第六話 応接室内の出来事 その1
応接室の出来事が六話から九話まで続きます。
パラチ城二階。試着室。
ここでルルスに合う服を、メイド長のイザベラさんと探しているのだが、残念ながら子供服は無い。
そこで仕方なく女性物の服で、一番サイズが小さい物を選び裾合わせをしていく。
こうして出来上がったのが、上下黒のスーツスタイルで、見た目が〇イザー・〇モンHG的な感じの、とっちゃん坊やに仕上がった。
後はサングラスを付ければ完璧だが、ここにはそんな物は無い。実に残念だ!
「ルルス君、凄~く似合ってるよ!」
(フッ、クククッ、フッハハハハハハ、これはいいな! 素晴らしいセンスだ! 余には真似できん!)
「エリク様! この格好は何なんですか! 絶対楽しんでますよね!?」
イザベラさんも、緑色に輝くセミロングヘアーを揺らしながら、苦笑いしている。
ルルスの髪は若返りで真紅の様な鮮やかな赤色になっており、真っ黒スーツとの相性はイイとは言えない。
なぜ、このように笑いを誘う服を選んでいるのか? 理由は、イザベラさんが応接室の現状を話してくれた事にある。
現在、応接室には、試着室にいる人以外、全員集まっているらしい。
俺がパラチの寝室でナーヤさんと話している内に、チェルシーと呼ばれる人物がルルスを呼びに行き、そこでルルスの死体を発見してしまったのだそうだ。
応接室に戻りその事実を皆に伝えてパニックになっていた所、俺の魔力漏れが突然収まったのでイザベラさんが様子を伺いに来たらしい。
つまり、屋敷に居る全ての住人がルルスが死んでいる事を知っており、不安がっている訳だ。
そんな空気を和らげる為に、面白おかしい恰好をルルスにさせてる。
気休めだけど、幾らかマシになるだろう。
問題は、どうしてルルスが生きているかだ。その辺を皆に問いただされるのは間違いない。
俺は、正直にルルスを蘇生して若返らせたと、全てをぶちまけた方が気が楽になると思い、イザベラさんには全て喋ってしまった。喋ってる最中に、(ヤベエやっちまった)と思ったが、後戻りはしない事にした。
どうせここに住むんだ。ここで働いている人に嘘を付いてまで住みたくない。
けど本当の所は、イザベラさんに嘘は通じないと感じたからだけど………
イザベラさんはスタイルが良く、出ている所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいる。二十代後半のお姉さん見たいな感じの人で、俺の中身がパラチでは無い事を知ると、妖艶な仕草で話を聞いて来る。
まるで、大企業の機密事項をキャバクラ接待で、お偉いさんから聞き出す様な形だ。
俺には、そんな魅惑耐性が有るはずも無く、あっさり暴露してしまい今に至る。
ルルスからの説明もあり、非現実的な内容もイザベラさんは納得してくれたようだ。
「エリク様、本当に、この様な服装でよろしいのですか?」
「うん、これならバカ受け間違いなしだな。よぉーし、決定したから応接室に急ごうか? ルルス君、反論は無いよね?」
「もう私からは何も言いますまい………覚悟を決めました……」
(エリク、早く応接室に向かうぞ! クックックッ、皆の驚く顔が目に浮かぶ。今から楽しみだ!)
ルルスの瞳は、死んだ魚の様な目をしており、諦めの境地に達していた。
一方パラチは、これから起きるであろう出来事に心を踊らせていて、双方全く違った心持をしている。
俺は楽しみが半分、不安が半分の状態で何とも言えない。
ルルスの服が決まり、俺達は三階の応接室に向かう。
それにしても、この城は豪華だな。どんだけお金がかかってるんだ?
床一面が、赤のじゅうたんで敷き詰められていて、壁には有名な人によって描かれたであろう風景画や抽象画が、いくつも飾ってある。
通路には多彩な細工をされた小さい机の上に、高そうな花瓶? 壺? 見たいな物に、色とりどりの花が飾られてあり、一目で花を扱う事を心得た職人技だと判る。
ふと疑問に思ったので、ここの財政状況をイザベラさんに聞いてみると、困った顔をして教えてくれた。
イザベラさんが俺に語った言葉は、気のせいだよな、考えない様にしよう。としていた俺の悩みそのもので、新たな問題が俺に圧し掛かって来た。
「え~と、つまり、滅ぼしたり攻撃したりしないから、一定期間の内にある程度の税を周辺各国から徴収しているって事?」
「はい………そうなりますね……」
イザベラさんは、申し訳なさそうに頭を少し下げしている。
俺は、戦々恐々(せんせんきょうきょう)になりながらも、イザベラさんから続きを聞く事にした。
「イザベラさん、言葉を濁しているけど、知っていたらどうか答えてほしい。期間と、ある程度の税って判る?」
イザベラさんが委縮していくのが見て取れた。これは覚悟しないといけないな。
「……………期間は一年に一回、一年分の国家予算額の二十%になります……………」
ドシェェェェ――――――――ジョバジョバジョバジョバ。
アカン! これ完全にアカン奴や!! 一年で国家予算の二十%も収めるって、国傾いちゃうじゃねーか!! 国家転覆ものだぞ!! 日本の国家予算を百兆と考えて二十兆も一年の内に収めてたら洒落にならんぞ!!!
(パラチィィ――――! お前とんでもない事してるなぁ!)
ああぁ~、泣きたくなってきた。誰か変わって下さい。お願いします。
(フフフ、余は偉大なる魔王だからな。少なめに設定して置いた)
(フフフ。じゃねーよ! これで少なめってどういう事よ! 取りあえず税の徴収はストップさせるからな!)
(好きにするがいい。余の人生をやり直させてくれるなら、何も文句は言わん)
けど本当に、この莫大な金額を収められるのだろうか? 軍事費に当てたり、着服や横領がなければ行けるのか? ある程度予想が付くが、未知の世界だしイザベラさんに聞いた方がいいな。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だし。
「イザベラさん、周辺各国は実際そんなに納税してるの?」
「いえ、珍しい品に変えて収めたり、国際手形を発行して、全額収めている国もありますが、少し位なら誤魔化しが効くだろうと考えてる国もありますね」
う~む、払えない国は国債や為替手形にして、借金して収めていると言う事か…………早いとこ徴収を止めて、この国、自ら稼ぐ手段を確立させないといけないな。後、サラッとイザベラさんが言葉を濁して、誤魔化している国があるって遠回しに言ってるけど、パラチにバレたらどうなるんだろう。
(ん? 誤魔化しているなら躾をするだけだぞ)
(やめなさい。俺に全てのしわ寄せが来て、胃が痛くなる)
(胃が痛くなるなら、痛覚を切ればいい。そうすれば痛みは感じんはずだ)
(そういう意味で言ったんじゃないんだけどな………)
俺が抱える問題が更に大きくなったところで、三階にある応接室に到着した。
イザベラさんが、ドアの取っ手に手を当てようとしたその時、応接室のドアが勝手に開いた。
ナーヤさんだ。いつまでも帰って来ないイザベラさんを心配して研究所に行こうとしたんだろう。
ナーヤさんの表情が、出会った時よりも落ち着いている感じがする。クールビューティーな女性執事の雰囲気を体から醸し出している。
俺も醸してみたいし、醸されたい。まるで菌の様に! ハッ!? 寄生体は良く考えれば菌の奴もいるよな。菌と言えば小さい、細かい、微粒子! フムフム! 俺様、閃いた!? このアイディアは今後に使える!
面白いアイディアが頭に浮かんだ事もあり、俺の表情は自然とニコニコになっていく。
ナーヤさんは、イザベラさんと俺の表情を見て、安堵したようだ。
ナーヤさんが部屋の中に入るよう進めて来たので、三人は応接室の中に移動した。
壮観だな………この部屋は一番広い応接室と、イザベラさんから聞いていたが、流石にお城と言う事あって、滅茶苦茶広い。
百坪? いや、二百坪以上はあるんではないだろうか? この城の各部屋を三つ程、つなげた大きさがあるんだそうだ。
部屋の中には、総勢二十名の美女、美少女が並んでおり、凄い事になっている。
その中に一人だけ犬耳が無く、いかにも高そうな赤いドレスを着て、耳に青く輝くイヤリングをしている女性がいた。
恐らく彼女がエミリア姫だろう。年は二十歳前後、髪は腰辺りまで伸びていてサラサラな薄紫色をしている。背丈は百六十センチ位で、ナーヤさんと大きさは、ほぼ変わらない。唯一の違いは、胸の大きさだろう。ナーヤさんは控えめで、エミリア姫は巨乳の域にある。
(エミリア姫、大好きっ子のパラチは巨乳派か)
(大好きっ子とは何だ? まあ、余が巨乳派と言うのは間違いないがな! そう言うエリクはどうなのだ?)
(俺はなぁ………手の平にピッタリ収まるサイズ位が………って、何を言わせる気だ!)
(フフフ、これでエリクの弱みを一つ握ったな)
ぐぬぬ、パラチの巧妙に張り巡らされた誘導尋問に引っかかってしまうとは、パラチめ、やりおる!
俺とパラチの脳内で行われた、胸の好みについての話をしてた為か、しばらくエミリア姫の胸に釘付けになっていたが、改まって女性陣の目線の先を見てみると、予想した通り子供に若返ったルルスを見ており、所々で笑い声が聞こえる。掴みは良好な様だ。
「皆さん、お静かに! パラチ様。今の貴方様に起きている事を、詳しくお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
ナーヤさんが代表して、俺に突撃インタビューをして来た。彼女の表情は極めて真剣で、覚悟を決めた人の表情そのものだった。
ナーヤさんの顔がキリリと引き締まってカッコよく見え、俺は思わず見惚れてしまう。
「パラチ様?」
再びナーヤさんの声を聞き、俺は我に返り今までの出来事を詳しく説明した。
皆、驚きを隠せず「ありえない」「嘘でしょ!?」と色々騒ぎ立てているが、子供姿のルルスの説明により落ち着きを取り戻していく。
ルルスの服装が思いのほか効果を示していて、皆冷静になれた様だ。
数人、ルルスの子供姿を見て「クスクス」笑っている。
どうやらルルスは、この城に住むメイド達から、絶大な信頼を得ている様だ。
メイド達が口々に「ルルス様が仰るなら間違いない」と納得してしまっている。
唯一納得していないのが、攫われて、つい先程からパラチ城にいるエミリア姫だ。
「そんな非現実的な話、とてもではありませんが信じられません。この眼で見るまでは、貴方方を信用できないでしょう」
「では、エミリア姫。ここで非現実的な出来事を起こして見せましょう。誰か一人、若返りたい人います?」
メイド達が俺の言葉を聞き、騒然と騒めく。若返り。それは大半の人が求めるだろう、美の神秘。
もしも本当若返ることが出来るなら、我先へとお願いするだろう。
ルルスの実体験もあり、最早、ホラ話ではないとメイド達は理解している。
なのに、若返る人が中々決まらない。
意地悪な俺が『一人』と限定した事により、悩んでいるのだ。
これも俺の予定通りで、我先へとお願いしたり、誰かを蹴落としたりとした、欲塗れな行動を取るのか、俺が見る為だからだ。
少しばかりの欲なら目をつぶるが、強欲な奴はお呼びじゃない。
そんな輩は絶対に、ここには住まわせない。一人腐った奴がいれば、腐ったミカンの法則の様に、芋づる式に腐っていくからだ。側近に等しいメイドが腐ると言う事は、俺が造る国の情報が筒抜けになる可能性がある。
それだけは、何としてでも防がないといけない。
しばらくして、メイドの一人が恐る恐る口を開く。
「エリク様、どうしてお一人なのでしょうか?」
「若返らせる力を使うと、凄い疲れるんだ。もしかしたら疲労で死んでしまうかもしれないからね」
それとなく理由を付けて、様子を見る。
どうやら冷静になり、俺の意図を悟ったらしく、このメイドさん達は優秀な部類に入りそうだ。
俺の言葉に納得したメイド達は、何故か微笑んでおり、若返らせる人を決めた様だ。
「ナーヤさんが以前、若返りたいって仰っているのを聞きました。婚期逃しちゃって後悔してるそうなのでエリク様、お願いできませんでしょうか?」
ナーヤさんは、メイド達の会話に入っておらず「私に構わず、貴方達お先にどうぞ」といった感じだったので、急にメイドから爆弾発言を投下された為、クールビューティーな表情が見る見るうちに変わり、頬を少し膨らませて、右手を握りしめて胸の近くてプルプル震わせている。
ちょっと子供っぽくて可愛い。
「貴方達! 今、この場で言わなくてもいいじゃありませんか!」
ナーヤさんが恥ずかしそうに怒鳴るが、メイドさん達、同盟軍は挫けない。押して押して、ナーヤさんを攻めまくる!
「でも、この女性陣の中で一番の年上はナーヤさんですよ」
「そうですよ、それにこんなチャンス、もう2度とないかも知れないんですから!」
「やりたくない役割も率先して引き受けてくれたりしてくれる、そんなナーヤさんを私は尊敬しています」
「辛い時も私達を励ましてくれてたり、時には叱りもしましたけど、そのお陰で私達は成長できました」
「私達、皆の願いは、ナーヤさんに幸せになってほしいんです」
ホロリ、いい話だなぁ~、オジサン泣けて来たよ。
想像した展開より全然良かった。
もっと血みどろな修羅場になると、少しでも思った穢れた俺を許してほしい。
これなら、若返りたい気持ちがあるメイドさんは、後で聞いてOK出しちゃおう。
それにしてもナーヤさん、メイドさんからの人望半端ないな! 伊達に魔王の執事をやってない。
「それじゃあ、ナーヤさんで決定かな?」
「貴方達は、本当にそれでいいの?」
「「「私達は、まだ若いのでいいんです!」」」
おおっと、ナーヤさんの心にクリティカルダメージ十八回発生! 傷は…………浅くない! 深い深いぞぉー!! ナーヤさんの体がふらつき、一歩後ろに下がる。
だいぶ参っている様子だ! 顔を真っ赤に染め涙目になっている~! 早く若返りの治療しないとナーヤさんのHPはゼロよ! になってしまうので、さっさと済ませる事にする。
「ナーヤさん、恥ずかしいかも知れませんが、少し口を開けてください」
「こうですか?」
「はい。それでOKです。では始めますね」
一日平均3500文字辺り書いていますが、筆が進まないと2000文字程度で打ち止めする時があり安定してません。ノリノリの時は5000文字程、執筆出来るんですけど一日一話を投稿してる人は凄いですね。
俺には無理です。書き溜めが無い限りは! これでも執筆速度は、少しだけマシになったんだけどな~。