第十一話 二つの確認事項
この話で、お金の説明です。
食事が終わり、明日に向けて五人で計画を練る事にする。
まず俺は、二つ確認する事にした。
一つ目に、今この城にある財源、そうお金だ。
この城周辺に住んでいる人は居ないので、周辺各国から徴収税によって、このパラチ城は賄われている。
この世界の通貨単位はゴールドで、様々な通貨がある。
▢ ▢ ▢ この世界の通貨種類 ▢ ▢ ▢
大金貨 一枚 一万G
中金貨 一枚 五千G
金貨 一枚 千G
大銀貨 一枚 五百G
銀貨 一枚 百G
大銅貨 一枚 十G
銅貨 一枚 一G
例として、庶民的な店のランチの値段が、一食当たり五Gらしい。前世で言うと一G=百円位に相当する。ドル見たいな物と考えた方が早いだろう。
ナーヤに、先程料理に出て来た『ポルポル』の値段を聞いてドン引きした。
なんと金貨二枚、二千G相当するんだそうだ。
ドル換算で二千ドル……日本円で二十万! しかも一品で……金銭感覚が完全に狂ってるな……流石、王族御用達の料理『ポルポル』! あの旨さは伊達じゃなかった。
実物のお金を確認したいと俺が伝えた為、ゴールドが保管されてある一階の宝物庫に、俺達五人は向かった。
宝物庫に向かう途中で、イザベラさんから聞けなかった一年間の徴収額を、恐る恐る聞いてみた。
「余は、徴収額など数えていない。気にもしておらぬ。全て、ルルスに一任させてある!」
パラチは、自分自身全く関係ないよ? 裏金? 統治資金問題? す・べ・て・ルルス君の犯行だよと言ってるような物だ。
通りで魔王が付く訳だ、色々と酷い。
ルルス苦労してそうだもんなぁー、髪も無かったし、俺と出会って数秒でパラチに殺されるし、可哀想を通り越して、本当に不憫すぎる。
「ルルス君、パラチがああ言ってるが、本当?」
ルルスはニンマリ顔で「アハハハハハ」と笑ってる。
「バレてしまいましたか、私が税収を管理してる事に。この件は、ナーヤとイザベラのみが知っています。と言う訳ですのでエミリア姫。この事は、ご内密にお願いします」
「解りました。誰にも言わないと約束しましょう」
「賢い判断に感謝します」
人差し指と親指をくっ付け、丸い形をした物を、全てルルスが握っているのか。
まさか、裏の魔王がこの城に存在するとは! まるでRPGの王道を、体現したような城だな。
そう捉えると、その裏の裏の魔王が俺か! 何と言うシチュエーション! パラチとルルスを使い版図を次第に拡大していく俺、危険を察知した国々が打倒三大魔王同盟を起こし、俺達に対して戦争の嵐を巻き起こす!
いかん! これはいかんぞ! この妄想は! 俺と言う名の一般人が、世紀末覇者の悪役街道を四駆バギーで突き進み、見事爆散する姿が鮮明に脳内に映し出されている。絶対、そっちに行ったら俺の精神が持たない。
俺は絶対に脇道をそれないぞ、悪魔の誘惑に決して惑わされる物か!
「ハァハァ」気を取り直して聴取を再開しよう。
「じゃあルルス君、一年間の徴収額教えて貰えるかな?」
「はい、今年一年間の徴収額は、約二千五百億Gです。エリク様」
「ふ~ん、そうなんだ?」
「はい、それが五十年程続いています。色々差し引いても四十年分は、ここに残っていると推測します」
「ほう~、なるほど、フムフム、つまりゼロが一杯と言う訳か! アハハハハハハハ」
「そうです、ゼロが沢山並んでるんですよ。可笑しいですよね? アハハハハハハハ」
ちょっと、ちょっと、ちょっと、一年、約二千五百億!? それが四十年分!? えー、う~ん、はぁ~~、今現在、約十兆Gもココにあるのか~ほへぇ~…………十兆!? 日本円に換算すると千兆円!? マジか! 日本の国民の借金、無くなる金額じゃん。
フ、フフ、フフフフフフフフ! このお金は有効に使わせてもらおう!
「ルルス君、俺もお金の管理を手伝うから安心してくれ! パラチの様に丸投げしないから!」
「エリク様、顏が悪人の顔つきになっていますよ!」
「そう言うルルス君も、子供なのに悪徳商人の笑みになってるぞ!」
俺とルルスは今後の国の建国に思いを馳せ、思い思いに語り合う。
ただ唯一、エミリア姫だけは、驚愕の表情でブツブツ呟いていた。
「十兆G…………エレキア王国の一年の国家予算の百年分……う、うそよ……そ、そんな…………一割でも市場に流入したら世界の物価相場が……国民達が……」
「大丈夫ですよ、エミリア姫。エリクはそんな酷い事、絶対しませんから」
「そ、そうよね……気が動転してたみたい。ナーヤさん、ありがとう」
エミリア姫が真っ青な顏になっているけど、どこか具合が悪いのだろうか? ナーヤが心配そうにエミリア姫の背中を撫でている。
パラチも、エミリア姫の方が気になっており、ナーヤと同じようにエミリア姫に付き添う形で歩いている。
一番前を、ルルスと一緒に沸きあいあいと会話しながら、階段を下りて進み、一階の宝物庫に辿り着いた。
この城には六つの宝物庫があり、第一宝物庫には、国宝級のお宝があり、第二には、重要文化財が、第三には、文化財がある。
第四、第六には大金貨があり、第五は、それ以下の通貨が収められている。
第一宝物庫が一番、部屋の大きさが小さく、数が大きくなるに従って部屋の大きさが巨大になっていく。
俺達は今、その中の第四宝物庫の前に到着した。
扉の形は正方形。扉の高さは、俺の身長の二倍程度あり、横幅はその倍の六メートル位。
扉には魔法でロックが掛かっており、ルルス以外開錠する事が出来ない。
「ルルス君、扉のロック解除しちゃって!」
「分かりました。では……むぅん!」
「エミリア姫、ナーヤ、余の傍に来るのだ」
「「? 分かりました」」
ルルスの掛け声により、宝物庫の扉が紫色に光る。
早く開かないかな? 大金貨って、どの位の大きさかな~。
大金貨一枚百万円かぁ~、夢が広がるな! おっ、光がおさm「まった」とは言えなかった。
扉が開くと同時に、大金貨の波が俺を襲う。
キラキラと煌めく波に呑みこまれ、俺は黄金の下敷きになってしまい、その後、俺の行方を知る物は誰もいなかった…………(完)
(息が出来ね~、死ぬ――――!!!)
(そこか)
黄金の海に沈み、窒息で死にそうな時に、間一髪の所で、俺はパラチに救出された。
「ゲホゲホ、流石に死ぬかと思ったよ。パラチありがとう。お陰で、金に埋まって死ぬなんて情けない死に方しなくてすんだよ」
「余とエリクの仲ではないか! 気にするな」
他の三人も「大丈夫?」といった表情をしているが、何故だろう? 俺と少し距離が離れている。
そういえば扉が開く前にパラチは、女性二人を呼んでいた気が……安全圏内にエスコートしていたのか?
「パラチ、まさかとは思うが扉の中の状態を知ってた?」
「フッ、当然だ。第四宝物庫は容量限界の状態で、大金貨を入れる隙間が無いのを知っていたからな! 今は第六宝物庫に、ルルスが大金貨を運んでいる」
ちょっとイラっと来たぞ!
「こうなる事、予想できてたなら教えろよ! 何で、安全そうな第六の方に案内しないんだよ! 俺、死に掛けたんですけど! パラチさん! ルルスさん!」
俺が二人の方に怒鳴ると、二人共「ビクッ」と体を震わせた。目も、完全に泳いでいる。
「私は、パラチ様が第四宝物庫にエリクを案内せよ。と言われて……つい」
「余は沢山の大金貨に溺れるエリクを見て見たくて、仕方なく……な、判るだろう?」
ルルスの言い分は判るから許すことにしよう。だが、パラチは許さん。明らかに故意だろぉ! 俺にも避難するよう、呼びかけなかったし。
「判るだろう? じゃあ無いよ、解らねえよ! これはもう、仕置きだな! お仕置き!」
「よ、余に、何をする気だ!? エリク!」
パラチが怯えている姿を目撃して、エミリア姫が目を丸くしている。
この城での上下関係を今、正確に把握したんだろう。
誰もが畏怖する魔王パラチを、目の前で怯えさせてる者がいる、その事実に。
「失礼ですが、やはりココのトップはエリク様なのですか?」
「先程説明した通りだ、エミリア姫。余はエリクの軍門に下った」
「エミリア姫。俺は相手が敵対行動を仕掛けて来ないので有れば、こちらからは手出しはしませんよ? その点は確約します」
「そうですか……この事実を各国が知ったら慌てふためいて、エリク様に謁見を求めるでしょうね」
そうなんだよな~、だから極力、俺の力を隠さないといけないんだよな……知られたら、俺を頼って大勢詰め寄せてくる。
国造りにはメリットだけど、俺の力を理解した奴が、俺を誘拐しようとしたり、脅しを掛けてくるかも知れない。黒ずくめのムキムキした怖い人達が、襲ってくると考えたら夜も寝れない。パラチがいるから大丈夫だとは思うが、この世に絶対は無いからな。
「じゃあ、お仕置きは今後のお楽しみとして取って置くとして、この散らかった大金貨を片付けようか? パラチ」
俺は床に広がる大金貨の海を、目に捉えながら顎で「クイクイ」してパラチに片付ける様に促す。
「何!? 片付けが、お仕置きではないのか!?」
「だって、それだと俺が面白くないじゃん? だから別と言う事で! あー、ルルス君は許すから、御咎め無しの方向で行きます」
一連の成り行きに、ナーヤとエミリア姫は顔を合わせながら笑っている。
魔王が床掃除をする、シュールな光景も見れるからしょうがない。
ルルスは許された! と分かり、お仕置きが無くなった事に心がピースフルだ。
パラチはため息をして、やれやれと目を閉じ首を左右に振ってる。
俺は、パラチがどうやって大金貨を片付けるのか見守る事にした。まるで、鬼姑の様に。
「仕方ない、余が片付けるとしよう。皆、大金貨から離れるのだ」
パラチに言われた通り、大金貨から離れて行く。
そして、パラチは反則技を使いやがった! 俺はチマチマ片付ける事を予想していたのだが、パラチが少し叫ぶと、大金貨が宙に浮き、宝物庫の中に濁流のごとく次々と流れて行った。
最後の一枚が入り終ると扉を閉め、ルルスに魔法で扉にロックを掛けさせた。体感で三十秒位でした。
良かった、コイン掃除をお仕置きにしなくて、本当に良かった。
「エリク、どうだ? 片付け終わったぞ」
「ああ、予想より大分早かったな」
くそぉ! パラチの、あの勝ち誇った表情を見ると、負けた感じがビンビンするぜ。
「よし、一つ目の確認が終わったから、次だ! 屋上に行くぞ」
俺達は、そのまま屋上に向かう。
二つ目の確認事項、それはエルキア王国への移動手段だ。
どうやらエミリア姫は、パラチに掴りながら空を移動して、パラチ城屋上に連れて来られたらしい。
エルキア城に行くメンバーは、俺、パラチ、エミリア姫、ナーヤの四人で行く事になっており、ルルスはお留守番だ。
屋上に来た理由は、俺が空を飛べるか確かめる為にある。
ルルスの説明によると、俺なら練習すれば、すぐに空を飛ぶことが出来ると言っている。
現にルルスは空を飛べる。
元から飛べる種族以外の者で空を飛べる者は、それだけで強者に位置し、ルルスも、その強者の一人なのだそうだ。
俺も明日の早朝までに空を飛べる様になれば、ナーヤを抱えて四人で空を移動してエルキア王国に行く事が出来る。
ルルスに空を飛ぶコツを教えて貰い、風の流れを読み、空に舞い上がろうと飛翔した。
頑張る俺、必死にジャンプするが飛べない。疲れる俺、空を平泳ぎで泳ぐ動作をイメージするが飛ばない。へこたれる俺、結論どうやっても空を飛べない。
ついには「飛べよぉー!」と絶叫したが、夜空に虚しく虫の音色と共に響いた。
〇ケコプターを着けなくても飛べるとロマンを抱いていたのに……
「ルルス君、全然飛べる気配ないんだけど……俺は、どうしたらいい?」
「そんなはずは……」
俺はルルスの指示通りにしているのだが、全く飛べる気がしない。
さっきまでルルスの言葉を信じて、ライト兄弟が夢見たであろう道を進んでいたのに台無しだ。
やる気メーターが急上昇してトップ付近に近づいたら、底辺に勢い良く叩きつけられた。まさにそんな感じ。
叫んでも飛べなくて、凄く恥ずかしい。可能であれば、景色に溶けてやりすごしたい。
皆、残念そうな顔してるし、お願いだから憐むようなそんな目で俺を見つめないで、液体から気体になっちゃう。
「エリク……明日までには飛べそうにないな、残念だが」
「そうだね……諦めて別の方法にします……」
「だ、大丈夫ですよ、きっと練習すればルルス様のように飛べる様になりますよ、きっと? だから、気を落とさないで下さい」
「ナーヤありがとう。いつか絶対に空を自由に飛んでみせるぞ!」
俺は英知の液体エリクシール! 俺に不可能は無い! フゥーハハハハハハハ!
ナーヤに慰められて、俺が落ち着きを取り戻し、再び頭を回転させんと脳内活性していたら、いつの間にかメイドさんが俺達に報告の為に、屋上入り口付近に立って様子を伺っていた。
「皆さま、お風呂の用意が出来ましたので、何時でも入る事が可能です」
「分かった、すぐに行くよ」
メイドさんが一礼して、その場を立ち去る。
ジャンピング訓練? で疲労していたので、休憩しながら別の移動手段を決めようとしていたので丁度いい。
「一旦、湯船に浸かって休憩してから考えようか?」
「それがいい、それとエリク。お前さっき金貨の海に沈んでたから、少し匂うぞ」
エッ!? 俺、お金臭かったのか! 割とショック受けるんだけど。
(パラチ! 臭いなら臭いって言ってくれよ~、脳内の中で)
(いや、脳内の会話は慣れないので言葉に出してしまった。すまぬ)
パラチは悪くない。気付かなかった俺が悪い。
圧倒的な量のゴールドを見て眼がGになってた事もあり、全然気が付かなかった。
思い起こせば、屋上の階段を上る時、五人一列の真ん中にいた記憶が……
落ち込んでも仕方ない。
とっとと風呂に入って、匂いも憂鬱も汚れと一緒にスッキリ落とそう。
物語の進行が亀の歩みで、全然先に進まないorz