表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は寄生体(エリクシール)である  作者: おひるねずみ
第二章 エルキア王国編
36/42

第三十五話 モルド王の心労

三十九? 四十話辺りに、エリクの方に戻ると思います。

 エルキア王国。玉座の間。

 栄えあるエルキアの紋章。

 ハートと盾のマークが記された旗印が、玉座の後ろに飾ってあり、床には煌びやかな黄色刺繍のロードがある。

 周辺に武器なるようなものは一切なく、平和を重んじる国家ならではの計らいだろう。

 ビザディン達によって、パラチに破壊された天井の修復を終えており、天井から雨漏りする事は無い。

 玉座の間に残されたのは、エリク達が乗ってきた赤色の宝箱のみ。

 その宝箱を懐かし眼に見ている人達がいた。


「まさかな……もう一度、持ち主の場所に戻って来るとは思わなかった。オキラス。君も見覚えがあるだろう?」

「はい。もう三十年以上になりますか。あの当時は、本当に大変でしたぞ? モルド様と国賓で遊びに来たリリア様が、忽然と姿を消したのですからな」

「ハッハッハッ。昔の事だ、いいではないか。あの時は私も若かったのだから」


 モルド王は宝箱の中に書いた、相合傘あいあいがさを見やった。

 相合傘には、己の名前と、妻のリリアの名前が記入されている。

 モルド王は、三十年前の出来事を鮮明に思い出す。


 モルドはリリアと一緒に楽しく遊んでいた。

 そこでリリアが提案する。

 「私とモルド様で隠れるから見つけて」と、五分後に探索を開始する従者達。

 何処を探しても出てこない。

 隠れてから二十分。

 近くの付添人達が、いくらなんでもおかしいと異変に気付く。

 どれだけ探しても見つからない。

 騒ぎが騒ぎを呼び、城の中は大混乱に陥る。

 名前を読んでも出てこないのだ。

 偉い騒ぎになっているので、怒られるのが怖いのか。それとも誰かに誘拐されたのか。

 色々な憶測が飛び交う中、城の中は勿論、城下町、街の外周辺と、大捜索が行われた。

 国総出で、必死になって探している所に朗報が飛び込んだ。

 「発見した!」と。 

 王と国賓で訪れている者達は、現場に足を運び驚いた。

 王様が大事にしている宝箱の中で、スヤスヤ眠っているのだから。

 その後、無事に保護され、大目玉を食らったのは言うまでもない。

 モルドとリリアは、二人で遊んだ記念として宝箱に自分の名前を刻んだ。


 十二年が経過し、お互い成人した所で、モルドはリリアに結婚を申し込む。

 リリアは色よい返事をし、縁談がまとまり全国民総出の派手な結婚式が執り行われた。

 国民はリリアの事をお転婆として、いい方向に認識されており、可能な限りの祝福を二人に捧げた。

 その後、子宝に恵まれエミリアが生まれる。

 エミリアはすくすく成長し、次第に可憐な乙女になっていった。

 そんな矢先に、リリアは先に旅立ってしまったが。エミリアがいた為、多少の苦しみは和らげることが出来た。

 だが、そのエミリアも、パラチの元に嫁ぎ、城の中が寂しくなると想像し。目頭が熱くなっているモルド王に、王直属近衛兵の一人が玉座の間に入って来た。

 モルド王が近衛兵に目をやるが、息を切らし、少し震えている事に気付いた。


「どうした? なにかあったのか?」

「至急に、お耳にしていただきたい事が!」


 近衛兵の慌てようから、ただ事ではないと判断するモルド王。

 隣にいたオキラスも同様に感じていた。


「エリク様が誘拐されました! 至急に捜索班の編成を!」

「なっ!? そ、それは本当なのか!? 何かの間違いではないだろうな!?」


 近衛兵は首を左右に振り、エルクの執事である、ナーヤ様からの伝言である事を伝えた。


「リガルドに伝えよ! 捜索班を編成し、直ちにエリク殿の探すようにと! どんな手段を使っても構わん! 確実にエリク殿の救出するのだ!」 

「ハハッ! モルド王の仰せのままに!」


 近衛兵はモルド王に一礼すると駆け足で玉座の間を退出していく。

 退出した近衛兵を確認したモルド王は、内心をオキラスに暴露した。


「どこの誰だか知らないが。とんでもない事を仕出かしてくれたな!! 何としてでも、このことがパラチ殿の耳に入るまでに終わらせなければ、非常に不味いぞ!」

「そうですな、同盟を結び、演説した初日にこれでは……我が国の威信に関わります。パラチ様がエリク様が誘拐されたと知れば、怒り狂い、五十年前の三大国滅亡が、エルキアに再現される事でしょう」


 モルド王は想像してしまった。

 エリクが見せた五十年前の出来事を。

 絶対に抗うことが出来ない力を映像で知り得てしまった。

 それが、統治するエルキアに向かうと……跡形も無く滅んだ国の光景が、脳裏にフラッシュバックされ、いやがおうでも歯がカチカチと音を立ててしまう。

 顔の血の気が一斉に引くのを感じ取る。

 この件は、一つの間違いも許されない。


「オキラス。イーフェに依頼を出せ!」

「なっ! モルド様。本気でございますか!? あの者は…………いえ、何も言いますまい。では、どの様に?」

「捜索依頼を王勅命として出す。パラチ殿の友が誘拐されたとな」

「分かりました。直ちに行動に移します」

「頼む」


 オキラスも玉座の間から消え、モルド王だけになり、静寂の空間を取り戻す。


「これでエリク殿が救出されれば良し、失敗すれば滅びを待つだけか……」




 エリクが誘拐された情報が城内に駆け巡り、非常事態と次第に認識していく衛兵達。

 僅か十分で、捜索隊を矢継ぎ早に編成し、リガルドの一声で城下町周辺の捜索が開始された。

 普段は温厚な王が、手段を選ばないと命令! 一刻を争う事態だと理解し、兵士達の気が引き締まる。

 だが、一向に情報が入って来ない。


 それから三十分後、玉座の間に一陣の風が舞う。

 そこには、軽装備で身のこなしが軽そうな女性が一人いた。

 突然の登場に驚くが、来ることが分かっていた為、モルド王の心には余裕がある。


「随分と派手な登場だな。イーフェ」

「……こうでもしないと、気付かない……」


 闇社会の首領と目される者の一人娘であるイーフェ。

 その首領の根城は、現在エルキア王国に存在し、刃向かわない事を条件に住まわせている。

 言うならば、この国の暗殺者達だ。

 本来なら、そのような危険な集団は排除すべきだろう。

 このエルキアは、博愛の国と周りに認知されており、全く逆の性質も持っているのだから。

 先代の王達が何故、そのままにしていたのか? 疑問が脳に渦巻き、居ても立っても居られず、

モルド王は宰相や大臣の制止を振り切り、実際に首領の自宅を訪ねた。

 そうして首領に出会い、先代達のご明察に舌を巻く。

 首領は弱気を助け、強きをくじく人物で、義理人情に溢れていたからだ。

 それからというもの、モルド王は、ちょくちょく顔を出しに、お忍びで住まいに訪れていた。

 この事に関しては、オキラスも知っており、ワザと気付いてない素振りをしている。

 その時に知り合ったのがイーフェであり、初代首領から仕事があるなら娘に頼めと、言伝を受け取っていたので、今回初めて、イーフェに仕事の依頼することにした。

 

「早速だが、首尾はどうだ? 何か掴めたかイーフェ?」

「……お爺様からの伝言……今回の仕業は『蛇の眼』が引き起こした……」


 イーフェは寡黙な女性で、必要以上の事を、一切口にしない。

 ただただ、依頼に忠実な仕事人。

 依頼主にも冷たい視線を向けるが、敵対者には更に冷酷な視線を投げかける、完成された一流の暗殺者。

 能力は非常に高く、去年、十八歳になった時に初代首領から四代目首領の名を、名乗る事を許された、

裏の世界では名の知れた女性。

 そんな、世界トップクラスの暗殺者の視線を、物ともしないモルド王。

 この程度の事で、ビクついていたら、王の責務は務まらない。


「蛇の眼? 聞かない組織だな、危険な奴らなのか?」

「……各地を転々と移動して、人攫いをしている組織……まだ、結成して半年程だけど……もう少しすれば名が知られるようになる……」 


 モルド王は熟慮じゅくりょする。

 恐らく、我が国内で誘拐するのが今回が初だろう。

 だが、妙だ……なぜ情報がここまで出てこない? 誘拐された人は、エリク殿だけではないはずだ。

 何か裏があるに違いない。


「イーフェ。貴重な情報の提供、感謝する」

「……それで、パラチ様の友が誘拐されたって……本当?」

「情けない話だが事実だ。私とした事が、少々浮かれていたのかも知れん」

「……だ、そうです。お爺様……」

「嘆かわしい事じゃ、王の質も落ちたのう」


 不意に背後から声が掛けられたモルド王は、体を震え上がらせ、後ろを振り向くも、誰もいない。

 再び前を振り向くと、眼前にナイフの刃が突きつけられていた。


「何の冗談ですか、デットさん」

「ん? 余興じゃよ、余興。ほれ」


 老人デットがナイフを左手の平に押し込むと、グニャグニャと曲がり、偽物のナイフだと理解する。

 モルド王が安心し、どっと息を撫で下ろすと、デットも違う意味でため息を吐きだした。


「エルキアの王よ。不用心過ぎじゃぞ? もし儂みたいなのが襲ってきたら、どうするつもりじゃ?」

「どうもしませんよ。貴方みたいな者に狙われたら、生きていられないでしょう?」

「フォフォフォ。違いない」


 おもちゃのナイフを懐に隠し、愉悦に浸りながら会話を続けているデットに、確信した事を確認する。


「失礼ですが、デットさんはパラチ殿と知り合いなんですか?」

「おかしな事を言うのう……確かに儂はパラチさんの事を知っておるが……なぜ、そんな結論を出すのじゃ?」

「実はですね……夢を見たんですよ」

「ほう……夢とな……詳しく聞かせて貰えるかのぅ?」


 モルド王は、エリクから見せて貰った映像の一部分を、夢としてデットに伝える。

 親しそうに会話する場面。品物を物々交換している所を、曖昧にして。


「フームゥ。何とも奇妙な夢じゃな。おぬしが言う通り、パラチさんとはちょっとした仲じゃ。

それにのぅ、パラチさんの友が誘拐されたと聞いたからには、儂、直々に出なければなるまいて」

「そうですか、なら……この事件は解決したも当然です。伝説の殺し屋が、出張って来たのですから」


 後は居場所さえ分かれば事件は解決できると、モルド王は判断し肩の力を抜く。


「……お爺様、そろそろ……」

「そうじゃの、ではエルキアの王よ、仕事に戻る。さらばじゃ!」


 モルド王の目で追えないスピードで、玉座の間から姿をくらました二人。

 その二時間後に「『蛇の眼』の情報を入手。今から、誘拐された人々を救出に向かう」と、オキラスからモルド王に情報がもたらされた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ