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作者: ぷんぷん

 エッセイなるものを書こうと思った。

 まだまだ未熟ものだが、読んでくれると嬉しい。


                ○


 二〇〇八年、四月某日、朝早くから愛しの彼女からメールがきた。ウキウキしながら内容を確認すると、「別れよう」という衝撃の一文であった。私は携帯電話をにぎりしめ放心状態となる。体感時間にすると一時間くらいである。(本当は一分くらいである)

 放心状態の間、私の頭の中では彼女との思い出が走馬灯のように駆け廻っていた。

 高校で同じクラスなった時にとなりの席だったこと。

小説の話で意気投合し、本の貸し借りをするようになったこと。

放課後の調理室で、こっそりとインスタントラーメンを作ったこと。

初めてのデートで地元の小さな映画館に行ったこと。

高校を卒業してから彼女が地方就職になり、遠距離恋愛になったこと。

月に一度、彼女の住む町まで会いに行ったこと。

帰り際の彼女がいつも泣いたこと。

こうした思い出が一時間、私の頭の中を巡ったのだ。(本当は一分くらいである)しかし、いつまでも放心状態では物ごと進まない。私はすぐさま彼女へメールの返信をした。内容は「なぜ!」である。返事はすぐにきた。内容は「遠距離がつらい」という短い文であった。たった一言で今までの関係が終わるとは、人間とは面白い生き物である。

私はアナログ人間なので、電波を使ったコミュニケーションは嫌いである。こんなメールで納得いく人間ではない。私は男らしく彼女に直接話すため、すぐさまバスのチケットを買い、朝一番のバスへと乗り込んだ。車という手段は考えない。それは運転できる精神状態ではないからである。


               ○


私はバスに揺られながら、朝ごはんのサンドイッチをほう張り、レットブルーを飲み干した。朝のエネルギー補給はこれで完ぺきである。

その後は得意の想像力を使い、彼女に会った時どうやって説得をするか、イメージトレーニングをした。到着までの三時間、私は頭の中で彼女との話し合いを何度も繰り返した。そして何度も話し合いは上手くいった。彼女は泣きながら「やっぱり別れたくない」と言い、私はクールに彼女を抱きしめるのだった。今思えば、私はかなりの阿保であった。

イメージトレーニングを積んだ私は、朝よりは落ち着きを取り戻し、彼女の住む町に到着した。駅から彼女のマンションまではかなりの距離があったので、私はさっそうとタクシーを呼び止め、彼女の住所を告げる。運転手は私に「地方の方ですか?」と聞いてきたので、私は「彼女に会いに」と答えた。運転手は「いいですねぇ」と微笑んでくれた。私はそれ以上会話を広げたくなかったので、窓の外を眺めるフリをした。

彼女のマンションに着いた時には、すでにお昼の十二時を回っていた。このまま乗り込んでも良かったのだが、私は戦闘の前に近くのラーメン屋に入ることにした。この行動は別に怖気づいたわけではない。腹が減っては何とやらである。

 ラーメンはじつに美味しかったが、出来れば彼女と一緒に食べたかったと思った。いや、彼女を説得してから食べに来ればいいじゃないか、そうだそうしようと、独りで盛り上がった。

ラーメンでコンディション抜群となった私は、再び彼女のマンションへと向かった。遂に戦いの幕開けである。バスの中で何度もしたイメージトレーニングをもう一度やり、私はインターホンを押した。


             ○


部屋から出て来た彼女は、目をまっ赤に腫らして出迎えた。彼女は私が来た事に驚き、そして私が来た事で泣いた。そして部屋に上がり、気まずい雰囲気の中で話し合いが始まった。

話し合いの内容は特に面白くもないので割愛する。

簡単に説明すれば、彼女は泣きながら「遠距離はもう無理」と言い続け、私は「もう少し頑張ろう」と言い続けた。これを二時間繰り返し、結局私が折れることとなった。散々やったイメージトレーニングは何一つ役にたたず、私は自分の事が少し嫌いになった。もちろん、ラーメンを食べに行ける空気ではなかった。

話し合いが終わり、彼女も気分が落ち着いたところで、二人で近所を散歩することにした。いわゆる最後のデートである。ほとんど田んぼばかりの田舎で、何もない近所であったが、逆にその風景が私の心の中を表しているようで、なんだか気分が楽になった気がした。

散歩中、彼女との会話はあまりなかった。

でもそれで良かった。

お互いがお互い、他人になる準備中なのだから。

途中、彼女が煙草を取り出し、火をつける。

煙草の苦手な私の前では、いつも吸うのを我慢していた彼女だ。

 それを見た瞬間、私は彼女と他人になれた気がした。

 私がうっかりその事を口にすると。

 煙が目に入ったのか、彼女はまた泣いてしまった。

 散歩は三十分ほどで終わり、最後のデートは静かに終わった。


             ○


 それからの事は実に平和であった。

 散歩から帰った私たちは、まるで魔法が解けたように、恋人同士から友達同士へと変わっていた。私は帰りのバスを明日の午後に予約し、今日と明日は友達同士として遊ぼうと提案すると、彼女は快く了承してくれた。

 とりあえず二人で夕飯を作り、最近の仕事の話や、友達の話などをしながら楽しい夕食をした。(ラーメン屋のことは忘れていた)

 夜はテレビゲームで遊びながら、二人の高校時代のことなどを語り合った。

 これは当たり前の話だが、大人の遊びはしなかった。すでに私たちは友達同士なのだぁら、そこらへんの分別はしっかりとしなければならない。

 翌日は町で一番大きいショッピングモールに出かけた。雑貨屋でお互いの好きそうな物を買い、ゲームセンターに行って二人で大はしゃぎをした。お昼はハンバーグを食べ、その後はお洒落なカフェなんかでお茶をした。

 傍から見れば仲の良い恋人同士に見えただろうが、私たちは友達同士であった。

 お互いがお互いを名字で呼び合い。

 手は握らず。

 くだらない事で笑いあった。

 こんな行動に理解できない人もいるだろうが、これが私の別れ方で、これが彼女の別れ方であった。二人とも後味が悪いものが大嫌いなのである。

 バスの出発時間ギリギリまで遊んだのは、別れ際をあっさりと済ませたい私の考えであった。こちらに来てからは終始彼女のペースだったので、どこかで意地悪したいと思ったのだ。私は企み道理、出発三分前のバスに到着し、彼女に「じゃぁね」と言ってからあっさりとバスに乗り込んだ。

 運が良かったのか、はたまた悪かったのか、バスの座席は彼女が見える窓側の席であった。

窓の外では彼女が笑顔で手を振っている。

僕も笑顔で手を振る。

出発二分前。とにかくこの二分が長い。体感時間にすると一時間くらいである。(本当に一時間くらいの様だった)

出発一分前。手を振る動作をお互いが止める。

出発三十秒前。乗客の人数を確認し終えた運転手が、バスのドアを閉める。

出発十秒前。最後の最後に手を振ろうと、私は彼女を見る。

バス出発。彼女は泣きながら、手を振っていた。


 そんな彼女を見て、気づけば私も泣いていた。

 

            ○


バスに揺られながら、私はアイポットで本名陽子さんの歌う「カントリーロード」を聞いていた。まるで青春映画のエンディングのようだと思った。

これが映画ならどんなに良かっただろう。

夢でも良かった。

得意の妄想でも良かった。

私の書いた小説でも良かった。

しかしこれは現実であった。

 一本道の人生そのものだった。

 帰りのバスの中、私はぐっすりと、眠りについた。


            ○


 青春映画ならこれで終わりなのだが、残念ながらそうではい。なので、現実的な後日談。

 この年から二年後、彼女は地元に帰ってきた。しかし、よりを戻す話しもなく、特に連絡もとらなかった。(そもそも別れた日からは一度も会っていない)

 友達からの情報によると、現在彼女は四〇代の男性と不倫中らしく、奥さんと激しい争いを繰り広げているらしい。あまりのアクティブすぎる行動に衝撃を受けたが、まぁ、これはこれで面白いと思った意地悪な私であった。


終わり


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