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ルイ・トモ  作者: 冷や麦
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沸点

今日もいつものように朝から鳥飼国へと向かって歩いているが、日雀は朝から不思議に感じていることがある。千鳥がいつもより楽しそうなのだ。時折鼻歌も聴こえて来るし、歩く足も軽そうに見える。


「今日はお祝いをしてもらわなくっちゃ」


「何のですか?」

「わからないの!?」

「わ、わからないです…」


みるみる雲行きが怪しくなる。


「サイテー!」


千鳥は大きな声で叫び、眉間にしわを入れて日雀を睨んだ。日雀は突然のことに何が起こったのか理解できず、ぱちぱちと瞬きをするばかりだった。


「ま、言ってないから知ってるわけないんだけどね」


言葉を失っている日雀を尻目に、千鳥は肩をすくめてくすくす笑う。


「今日で13歳になりました」


日雀は、目の前でコロコロ変わる表情とその言葉を理解するのに少し時間がかかったけれど、直に、あっと声が漏れた。数多くのあまりに悲しい出来事の中にあって、ようやく現れた喜びの欠片だ。


「今日が誕生日だったんですね!」

「そ。このままあっという間にひーの歳を追い抜いてしまうかもね」

「え?そうなんですか?」

「そんなわけないでしょ!」


呆れて背を向けた千鳥はわざとらしくため息をつき、どしんどしんと足を踏み鳴らして歩き出した。日雀はそんな千鳥の前になにも言わず回り込んでそっと腰を落とし、膝をついて目の高さを合わせる。日雀の真面目な顔が突然近づいて千鳥は少しうろたえた。


「な、なに?」

「お誕生日、おめでとうございます、千鳥」


日雀は花が咲くように顔をほころばせる。


思いがけない振る舞いに、千鳥は身体中の水分が一気に沸点へと達した。やられた。完全な不意打ちだ。真っ赤にさせられた顔を日雀に見られるのがどうにも恥ずかしくて、千鳥は下を向いたまま日雀の肩を二、三度小突き「ありがと」と小さくつぶやいて走って行ってしまった。


なんだよ、日雀のくせに。千鳥は込み上げてくる笑いを抑えることができず、走りながら荒い呼吸と笑い声が混じりあったおかしな声が出た。



「今日は少し早いですが、この辺りにとどまりましょう。頑張って美味しいお肉でも捕ってきますよ」


いつもならもう少し進むところだが、今日は特別な日だ。夜はお祝いでもしようとふたりは話し、早めに野営する場所を決めた。川辺にちょっとした砂場を見つけたのだ。日雀はこれから食材を調達しに行くという。


「まだ明るいとはいえ、どんな生き物が現れるかわかりません。私が帰ってくるまで火のそばから離れないでくださいね」


そう言うと日雀は森に消えた。


そうは言われてもな、と千鳥は川の方を見た。かなり打ち解けたとはいえ、ふたりは男と女であり、そして他人だ。傾きつつある日差しに目を向け、額の汗をぬぐった後、やっぱり汗臭いなぁと呟き、千鳥は衣服を脱いだ。

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