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名も無き子犬
シナモンとご主人様が出会ったのはまだ残暑の残る季節でした。
遠い地に捨てられ、自分の足で生まれ故郷に戻ってきた私は遥か昔にお世話になったお店の前で立ちすくんでいました。
遥か昔といっても人にとっては1年半程度。
でも私のような犬にとっては何十年も経っている気がするのです。
「クゥン…」
景色は何一つ変わっていません。
それでも何か耐え難い不安のようなものが押し寄せてきて、少しだけ鼻を鳴らしてみました。
犬でも不安に思う事、怖い事、複雑な感情もあるのです。
だけどここまで来て引き返すような事はしたくありません。
私は意を決して目の前の扉から中へと入ってみました。