第一話 寄生体
細々と書き書きしていきます。
俺の名前は、三柴 陸 三十歳。
真夏の海で、足が攣って溺れてしまい、命を落とした愚か者です。
ちきしょう! 海に入る前に、準備体操をやっていれば、こんな出来事は起きなかったかもしれないが、今さら悔やんでも後の祭りだ。
死ぬ前に、溺れて死にたくないと必死に心で叫んでいた。
その時、頭の中で声が聞こえる感じがした。
「君が死んだら、転生後、溺死しない体にしてあげよう」
「だったら、今、溺死しない様にしてくれよ!!!」
俺は、心の内で思いっきり叫んだが、次第に意識を失っていった……………
▢ ▢ ▢ ▢ ▢ ▢ ▢ ▢
「ボコボコボコボコボコ」
ここは薄暗い地下の研究室。
色々な薬品が置かれ、所狭しと音を立てている。
あっ!やしい紫色の液体と、緑色の液体を混ぜ合わせ「ボ~~~ン」と音がする。
部屋いっぱいに煙が溢れ、研究室にまばゆい光が輝いた。
「出来た!出来たぞぉぉぉぉ~~~~~~」
遂に完成したぞ!飲めば不老不死になれる錬金術師ならば、恋に焦がれて憧れる伝説級のアイテム『エリクシール』が!!
その時、研究室のドアが勢いよく開かれた。
「錬金術師ルルスよ、遂に『ゲホゲホ』何だこの煙は『ゲボッ』前が見えんぞ!」
「魔王パラチ様、遂に、遂に私は偉業を成し遂げましたぞぉ~~~」
「そうかよくやった。褒めて遣わす。それで、『エリクシール』はどこにある」
「ハッ、今はこの瓶に入っております。」
むう!体が熱い、何故かボコボコと泡立ちユラユラした心地がする………俺は確か溺れてたはず、一体何が………辺りを見渡すと、そこには二人の人物がいた。
目の前には額から二本角を生やし、背中付近まである金色髪をした百八十センチ前後の西洋人風のイケメンが、ヘビメタの服装を纏い満足そうな笑みを浮かべている。
後ろには、魔法使い風の紫色のローブで身を包みフードを被っている百四十センチ位の爺さんがいた。
(俺の体は………ん? あれ? 手と足の感覚が無い? どういう事? そして何故か、瓶に囲まれて出れない。俺は、改めて観察してみる。うむ……青くキラキラ輝いてるな………綺麗だな~って、何で液体なんだ!!! 嘘だろ!? 俺の体どこに行ったの! ねぇねぇ、どうなってんのこれ!?)
俺が動揺して驚いている時、ローブを着た爺さんから、俺『エリクシール』が入った瓶を金色髪のイケメンに渡され、じっくり、ネットリ、まったり? 興味深く俺を見て喋りだした。
「ふ~~む~~~ん。これが『エリクシール』か。素晴らしい力を感じる!」
「流石、パラチ様。お目が高い。これには『魔王の角』『竜の舌』『妖精王の涙』『ノスフェラトゥの牙』『神の雫』『賢者の石』『異質物の核』を濃縮合成させ作り出した至高の一品でございます」
研究者らしき者は、自慢げに説明している。
パラチと呼ばれたイケメンは、体を小刻みに震わせ感極まった表情をして「ルルス……フッ、ご苦労!」と言葉にして、肩を叩いた。
次の瞬間、パラチが指に填めていたアクセサリーが勢い良く壊れ、研究者らしき翁ルルスの首から上が、まるで完熟トマトがつぶれる様に、辺り一帯に飛び散った。
(ギャ―――――――― なんだ!! このイケメン!!! ご苦労とか言いながら平然と殺しやがった~~~~あ、液体だから声出てない………良かった。ふぅ)
安心してる所に、目がギラついたイケメンが何故か俺を飲もうとしている!
(「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉ」俺、美味しくないよ。本当だよ? やめて、本当やめて!!! やめたげてっぇぇぇ―――――――― 駄目だ、呑み込まれる!!!)
俺の思いも虚しく、パラチに呑み込まれて俺『エリクシール』は意識を失った……
ここは……どこだ……確か化け物に呑み込まれて………それからどうなったんだ? ダメだ、思い出せない。
周辺を見てみると、豪華で華やかな装飾をしたインテリアや絵が飾られて、窓からは夕焼け色の光が差し込んでいる。
そして俺は、薄い天幕が付いた心地良い感触のベットの上におり、何かが違うと、違和感がある事に気が付いた。
あれ? 目線がおかしい………俺は自分の姿を見て愕然とした。
あのイケメンになってる!!!
「アイエ――――――――ナンデェ――――――――」
ただ事ならぬ叫び声を聞きつけたのか、肩付近まである黒髪を揺らしながら、上質のスーツを着込み、控えめの胸をした、茶色い目がチャーミングな百六十センチ位の犬耳女性が慌てて部屋にやって来た。
「パラチ様、何事でございますか! 叫び声が聞こえて来ましたのでお伺いましたが。まさか、私が至らぬ事をしたんでしょうか!?」
犬耳女性の顔色が顔面蒼白になり悲痛な声を上げ始めた。
「申し訳ございません! 何卒慈悲を!! お慈悲を!!!」
この俺が寄生? しているファンタジーに出てくる様なイケメン魔族は何だ? 凄い恐れられてるぞ。
きっと、無慈悲な事を沢山したんだろうな。
結果を出した研究者の爺さんを問答無用で殺してたしな……
「あー、君、許すから質問に答えてくれるかな。君の名前は?」
「……ナーヤで御座います」
「俺の事を詳しく教えてくれるかな。絶対怒らないから」
ナーヤは、「何を言ってるの、この人? 頭大丈夫?」見たいな表情をしたが、それを俺に悟れないように話した。
詳しく聞いて色々なことが分かった。
まず、この俺が寄生してるイケメンの名前は、魔王パラチ。
今いる城の城主だ。
城の名前は無かったのだが、近隣諸国の国々が魔王パラチが住む城=パラチ城と命名したそうだ。
パラチ城は、三十歳を迎えたナーヤが生まれる前から建てられており、聞いた話では五十年前に建設され、その時にも色々と悪逆非道な悪さをして、恐れられていたらしい。
「言うこと聞かない悪い子は、夜中パラチが来るんだよ」と言われ、本にもその事が書かれ語り継がれており、他国にも、単独! で戦争を仕掛けに行き、破壊しつくして飽きたら、居城に帰り問題を引っ提げて帰って来る。
超がつくほどの迷惑魔王なのだ。
そんな魔王に付き従う者は数少なく、執事一名、錬金術師一名、メイド十八名の計二十人。
この城に仕えてる者達の総数だ。
驚いた事に兵士や役職のある人物が誰もいない。「なぜ」と聞いたら
「パラチ様に逆らう者は皆等しく悲惨な目に合うので、出来るだけ関わらない様にしています。以前は、何人か居た様ですが……………」
俺は察してしまった。
何か気に入らない事が遭って、その者に不幸が訪れたことに。
国民の信頼されてるか聞くと、「この周辺に国民なんて居ませんよ?」と横に首を振られてしまった。
膨大な土地が、荒れ放題で手付かずだそうだ。
勢い余って、言ったら殺されるであろう発言を、ナーヤは遠回しに喋っていたが、気が気でないらしく、目には、溢れんほどの涙を浮かべていた。
「何でも言う事聞きますから、命だけは! どうか命だけは!」と瞳で訴えているのがヒシヒシと感じられる。
そりゃそうだ、俺が絶対怒らないと言っても約束を守るとは限らないしな。
「パラチ様、怒らないですよね?」体をフルフル震わせてナーヤが言った。
「魔王に二言はない! 何もしないから安心してくれ」
俺の言葉を聞いたナーヤは、安堵したが同時に不思議そうに
「パラチ様、お気分が優れないのでしょうか?」
「いや、至って健康だ。用はないから下がるがいい」
ナーヤは疑問を感じながら、こちらにお辞儀をして部屋から退出した。
その時、俺の体の持ち主である『魔王パラチ』が脳内で目覚めた。
(ん、余は少し前にベットに入り、寝ていたはず………………なぜ……………ムッ、体の自由が効かない!? どうなっている!?)
(どうなってるんでしょうね? 私にも判りません)
俺にもどうなってるか分からないため適当に答えた。
パラチは脳内で聞こえた声に、戸惑いを隠せないでいる。
(貴様ぁぁ――――何者だ!?)
(貴方がお飲みになった『エリクシール』と言う者です。『エリク』と名乗りましょうか。お見知りおきを魔王パラチ様)
(余が飲んだ『エリクシール』だと! まさか、意志を持っていたとでも言うのか!! そんな馬鹿な事があって堪るか!)
俺はパラチの意識が覚醒した時に、パラチに関する一部の映像が一瞬にして脳内にフラッシュバックされ、パラチとエリクシールについての事を少し理解した。
パラチがやってほしくない事や、これまで他人にどんな仕打ちをしてきたかを。
俺は思った。こいつを懲らしめてやろうと。
今までコイツの行いで、どれだけ不幸になった人がいるのか、断じて許すわけにはいかない。
まさに「呆れた王だ、生かしておけぬ!」である。
(はい、私は意識を持って生まれて来ました。貴方が私を飲んでいた時、ものすっごい恐怖を感じました。なので仕返しをしたいと思っています)
(なんだと! お前、何を言っているのか分かってるのか! 魔王だぞ。泣く子も黙る魔王パラチなんだぞ!)
(そんな貴方でも、今は私の支配下にありますよね? 現に身体操作が出来ませんよね?)
パラチは必死になって、俺の拘束から抜け出そうと試みるが、無理だと分かり、すぐに諦めた。
(余をどうするつもりだ?)
(私は貴方に寄生してると判断してるので、貴方の意志を内に封じ込め、この体を自由気ままに使用させてもらいます。まあ、五感は共有で行こうと思います)
(余の意志を完全に消滅させる事も出来るだろう? なぜ、それをしない?)
(言いましたよね。貴方に仕返しするつもりでいるからですよ。それ以上の理由はありません)
しばらく沈黙し、パラチは素直に従った。
(チッ、分かった。余の体を好きにするがいい。まさかこんな事になるとはな…………)
魔王は、そう言い残し俺に体の全権利を委ねた。
「フフフ」仕返し? その程度で済めばいいですけどね?
俺は、これからどんな事をして宿主であるコイツを苦しめようか、模索を開始する事にした。
今後、色々と矛盾している所が出て来る可能性がありますが、ご容赦をお願いします。