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俺が真面目だとみんなは言うけれど  作者: 虹色
第八章 恋人まであと…?
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144 三人でおしゃべりタイム


「宇喜多と姫はさあ、ふたりでいるときも名字で呼び合ってんの?」


10月半ばの土曜日、テニス部帰りの車の中。助手席の宗屋が突然気付いたように尋ねた。


俺と蒼井さんの関係が進んでからも、宗屋の立ち位置はまったく変わらない。毎朝の始業準備もテニス部も、ときどきのおしゃべりも今までどおり。それは俺たちにとってとても嬉しいことだ。


「そうですよ。だって、宇喜多さんは宇喜多さんですもん」


蒼井さんの答えに俺もうなずく。呼び名というものは、使っているうちにその人の人格と深く結びついているように思えてくるものだから、簡単には変えられないのだ。


「まあ、俺も宇喜多のことをあだ名で呼んでみたいとは思わないけど……」

「だったら、その話はしなくても」

「もし呼ぶとしたら、何だろうなあ? 姫、どう思う?」

「呼ぶとしたら、ですか……?」


俺を無視した話題で蒼井さんも考え込んだ。


「うーん……、イエローでしょうか」

「え?! イエロー? 何それ?」


どうでも良いと思っていたのに、蒼井さんのネーミングが意味不明過ぎて思わず反応してしまった。


「宇喜多さんの名前、漢字にカミナリが入ってるし、ライトだと懐中電灯の光みたいな感じだし、だから黄色でイエロー……みたいな」

「わははは、姫、いいな、それ! で、姫は春の色でピンク!」

「ぷふ」


お互いに「イエロー!」「ピンク!」と呼び合っているシーンが頭に浮かんだ。


「まるで戦隊ヒーローだなあ」

「え、じゃあ、じゃあ、宗屋さんは? 宗屋隆一さんだから……色が無いですね。でも、空手やってるから強そうな赤かな?」

「いやあ、俺は赤っていうガラじゃないな。緑か青がいいな」

「うーん、じゃあ、ブルーグリーン?」

「長っ」「中途半端っ」


車内に笑い声があふれる。


「世間の悪と戦う公務員戦隊カモメンジャー!」

「『世界の悪』じゃなくて『世間の』っていうところが無理してなくていいね」

「どんな悪いことですか? 脱税とか?」

「そうそう。あとはブラック企業とか」

「それだと労働基準監督署とかで働いてないと」


楽しくなってきた。三人でいると、よくこんなくだらない話で盛り上がったりもする。


「区役所で取り締まれることって、あんまりなさそうですね」

「あ、そう言えば、還付金詐欺と戦ったじゃん」

「ああ、やったなあ。でもあれ、戦ったって言う?」

「『騙されちゃダメですよ』っていうメッセージを地域に流しただけですよ?」

「悪の組織の計画を阻止するために働いたんだぞ。一種の戦いだろ?」

「確かに」


あの蒼井さんの声のCDは、その後、他課からも貸し出し依頼があり、何度か利用されている。


「せっかくだから、味方をもっと増やしましょう!」


蒼井さんの提案でまた活気付いた。


「そうだなあ、赤は? 前下さん?」

「確かにリーダーシップはありそうですけど……、一匹狼って言うか、王子様って言うか、ピンチの時に出てくるキャラクターが似合いそうじゃないですか?」

「ああ、分かる分かる! 黒……いや、シルバーかな? それともゴールド?」

「あはは、キラキラしてるなあ」

「あとは杏奈さんかな。白で」

「白?」

「はい。凛々しい白鳥っぽいイメージで」

「うーん、分かる」

「赤がいないぞ、赤が。やっぱり赤がいないと」

「塩森課長?」

「いや、課長は司令官だろ。『出撃!』とか言って」

「カッコいいなあ」

「似合いますね。となると、赤は……、ああ、彩也香さん?」

「おお! ぴったり!」

「元藤さんか。なるほど」


姐御肌の元藤さんなら、リーダー役も十分に果たせる。


「彩也香さんがレッド、宇喜多さんがイエロー」


蒼井さんが指折り数え始めた。自分がイエローだと言われるのは違和感しかないけれど。


「宗屋さんがブルーグリーン」

「やっぱ、それは長いからブルーにしといて」

「了解です。宗屋さんはブルー、杏奈さんがホワイト、そして、わたしがピンク。ピンクってイメージじゃないですけど」


そんなことないよ! 蒼井さんはかわいらしいピンクだよ! 水着だってピンクだったし!


「女性の方が多いのは戦隊ヒーローで初じゃないか?」

「司令官も女性ですし」

「孤高のヒーローがいたよね? 前下さん」

「ちょっと存在感が薄めかな」

「シルバーでいいですか? ゴールドにします?」


扱いも少し軽めになってしまって申し訳ない。まあ、本人は何も知らないわけだけど。


「シルバーの方が落ち着いた感じになるなあ」

「そうですね。ゴールドじゃあ、出て来られたときにびっくりしそうですよね」


いったい、蒼井さんはどんなゴールドを想像しているのだろう?


「必殺技はスーパーカルキュレイターアタックかな」

「カルキュレイターって……ええと、電卓ですか? みんなで早打ちすると技が発動するのかな?」

「まさか、答えが合わないと技が出ないとか?」

「不安定な必殺技だなあ。アクションも地味だし」

「公務員だから地味でも仕方ないね」

「なんか、時間外は働かないとか思われそう!」

「そんなことないのになあ」

「でも、仕事でやるなら残業代はちゃんとほしいです」


蒼井さんは現実的だ。


「見た目が派手なのはどの職業だろうなあ?」

「アイドルはどうですか?」

「アイドル戦隊? 番組としては人気が出そうだな」

「でも、売れっ子だから、なかなか全員がそろわないの」

「ああ、今日はピンクはCM撮影で、ブルーは握手会で、とか?」

「そうそう。出撃が一人のときもけっこうあったりして」

「戦隊として成り立たないね」

「必殺技はファンの集団が押しかけて敵を蹴散らすってのはどうだ? グレートファンラーーーッシュ! みたいな」

「その技だったら、絶大な人気があれば一人でも発動可能ですね!」

「人気の差が目に見える技なんて、シビアだなあ」

「人気に陰りが差し始めた時点で弱くなるから、メンバーを入れ替えないと」

「メンバー内でもトップの座をめぐって水面下で戦ってたりして」

「ドロドロしたドラマになりそうだなあ」

「日曜の朝には流せないんじゃないか?」


今までとは違ったファンが付きそうだ。


「見た目のインパクトだったら力士はどうかな?」

「五人並ばれたら威圧感がすごそう」

「化粧まわしが豪華でいいかも」

「豪華と言えば歌舞伎もいいですね」

「登場シーンが絵になるね」

「技名を叫ぶと、どこからともなく黒子がわらわらと……」

「あははは、メカっぽいけど実はアナログってことか」

「保育士さんの集団とかどうでしょう? お遊戯で敵を操るんです」

「『ひげじいさん』とかやらされるわけ? メンタルを削られる技だなあ」

「俺、絶対に悪者にならない。恥ずかしすぎる」


……と、中身の無い話がとめどなく続いた帰り道だった。




夜になってから、蒼井さんをどう呼ぶかという話だったことを思い出した。


(少し特別な感じは出したいけれど……)


でも、やっぱり俺は、蒼井さんのことは「蒼井さん」としか思えない。


職場でうっかり呼んでしまったら恥ずかしいし、彼女に似合う呼び名を思い付くまでは今のままで行こうと思う。







くだらない話を書きたかったんです…。



…というところで第八章は終了です。

お楽しみいただけたでしょうか。ちょっとじれった過ぎたかな。


次から第九章に入ります。いよいよ最終章です。

どうぞ最後までお楽しみください。

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