一話:ナビ・ナビは自己紹介する
--シルフの草原--
「ハロー。」
「ヒィッ!?」
「ヘブシッ!」
一人取り残されて呆然と突っ立っていると、突如背後から声をかけられました。吃驚して回し蹴りを決めてしまいました。
「あーっ!ごめんなさい!ごめんなさいっ!?」
同じ轍を踏みました。レイ、不覚です。
至らない人間でごめんなさい。
学習したいです。
「反応速度が早すぎますわ…本当に人間ですの?」
「はい?」
「余計なことを言いましたわ。ナビはナビ・ナビというのですの。」
「ん?」
「ナビ・ナビですわ。」
「…ああ、ナビさん。」
髪にはうねる黒の先に、暗い青。瞳は深いグリーン。Tシャツにホットパンツという、とても親しみやすい格好であるにもかかわらず、美少女オーラが前面に押し出されています。
年齢は20を少し過ぎたところでしょうか。お世辞にも年齢を当てるのが得意とは言えない鑑定眼では怪しいものだけど、それ以前にナビは彼女自身が言うようにナビなのだからナビであるゆえに歳などとらないのかもしれません。
生きていた時間など、意味をなさないのかも。
っていうかめっちゃ可愛い。おっぱいおっきい。バインバイン。
「レイはナビをナビと呼んで下さいまし、所詮ただのナビですわ。」
「あ、うん。ナビ。」
え?ナビは普通に呼び捨てなの?
…まあいいんですが、こう、釈然としない何かが…
「早速、レイの根城となるダンジョンを作っていきますわ!ダンジョンは大きく分けて三種類ありますの。
まずは地中にあり、階層を重ねていくことに深くなっていくもの。ジャガイモ型と呼ばれてますわ。」
「ネーミングセンス…」
「次に塔の形をしていて、階層を重ねるごとに高くなっていくもの。アスパラガス型ですわ。」
「…野菜縛り?」
「最後に、フィールド一つで、中心に行くほど階層が深くなっていくもの。キャベツ型ですわ。」
「野菜縛りだよね。」
「どんなダンジョンも亜空間に作るのですわ!」
「へぇ。すごいね。」
「レイは何にするんですの?」
「うーん、塔…アスパラガス型にしようかな。」
閉所恐怖症だし。地下とか怖いし。
臆病でごめんなさい。
「多分最下層に住むことになるんだよね?」
「最上階でもありますわ。ま、そういうことですわね。レイはダンジョンクリエイターだし。」
「ダンジョンクリエイター?マスターじゃないの?」
「何を言っていますの?今のレイではレベル1のスライムにも歯が立ちませんわ。」
「うえぇっ!?」
えっ?トリップすれば主人公って最強になるんじゃないの!?特殊能力とかないの!?
あ、はい。ないですよねすみません。
「何ショックを受けてるんですの?」
「じゃあステータスは!?」
「あるのはレベルとスキルだけですわ。」
「えぇ…」
思ってたのと違う。
「魔法とか使えないんだ…」
「魔術ならありますわ。」
「おお!」
「でも努力と才能ですわね〜。」
「おお…」
「でも、レイなら大丈夫ですわ。ダンジョンクリエイターは魔素を直接操れますの。操るにはDPが必要ですけれども、ダンジョンの運営をしていけば湯水の如く使えるようになるのですわ!」
「やった!」
考えてみればお湯も水も大量に使っていいわけでは決してないんだけども。
俄然やる気は出ました。魔法使いを目指していざ行かんっ!
「さあ、ダンジョン作るぞー!」
「…ようやくですわね!?」
「どうやればいいの?」
「入り口を決めて、“ダンジョン・クリエイト”と言えばいいのですわ。せっかくだから森の中とかにするといいのですの。こんな原っぱじゃ目立ち過ぎますわよ、レイ。」
「そうだね。」
賛成して、ナビについて近くの森に入ります。季節はやっぱり初夏なのか緑は盛んに萌えているし、森の冷ややかさがむしろ気持ちいいです。
こういう森は割と好きな場所かも…そう思いました。
「ピンと来る場所があったら教えて下さいまし。場所決めは直感が命ですわ!」
「…」
しばらく歩くと、急に視界が開けました。そう広い広場というわけではないのだけれど、偶然なのかそうでないのか、乱立している木々がそこには一本もありません。
いや、正確には、一本を除いて…ですが。
「ナビ、この木は…」
「年老いた森妖精の亡骸ですわ。魔素の濃度も普通ですし、ただの枯れ木ですわね。」
「枯れ木はないんじゃあないかな…」
うん。ご遺体なんだよね?
「何か感じましたの?」
「うーん…ちょっと。」
「それなら、この木をダンジョン化させるのですわ!」
「あ、うん…」
即決でした。
そこまで自信たっぷりに言われると、「ごめん冗談」とか言いづらいよね…冗談じゃあないけれど。
ジャパニーズにしてみればご遺体をいじくりまわすというのに抵抗がないわけじゃあないのだけれど…ごめんなさいと手を合わせておきます。
「えっと…ダンジョン、クリエイト?」
木に大穴が空いた…そしてそれはまるで折り紙のようにパタパタと音を立てんばかりに内側に折れ曲がって広がっていきます。その穴もまた…無数の三角がうるさいほどに広がり続けます。
瞬く間にそれは塔の一階を作り上げました。想像通りの仕上がり、意識は二階へ飛んでゆきます。
この三角一つ一つが魔素というものなのでしょうか。規則正しく、幾何学的に美しい。西洋的な“正解の美”ってヤツです。なんとなくそんなことを思います。
今の力では3階までで限界。仕上げに天井をドームにしてみました。あと、それっぽいモニュメントには設置義務があるそうで、最上階の真ん中に設置しておきました。