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俺が真面目だとみんなは言うけれど  作者: 虹色
第六章 失敗からも学びます。
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85 ◇ あららら……。 ◇


お盆直前の土曜日の夕方。高校時代の親友、伊勢鈴穂と一緒にクラス会の待ち合わせ場所である横崎駅の西口に向かった。わたしたちはお昼に会って、おしゃべりを十分に堪能してからやってきた。


先に鈴穂と会ったのは、もちろん、久しぶりにゆっくり話したかったから。それともう一つ、わたしにはクラス会に向けて勢いをつけるという意味もあった。大学生になった友人たちに囲まれてもいじけないでいられるように。


鈴穂は以前とちっとも変わらず、明るくて楽しくて、少し毒舌の女の子だった。高校時代はいつも結んでいた髪は今はさらさらと肩にかかる長さに整えられて、きりりとした目元には賢さと落ち着きが加わっていた。白いゆったりしたシャツと細身のパンツというシンプルなコーディネートは飾らない彼女の性格を表わしつつ大人の女性らしさもあり、話しながら何度も感嘆の思いで見つめた。


そんな鈴穂から聞く大学生活の話は純粋に面白かった。それでクラス会も大丈夫な気がしていたのだけど……。


(やっぱり緊張する。)


みんながわたしのことを忘れているかも知れない。覚えていたとしても、口下手なうえに今では話も合わないわたしと会っても困るだけかも。そう思うと、来たことを後悔したくなる。


(でも、今回は鈴穂のためだもんね。)


砂川くんとの思い出を打ち明けてくれた鈴穂。高校のときには隠したままだったのに。それをわたしに明かしてでも砂川くんに会いたかったのだ。鈴穂は「会う」ではなく「見る」と言っていたし、お互いにあれから一度もその名前を口に出してはいないけれど。


(鈴穂にはたくさん助けてもらったから。)


こんなことくらいしか返せるものが無い。


(それに、わたしは恵まれているし。)


好きなひとと毎日会えて、話せて、一緒に仕事もしている。仲良くしてもらって、大事にしていたお守りまでもらった。だから、少しでも鈴穂の応援ができれば。


(お守り、持って来たし。)


端切れで小さな巾着を作って、いつも持ち歩いている。あの小石のことを思うと勇気を出そうという気持ちになる。


「鈴穂! ルウ!」


明るい声が人混みを縫って聞こえた。前方の小さな集団で女の子が手を振っている。


「美結ちゃん、久しぶり!」

「元気だった?」

「うん、元気元気〜。」


思わず駆け寄ると、たちまちにぎやかな歓迎の声に包まれた。周囲の女の子たちみんな、久しぶりに会った喜びを笑顔で表している。いつの間にか自分もその一員になっていて、それに気付いてほっとした。


最初の興奮がおさまると、周りを観察する余裕ができた。お化粧は社会人のわたしよりもみんなの方が上手だ。目はパッチリしているし、指先もきれい。自分の構わなさが恥ずかしくなる。


でも、服はそれほど違和感が無さそう。オレンジ色のロングスカートは地味過ぎず、真面目過ぎず、ちょうど良くわたしらしい気がする。明るい色の服を少しずつ買っておいて良かった。ビーズがついた髪ゴムも、カシャカシャと揺れる音がわたしを応援してくれているような気がして心強い。


「萌のネイル、可愛い。」

「うふふ、ありがとう♪」

「あ、ぺんちゃんだ! おーい!」


一人、また一人と合流する集団で、男子と女子はなんとなく分かれている。そんな中で男女混じって談笑している田波沙織と木田光也、金子海渡の三人は今回の幹事だ。高校のときもモデルかタレントみたいに華やかだった沙織は、今日の集団でもひときわ綺麗だ。きっと男の子たちに囲まれることだろう。


(あ、砂川くんだ。)


行き交う人の向こうから大股で近付いてくる背の高い男の子。黒い髪はあのころよりも少し短めかも。でも、弓型の眉にくっきりと大きな目、細くて真っ直ぐな鼻と楽し気にゆがんだ口許は変わらない。少し色のさめたワインレッドのTシャツに七分丈のジーンズというとてもラフな服装がいかにも大学生っぽい。


「やっと来た〜。」


沙織の甲高い声が響いた。


「え? 遅刻じゃないだろ?」

「でもギリギリだよ〜。」


砂川くんは沙織のところに行き、そのまま幹事グループに合流した。すぐに周囲の男子ともあいさつを交わし、近くにいた女子にも笑顔でうなずく。それからぐるりと見回した。


(やっぱりカッコいいや。)


うっかり砂川くんと目が合わないように顔を背け、女子同士の話に相槌を打ちながら鈴穂の様子をうかがう。けれど、鈴穂は何の反応も無い。砂川くんなどまるっきり眼中に無いみたい。


(態度に出るわけないか。)


当然だ。高校のとき、いつも一緒にいたわたしにさえわからなかったほどなのだから。それに、「どうしているのか見たい」だけの鈴穂は、砂川くんが元気で現れたということだけでもう満足なのかも知れない。


会場であるお好み焼のお店に移動しながら女子と男子が少しばらけて混じり始めても、わたしと鈴穂は女子だけとしか話さなかった。高校生のときもそうだった。これは、こっそり人見知りなわたしにとってはとても有り難いことだった、のだけど。


「元気だった?」


後ろから聞こえた男子の声に慌てた。ほぼ同時に鈴穂の隣に現れた砂川くんを見てますます。


「あ、うん。」


返事をした鈴穂も驚いているのかな。でも、自然な笑顔。どうしようかと迷っていたら尋ねるような視線を向けられてしまい、あいまいに微笑んでうなずいた。


「こういう会には来ないかと思ってた。」


鈴穂に視線を戻した砂川くんが言った。


「そう?」

「大勢で騒ぐイメージじゃなかったから。」

「それはほかの人に任せようかな。」

「ははっ、坂神とか美田とか?」

「うん、そう。あと砂川くん。」

「え、俺も?」


ごく自然な会話。前から普通のお友だちだったみたいに。たしかに鈴穂はわたしみたいな人見知りではないけれど、でも……。


「俺、大学では寡黙だって言われてるんだけど。」

「もしかして、友だちいないの?」

「違うよ! それを言ったの友だちだから!」

「やだなあ、冗談なのに。」


(なんかわたし、邪魔者かしら……。)


いない方が良いのではないかな。もしかしたら食事中に話す相手がいない可能性、あり?


五分ほど歩いてビルに着き、幹事の「三階だよ!」の声にしたがってエレベーターにわやわやと乗り込む。砂川くんはほかのひとと話し始め、鈴穂はわたしと視線を交わしてそっと肩をすくめてみせた。どうやら、これで砂川くんと鈴穂の接点は終わりということらしい。鈴穂には悪いけど、話し相手がいなくならなくて済んで良かった。


会費を払いながらお店に入ると意外に奥行きがあって、突き当りのお座敷が会場になっていた。


「どこに座る?」


鈴穂と素早く相談。


鉄板の付いた座卓が二列。すでに二、三人ずつ座り始めている。二人並んで座れて、比較的落ち着ける場所……。


「あそこ?」

「そうだね。」


手前の列の内側の一番奥。その机にはまだ誰もいない。後ろには女子三人が並んでいる。


わたしが端、その隣に鈴穂と席を確保して一安心。端の席なら目立たないから、自分の話をせずに済むかも知れない。それに、もしかしたらお好み焼きは、口下手なわたしにとっては都合が良いかも。焼く役を引き受ければ間が持ちそうだし。


「よ……っと。」

「お邪魔ー。」


向かい側は男子か……と、覚悟を決めながらあいさつをしようと顔を上げると。


(砂川くんと篭目(かごめ)くん?! なんで?!)


日ごろの市民応対で鍛えられたポーカーフェイスが役に立った。でも、頭の中にはひたすら「なんで?」が飛び交う。


だって、篭目くんも砂川くんと並んで人気のあった男子だ。つまり、二人がこういうときに座るべき場所は、もっと真ん中か沙織たちのグループのそばだ。なのにそろってこんな隅っこに来るなんて!


けれど、追い払うわけにも行かない。席は見る間に埋まって行く。鈴穂は隣に来た関川くんとなごやかにあいさつを交わしている。困ったので、お手拭きで念入りに手を拭いてみる。


店員さんが飲み物のビンを配り、「乾杯するよー!」と幹事の声がした。やるべきことができてほっとした。


「鈴穂はどれ?」


向かいを見る勇気が出ず、ほぼ横向き状態で鈴穂に尋ねた。


「あ、オレンジジュース。」

「了解。」


…と言ったのは砂川くん。そしてわたしより先にオレンジジュースのビンを取った。そのまま笑顔でビンを鈴穂に向ける。鈴穂はいつもと変わらぬ態度でグラスを差し出した。わたしの数倍もポーカーフェイスが上手だ。


「蒼井さんは?」


(え?)


机の向かい側で篭目くんがにこにことこちらを見ている。


「え、あ、ああ、そう、ですね、烏龍茶を。はい。」


予想外のことばかり。グラスを持つ手が緊張で震えそう。職場の宴会なら自分の役割を果たせば良いのだけど、ここではそれが分からなくて困る。


「俺さあ、伊勢と幼稚園一緒だったんだよ。」


(え?!)


不意を突かれた鈴穂がパッと砂川くんに目を向けた。わたしも今度は驚きを隠せず、ほぼ同時に同じことをしていた。


「え、そうなんだ?」


素直に尋ねたのは篭目くん。砂川くんが楽し気にそれに答える。


「そうなんだよ。けっこう仲良くってさあ、家に遊びに行ったりもしてたんだよな。」

「へえ。」


注ぎ終わった篭目くんにお返しに飲み物を尋ねるとコーラを指差したので注いであげた。隣では鈴穂が砂川くんに「どれ?」と尋ねて。そのあいだも男子二人のあいだで話が進んで行く。


「まあ、あれ以来ずっと会ってなかったけどね。」

「ふうん。でも、幼なじみってやつじゃん。」

「言うかなあ? 伊勢は忘れてるからなあ。」

「わ、忘れてないよ。」


思わず、というように言ったあと、鈴穂はトン、と空になったビンを置いた。その頬がほんのりと赤い。


「忘れてない。覚えてたよ。」

「え、ほんとに? マジで? やべえ。」


砂川くんがいきなり照れ始めた。自分で言いだしたのに。


「え、マジで覚えてた? 知らんぷりしてるから忘れてると思ってた。…てか、言えよ、覚えてるって。なんだよ、俺、ずっとひとりで」

「飲み物注いだー? 乾杯するよー?」

「おー。」

「はーい。」


幹事の声でみんながグラスを持ち上げても、砂川くんはまだ照れている。


「え、そうなのか。うわ、どうしよ」

「三年六組の再会を祝してー、かんぱーい!」

「「「「かんぱーい!」」」」


鈴穂とグラスと視線を合わせるとき、砂川くんは顔を赤くして照れながらも、かなり嬉しそうだった。目の前の思いがけない展開がこれからどうなるのかと思うと、わたしもなんだか恥ずかしくて、ドキドキしてきてしまった。







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