四話:スライム(F)は突進される
--ダンジョン-最上階-心臓石の間--
敵が来るまでは暇なので、心臓石の機能を色々試すことにしました。
心臓石には本体とその欠片があって、モンスターの創造とダンジョンの増減築は本体でしか行えません。アイテムの購入やモンスターの強化なんかは、欠片の方でも行えます。
あとこれは心臓石の間で行えることで、ダンジョンの中をいつでも好きなところを好きなように見られます。無限監視カメラみたいなものです。
ダンジョンクリエイターは自分のダンジョン内では自在に転移ができて、指定したものも一緒に連れて来られます。同意がいるんですが。これは結構便利です。
ダンジョンが攻略されて本体の活動が停止すると欠片は使えなくなります。生み出したモンスター、ダンジョンも全て消えてしまいます。ただ、購入したアイテムだけは残るようです。
ただ、ダンジョン自体が消滅してしまうので運び出さないといけません。モンスター以外の生き物と装備品は消滅時に転移によって外に出されるようです。
「ねえナビ。モンスター、魔獣、魔物の違いって何?全部おんなじじゃないの?」
「モンスターというのは、ダンジョンの心臓石によって生み出された、生き物ですわ。要するに、ダンジョンと一緒に消える生き物ですわね。
魔獣は魔素の影響によって変異した動物、魔物は動物以外のものですわ。」
「えっ、じゃあ魔獣や魔物って結構少ないんじゃあ…」
「始祖は少なくても、何かしら繁殖の方法を持っているものですわ。
繁殖能力を犠牲にして強大な力を得る魔獣や魔物も居りますけれど、極少数ですわ。寿命も長いし、戦闘能力も高いしで見つけたら退治が基本ですわよ。」
「へぇ…それにしても、ナビは物知りだよね。」
「ふむ、さてはあるじさまは異世界人かの?」
「うええ!?よ、よく気づいたね…」
びっくりしました。
でもミーハ・エルビスは不思議そうに言います。
「別段驚くことでもあるまいて。あるじさまは、あまりこの世界のことを知らぬようであるし。そもそも結構おるしの、異世界人。」
「いるんだ…」
うーん、ますますイメージと違う異世界転移。ダンジョンクリエイターという職業はもらったけど、最強でも特別でもないわけか…謙虚にやりましょう。
「あ、そういえばそうだ。自分の強化もできるんだよね。」
魔法が使える!やった!
「【クリエイター強化】画面があるはずですわ。でも、結構高いですわよ。」
「え?」
【クリエイター強化】画面から【魔術】、【初級】、【攻撃】を選択してみた。
ーーーーーーー
所持:2DP
【初級魔術(火)】
【初級魔術(水)】
【初級魔術(草)】
【初級魔術(光)】
【初級魔術(闇)】
ーーーーーーー
【初級魔術(草)】選択。えいっ。
ーーーーーーー
【初級魔術(草)】を取得しますか?
所持:2DP
必要:100万DP
⚠︎DPが不足しています
ーーーーーーー
「ひゃ、ひゃくまん!?初級で!?」
世の中ままならない。
魔法を使えるようになる日はいつになるのやら…
「ふむ。のう、あるじさまよ。どうやら敵襲のようじゃぞ。」
ずっと監視を続けていたミーハ・エルビスが言った。ちなみに、さっきのナビ・ナビのくくりによれば彼女はモンスターではない。死にかけの魂が魔素によって活性化されて実体を持ったわけなので、魔物だ。
「本当?スライム達は大丈夫なの?っていうか何が攻めて来………え?」
シープの群れでした。
「メェェェェェ!!」
「…」
「…」
「…」
「Cランクになれば鳴き声が出るようになるのですわ。」
ナビ・ナビが疑問に答えてくれました。
--ダンジョン-一階-草原--
『(あ、あれはっ…!)』
もふもふが敵を睨め付けていた。何を言っているのかは定かではないが、なんとなくその視線が好意的であることが汲み取れた。
その程度には、スライム(F)は敏感だったのである。
『おい相棒、ソイツは敵だぜ。』
ポコンと跳ねると、もふもふは俯いてしょんぼりした。カコン、とバケツが動いた。
『(…向こうに、行きたいよ。)』
『…行きてえのかよ、向こうに。』
もふもふが振り返った。言葉は通じない。
でも、なんとなくわかる。
『寂しいんだろ。オメーはよ。』
『(…慰めてくれるのかな。)』
『…行っちまえよ。ボスには、俺から言っとくからよ。』
スライム(F)は、そう言ってポコンと跳ねた。この甘えん坊な友達のためなら、拳骨一発くらい食らってやらぁ…スライム(F)は呟いた。
『(仲間、だ。)』
立場は違えども同じ種族。バケツを被っているので一向に気づかれる様子はないが、取ったらきっと気づいてくれるだろう。
草食のシープは、外敵に襲われて食べられないために強くなる。敵を倒すのは、食べるためでなく強くなるためなのだ。縄張り争いでもないのだ。同族と争う理由はなかった。
だから、シープはトコトコ歩いて行ってメェと鳴けば(いや、鳴けないけど)めでたく群れの仲間入りなのだ。
すごく魅力的だった。
『(…でも。)』
敵は迫ってくる。シープは迷った。
『射程圏内だ!撃てーーーっ!』
ぽひゅん、ぽひゅんとスライム達が毒液を飛ばす。シープはすることがないのでぺたんと座る。
敵のシープ達はすばしっこく避けている。
「メェェェェェ!!」
『(やるぞー!)』
『(バケツのオバケをやっつけろー!)』
バケツのオバケだと思われているようだ。シープはショックを受けた。オバケじゃないのに。
スライム(F)は深く落ち込んだシープに同情した。何があったんだ?
『襲いかかれー!』
『いけー!』
カコンカコンとバケツが跳ねる。シープは取り残されてしまった。
『(どうしよう、どうしよう!)』
『尻込みしてんじゃねーぞ、兄弟!』
スライム(F)はそう言って、バケツをポコンと殴った。
『おいっ、あぶねーぞお前らあ!』
シープ(D)が突進して来た。シープ(E)はボーっとしている。スライム(F)は咄嗟にシープ(E)を庇って飛び出した。スライム(F)は投げ出された。
『(スライムっ!)』
シープ(E)はスライム(F)追って、走った。ランク二つ分上の高レベルからの突進だ。普通なら即死だが、バケツがクッションになり奇跡的に命を守った。
しかし瀕死であるには変わりない。スライム(F)は今にも消えそうだった。
『(スライムっ!)』
『バーロ…何追っかけて来てんだ…』
『(ごめんっ…ボクが、ボクが油断していたばっかりにっ!)』
『ははっ…泣いてんのかよ、ったく…弱虫なヤツ。』
戦況は厳しい。高レベル高ランクの敵に、スライム部隊は遠距離からぽしゅっと液を飛ばすしかできない。
『…ほら、逃げな…お前、だけでもよ…一匹くらい、見逃してくれっだろ。』
『(っ…『小回復』!)』
シープは、自分の生まれ持ったたった一つのスキルを使う。
しかし、一瞬増えたHPはすぐに消えて行く。
『(『小回復』『小回復』『小回復』『小回復』!)』
魔力はすぐに枯渇した。やがて、弱々しい光すら消えてしまう。
「死んじゃやだぁぁぁぁ!!!」
『…シープ…お前……。』
スライム(F)は動かなくなった。
シープは悲痛な叫び声を上げる。
スライム部隊も壊滅状態。シープは絶体絶命だった。シープにできるのは、『小回復』だけなのだから。
でも、シープは諦めなかった。
枯渇した魔力を振り絞り、狂ったように『小回復』を放ち続けた。
スキル:『魔力変換』を取得し、体力をも削っていく。
オートスキル:『光合成』を取得し、体力魔力とも回復させる。
レベルは凄まじいスピードで上がっていく。限界を超えたスキル使用が経験値として血肉となる。
・・・最大レベルに達しました・・・
・・・進化条件を満たしました・・・
・・・特殊進化条件を満たしました・・・
『ボクは強くなる…仲間《スライム(F)》を助けるために…!』
シープは鳴いた。
天に届かんばかりの、それは号哭だった。
--??-?-?--
強く…
──魔力増幅。
強く…
──攻撃範囲拡大。
強く…
──知力補正。
強く…
──魔法攻撃補正。
強く…
──回避補正。
強く…
──スキル:『天使の加護』解放
強く…
──スキル:『人魚の歌声』解放
強く…
──スキル:『女神の酔夢』解放
強く…
──スキル:『虹妖精の舞踊』解放
強く…
──スキル:『オーロラの白昼夢』解放
強く…
──オートスキル:『もふもふ天国』解放
強く…
──オートスキル:『変異体の業』解放
強く…
──オートスキル:『精神状態異常無効』解放
強く…
──オートスキル:『草色の枕』解放
みんなを守るために…
──支援特化。
…ちょっとだけ…
みんなと…
おしゃべりがしたい…
──オートスキル:全言語理解解放。