七話:兎の言葉は話されない
--ダンジョン-最上階-心臓石の間--
落ち込んでばかりもいられない。来るその日に備えて、ダンジョンを強く大きくしていかなければならないのだ。(来て欲しくない。)
一階にいるシープ達は、無言のまま敵を駆逐している。
「ふわふわ草原のバフがすごすぎる…」
「全ステータス三倍じゃからのう。」
「無双だね…」
シープ達には無理をしないように言ってあるので、その無双シープが疲れて寝ているときに襲ってきた魔獣は二階に駆け上がって行く。
「二階は林…でいいんだよね?」
「えげつないがの。」
「どこが?」
先の創造で出したスライムはほとんど二階にいる。
どこが?ではない。バケツに入ったスライム達はその重さを活かして高い木の上から襲撃者に襲いかかるのだった。
しかも体を広げてパラシュートのようにしながら方向転換し、真上に来たらズドン。
バケツはとても丈夫なので、スライム達は回避不可能な即死トラップと化していた。
とはいうものの、さすがにランクFでは一撃で倒すのは無理らしく、定期的に頭を狙って落ちて来ているようだった。
「あ、また10万DPが貯まったよ。今度はシープの装置を買おうかな。どう思う?」
「いいんじゃありませんの?もうチュートリアルは終わったわけですし、ナビは積極的に口出しできませんもの。」
あ、そうなんだと少しの寂しさを感じつつ、レイはシープの装置を購入しようとショップを開く。
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自動生産装置
ランクF:シープ(草)を購入しますか?
所持:10万2000DP
必要:10万DP
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「あるじさまよ、バッファローが攻めて来たぞ。」
「え?バッファロー?牛?焼き肉?いや、水牛だっけ。ミルクか。」
「何をアホなことを言っておるのじゃ。ヤバイのじゃ!」
「え?」
まだダンジョンできて一日も経っていないのに、とんでもないスピードでトラブルが起きている。
「まだできたばかりなのにやたら魔獣が攻めてくると思ったら、ゲリラだったのですわね!」
「ん?何?聞いてないよ?そういうのを後出しジャンケンとかご都合主義って言うんだよ?」
「普通に運営していくぶんなら知らなくてもいい情報だから詳しい説明もしませんわ。」
「えっ?」
「バッファローはランクC以上のモンスターでなければ太刀打ちできませんわ!レイ、早くガ…創造を!」
「ガチャ?ガチャって言いかけたよね今?」
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所持:100000DP
ノーマル
1回 100DP
10回連続(ランクD一体確定) 1000DP
100回連続(ランクC一体確定) 1万DP
レア(C以上確定)
1回 1000DP
10回連続(ランクB一体確定) 1万DP
100回連続(ランクA一体確定) 10万DP
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「ここでケチってる場合ではありませんの!10回連続を引くのですわ!」
「さっき指図しないとか言ってなかったかな!?」
「臨機応変にですわ!プライドだけじゃなく器も小さいんですの!?」
「ボロクソ言われてる…」
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ランクC:スライム(草)
ランクC:スライム(草)
ランクC:スライム(草)
ランクC:スライム(草)
ランクC:シープ(草)
ランクC:シープ(草)
ランクC:ウィンド(草)
ランクC:ウィンド(草)
ランクB:ラビット(草)
ランクB:ウィンド(草)
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「お、お、おお?デジャヴ!?」
このままではラビットが特殊進化してしまうかもしれない。寂しさは誰だってツラいのだ。
「さすがレア!ようやく別の種族が出ましたわね!」
「やったのう、あるじさまよ!」
「馬鹿にされてる?」
はっはっは。
「…キュ?」
「キューキュッ。」
返事をしたのはミーハ・エルビスビス。
「キュキュ?」
「キュキュキュ。」
「キュキュキュ?」
「キュ?」
「キューキュキュキュ。」
「キュキュキューキュ。」
「キュッキュキュ。」
「キューキュキュキュ。」
「ふむ。」
「しゃ、喋れるの?」
「いや、喋れる訳がなかろうて。」
「え?」
「そんなことも分からぬのか?」
「なんだと!」
レイの扱いは回を追うごとに雑になっていき、おそらく最後は空気と化すであろうことが予想された。
そもそも、初見で性別が分からないような人物が尊重されるはずがないのだ。今現在もビジュアルがふわふわしているような輩に誰が敬意を払おうか。
はっ(笑)!
「それで、なんて言ってるんですの?」
「ふむ。戦いたくなどないのでお庭が欲しいと言っておる。」
「喋れるのかよ!」
「喋れるわけなかろう。あるじさまは愚かじゃのう。」
「なんだって!?」
喋れるというのと分かるというのとでは大きな違いなのだった。
「何にせよ、今は時間がないのですわ!」
ナビ・ナビが叫んだ。
「そ、そうだね!みんな、頼んだよ!」
ラビット以外は、急いで部屋から出て行った。
「あー…」
「キュキュ?」
「……うん。」
レイは駄目な上司です。
「心配だから、見に行くのですわ。」
「そうだね。行こう。」