プロローグ
別に何か予兆があったわけではなかった。
その日は休日で、いつものように昼頃に起きて適当に昼食を済ませ、座布団に座ってボーっとテレビを見て過ごしていた。
この俺、新條悠真は大学生だ。
中肉中背、特筆する特徴はこれと言ってない。
絶世の美男子であるとか、スポーツをやらせればなんでもござれな運動神経も持っていない。
何でもそれなりにこなすし、人並みには運動神経もある。
容姿もそこら辺にいる若者に紛れ込めば溶け込むような、ごく一般なものと言っていいだろう。
今現在4回生。
進路を控えたこの季節、大切な時期だというのは分かっていたが、だからこそ現実逃避と称し、現実から逃げるような生活を送っていた。
もうすぐ夏だ。
そろそろ動き出さなければ手遅れになる。
心ではそう思っていても、体が動き出さない。
今日も何をするわけでもなく一日が終わるだろう。
そう思っていた。
眠気は全くなかった。
昼まで眠っていたのだから当然のことだ。
にもかかわらず。
目の前でワイドショーを写していたテレビが突如視界から消え去った。
「は……?」
何が起きたのか理解ができない。
目の前に広がるのは広大な緑だ。
状況を把握するために周りを見渡すが、余計に訳が分からなくなる。
消えたのはテレビだけではなかった。
俺はどこにも出かけていない。
確かについさっきまで部屋でテレビを見ていたはずなんだ。
それなのに。
俺が敷いていた座布団の代わりに、尻の下には青々とした草の生えた地面があった。
気付けば俺がいたはずの部屋は影も形もなく。
俺は森の中で一人、佇んでいた。