表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は寄生体(エリクシール)である  作者: おひるねずみ
第一章 国名宣言編
8/42

第八話 応接室内の出来事 その3

世は無常、無慈悲なり!

 エミリア姫は今現在の状況を把握し、俺達が嘘は付いてない事を信じてくれたようだ。

 俺は、もしもの事が遭っては行けないと思い、パラチを意志を縛り、自由に出来ない様にしていた。

 パラチも納得しており何も問題は無い。

 ひとまず、パラチに起こっている状況を女性陣が把握できた為、不穏な空気は収まりを見せ、次第に沈静化していった。


(それじゃあパラチ、自由に動けるようにするぞ。変な事したら、分かってるな?)

(分かっている! おかしな真似はしないと誓おう。ようやくだ、余は、この時を待ちわびたぞ!)

「それでは皆さん、パラチの束縛を解くのでよろしくお願いします」


 俺は皆さんに確認を取り、パラチの束縛を解除する。

 パラチから青白い光が一瞬だけ、輝きを放ったが、すぐに収まりを見せた。


「おおぉ――――魔力制御が出来ている! これで余は『抗魔の指輪』に頼らず、生物に触れても問題ないのだな…………クッ、この瞬間をどれ程待ったことか……」 

「パラチ様、半世紀にも渡る悲願が達成されましたな、ルルスも嬉しく存じます」


 パラチが、右の手の平を目に当て素顔を隠し、床に「ポトポト」雫を落としてじゅうたんを濡らす。

 その姿を見たルルスは、目頭を押さえて鼻をすすって泣いているのをバレない様に必死になっており、俺自身も、感情が込み上げて来て涙腺崩壊しそうになってる。

 こういう場面は弱いんだよな。寄生して繋がってる事もあって、我慢してないとボロ泣きしそうだ。

 周囲のメイドさん数人も、雰囲気に流されハンカチで瞳を覆っている。

 そこに、俺が泣いてない事に気付いたパラチが、直球で脳内に尋ねて来る。


(エリクよ。お前は余の感情を理解しているのに、泣かないのか?)

(気を利かせてくれよ……俺は泣かない様に我慢してるんだよ)


 パラチに俺の思いは伝わったのだろうか? 答えはノーだ。

 右手で表情を隠していたパラチは、隠すのを止め、素顔を晒し俺に近づいてくる。


(おい、おいおいおいおい、泣きながら、それ以上近づくな! いいから止まれ、ストップ! ストォッープ! いい子だから止まって下さい)

(余は魔王だからな、いい子ではない!)


 パラチは脳内会話を無視し、迅速に近づいて俺に抱き着いてきた。

 予期せぬ行動の為、パラチの意志を俺は拘束できなかった。

 パラチに抱き着かれるまでの時間、僅か三秒。 


(ぐっ、何て力だ! 離れろォォ――俺にホモっけは無いぞォォ――!)

(余だけ泣いてるのは、割に合わないからな。エリク、お前も巻き添えだ! それにしても、気負わず肌と肌を触れられるとはイイ事だな…………久しく忘れていた感覚だ。エリクよ、礼を言う)


 俺はパラチの心の底にある願望を知った事もあって、涙腺が崩壊してしまった。

 パラチは力を開放した幼い時から、『抗魔の指輪』が出来るまで人に触れる事は出来ずにいた。

 その『抗魔の指輪』が壊れ、途方に暮れていた時に俺『エリクシール』に出合い、こうして再び人と触れ合う事ができたのだ。涙腺が緩まないはずは無かった。

 俺が涙を流したのを確認したパラチは、抱き着くのを止め、その場に膝まづく。


「エリク。お前は俺の願いを叶えてくれた。約束通り、お前の言う事を何でも聞いてやろう」

「ちょっとぉ、まって、ろぉぉ~」


 パラチの涙は止まっているが、今度は俺の涙が止まらない。

 少しの時間を頂き、泣き止んだ俺は部屋に居る全員に向けて、これから俺が行いたいプランを話した。


「なるほどな、国造りか! 面白そうではないか! 余は恐れられているからな、人や魔族は寄り付かなくて国造りなど、夢のまた夢であった!」

「面白そうだよね? だからさパラチィー、力貸してくれないかな~?」


 パラチは有頂天外うちょうてんがいになり、舞い上がって気分良くし、俺のプランに賛同してくれた。


「よかろう。余とエリクが組めば、国をおこすなど容易い事よ」

「国をお造りになろうとは、何とも愉快でございますな。不肖ルルス、是非ともエリク様のお手伝いさせて頂きたいと存じ上げます」


 パラチやルルスが非常にやる気になっているのに対し、現在誘拐されてる国賓のエミリア姫は複雑な心境だろう。

 短い間で非現実的な出来事が立て続けに起きたり、魔王パラチに対して対等に喋っている俺をどう解釈しているのか。

 まずはエミリア姫の警戒を解き、協力関係を取り付けないと行けない。

 国造りをスムーズに行うには、周辺各国の協力が不可欠だ。

 その為には、どうしてもエミリア姫をこちら側に引き抜いておく必要があった。

 

「エミリア姫、俺達の国興しに協力してくれるなら、貴方の願いを出来る限り叶えて差し上げる事が出来ますが、如何でしょう?」


 エミリア姫は目を瞑り、考えをまとめようとするかのように動かずじっとしている。

 回答が頭の中から出たのだろう、エミリア姫はゆっくり目を開き、口を開けた。


「なら、国に手出ししないと約束してくれますか?」

「当然です。俺は争いを好みませんので、パラチにも良く言い聞かせますから安心してください。他にも言いたい事があるでしょう? 何でも仰ってください」


 俺の受け答えにエミリア姫は、きょとんとした表情を見せ驚いている。


「何でもいいのですか? 遠慮しなくても?」

「ええ、この際です。願いを全て言ってください」


 エミリア姫は、俺が好戦的でない事が分かると心から安堵あんどした顔つきになり、緊張した表情から素顔を取り戻した。


 エミリア姫の要求はこうだ。

 私をエルキア王国に帰す事とパラチが傷つけた者への治療。

 エルキア王国の国王と会談をして、安全保障の確約。同盟。国への徴収税の撤廃。

 最後に、パラチから辱めを受けたので仕返しをしたいとの事。


 エミリア姫の提案は全く持って妥当で、反対する事案は一つも無い。

 しかしパラチから辱めを受けたって、何をやらかしたんだパラチの奴! だが、これはケジメを付けるには丁度いい。

 この案を利用し、正々堂々と? 大見得切ってパラチに、しつけと言う名のお仕置きが出来る! 躾は大事だよね。

 これからの事を円滑に進める為にも必要な事なのさ、うん、違いない。


「エミリア姫。要求を全てみますので、国興しにご協力お願いします」

「分かりました。エリク様が話が分かる人で助かりました」


 双方の意見が通った事で、自然に笑みがこぼれて来る。

 エミリア姫も同様に笑顔だ。

 そこに、パラチから脳内で話しかけられた。


(おいエリク。仕返しを了承するとは、どういう意味だ!)

(これも、必要な事なんですよ~。黙って受け入れてください。それに、何でもするって言ったよね?)

(…………)


 パラチが無言になったな。受け入れたと肯定こうていするぞ。


「所でエミリア姫。パラチへの仕返しについてなんですが、どうします?」

「王と兵士四人分でビンタ五回に、私と近衛兵団長の分で二回お腹にパンチしたいと提案しますが、どうでしょうか?」

「いいんじゃないでしょうか。それで行きましょう!」

「はい!」

 

 二人揃って、悪い顏になってニヤけてる。

 エミリア姫は実に楽しそうだ。俺の事は、言うまでもない。

 メイドさん達もザワザワしている。


(じゃあパラチ、悪いけど体を強化しているのを解いて、無力化させるぞ! ウキウキワクワク)

(ああ、いいぞ。痛覚無効で痛みは無いからな)


 なん……だと……その手があったか! これではパラチに、お仕置きをする意味がない! エミリア姫が痛覚無効の事実を知れば、俺がこの場を取り繕うために悪い笑顔をしてまで、嘘を付いていたと疑われてしまう! なんてっこた。

 ならば! 意志と細胞を操作してムフフ。

 

 エミリア姫がパラチを殴れる範囲まで近づき、俺はパラチに膝を折り座る様に進め、殴りやすくなる様に調整した所で、エミリア姫がパラチにビンタを放つ。

 痛覚を無効にしているパラチは、表情こそは硬いままだが、内心は余裕のよっちゃんだった。

 「パァン」と頬を打たれた心地いい音が部屋に響き渡る。


「ぶふぅ!?」


 パラチは有るはずのない痛みに驚きを隠せない。その後、勢い良く左、右、左と計四回ビンタを放ち、最後のビンタを気合を入れてエミリア姫は解き放つ。

 「スパァーン」決まった! やり切った! やった~! そんな表情をして手をスリスリさすりながら、喜んでいるエミリア姫。

 パラチは両頬を両手で押さえて、背を丸けて悶絶してる。

 俺はパラチの痛覚無効を切り、痛みを感じやすいように細胞に命令を出していた。

 つまり、パラチは完全に不意を突かれ、普段より強い痛みを味わっている訳だ。


 必殺仕置き人エリクシールここに爆誕! 世に蔓延はびこる不正は、俺が天中してやる…………ジョウダンデス、イッテミタダケデスヨ。

 だけど夜中寝静まった時間に、水が落ちる音がしたら背後に俺がいるかも知れないので注意してね?


(パラチ、大丈夫か?)


 パラチの痛がってる様相が治まらない。

 心配になったので、脳内で聞いてみたのだが(癖に、なるかもしれん)と供述しており、何かに目覚めそうになっている。


(パラチさ~ん、そっちに行ってはダメだ、戻れなくなるぞ)

(余は今までたれた事は無かったからな、嬉しいのだ!)

(そ、そうですか……じゃあ、続きをお願いします) 


 パラチの痛みが引いた所で、俺はパラチを起立させ、エミリア姫が腹パンしやすい様な形をさせた。

 

「エミリア姫。どうぞ、心行くまで殴って下さい」


 エミリア姫が唾を呑み込みのが見えた。


「二回で、なくとも?」

「ええ、ご自由に。その代わり……」

「分かっています。約束は守りますよ、王族の誇りに掛けて!」


 話が纏まった瞬間、勢い良くパラチに腹パンラッシュを打ち込むエミリア姫。

 打ち込むたびに、薄紫の髪が揺れ動き、上半身が動くたびに胸も揺れている。

 そんな事はお構いなしに、激しく動くエミリア姫。

 相当ストレスが溜まっていたご様子。

 王族暮らしで、色々と鬱憤うっぷんが募っていたのだろう、抵抗できないパラチに遠慮なく殴り続けている。


「お父様は、私を、箱入り娘の様に、育てて、外出を、許可してくれない! 私は外の世界を、知りたいのよー、お父様のばかぁぁー」


 体感で二分間ほど、エミリア姫は愚痴や不満を漏らしながらパラチを殴り続けた。

 額に汗を流し、肩で息を吸って、手を膝に置いて呼吸を整えている。

 激しい、ストレス解消運動をして疲れたのだろう。

 エミリア姫は、その体勢から顏こちらに向け、晴れ晴れとした表情でブルーの瞳を輝かせながら「私からの仕返しは以上です」と答えた。


 エミリア姫の打撃に耐え抜いたパラチは、仁王立ちして表情も活き活きしており、ビンタよりはダメージが無い様だ。

 もしかしたら、何かに目覚めてしまったのかも知れない。

 何か良からぬ事をしそうな表情をしており、大変危険に見えるのは気のせいだろうか? パラチも危なさそうなのだが、メイドさん達も不穏な事を言っていた気がする。

 俺がパラチに抱き着かれた時に、ぼそっと、呟いていたのが聞こえたのだ! 「本を書ける!」と、まさかこの世界にもBLBビーエルブックと言う、ベーコンレタスバーガーのレシピ本が存在するのか! 

 まさかなぁ~、あの天使みたいなメイドさん達に限って、そんな事は……ないよね? 俺に新たな不安が浮かんだ所で、パラチのお仕置きは幕を閉じた。

パラチさんのフルボッコ回が終わりました。

前書きで少しどんな事が起きるのか書いてみようと思いましたが、ネタバレになるかなと考えヒント風にしてみました。


追記で予約投稿をしようとしたら評価がいつの間にか入っていました。

ブックマークと評価を入れて下さった方、ありがとうございます。

「このままの方向性で進んでもいいのかな?」と判断する材料になりますので、これからもよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ