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俺は寄生体(エリクシール)である  作者: おひるねずみ
第一章 国名宣言編
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第十九話 忘れられた人

 ナーヤと宰相のオキラスは、今後の衣食住に関する事で話し合いをする為、部屋を後にする。

 俺は、モルド王に人材を少しばかり融通してほしい事を伝えた。


「特に、大工や日用人を取り扱う鍛冶師や衣服を作れる人が欲しいんですけど、何とかなりませんか?」

「それがですね、いい人材がいたのですが……」


 どうも、モルド王の歯切れが悪い。

 予想外の出来事でもあったのだろうか。


「パラチ殿が城に侵入する姿を見て、驚いて足場から落下して怪我をしてしまいましてね」


 ははっ、完全に俺らのせいで怪我してるじゃないか! 治しておかないと寝ざめが悪いな。


「モルド王。その人物はどこに?」

「では、案内するのでついて来てくださいエリク殿」


 王様に案内させるって凄いな! 俺、小心者だから気が気じゃないよ。

 王様の歩みに沿そって、後を追従する。

 出会う人は、誰隔たりなく壁横に移動し、会釈して頭を下げる。

 その後、自分達の姿が見えなくなるまでパラチを観察していた。

 家のパラチさんは大人気だ! 今現在は恐怖の対象だが、ある程度月日が経てば其の内、見方も変わってくるだろう。


「ここです、エリク殿」


 モルド王に言われるまま、部屋の中に入る。

 光魔法の『ライト』で明るく照らされ、部屋の中は明るい。

 医療所と見える雰囲気で壁は白く、清潔感が溢れている。

 そんな中に、二人の男がベットの上で横になっているのが見えた。

 両足の骨が折れているのか、両足を包帯でグルグル巻きにされて紐ひもで両足を宙にぶら下げており、少しお腹が出ている中年男性が俺達を見て騒ぎ始めた。


「な!? 王様! これはどういう事です! なぜパラチがここに!?」


 もう片方の人は、両手が腕の節辺りから無いが、体付きは良く鍛えられているのが、シャツの上からでも判断できガタイがいい。パラチを見た瞬間、眼光は鋭くさせ殺気を放つが……


「貴様ぁぁー!! エミリア姫を……あれ……幻覚か? 姫様がいる様に見えるんだが……」


 モルド王は不思議そうに「リガルド。何も部下から聞いていないのか?」と言い、事の顛末てんまつを二人に伝えた。

 二人共、青筋を立てながらをプルプル肩を震わせ、「「何も報告されてない」」と絶叫の声を上げる。

 ああぁー、思い出した。

 何か忘れてると思ってたけど、ようやく何か解った! そうだ、そうだ、リガルドだ! パラチに瀕死の重傷を負わされた近衛兵団長さんの事をすっかり忘れてた。

 だって仕方ないじゃないか? パラチが「パパッ」と宝箱開けてくれないし、石化を解こうとしたら真っ二つに折れて大参事だし、これはしょうがない! そう! しょうがないんだよ!

幾いくつ物、突発的事故が重なった結果の果てに起きた事故なんだ。


「エミリア姫、なぜ教えてくれなかったのですか……話を聞く限り、随分前からご存知だったはずです」

「それはですね、リガルドが両腕を無くされて途方に暮れていると私は思ったものですから……兵士には黙って置く様に命令を出しておきました。それに、この後の驚いた顔を見てみたいので、うふふっ」


 エミリア姫が、サディスト方面に傾いている!? 俺がパラチの処分について、エミリア姫に「どうぞ、どうぞ」言ったからなのか!? 無抵抗な、圧倒的強者を殴る快感を覚えてしまったのか!? ああ、俺は何て面白い事をしてしまったんだ。

 この罪深くない俺を生かしてほしい。


 俺はモルド王から二人を紹介された。

 両腕が無くなっている方がパラチに両腕を切り落とされた近衛兵団長リガルドさん。

 両足を複雑骨折している方が俺に紹介しようとしていた宮大工のビザディンさん。

 何でもビザディンさんは、エルキア王国の大工を束ねるトップで建築業界に絶大な影響があるらしい。

 モルド王曰いわく、エルキア王国の人間国宝なのだそうだ。

 そんな人物を俺に紹介してくれるとは……モルド王の誠意をありがたく受け取ろう。


「リガルドさん。ビザディンさん。何も言わずそのままにしていて下さい」

「「分かった」」


 俺が治療してる現場を目撃しているキルベルトから治療の説明を受け、二人共素直に従う。

 リガルドの両腕に巻いてある包帯を外した所で、俺は二人を回復霧ヒールミストで治療していく。


「ん、なんだ!? 何なんだ!? 俺の、俺の両手が!? 復元!? 再生されていく!? 一体何が起こっている!?」

「改めて見るとやっぱすげぇーなエリクの旦那は、無くなった部位を元から再生だなんて……回復魔法でもこうはいかねぇ、部位破損を元通りに復元させちまうなんて、まさに神子みこの如しだ!」


 モルド王とビザディンさんはリガルドの両腕が再生する現場を目撃して、脳がその出来事を理解できず、ただただ呆気に取られている。

 リガルド自身も「これは夢なのか?」と言って目を大きく見開くが、宮廷医療班トップのキルベルトが言う事もあり三人共、夢ではなく現実と受け入れてくれた。


「はい、終わりましたよ。ビザディンさんも立って普通に歩けると思います」

 リガルドは既に両腕をシャドーボクシングするかの様に体を動かして、両腕の感覚を確かめている。

 ビザディンさんは、俺に言われてからベットから降り立ち上がる。

 すると、骨が完全に固定されている事に気付き「後、一週間はこのままのはずだったんだが……」と大層、驚いていた。


 滞りなく治療が終わり、俺はビザディンさんと交渉して大工や鍛冶師の人材を、一週間で準備して提供してくれる確約を貰い、胸を撫で下ろしているとモルド王が唐突に口を開いた。


「エリク殿は、キルベルトを心の虜にしましたね。キルベルトから聞きましたよ? 「あれ程の治療師は、この世に存在しない!」と、絶対に弟子になってやるとも息巻いてまして、私に面と向かって俺を解雇して下さいって頭を下げに来ましたよ。

 最初は何を言ってるんだ! とは思いましたが……実際にその力を目の当たりにすると、何も言えませんね。その道に精通していない私でさえ、凄いと感想を出させたのです。つまり、私が言いたい事は一点だけです。

 キルベルトの事を、どうかよろしくお願いします」


 キルベルトが余りの出来事に口をパクパク開けて金魚みたいになってる。

 君に上げる餌は無いよ? 悪いねぇー、だから目を潤ませながら抱きつこうとしないでぇぇ~~!


「今から旦那の事を師匠と呼ばせてもらうぜぇー」

「駄目だ! 師匠とは呼ばせん! ぐあぁぁぁー、背骨がぁぁっ」


 何てバカ力だ! 背骨の音が「ビシビシ」と音を上げてるような気がする。

 プロレスラーの締め付けか! 両腕諸共りょううでもろともバキボキにへし折られそうだ。

 俺は男に抱かれたまま、死にたくはない!  


「じゃあ、兄貴と呼ばせてもらう事にする。いいよなアニキ?」

「わかった、わかったから……背骨が折れるから……離れてくれ……」


 キルベルトが離れてくれたが、俺の体がひん曲がってるような気がする。

 目の焦点が歪んでる? アレ? 皆どうしたの? 俺、変ですか? ねぇ、皆どうして後ろに後ずさるの? 顏も真っ青だし大丈夫?


「エリク様、大丈夫ですか?」


 あぁー! エミリア姫だけ近寄って来てくれるよ。

 マジ天使だ、心のオアシスだよ! けど心配してる表情だな。


「大丈夫、大丈夫、この通りピンピンしてるよ?」

「いえ……その大変言いづらいんですが、エリク様の体がSの字に曲がっているのですが……平気なんでしょうか……」

「ヘッ!?」


 俺は自分自身の体を隅々まで観察して見る。

 アハハハハ、やっちゃった。

 これじゃあ、人は引け腰になる訳だ。

 頭はそのままに、胸囲は引っ込み、お腹辺りが前に出ていて、完全にSの字に体がトランスフォームしていた。

 周りの人には、全然大丈夫の様に見えないだろう。

 速攻、細胞に命令して正常の状態に戻し、何事も無かった様に済ませる事にしたが、周囲の反応は冷たい。


「エリク殿は、何でもアリな様子……ハァー、もう驚くことは止めるとしよう。意味がなさそうだ」

「イイ心がけだモルド王! この程度の事で驚いていたら、驚きっぱなしだぞ! 余は慣れてるがな」

「エリク様は、平気な顔で不可能を可能にする……理不尽よね」

「流石、エリクの兄貴! 俺も極めれば、あそこまでの高みに行けるだろうか!?」


 王族の二人は悟りを開いたな、今のでだいぶ耐性が付いた模様。

 それと、そこのマッチョなキルベルト、いくら頑張っても俺みたいな変態な事は出来ないから諦めてくれ。

 こうして和気あいあいとした雰囲気の中で、無事交渉が終わりを見せた。




 全ての交渉事が終え俺達は、お風呂に入って寝る事になった。

「エリク殿、パラチ殿。折り入った話がある!」とモルド王に言われ、エルキア城の王族専用のお風呂に、俺とパラチは招待された。

 体を洗い湯船に浸かる。

 三人が湯船に浸かった所でモルド王が話を進めた。


「エリク殿、パラチ殿。ここには我らしかいないので本音で話して頂きたい。敬語も不要! だからこそ、今この場で問いたい!」

「はぁー」

「エリク殿。パラチ殿はうちの娘にゾッコンと言うのは本当か!?」

「「ぶっ!」」


 俺はただ噴き出しただけだったか、パラチの奴は盛大に「ゴホゴホッ」むせている。

 まさか今この場で、パラチがエミリア姫の事を本当に愛しているのかを聞きに来るとは予想もしてなかった。

 いつかは話す時が来るんだろうな程度で、考えてたんだけど思いの外、早かったな。

 我が子の事を思えば当然か? まあ、パラチよ、頑張って困難を乗り越えてくれ。

 俺はニヤニヤしながら気楽に話すとするかぁ!? 


「エリク殿、パラチ殿。どうなんだ?」

「ああ……パラチはエミリア姫の事が大好きなんだ……」


 ヤベェ、マジヤベェ、モルド王の眼がアブねぇ! 殺気立ってる! パラチが「娘さんを下さい」何て言った日には、ぶん殴られそうな雰囲気だ。

 普段、優しい人が怒るとギャップもあって怖いからな。

 触らぬ神に祟りなしだ! そうだ、俺は無難君になったんだ! リスクを侵さない様に慎重に、無難に済ませる事にしよう。


「パラチ殿。どうなんだ! 娘を好きな本人から返事を貰ってないが!」


 モルド王がパラチに詰め寄る。

 パラチの奴は、いつになく真剣だ。

 だが、何故か哀愁あいしゅうが漂っている。


「勿論エミリア姫は大好きだ! 嘘でもないし、偽りも無い……それにな……似ているのだ、余が五十年前に愛した女性に……声も仕草も瓜二つなのだ」


 ん? 話が変な方向に向かい始めたぞ。

 えっ? パラチ君の嬉し恥ずかしな昔話が聞けるの? それは俺の大好物ですね。

 パラチ君! オーダー入りましたよ? パラチの恋バナ二人前、お願いしま~す。大急ぎで!

 モルド王が「五十年前?」と言い、考え込み始めた。

 何かに気が付いたのかパラチに質問した。


「パラチ殿。その女性の名前は判りますか?」

「オリビアだ。余の初恋の相手だ、忘れるはずがあるまい」


 モルド王の体の動きが一瞬、止まったかのような驚きの表情がそこにはあった。


「確か、叔母おばの名前がオリビアだったはず……行方不明になったと聞き及んでますが……まさか、貴方がエミリア姫をさらったように連れ去ったのですが!」

「ち、ちがう、断じて違う。余とオリビアが始めて出会ったのは、余が昔暮らしていた、廃墟と化した街付近の森の中だ。それと、出会った時には国に追われていたと聞いていた!」


 パラチの一字一句を冷静に聞き取るモルド王。

 やっぱり、疑っている様だ。


「パラチ殿。その事実を確かめるすべがありません。ですから、全てを鵜呑うのみにする訳には行かない」

「……」


 パラチの奴、心の中で葛藤してるな。

 しょうがない、俺が助け舟を出してやるか。

 うまく行けば、モルド王も納得してくれるはず。


「モルド王、確かめる術はありますよ? どうします?」

「なっ!? 一体どうやって確かめるんです!? そんな事……エリク殿なら可能なのか?」


 早くも順応してるな。

 なら、行動あるのみだ。

 

(パラチ、俺がやろうとしてる事判るだろ? 腹くくれ!)

(過去の映像をモルド王に見せるのだな? 分かった。全てエリクに任せる)


 俺は、さっそく行動を開始する。

 モルド王に霧状の液体を飛ばして寄生し、パラチがオリビアと過ごした時の映像を、モルド王に脳内再生させた。

25話まで、パラチの過去編になります。

その後も少し話が追加されて、城に帰還するのが10話ほどズレ込みそうです。


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