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俺は寄生体(エリクシール)である  作者: おひるねずみ
第二章 エルキア王国編
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第三十八話 ナーヤさん奮闘記 その3

 三時間後。


「う、ううっ……私は、いったい何を……」

「ナーヤ様。大丈夫ですかぁ~!? ワインを飲み過ぎて? ばたんきゅー。していたんですよぉ!」

「あっ! そうです。エリクは、エリクはどうなりましたか!?」

「エリク様は、依然行方不明ですぅ。城に連絡を入れて、捜索隊が編成されたんですが、まだ有力な情報を掴めていません」


 ……状況を整理して、女性兵士から事情を聞き取り、私とミリィはすぐに酒場の外に出る。


「取りあえず、南門の方に向かいます。ミリィも一緒に着いて来てください」

「はい!」


 私は昼前に東側を探していたので、そちらで攫われた確率は限りなく低い。

 エリクは南側に向かっていましたし、恐らく、この近くで誘拐されたに違いありません。

 この城下町から出て行くなら、南門を通過するでしょう。

 もしかしたら南門の門番が、何か握っているかも知れません。


 私達が南門に付くと、数人の人影が見えます。

 その中に、私が探していた人物がいました。

 そう! ビザディンさんです。


「ビザディンさん! 探しましたよ。いったい、いままで何処に行っていたんですか!?」

「ナーヤ嬢! すまねぇ。どうやら、巻き込んじまったようだな……全部。俺のせいだ! 本当にすまねぇ……」

「顔を上げて下さい、ビザディンさん。謝っている時間すらも、おしい状況です」

「ああ……そうだな……事情を話そう……」


 追い詰められていた心労が伝わってきます。

 いままでの間に、なにが遭ったんでしょうか。


「俺が昨日の夜、家に帰宅したら玄関に手紙が置いてあってな。手に取って裏を見たが、差出人は不明。何だろうと思い、手紙を開けてみると、目を疑うようなことが、そこには書かれていた。内容はこうだ『お前の可愛い孫は、俺達が預かった。返してほしければ、明日の昼までに大金貨三百枚持ってこい。場所は、酒場プランクアイスだ。誰かに知らせたら、孫の命は無いと思え!』

と、書かれ、俺はすぐさま、孫のいる部屋を覗いた。だが、いなかった。家内かないと家の中、工房内、どこを探しても見つける事は出来なかった! そこで俺は初めて、手紙の内容が事実だと悟り、家の金庫を開け大金貨二百五十枚を確保した。

だが、後、大金貨五十枚足りなかった。誰にも相談できず、途方に暮れていた所で、ボスたちが工房を訪ねて来た」

「なるほど、だからあの時、一か八かでエリクに相談したんですね」

「ああ! 俺が睨んだ通りボスは大金貨を持っていた。預けてくれるかどうかは、出たとこ勝負の大博打だったよ。そして俺は見事賭けに勝ち、大金貨三百枚を持ってプランクアイスに辿り着いた。そこに待ち受けていた仲介人らしき奴に、大金貨を見せるとまた指示書を渡された。指定された場所に到着すると、また次の指示があり、しばらくの間、行ったり来たりし、俺の不安がピークに達しようとした時、最後の指令が来た。『一人、徒歩で南門を抜け、ユウナサに向かう街道を進め!』と。

俺は指示書通り行動し、南西にあるユウナサ街道を徒歩で移動した。だいぶ歩いた所で、前方から馬に乗った男が、背中に孫を乗せながらやって来たんだよ。その男に大金貨五百枚を引き換えに、孫を返して貰った。これが、俺の身に起きた事の顛末てんまつだ」


 私が想像した通り、相手はずいぶんと、誘拐慣れしている感じがします。

 大金貨を仲介人に確認させ、交渉金額があると判断したり、ビザディンさんを行ったり来たりさせ、尾行されていないかを注視しながら動向を探る。

 又は、お孫さんがいる場所が遠く、連れて来る間の時間稼ぎでしょうか。


「ビザディンさんの事情は把握しましたが、質問があります。プランクアイスのスティングさんも、この事件に関わっているとお見受けしますが、何かご存じですか?」

「アイツも俺と同じ被害者だ……何も悪くない。実はスティングの奴も、昨日に娘を誘拐されていてな……下手に逆らう事が出来なかったんだよ……」


 許せない奴らです。

 分かってるだけで、三人も誘拐しているなんて! そして、偶然にも祝祭日前夜を狙った、卑劣な犯行。

 誰かしらが誘拐グループに、情報をリークしたのかも知れません。


「それでだな、ナーヤ嬢。あんたの事だ、ボスを助けに行くんだろう?」

「当然です! ですが、悔しい事に誘拐犯の場所が分かりません」

「いやぁ、それなんだが……俺の孫娘が、場所を知ってる様なんだよ。この子はまだ六歳だ。この周辺の事は何も知らねぇ。なのにだ!

どうした事か、捕らわれた場所の地名を知ってるんだよ。半信半疑だったが、誰に教えて貰ったんだと聞いたら、ボスから教えて貰ったって言うじゃあないか!」 

「えっ!?」


 これは驚きましたね。

 エリクは周辺各国の名前すら知らなかったのです。

 自分自身がいる場所の名前など、知る由もありません。

 いったい、どのようにして情報を得たのか不明ですが、お孫さんがエリクの名前を知っているとなれば、信憑性は「グゥーン」と増します。


「で、ビザディンさん。その場所は?」

「このエルキアから南東に進んだところに、ヒベルズ廃坑って場所がある。ナーヤ嬢、知ってるかい?」

「はい、勿論です。この周辺の地理は、全て頭の中に入ってますので」


 私が頭の右横を、ひとさし指で「トン、トン」すると、ビザディンさんは軽く鼻で笑います。


「流石はナーヤ嬢だ! アリスも大きくなったら、目の前の女性を目指すんだぞ?」


 どうやらビザディンさんの腰に、引っ付いている子供が、お孫さんのようです。

 見た目も誘拐された当時のままで、さほど変わった様子は見当たりません。

 ですが、心に傷を負ったのは見て取れます。

 もう離れたくないと! 必死に腰にしがみ付いてますから。


「おじいちゃん。アリスが目指す女性は、お母さんとリナお姉ちゃんだけなの!」

「り、りなお姉ちゃん? 誰だい、それは?」

「アリスが泣いてた時に『怖くないから大丈夫よ』って、優しくしてくれた人なの」


 わ、私がお孫さんに軽く、拒否されました!? 少しばかり、心が傷つきましたよ…………あの憧れの眼差しで語る所をみると、私が入る余地は何処にも無さそうですね。

 けど、そんな些細ささいな事はどうでもいいのです。

 エリクが捕らわれている場所が判明したのですから。


「ミリィ、聞きましたね? すぐに他の者に連絡を!」

「は、はい!」


 ミリィがきびすを返し、ビザディンさん達は兵士に護衛され、南門から離れて行きます。

 これで後は、ヒベルズ廃坑に出発するだけ……なんですが。


「あまり、いい趣味とは言えませんね……そこにいる者、出て来なさい」


 私が酒場から出た時に、妙な気配を察知していました。

 最初は勘違いと思っていたのですが、南門で話している時も同様の気配があり、私の思い過ごしでは無いと解釈。

 敵意は感じ取れないのが、言いしれぬ不安を与えてきます。


「……バレないと思ったのに……私もまだまだ」

「貴方、私に何か御用があるんですか? 先程から見ていましたよね?」

「……私の名はイーフェ……モルド王から極秘任務を受けてる……」

「極秘任務ですか? その言葉を素直に信じるとでも?」

「…………」


 この女性……ただ者ではありませんね。

 戦えば五分五分ごぶごぶでしょうか? どちらが勝っても、おかしくありません。

 ですが、さすがに街中で戦闘行為は起こさないでしょう。

 デメリットが高すぎて割に合わないですから。

 取りあえず今は、猫を被ってるだけかも知れませんし、油断は禁物です。


「……どうしたら信じてくれる?」

「そうですね……出会ったばかりの人に信じて下さい。っと、言われても、信じる事は出来ませんよ? そもそも私達の出会い方事態が、良くありませんし……」

「……正論で言い返せない……」

「でしょう? 己の身分を証明できるのなら証明して下さい。貴方の立ち振る舞いから、闇の道を歩んでいる者とお見受けします。場合によっては、貴方を捕らえなければなりませんよ?」

「……っ! お爺様……」

「うむ。実に見事じゃ! 文句なく合格じゃな!」


 突然、イーフェと名乗る女性の背後から、一人の白髪の老人が現れました。

 私に気配を悟らせないとは……この老人は非情に不味いですね。

 明らかに格上です。

 全く、歯が立ちそうにありません。


「そこの老人! 何者です!」

「そう、警戒するでない。ナーヤとやら。儂の名はデット。隠居した、しがない闇の商人じゃよ」

「そんな! まさか……本物ですか!? いえ、本物なんでしょうね。その名を自分自身の口で、言ったのですから」

「フォフォフォ、当然じゃ! 儂の名を語って悪事を働き、泥を塗るような輩は、この世界では生きておれん。その名を語ったが最後、儂以外の二代目から四代目のデットが、そやつを地の底まで追いかけるからのぉ」


 想像以上の事態です。

 裏世界のトップが、博愛の国エルキアにいるなんて。

 そして、私は彼らに監視されていた事実。

 彼らの目的は何なのでしょうか? 


「伝説の殺し屋に遭遇できるなんて、運がいいのか悪いのか分かりませんね? それであなた方は、誰かに頼まれて私を殺しに来たんですか? 『ハッ!』まさか私を誘拐して、人に言えない様な事をするつもりでは! 

わ、私は決して、あなた達に屈しはしませんよぉ!!」

「……盛り上がってるところ悪いが、嬢ちゃんや。儂らファミリーには、どんな事でも千切ってはいけない鉄の掟があってのぅ。それは、堅気カタギには一切がっさい、手を出さないと言う事じゃ。

もし、手出ししたら、親でも許しては行けない決まりになっておってな。勿論、儂も含まれておる。つまり、カタギ以外の人間には何もしないと言う事じゃよ」


 私とした事が、平常心を失っていました。

 はぁ~、今日は散々な目に遭ってる気がします。


「そ、そうですか……ではその言葉を信用するとして、私に何の用です?」

「時間が惜しいから、まどろっこしいのはナシじゃ! 実は儂らはエルキアの王から勅命をたまわっていてな。パラチさんの友を、何としてでも取り返してほしいと。もしこれが失敗すれば、エルキア王国はどうなると思う?

間違いなく、パラチさんの逆鱗に触れ、地上からエルキア王国が消えるじゃろう? 儂は、な……生き証人じゃよ……五十年前の惨劇が起きた後に、現場をめぐった、数少ない人の一人じゃ」


 なるほど…………確かに、筋は通っています。

 それならば、伝説の殺し屋と名高いデットが出て来るのもうなずけます。

 エリクに敵対するイコール、パラチ様に敵対すると同意義ですね。

 まったく持って恐ろしい話です。

 誘拐犯が、パラチ様の親友をさらってしまった事に気づいたら、どうなるんでしょう? 不謹慎ですが、想像したら……ふふふっ! いいですね。非常に、見応えがありそうです。

 これは、表情に出して悟らせてはいけませんね。

 私の演技力を持ってすれば簡単です。

 最後まで、付き通して見せましょう。


「わかりました。あなた達の言い分を信用しましょう」

「うむ。では早速、ヒベルズ廃坑に向かうとするかのぅ。ところでお嬢ちゃんは、歩む速度で走る速度を出す『走歩そうほ』を習得しておるか?」

「デットさん。私はこれでも、腕に覚えがあります。そこのイーフェと同様の扱いをしていただいて結構ですよ?」

「ほほう! 中々、言うのう。見込みのある嬢ちゃんじゃ! その年で、儂の愛孫のイーフェと互角にやり合えそうじゃし、いいじゃろう。お嬢ちゃんの立つ瀬を立てるとしようかのぅ」


 デットさんが凄く嬉しそうな表情し、イーフェは複雑な心境に陥ったようです。

 あの表情がイーフェでなく、私に向けられたことで、やきもちを焼いているんでしょう。

 お願いですから、冷徹な視線を私に送らないで下さい。

 その視線には、慣れそうもないです。


「……お爺様……無駄話してないで……行こう?」

「そうじゃのう。では、お嬢ちゃんや。ヒベルズ廃坑に案内するので、ついてまいれ」


 こうして私達は、南門から出発。

 エリク探索隊より先に、三人でヒベルズ廃坑に乗り込む算段が決定しました。

 戦力的に十分でしょう。

 私一人でも行けそうな気もしますが、私と同程度の者が一人とそれ以上の者が一人。

 それプラス、背後には一国の国力とパラチ様が控えているのですから、どう考えても終わっています。

 私達三人だけでも、過剰戦力かじょうせんりょくなのに……誘拐犯の組織が可哀想になってきますね。

 ですが! 私は同情はしませんよ? 自業自得です。

 私のエリクをお持ち帰りしたのですから、当然の罰です! 因果応報なのですよ! 


「……貴方……楽しそうね……」

「はっ!?」


 油断して、表情に出ていました。

 どうやら私は、エリクの事を考えると駄目になる様です。

 特に今日は、一段と酷いように思えます。

 留意りゅういしないといけませんね。

  

「うむ。流石、嬢ちゃんじゃな。儂らの走歩に遅れも無く、追随ついずいして来るとはのぅ」

「ふふっ、裏世界にこの人ありと、うたわれた貴方から褒められるのは、気分がいいものですね」


 この人は本当に凄いです。

 老人とは思えない程の身のこなし。

 御歳は八十過ぎと、噂で聞きおよんでいますが、まったく衰えてないです。

 健康体そのもので、馬並みのスピードで平原を南東に疾走。

 私をヒベルズ廃坑に案内してくれています。

 

「むっ?」

「どうしました、キッドさん?」

「ちょいと野暮用が出来た。イーフェ、お嬢ちゃんの案内を頼んじゃぞ?」

「……わかった……いってらっしゃい」


 キッドさんが北東に方向転換して、私達と別行動を開始しました。

 その方角に何があるんでしょう? 確か地図上では、林があったはずです。

 

「……お爺様の心配はしなくていい……私達は、誘拐された人の救出だけ考える……」

「そうですね。イーフェの仰る通りです。急ぎましょう!」


 私は、イーフェに案内されるがまま同行し、南東を流れる風のように走り抜けます。

 そろそろ、ヒベルズ廃坑に到着する。と、思われた時、イーフェが片手を上げ、私を制止させました。

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