足掻いても、私に拒否権は無いのだな……くっ、はっはっはは……!」

 墓地に響き渡る乾いた笑い。足元の腐肉狙いだろう。周囲の樹上に留まる複数の“羅刹鳥”達が恰も、応じるようにゲェゲェ、と低く鳴いた。

「ゴメンナサイ。デモ、ドウカ絶望シナイデ」

 バサリ。漆黒の片翼を広げ、腕代わりに差し伸べる“羅刹鳥”。これ程至近距離で対峙するのは初めてだ。獣に混じり、屍特有の異臭が鼻を突く。

「コレマデノ黒龍ハ皆、私ノ呼ビ掛ケヲ無視シタ。耳ヲ傾ケテクレタノハ、アナタガ最初」

「何?では、この男も」

「是。彼ハ追イ払ウダケデハ飽キ足ラズ、何度モ私達ヲ切リ刻ンダ。悲鳴ハ届イテイタ筈ナノニ……」

 ツー……赤黒い液体が半人半鳥の頬を伝う。

「……名は」

「エ?」

「名乗らぬなら、他の連中と一緒くたに認識するしかないな」

 涙程度で甘いな、私は。暗殺者失格だ。

「―――流流リゥリゥ。初代黒龍ニシテ、最初ニ蘇生セシ者」

「蘇生……そうか、了解した」

 矢張り代償を要求されるのか、あの祈願は。だが真実を知った私には、金輪際関係の無い話だ。

 ドサッ。掴んでいた死体の足首を手放し、持って行け、先祖に顎で示した。

「丁度後始末が面倒だった所だ。こんな愚者でも腹の足しにはなるだろう」

「……謝謝シェイシェイ。アノ、マタ声ヲ掛ケテイイ?」

 ヒュー、ヒュー。風の音に近い唸り声。

「長時間ノ会話ハ無理ダケド、苦シミヲ分カチ合ウ事位は出来ルカラ……」

「フン、酔狂な奴だ」

 前脚の鉤爪で死体の頭を鷲掴む彼女に背を向け、私は道を引き返し始めた。襲名の儀の滞り無き終了を五歳年上の長、当代黄龍へと報告するために。




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