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俺が真面目だとみんなは言うけれど  作者: 虹色
第六章 失敗からも学びます。
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95 知らぬ間に!


『家に帰ったら電話しろ』


宗屋からのメールが届いたのは、宗屋が蒼井さんと一緒に職場を出て三十分もしないうちだった。


初め、蒼井さんに何か緊急事態かと思った。けれど、それなら電話が来るだろうし、『家に帰ってから』とは言わないだろう。緊急事態ではないのだ。


とは言え、今日は水曜日。明日も職場で会うのに、わざわざ電話をしろと言う。職場では話しにくいことなのか、時間がかかることなのか。それともやっぱり緊急なのか。


たった一言のメッセージに何度も首をかしげ、とにかく仕事を終わらせて家に帰った。母が並べてくれた夕飯を急いで食べて、皿洗いを済ませ、部屋に戻ってスマホで宗屋の連絡先を呼び出す。


『ちょっと確認なんだけど。』


聞こえてきたのは妙に低い声。不機嫌なのか、怒っているのか、それとも深刻な話?


『お前、姫に対してやましいことないか? マジで答えろ。』


ドキッとした。だって、蒼井さんに対しては下心がいっぱいある。いろいろとやましいことばかりだ。


「ええと、それ……、具体的にどんな?」


宗屋がどのあたりを指しているのか探ってみる。恥ずかしいことはなるべく言わずに済ませたい。この雰囲気だと、何か想定しているものがあるに違いない。


『女。』


短く告げられた。


(女?)


意味がよく分からない。


「ええと、蒼井さんが女性だってことに関係が……?」


それでやましいことを話せと言われたら、抱いている妄想とかちょっとした触れ合いとか……。


(もしかしたらセクハラの相談を受けたのか?!)


節操がない俺に宗屋が怒ってる?!


『違う。そうじゃなくて。』


否定されてほっとした。


『お前、姫にふられたときのために、代わりの女をキープしてるんじゃないのか?』


丁寧に説明してくれたけど。


(代わりの女をキープ……?)


またしても意味が分からない。


「何それ? 何のために?」

『そりゃあ、いろいろあるだろうよ。』

「いろいろ?」


意味ありげな言い方。ふられたときのために? ふられたら……?


「もしかして、失恋で傷付いた心を慰めてくれるとか?」

『まあ、それもあるだろうな。心だけじゃなくて体も。』

「ぅええええええええ?!」


(体もって?!)


「何それ?! 意味わかんないけど!」


思わず色っぽい想像をしそうになって頭を振った。


「そ、宗屋、何言ってんの? なんで俺がそんなことを考えなくちゃならないの? 俺、まだ失恋するって決まったわけじゃないのになんで…あ!」


(もしかして!)


「き、今日の帰りに何か聞いたの? だからふられる準備が必要ってこと? 蒼井さんに彼氏できたとか? それとも……」


そこで頭に浮かんだのは夕方に見送った二人の姿。楽しそうに笑い合っていた。そして、あの時間に届いたメール。


(そうだ。だから宗屋がこんなに話しにくそうに。)


「もしかして蒼井さん、宗屋のことが好きなの? 宗屋も本当は蒼井さんが好きだったの? ずっと俺に気を遣って言えなかったとか?」

『えぇ? いや、宇喜多、何言って――』

「そんなこと気にしなくていいのに。蒼井さんが幸せになるなら、しかも相手が宗屋なら俺は」

『ちょっと落ち着け。そういう話じゃないから。』

「喜んで…………え?」

『違うよ。そうじゃない。』

「本当に? ウソつかなくてもいいよ。俺、宗屋なら納得できるし。」

『いや、ウソじゃない。ごめん、悪かった。お前の真面目思考が予想を超えてた。』

「ああ、そう……?」


ほっとした。口では納得すると言っても、やっぱりそれはショックだから。


『よく考えたら、クソ真面目なお前が女をキープするなんて器用なことできるはずがないもんなあ。』


ため息交じりに宗屋が言った。


「キープって……つまり、蒼井さんがダメだったら、ほかの誰かってこと?」

『そう。』

「その……心と体の満足のために?」

『まあ、でなきゃ、周囲に自分に彼女がいるってことを見せびらかすためとか。』

「ふうん……、その候補者をあらかじめ準備するってこと?」

『そう。』


(蒼井さんの代わりの女の子を?)


想像できない。


「なんで急にそんなことを……あ、もしかして、蒼井さんがそう思ってるの?」


帰りにそういう話をしたのか?


『いや、そうじゃなくてだな。』


宗屋があらたまった声を出す。


『そういうつもりのやつがいるんだよ。』


今までの話を総合すると、つまり……。


「ええと、俺が蒼井さんにふられたら、彼女になるつもりの女のひとがいる、ってこと?」

『近いけど違う。そいつはお前が自分に好意を持ってると思ってるから。』

「ああ、そうか。」


宗屋が「キープしている」と言ったのはそういう意味だ。騙してそう思わせている、と。確かに俺の蒼井さんへの気持ちはオープンにしているわけじゃないし。


「なんでそのひと、そんな誤解をしてるんだろう? 誰?」

『白瀬。』

「え、白瀬さん……?」


不快な気分が押し寄せる。


「なんで? どうして? それ、どこからの情報?」

『本人だよ。今日の帰りに会った。』

「本人?」


今日の帰りって……。


「え? 蒼井さんもいたよね?」

『そう。姫の前でそういう話をしたんだよ、あいつは。』

「な?!」


不快感に怒りが混ざった。


「なんでそんなことを? 俺がいつ白瀬さんを好きだって言ったんだよ? だいたい、白瀬さんの狙いは宗屋だぞ?」

『え、俺? 何言ってんだ、そんなの知らねえぞ?』

「横崎の花火大会のときからそうだったよ。宗屋が蒼井さんと仲良くしてるのずっと気にしてて、蒼井さんにずいぶん意地悪なことを言ってたんだから。」


あのときからずっと、俺は白瀬さんにあまり良い印象を持っていない。


『俺のせいで姫をいじめてたって言うのか? でも、今日は間違いなくお前だったぞ?』

「そんな! この前の同期会だって、宗屋の近くに座ってたじゃないか。なのにお前がちっとも話しかけないから、俺がフォローするしかなくて。」


拒否したいほどイヤになったのはあれからだ。なのに、俺が好意を持っていると勘違いされるなんて、いったいどういうことなんだろう? そんな素振りを見せた覚えはないのに。


『ああ、そう言えばお前、話を聞いてやってたっけなあ。』


宗屋がしみじみと言った。確かに、本人に向かって嫌な顔はしなかった。だけどあれは礼儀上……。


『なあ、宇喜多。念のため訊くけど、お前、白瀬と二人で飲みとかメシとか行ってないよな?』

「無いよ、そんなの。」

『電話で相談に乗ったりとか?』

「無いってば。個人的に会ったり、連絡取ったりしてないよ。」

『だよなあ……。』


宗屋の質問に疑惑が持ち上がる。


「もしかして、白瀬さんがそんなことを言ってるの?」

『いや、具体的に言ったわけじゃない。ただ、『じっくり相談に乗ってもらった』って。自分は特別って感じでさ。』

「えぇ?」


不快感が高まる。


「同期会のときに愚痴を聞いたけど……。」

『あのときか? 親身になってアドバイスもらったって言ってたぞ?』

「親身にってわけじゃないよ。延々と不満を聞かされそうだったから、何か言った方が良いと思って。全然たいしたことじゃないのに。」

『まあ、向こうは嬉しかったんだな、きっと。あと宇喜多、誕生日を教えただろう。』

「誕生日……、ああ、そう言えば。」


思い出した。


「同期会の帰りに、占いするっていうから教えた。女子ってよくあるだろ? 教えるまでしつこいじゃないか。」


高校でも大学でも、ときどき訊かれて面倒だった。


「あんまり話したくなかったから、さっさと教えたよ。占ってるあいだは黙っててくれるから。」

『宇喜多……。』


言葉を失うほど呆れてる……?


『お前、どうして気付かない?』

「何に?」

『そういうの、警戒しろよ。』

「うーん……、占いで相性が良いと困るから? でも、俺は信じないよ?」

『そうじゃなくて、それは占いよりも、誕生日を知りたいってことだよ。』

「ぅえ?」

『誕生日を知ってれば、近付くきっかけを作れるじゃないか。』

「ひぇ〜。」


確かに俺も蒼井さんの誕生日に初アルコールの約束をした。でも、占いを口実にして誕生日を聞き出すなんて、考えもしなかった!


『姫には教えてないらしいな?』

「そうなんだよね、言えなくて……って?!」


(もしかして!)


「それも白瀬さんが言ったの? 蒼井さんの前で? どうして?!」

『自慢だよ。自分がどれだけお前と仲が良いかってことを。』

「あぁ……。」


目の前が真っ暗になった気がした。


『一応、俺もひと言フォローはしておいたけど、もしかしたら白瀬も被害者の可能性があるんじゃないかと思って……。』

「被害者って、つまり、俺が白瀬さんを騙してるってこと?」

『まあな。……いや、悪かったよ。なにしろ姫がかわいそうでさあ。』

「うん。わかるよ。」


花火の日だって、初対面なのにあの調子だったのだから。


「教えてくれてありがとう。どうにかしないといけないね。でも、白瀬さんとはあんまり話したくないんだよなあ……。」


こんな状況になっているとわかった今はなおさら。


『ああ、そうだよな。まずは情報を集めてみたらどうだ? 福祉課にはテニス部の先輩たちがいるし。』

「あ、そうだね。」


鮫川さんは当事者すぎるだろうか? 情報をもらうなら……。


「元藤さんあたりかな?」

『ああ、元藤さんならばっちりだと思う。それにしても……くくく……。』

「何だよ?」

『まさかお前が恋愛の揉め事なんか起こすとは思わなかったよ……、あははは。』

「む……っ、そうだよな。」


確かに俺は恋愛ごとには縁が無さそうに見えるだろうけど!


『逆か。お前が真面目過ぎるから、気付かないうちにこういうことを引き起こしたんだな。』

「ああ……、確かに。」


相河たちには「恋愛天然」だと何度も言われてる。


とにかく自分が面倒な状況に陥っているのは間違いない。特に嫌なのは、白瀬さんが蒼井さんの前で俺との関係を自慢したということだ。今のところ、完全な勘違いか、わざと誤解させるような言い方をしているのかはわからないけれど。


(蒼井さんにかわいそうなことをしちゃったなあ……。)


また学歴のことを言われたのだろうか。


(明日、やさしくしてあげよう。)


とは言っても、電車の中と職場じゃ限界があるけれど。


本当は誕生日も教えたい。来月の十六日。もう一か月を切っている。でも、自分から言い出すのはなんだか物欲しそうだし。


(あーあ、難しいなあ。)


こういうことに比べたら、仕事や勉強の方がずっと単純でわかりやすいな。







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