無題、星の綺麗な屋上にて
「今日は星が綺麗だね」
そうやってありきたりな言葉を並べて、彼女は俺の方に微笑んだ。
「……別に、実家にいた時の方が綺麗だったし」
「あ、そう言えばK君は山育ちなんだっけ」
「今どき山育ちって言い方も、違う気がするけどな。中二までド田舎だったよ」
今日は何で、こんな廃れたビルの屋上に来ているのか。それは簡単な事、帰ってもつまらないからだ。
俺もこいつも、帰ってもつまらないから、つまらない者同士集まっているだけ。
なんてことの無い、模範的なボッチの夜だ。
「Yは今日、何時に帰るんだ?」
「分からない。本当は帰りたくないしね」
「……それじゃ警察のお世話になるぞ」
俺みたく一人暮らしならばいいが、Yの場合は実家暮らしだ。
まだ高校生の娘が家出なんて、全然笑えない。況してや見つかった時に男の俺と一緒となると、中々悲惨な結果を産みそうだ。
「心配無いよ、あの人たちは私が居なくなっても気づかない」
「自分の子供居なくなって、気づかないわけないだろ」
「気づかないよ、実際私、二週間家出したことあるし」
「ふーん……で、その時は?」
Yは星の綺麗な空を見上げて、「無反応だった」と、無機質に答えた。
「そうか……」
「うん、だから私が家に帰らなくても、学校にさえ行ってれば問題ないの」
中々、悲しい話だ。悲しすぎて、同情で泣きそうになってしまいそうだ。
と、そんな事を白々しく口にした。
実際適当に返答したので、なんて答えていたかは分からないが、Yはその言葉に対して、「もう慣れたけどね」と苦笑した。
「でも、そろそろ冷えてきたし帰るぞ」
「……うん」
ベンチから立ち上がり、微妙な高さの屋上からこの都会を見渡す。
見渡すと言っても、ビルだらけで何も見えていないのだが、雑音の中に混じって電車の通過音が聞こえた。
「こっから飛び降りたら、楽になれっかな」
「無理だよ、K君ビビリだし、まずこの高さじゃ怪我して苦しいだけだよ」
「……使えないな、ここ」
「だからテナント募集が終わらないんだよ」
「俺たちが簡単に入れるくらいだし、管理もろくにしてないからな」
「そのおかげで、私たちは居場所作れるんだけどさ」
「いや、別にここ以外にも色々あるけどな?」
と、こんなふうに話していると中々幸せなカップルに見えませんか。
場所こそ殺風景だが、都会にしては、星はそこそこ綺麗に見える。見方によってはロマンチックなデート風景じゃないだろうか。
「じゃ、また明日」
「うん、じゃあねK君」
……という、オチの無い家出少女と俺の話。