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俺は寄生体(エリクシール)である  作者: おひるねずみ
第一章 国名宣言編
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第十八話 会談

 モルド王と言われる人物は、黒髪でチョビひげを生やし、四十代前半に見える。

 背丈は百八十センチで、体はほどほどに引き締まっていた。

 身なりは、いかにも王様! と見えるような、いでたちの服装をしており頭には王冠を被っている。

 流石に王と呼ばれている事はあり、威風堂々としていて様になっている。

 長い間、国王として勤めていたからだろう、優男の顔つきだが油断ならなそうだ。


「エリク殿。この度は国の一大事を救っていただき、まことに感謝する。さらには、石化した私と兵士達を神ならざる力で治した事も二人から聞きている。本当に感謝してもしきれない、本当にありがとう!」

「いえ、身内がしでかした事ですので。それに事の発端はこちら側にありますし、エミリア姫も無事に其方そちらにお返ししますので、この事故の事に関しては全て水に流して無かった事にして貰えると、こちらとしても助かるのですが」

「許すも何も、この国はエリク殿に救われたのです。反論する者など、この国にはいないでしょう。居たとしても、私が反論させませんのでご安心ください」

「そう言って貰えると助かります」

「では、エリク殿。席に座ってこれからの事を話しましょうか? おいしいワインも用意しました。エリク殿も気に入ってくれると思います」


 あれ? ここ麦の産出国だよね? ワインじゃなくてビールじゃないの? 


「モルド王。失礼ですが、ビールと言う飲み物はご存知ですか?」

「ビール? さて? その様な物、聞いた事がないが……オキラス、君は知っているか?」

「いえ、初耳で御座います」


 思いがけない事実が分かってしまったぞ! どうやら、お風呂上がりのビールが飲めない世界らしい。

 ワインで我慢できるかも知れないけど、やっぱり俺はビールを飲みたい! 存在しないのなら造るだけだ、もしビールを造れれば独占販売出来るじゃないか! ムフフ。 


「ご存知でないならいいのです。気にしないで下さい、ただの独り言ですから」


 王様達が不思議がっていたが、気にしても仕方ないと割り切ってくれた。

 七人が順々に席に着席し、改めて自己紹介をしていく。

 王国勢の四人の紹介を終え、こちら側の番になった。


(おい、パラチ。お前の番だぞ)

(ぬぅ、言わなくてもいいのではないか? 余を知らぬ者は、おるまい)

(知ってる、知らないなんて関係ないんだよ。こういうのは形式が大事なんだ)

(ふぅー、仕方ない、従おう)


 パラチは「どうしても言わなきゃダメか?」とめんどくさそうにしていたが渋々と了承してくれた。


「パラチだ、ご存知の通り魔王をしている。以上だ」

「以上だ。ムフン。じゃないでしょうが! パラチ、皆さんに言う事があるよね!」


 俺の苛立ちを含んだ声を聞き、パラチは委縮している様に見える。

 あの圧倒的強者である魔王のパラチが、人に怒鳴られてる一部始終を目撃した、エルキア男性の三人は驚きを隠せない。


「その、すまなかった。エルキア姫欲しさに国を襲ったのは謝る。本当に、この通りだ」


 パラチがテーブルに頭をつけ、謝罪する場面など脳裏に浮かばなかっただろう。

 皆、あっけに取られていた。


「本当にパラチが大人しくしているとは……娘と宰相の言葉だけでは、にわかに信じられなかったが、実際見てみると真実だと受け取るしかないようだ……」

「パラチの奴は、極悪非道の魔王と映るかもしれませんが、根は悪い奴じゃないです。どうか大目に見てください。これから時間を掛けて改心させますので」

「私はエリク殿の事を信じましょう。これから先も、パラチの手綱をしっかりと掴んでいてくだされば、我々は安心して暮らせます」

「まあ、うまく立ち回って見せますよ、モルド王」


 正式にパラチの謝罪を終え、次にナーヤの自己紹介をする番になった。


「ナーヤ・フィルクスと申します。今は、パラチ様の執事を勤めています」

「意義あり!」

「はいぃ!?」


 ナーヤの苗字はフィルクスかぁ、細胞に記憶しておこう。

 ナーヤの苗字が判明した事は素直に嬉しいのだが、まだパラチ直属の執事のままだった。

 いい機会だからこの辺で、ナーヤが仕える人をパラチから俺にシフトさせよう。

 付き合っているのに、パラチ直属なんて俺のプライドが許せそうにない。

 それにしても俺の器、小っちゃいなあ……このどす黒い感情は独占欲と言う物なのか? だけど、それだけナーヤの事を好きとも取れるし、どうなんだろう。


「ナーヤ。今後はパラチの執事を止めて、俺、直属の執事になる事を命じます」

「えっ!? ええええぇぇぇ―――――! それって、それってぇ!?」

「パラチの執事にはイザベラさんを付けようと思ってます。ですので、どうかよろしくお願いします」

「わ、分かりました……努力するので、その……よろしくお願いします……」


 ナーヤがパラチではなく、俺の直属執事と言う事に訂正して、自己PRを終えたのだが、どうも周囲の反応がおかしい。

 エミリア姫とパラチは、目を合わせてニヤニヤしてこちらを見て来るし、キルベルトもどちらかと言えばパラチ寄りで「そうか、そうか」と言って何かを悟ったように頷き、モルド王とオキラスは「えっ!? どうしてそんな事が可能なの!?」と呆気に取られていた。


「パラチに仕える執事を、本人の許可なく変更しても何も反論してこないとは……どういったカラクリなのですかエリク殿?」

「それを話すと長くなるんですけど、聞きたいですか?」

「是非!」


 どうやら、この摩訶不思議なカラクリを解説しないと、話が先に進まなそうなので、俺は自己紹介も兼ねて、包み隠さず教える事にした。


「俺の名前はエリクシール。人間の見た目をしていますが、造られた生命体で、寄生体であり、液体人間でもあります。敵意は全く抱いていないので、よろしく!」


 俺の正体を聞き、エルキア男性三人が三者三様の声を放った。


「ああ、神よ、御許し下さい! 遂に人は禁忌を侵してしまったのか!」

「造られた生命体!? そんな馬鹿な事が! しかも寄生体だと!?」

「モルド王。落ち着きなされ!」 


 予想した以上の反応だ。

 キルベルトは神に慈悲をうてるし、モルド王は「造られた生命体など信じる訳には行かない」と憤慨ふんがいしてる。

 唯一、エミリア姫から情報を得ていたであろう、オキラスだけがモルド王をフォローした。


「エリク様は、争いを好まぬ人と姫から聞き及んでいます。こちらが手を出さぬ限りは安全かと存じ上げます」


 モルド王は「ウーム」と目を閉じ、しばらく熟考したのち


「エリク殿。貴方はパラチに寄生して支配しているのですか?」

「いえ、俺はパラチの魔力制御を手伝っているだけです」


 俺は目線をパラチに向け、続きの言葉を喋る様にアイコンタクトした。


「余は、自分自身の意志でエリクに協力している。上下関係で例えるなら、余はエリクの下に付いている」


 モルド王はパラチに恐る恐る尋ねる。

 答えによっては、この世界のパワーバランスがひっくり返ってしまう。

 だが、この世界に生まれたばかりの俺は、その事を知らない。


「それは、パラチ……殿がエリク殿の軍門に下ったと受け取っても?」

「ああ、そう取って貰って構わん。言っておくが、これは嘘や冗談の類ではないぞ? 全て真実だ」


 モルド王は現状を冷静に分析した上で、頭の中で納得した様だ。

 場内が静まったのを確認して、俺はエルキア王国に来た本題の話を語る事にする。


「自己紹介も済んだことですので、本題に入らせていきたいと思います。

本題は、俺が国を興し、国家として統治する事を周辺各国に認めてもらいたい事です。

パラチが治めている? とは言えない領地の事なんですが、全部自分の領地にして統治してもいいでしょうか? その辺が良く分かってないので、宜しかったら一般論で構いませんから、ご教授のほどをよろしくお願いします」


 俺の話を聞いたモルド王は、今にも走りだしそうな子供みたいな表情をしている。

 あれ? おかしいな? 俺、なにかヘマしたのか? 王様、めっちゃニコニコしてるんだが!


「アハハハハハ、エリク殿! 貴方は愉快なお人だ。膨大な量の手付かずの荒れ果てた大地を、整地し国を興そうとしているのだから! 全く持って面白い! 条件付きではありますが、全面的に協力しますよ。

それと、領地の統治権の心配は恐らく大丈夫でしょう。長年の周辺各国の結論は、近づけば近づくほど魔王パラチの逆鱗に触れかねない為、パラチ殿が治める領地は諦め、放棄する事が決定していますし、

パラチ殿の名をチラつかせれば、誰も文句を言う人はいないはずです。エリク殿が周辺各国と調和を働きかけてくれれば、人々は皆、不安が一つなくなり安堵する事でしょう」


 フムフム、統治権に関しては何も問題ないのか、じゃあ急いで周辺各国に出向いて、俺が危険人物ではないと知らせないと行けないな。それと同時進行で、人材確保と衣食住を速やかに行おうか。

 それにしても、このワイン、優しい味がして俺好みだな。後で頂けるか聞いてみよう。


「ではモルド王。早速ですが、条件の提示をお願いします」


 モルド王の出した条件は、対等な同盟関係。徴収税の撤廃。この二つはエミリア姫との約束で問題は無い。

 だが、三つ目の最後の条件が、俺の不安を膨らませるには十分すぎる問題だった。


「エリク殿。最後の条件です。どうか我が国を守護して頂きたい」

「ヘッ!? どういう事です!?」

「説明いたしましょう。この大陸は、エリク殿が治める予定の地が中央に位置しています。その周りを取り囲むように、メルフィル、ユウナサ、グリン、アヌセヤ、そして我が国エルキアの計五か国が存在します。

 そして更に我々の周りに、計九か国の人族の国家群があり、その中でも強大な国力を持つ三つの国、西北に位置する『軍事国家ヴァルーガ帝国』西南に位置する『魔法都市メフィス公国』北東に位置する『海洋国家ヴォーパル』が、現在飛ぶ鳥を落とすような勢いで、各地に戦争を起こし領土拡大をしております。

 近い将来、この周辺も戦乱に巻き込まれるでしょう。

 戦乱に巻き込まれれば恐らく、周辺各国は従属国家に成り果て、貴方方に牙を剥くはずです」


 ちょーっとぉ! 俺は聞いてないよ! 大陸の外側から内側に向けて進行してくる勢力があるなんて事! 逃げ道がどこにもなさそうじゃないか!

 それに、戦乱がここまで及ぶだと! マジかぁー、この同盟が締結したらのんびり気ままに、順風満帆じゅんぷうまんぱんな国造り生活が楽しめると想像して楽しみにしていたのに! 


「モルド王。近い将来と言いましたが、時間はどれほど残されてます?」


 モルド王は目を閉じながら「遅くても十年、早くて五年ほどで開戦の火ぶたが落とされるかと……」と、呟いた。

 五年か……恐らく一年目でどれだけ発展できるかが、鍵になるな。


「大体の事情は分かりました。では、率直にお尋ねします。モルド王、周辺各国と相手側の戦力比をお教えください」

「それは、我らを守護してくれると捉えても?」

「守護をしないと、こころよく俺の国興しに協力してくれませんよね? それにエミリア姫の故郷であるエルキアが攻めこまれたら、パラチが問答無用でその国を攻撃するのが予想できますし、もうその時点で守護してますよね?」


 モルド王は納得の表情をして、右手で左手を「ポンッ」と叩いた。

 それから、宰相であるオキラスが戦力比について教えてくれた。

 強大な国力を持つ三つの国の内の一つ当たりの戦力が約百万に対して、周辺の五か国が連合を結んだとしても二十万前後なのだそうだ。


 はい、ムリムリムリムリムリ無理ィ! 数が違いすぎる! 一国で戦ったら戦力差、約二十倍以上じゃん。無理でしょ、こんなの。

 それに相手はさ、バトルジャンキーっぽいし、ヒャッハァー戦闘はどこだ! って叫んでる国でしょ。絶対関わりたくない人種だよね。

 いっそのこと、パラチ一人を突貫とっかんさせちゃうか? だけど出来るだけ、こちらからは手を出したくないし、俺は元日本人なんだよ。戦争なって糞くらえなんだよ。

 あー、どうするか、ちょっかい出して来たら、警告して争いをやめさせるか? よし、無難ぶなんに行こう。無難に。俺は今日から無難君だ!


「モルド王、全ての条件を呑みますので、国民には俺の名前ではなく、パラチの名を使って守護すると言広めて下さい。俺の名前で守護されても国民には誰それ? ですからね」

「ハハハ、確かに。パラチ殿の名前はインパクトが、一味も二味も違うので抑止力になる事でしょう。エリク殿の知名度も、あっという間に広がって行くだろうと推察しますが……では、書類にサインをする前にエリク殿。国の名前は決めていますか?」


 フッフッフッ、実は宝箱に入ってる最中に、国名を決めていたのだ。

 安直な決め方だったけどな。


「エリク、ナーヤ、パラチ、ルルスの頭文字を取って『エナパル』にしようかと思います」

「エナパルっと、こちらのサインは済んだのでエリク殿がサインすれば、条約が結ばれます」


 モルド王に渡された書類に俺はサインし、こうして無事にエナパルとエルキア王国との条約が締結ていけつした。

18日までの貯め置き実験の結果は53000字でした。

ですので24日まで、このまま一日一話投稿を続けると思います。

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