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俺は寄生体(エリクシール)である  作者: おひるねずみ
第一章 国名宣言編
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第十六話 城内侵入

 エルキア城 玉座の間。


 いつもは玉座に、エルキア城主モルド王が座しているのだが、今はその姿は無い。

 既に守る者はココにらず、玉座の間は「ガラン」としていた。


「エリクよ、玉座の間に到着したぞ。周囲には誰もいないがな」

「じゃあ、宝箱を鍵で開けちゃってくれ」

「分かった。まずは鎖を解く、少し待っていろ」


 エミリア姫は、無事エルキアに到着した事で心から喜んでいる様だ。


「エミリア姫、無事、祖国に帰って来れて良かったですね」

「エリク様には何てお礼を言ったらいいか……私はパラチ城で一生を過ごすのかと悩んでいたのに。本当にありがとうございます」

「お礼は、これからの行動で示して下さい。期待してますよ、エミリア姫」


 パラチが鎖を宝箱から外し、これから宝箱を鍵で開けようとしていた時に、兵士達が金属音を鳴らし、騒ぎ立てながら玉座の間に現れた。


「パラチィィ――! 貴様のおかげでエルキア王国は滅茶苦茶だ! モルド王と友の敵、討たせて貰うぞ!」


 何か、今にでも襲いかかって来そうな雰囲気の、黄色い装備品で統一された兵士達が沢山いるんですが!


「パラチ! 速く宝箱を開けるんだ! 雰囲気的にヤバイぞ、急げ!」

「ウーム、大変言いにくいのだが、見つからんのだ……どうやら空を飛んでる時に宝箱の鍵を落としたようだ」


 はぁ!? 何やってんだよ! お前は! 肝心な時に「鍵を落とした」って、宝箱開かなかったら、面白い場面もとい、感動の場面が台無しじゃないか。

 あー、ちょっと待っててくれるかな兵士諸君たち、やだなー、もうー、そんな殺気だっちゃって、じりじりと近づいてきて包囲するのを止めて貰えませんかねぇ、眼が血走っていちゃってる人がいて怖い! 怖いんですが! 

 ちょっ! パラチも何やる気になってるの!? 兵士達、跡形も無くはじけちゃうよ。


「貴方達、静まりなさい。ここをどこだと思っているんですが!? 玉座の間ですよ? 誇り高きエルキアの兵士なら、控えなさい!」


 助かった。エミリア姫グッジョブ!

 エミリア姫の一喝により、兵士達は動揺してるが声の出所が分からず、オロオロしている。


「なんだ!? 姫様の幻聴が聞こえた気が!?」

「エミリア姫のお声が! どこだ? どこから声が!」

「あの宝箱から聞こえて来た気がするぞ!」

「何だと! パラチめ、面白い趣向しゅこうをして来たな! パラチを倒した者に宝箱を開ける権利がある訳か! 皆、姫をお助けするぞ!! そして姫に褒めて貰うのだぁ!!!」

「うおぉぉぉぉぉ――――――――!!!」


 兵士達のテンションがハイになって暴徒化したな。

 確かにパラチが持ってきた餞別せんべつとして、兵士達は判断してる。

 ここまではOK、だが! そう言う意味での選別ではないんだよぉ――! 俺のちょっとした心意気? が逆効果になるとは。

 本来ならここで宝箱の鍵が開き、エミリア姫が満を期して登場して丸く収まるはずだったのに、どっかの誰かがカギを無くした為に段取りが大きく狂ってしまった。これは仕置き券を一枚上げないとな、勿論拒否権など存在しない!


「パラチィィィ――――! 死にさらせぇ――――!」

「俺の為にくたばりやがれぇ――!」

「俺、魔王倒したら幼馴染と結婚するんだぁぁ――――!」

「怖いから、ここで待ってるね。私、死にたくないし」


 数人女性がいるらしく、エミリア姫の言葉を聞いて待機しているが、野郎どもは、色々な事を叫びながら血気盛んに突撃してきた。

 誰か、死亡フラグを言ってしまった奴がいるな。くれぐれも死ぬなよ? 俺の仕事が増える。


「フハハハハ、仕方ない、余が相手をしてやろう。命知らずの者は、全力で掛かって来るがよい」

「楽しそうなとこ悪いんだけどパラチ、殺すなよ? 手加減しろよ? 戦意を折るだけにしないと、エミリア姫を使ってお仕置きするぞ?」

(エリク、素晴らしい提案だ! うっかり、殺してしまうかもしれん!!!)


 おま、エミリア姫のお仕置きが、どれだけ好きなんだよ! 表情が笑みから恍惚になってるぞ!


(じゃあ、お仕置きは俺が直々におこなってやるから覚悟しておけ!)


 俺がお仕置きする事が分かった途端に、パラチの奴すげぇ残念そうな顔をしている。

 効果てきめんだな。

 

 今、パラチと兵士達がまさに一触即発を様していたが、俺の隣からドス黒いオーラを滲み出してる、お方が一人。


貴方方あなたがたは、この国の姫である私の言う事を無視するのですね? そうですか、そうなんですか、それなら仕方ないですね」


 エミリア姫の凍り付くような声を聞き、急停止する男達(パラチも含む)皆、同様に緊張しており、この世の絶望がすぐ傍に存在するかの様な顔つきになっていた。

 この玉座の間で無事な男は、俺一人のみ! 俺もあっち側だったら今頃、ガクブルしているよ。


「私は優しいので最後の警告です。よく聞いてくださいね? 敵対行動を一切いっさいやめ、武装解除し、私の言う事に従って下さい。聞き入れるのであれば、今までの非礼は不問とします」 

「「「ハッ! 我らエルキア近衛隊は、武装を解除しエルミア姫に従います!」」」


 はやっ! 身の代わり様が速すぎる! 君達、さっきまでパラチに飛びかかりながら「ひゃほうぅぅいぃぃー! 新鮮な魔王だ! 討ち取れ!!」って、眼をギラつかせながら殺気を放ってたよね! 

そんなにエミリア姫が怖いのか? 怖いんだろうなー、エミリア姫の気分次第でクビにしたり、地方へ左遷させたり出来るんだろうなー、あ~怖い、怖い。


「取りあえずパラチ、そこで固まってないで宝箱を開けてくれない? このまま宝箱に入ったまま、物事を進行させるなんて俺はヤダよ?」

「では、宝箱の上の部分だけ切り取ろう。少し、伏せていろ」


 俺達は宝箱の中で伏せ終わったら、パラチに合図をした。

 その後すぐに、金属音で切った様な音が頭上で響き、俺の頭上から光が差し込んでくる。

 清々しい光だぜぇー、やっと薄暗い空間から外に出られる! 少し窮屈だった為、立ち上がり体を捻ったりすると、体の骨が「ボキボキ」音を立てて鳴った。


「ずっと座ってたから、腰が痛い」

「私もです。エリク」


 三人共、のそのそと宝箱から外に出て、宝箱の前に並んだ。

 近衛兵達は、エミリア姫の姿を確認すると、集合し隊列を整え、そのままエミリア姫の前まで進み、右手を胸に当て敬礼をする。

 そこに、身分の高そうな服を着た白髪の老人が、玉座の間に入り込んで来た。


「何事だ!? パ、パラチ!? なぜここに! 近衛兵! 何をしている! 隊列を組んで……!? エ、エミリア姫!?」


 突然、玉座の間に乱入してきた爺さんが、パニックを引き起こしてるぞ。

 見た目から国の重鎮だよな、多分。


「エミリア姫、あのパニックになっている人は誰です?」

「この国の父の右腕であり、宰相を務めているオキラスです。属に言う国のナンバー2ですね。オキラス、パラチ様は敵対行動をいたしません。安心して、こちらへ来なさい」


 エミリア姫に言われるがまま、オキラスと呼ばれる人物は此方に歩みを進めて俺達の横に来て、上座に対して一礼する。


「姫様、これは一体どういう事ですかな? 詳しく説明して頂きたい。それに、そこの二人は一体誰なのですかな?」

「説明は後程のちほどしますので。今は、石化した者達の居場所を私に教えてください。一刻を争います!」


 エミリア姫の必死さが伝わったのか、オキラスは何も言わず、俺達から背を向けた。


「分かりました。ついて来てくだされ」



 俺達は、宰相オキラスの後をついて行く事にする。

 近衛兵達も、一緒に後をついてこようとしていたので、エミリア姫に頼んで、通常通り過ごしなさいと指示を出して貰った。

 しばらく進んで周りを見てみるが、城の装飾品や調度品は立派なのだが、パラチ城で見た物の方がインパクトがあり、アレと比べると霞んでうつってしまう。

 そんな感想を抱いていたら、宮廷医療室と書かれた看板が目に入った。

 「現在立ち入り禁止」と紙が貼り付けてあり、オキラスは何の躊躇も無くドアのカギを開け、更に十五メートル程先にあるドアを開け、俺達に中に入る様、すすめた。


 中に入ってみると、五体の石像が並んでおり、治療のエキスパートと推測できる人達が、青白い光を体に纏わせながら、その光を石化した人々に放出させていた。

 力を長時間行使してるからだろうか? 治療師の顔は焦燥感しょうそうかんが漂ってる。

 これはもしかして……


(なあパラチ、この人達の力で石化治せそう?)

(無理だな! 余の力は、そんな軟弱な物ではない!)


 即答かよ! そして、やっぱり無理ですか……あわよくば俺の力を使わなくてもいいかなって少しだけ期待してたのに。


「オキラス、正直に申しなさい。現状の治療を見て、石化を治せそうですか?」

「……無理でございます。魔王級の、しかもその頂点に位置するであろうパラチの石化邪眼メデューサ・アイを浴びてしまったのです。治せる者は、御伽話に出て来る、神子と呼ばれる者だけでしょう」


 オキラスは「無念だ!」と言わんばかりの悲しみに満ちた表情をしている。

 治せる者は、いないと確信したエミリア姫は、早速打ち合わせした通りに行動を開始した。

 

「では、治せないのですね。分かりました。宮廷医療班の皆さん、すいませんがこの部屋から退去を命じます。何も言わずに、私に従って下さい」


 エミリア姫の突然の退去命令が出て、治療師達の間に動揺が拡散していく。

 そこに、オキラスからの一喝があり、治療師達は平静を取り戻し、部屋から退出していくのだが、一人だけ部屋から出ようとしない人がいた。

 年は五十歳前後のスキンヘッドの頭、アイパッチをして片目を隠し、強面こわもての顔で、服の上からでも筋肉が分かるガタイがいいマッチョだ。

 服装はドラクエの教会の神父見たいな恰好をしており、果たして戦士なのか? それとも僧侶なのか? 見た目では区別がつかない。むしろ両方かも知れない。

 そんなマッチョがいかつい声で、エミリア姫に反論した。


「いかにエミリア姫であろうとも、モルド王に与えられた職務を放棄する事はできん! この場で何をする気なのか、説明願いたい」


 エミリア姫は俺に視線で合図し、俺はそれに意義は無いため、この場を抑えるべく説明をした。

 このマッチョの名前はキルベルトといい、宮廷医療班のリーダーをしている人物なのだそうだ。

 俺が五人の石化を解くと答えると、オキラスは「ふざけているのか? お前などに出来るものか!」と叫び、キルベルトは「面白い! やってみろ! 出来なかったら、解るよな?」と言い指を「ポキポキ」鳴らして威嚇している。


 こいつら……俺は慈善事業で治す訳じゃないんだぞ……エミリア姫の約束がなかったら、逆切れしてるんだが!

 

「貴方達、私に恥をかかせる気ですか? エリク様に、その様な態度は二度と取らないで下さい。それに、パラチ様が黙っていませんよ?」

 

 パラチの方を見てみると、先程のエミリア姫の脅し? の言葉が効いたのか、戦意が全く無くなってしょぼくれていた所に、エミリア姫から少しばかりなら目をつぶります宣言が出た為、顔つきが一瞬にしてイキイキしだした。


(パラチ、くれぐれも暴れるなよ? 石像が壊れたら、流石に治せないかもしれない)

(分かっている。エミリア姫から許しが出て嬉しくてな!)


 よし、パラチが暴れない内にさっさと済ませよう。

 俺は、石化を治そうとしようと動こうとしたのだが、オキラスがエミリア姫に疑問を持ったのか、恐れず言葉を口にした。


「姫様、何故このような者に様付けをなさるのですか? パラチなら分かりますが」


 その質問に対して、エミリア姫はため息を付いた。


「それだけの力をエリク様は持っているのです。何も言わず、この後の結果を素直に受け取りなさい。受け取った上で非礼を働いたら、私は貴方達を許すことは無いでしょう」

「……御意」


 エミリア姫の真意をみ取ったオキラスとキルベルトは、もはや語る言葉はなく、ただく末を見守るだけになっていた。

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