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俺が真面目だとみんなは言うけれど  作者: 虹色
第七章 進め! 進め! 止まれ?
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106 反省と展望と


(蒼井さん、少しは俺のこと見直してくれたかなあ?)


ベッドに横になると、一緒にいた時間が一気によみがえってきた。


(かなり頑張ったつもりなんだけどなあ……。)


さすがにキスするまでは無理だったけど、そこそこ意思表示はしたつもりだ。ただ、最後の方は半分自棄になっているような状態でもあったけれど。


(もしかしたら、今、蒼井さんも俺のことを考えてくれているかも。)


ぼんやりと、うっとりと。「会いたいな」って思いながら。


(そうだったら嬉しいなあ……。)


一日の終わりにお互いに思い合うなんて。


だけど、そんなことあるだろうか。帰りの車の中でもいつもと変わりない様子だったけど……。


(そうなんだよな……。)


蒼井さんの反応がどうにもわからなくて。


手をつないでも、肩に手をかけても、ちっとも甘い雰囲気にならない。


驚くのは間違いないし、ちらりと恥ずかしそうな様子も見せる。それに、俺を避けるような態度も見せなかった。でも、すぐに何でもないような元気な無邪気さに戻ってしまうのだ。


(まあ、俺もずっと手を握りっぱなしでいられるほど開き直っていられなかったのは確かだから……。)


やってみてわかったけれど、人前で手をつないだままでいるというのはかなり恥ずかしい。恋人同士になっても、俺には無理な気がする。よく考えてみたら、俺は手をつないでいるカップルを見るのも苦手だ。気恥ずかしくて。


(まあ、それはそれとして。)


今の蒼井さんと俺の関係をどう判断したら良いのだろう。告白しても大丈夫なのだろうか。


高校生のときは、葵に触ったことはない。一緒にいたのはおもに朝と帰りで、朝は偶然を装ってで、帰りは部活の延長だ。夏休みに家に行ったこともあったけど、あのときは尾野が一緒だった。そういう付き合いしか無かった状態で慌てて告白して、ショックを受けた葵が部活に来られないという事態に発展してしまったのだ。


(でも、今は……。)


朝は一応、約束して一緒に通勤している。これは普通よりもプラス側だろう。

テニスのときの送迎は近所だという言い訳をしている……ということはカウントから除外かな。

宴会後に送って帰るのは……、これも言い訳をしてるけど、あれは俺の気持ち的にはプラスなんだけど。

そして、今日みたいに二人で出かけること。今後の約束も含めて絶対にプラスのはずだ。しかも、けっこう触れ合ってるし。


(う〜……、あの小さい手!)


彼女の手を思い出しながら、そっと手を握ってみる。この手の中にすっぽりと入ってしまうような華奢な手だった……。


(うんうん。)


あの驚いた顔も、一瞬恥ずかしそうに下を向くところも、何度思い出しても落ち着かない気分になる。


全体的に見て、葵のときよりも意思表示はしている。ただし……、それが通じているのかわからない。


(俺だけが特別だって思えることもあるんだけど……。)


いつもはしないようなふざけ方をしたり、少しだけど希望を言ってくれたり。今日は大きな口で食べていたっけ。


「ふふっ。」


今日の昼は可笑しかった。ほっぺにケチャップまで付けちゃって。指で拭ってあげたときにあんなに驚かれるとは思わなかった。やっちゃいけなかったのかな? かわいくて思わず手が出てしまったのだけど、やわらかい頬が大福もちみたいだった。


(うわ。思い出すとまだドキドキする!)


触れたい場所が増えてしまった……。


「あーあ……。」


思わずため息が出る。


(俺はどう思われているんだろう。)


そろそろ次に進んでもいいような気がする。と言うか、進みたい。もっと仲良くしたい。


そのためには蒼井さんの気持ちを知らなくてはならない。確かめないまま次には進めない。……と言うことは。


(告白するのか……。)


それしかないよな。俺が言わないまま、蒼井さんの気持ちを確かめるなんて不可能だ。


(……いや。もしかしたら。)


誰かを通してそれとなく聞いてもらうっていうのも有りなのか? たとえば宗屋か葵あたりに? そうすれば、ダメでもお互いに気まずい思いをしなくて済む。職場の人間関係を考えたら、それは良いかも?


(いや、やっぱりそれは……。)


意気地が無さ過ぎる気がする。今どき中学生だってそんなことはしないんじゃないだろうか。


それに、宗屋なんかに頼んだりしたら何を言われるかわからない。最悪の場合、宗屋が蒼井さんに「あんなヘタレはやめて俺と」なんてことになりかねない。


(やっぱり自分で言わなくちゃ。)


だとしたら、いつ?


(次の約束……かな。)


九月十六日。俺の誕生日。


あと二週間ちょっと。配属されてからほぼ半年になるし、頃合いとしても良いかも知れない。


(そうだな……。)


来週の土曜日はテニスの練習日だ。その帰り道でっていうのも有りかも知れない。車でどこかに寄って、とか。でも、一週間後では計画が間に合わないか?


どんなふうに伝えるかとか、返事によっての対応とか覚悟とか、心の準備も必要だ。それに合わせた当日のスケジュールも。


(うーん……、意外と大変だな。)


葵のときにはここまで考えなかった。だからあんなにショックを与えてしまったのかも知れない。告白は勢いでするものではないのだ、きっと。


そう思うと、彼女がいる男はやっぱり努力をしたってことだな。しかも、告白でこれくらいだとすると、結婚を申し込むとなったら、いったいどれほどのことを考えなくちゃならないんだろう。


(あ、そうか。)


最初から結婚の話もしてしまえば良いのだ。どうせ俺は蒼井さんと結婚したいと思っているのだから。そうしたら、俺たちは本当の許婚だ。


(おお……。)


それは素晴らしい。


許婚。婚約者。


そうなったら一気に関係が進む。泊りがけの旅行や同居だって可能かも。


(いや、それは蒼井さん次第だよな。)


結婚するまではダメかも知れない。でも、それならさっさと結婚すればいいってことだ。そうすれば誰も文句は無いはずだ。


うん、やっぱり素晴らしい。


とは言っても、最低限、蒼井さんが二十歳になるまでは待つべきかな。だとすると、今年の十二月だ。


(そうだ!)


二十歳の誕生日に入籍するっていうのもいいな。すごく良い記念になりそうだ。


蒼井さんだったらとってもかわいらしい花嫁になるよな。ウェディングドレスを着たら、小柄な彼女はレースや花に埋もれているみたいになるんじゃないかな。そして、彼女の笑顔も心もすべてが俺のものに……。


「く……っ。」


楽しみだ!


(……の、前に。)


蒼井さんに「はい」と言ってもらわなくちゃならない。そのためには申し込まなくちゃ。そしてその日は……俺の誕生日、にしよう。そして、蒼井さんの二十歳の誕生日に入籍だ!


(よし。)


日程は決まった。あとは計画だ。……いや、計画と覚悟だ。


(覚悟か……。)


断られる場合を考えると覚悟が揺らぐ。でも、そこも考えないと、職場の人間関係にも影響が出る。


(大丈夫かなあ……。)


こんな俺でもオーケーしてくれるだろうか。蒼井さんを好きな気持ちは誰にも負けないつもりだけれど。


(ああ……。)


蒼井さんを好きになっちゃいけなかったのかなあ。仕事にまで影響しそうな相手になんて。


でも、この出会いは運命としか思えないんだけどなあ……。







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