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森に佇むヴィーナス

 「え、っと……?」


 ようやく頭が働いてきたのか、それとも無理やりにも理解しようとしているのか。

 脳が回転を始めた。

 

 「とりあえず何が起きたのか考えてみようか」


 自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

 全く訳が分からないままこんなところにいるのだ。

 心細いなんてものではない。

 もはや恐怖に近かった。


 「俺は自分の部屋でテレビを見ていたはずだ。」 


 そう、それは間違いない。

 なのに俺が今座っているのは畳の上の座布団ではなく、青々とした草花の上だ。

 夢遊病の気なんて今まで出たことはないから、これは違うだろう。

 一番ありえそうなのは、夢を見ているというところだろうか。


 試しに自分の頬をつねってみる。


 「……いふぁい」


 普通に痛い。

 もっとも、以前夢の中で頬をつねったら痛かったという経験があるので、あまりあてにはできないのだが。

 もしかして何かの犯罪にでも巻き込まれたんじゃ……。

 部屋で睡眠ガスでも吸わされてこの場所に放置されたとか?

 

 「うーん……」


 部屋でしていたのと同じように草の上であぐらをかいて考え込むが、答えは出そうにない。

 仕方がないのでその疑問は一度置いておくとして、これからどうすればいいのかを考えよう。


 「助けを待つか?」


 遭難した時には、その場を動かずに助けを待つのがいいと聞いたことがある。


 「いや、ないな」

 

 そう、あくまで遭難した時に有用な手段だ。

 このどこかもわからない場所に俺がいることを知っている人間が果たしているのだろうか。

 最悪の場合誰にも知られずにここで餓死するだろう。


 「となると……」


 木に登って周りを見渡すというのも考えたが、どうやら無理そうだ。

 見たところどの木もだいたい高さは同じくらいだ。

 俺の体重に耐えられる枝まで登ったとしても、周りの木に遮られて何も見えまい。


 「歩くしかないか」


 やはり誰か人を見つけるなり、森を抜けるなりするしかなさそうだ。 

 下手をするとさらに森の深いところに迷い込んだりしそうだからあまり気は進まないが、他に手がないのであればしょうがない。


 とりあえずの行動指針を決めたところで、さっきからあえて放置していた事実を取り上げよう。


 「ところで……俺なんで裸なの……?」


 全裸である。

 生まれたばかりの姿で森に佇む様子は、さながら「ヴィーナスの誕生」のようだ。

 ……あまり引き締まっていない体という意味でな。


 大学に入ってからはろくに運動もしていないんだから仕方ない。

 途中から服も消えていることに気づいてはいたのだが割と真剣に理解不能なので放置していたのだ。

 部屋ではもちろん服を着ていたので、おそらくこの不可解な現象と関係があるんだろう。


 まさしく「ヴィーナスの誕生」のようなポーズで股間を隠す。

 誰も見ていないだろうと分かってはいるが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


 しかし誰得なんだろうか、この展開。

 普通女の子の役回りだろ。

 冴えない野郎の全裸に喜ぶやつもそうはいまい。


 普段よりも(物理的に)身軽になった俺は、軽快な足取りで歩き出した。



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