プロローグ
「奏汰。行ってくるぞ」
「へいへーい。いってらっしゃ〜い」
高校1年生の杉山奏汰は空港に足を運んでいた。なぜなら、彼の父親が単身赴任でインドに行くからだ。父親はなんだかすごい会社の幹部の下っ端らしく、幹部とともにインドに三年ほど滞在しなければならないらしい。その見送りに彼は来ていた。
「父親。インド行っても達者でな」
「ははは、奏汰。それは冗談か?」
「実の父親なんだからそれくらい心配するし。いくら父親が丈夫だからって、体調崩すときもあるだろ」
実際のところ、奏汰は父親が体調を崩しているところを見たことがなかった。ただ、脳天気な父親のことは心配していた。
「ふははは。奏汰。バカは風邪引かないって言うだろ」
「父親、自分で馬鹿とか言うなよ」
「まあ、とにかく大丈夫だ」
彼の父親は頭をポリポリ掻きながら返事をする。
「ああ! そうだ! お前に渡すの忘れてた」
「ん?」
突然彼は、自分の鞄をガサガサと漁り始めた。
「ほれ」
「うわっ」
突然眼鏡を放り投げた。奏汰は突然のことに驚くが、なんとかそれを手でつかむことに成功した。
「父親……なにこれ」
「うーん……かけてみてのお楽しみだけどな……まあ、家に帰ったらかけてみろよ」
「今ここでかけちゃダメなのか?」
「うーん……別にかけてもいいけどあんまりおすすめしないな」
「なんで?」
「お前の腰が抜けるから」
「は?」
「だからかけてみてのお楽しみだって」
わけがわからないが、彼はそのとおりにしたほうが良いと思った。実際その予想は当たっていた。
インドに向かう飛行機を展望室で眺めたのち、彼は帰路についた。
母親も放浪中だし、これから一人暮らしじゃね? やっべ!などと帰路の中で彼は思っていた。何とも男子高校生らしい思考である。
しかし、そんな希望も彼が家に帰ったその時に打ち砕かれてしまうのである。
彼が家に帰ってきたのは6時ごろだった。そろそろ夕食時であるが、彼は料理ができなかった。今日のご飯どうしよっかなーとか思いながら彼が家の玄関を開けると美味しそうカレーの匂いが漂ってきた。
奏汰はカレーの匂いを奇妙に思った。家の中は誰もいないはずだし、彼には世話を焼いてご飯を作ってくれるような可愛い幼馴染もいない。
食卓を見て見ると案の定机の上にはカレーライスが盛られてあった。奏汰は疑問に思いつつも、食卓についてカレーを食べ始めた。
カレーは美味しかった。いつもの馴染みのある味だが。
奏汰はここで父親からもらったメガネのことを思い出した。食器を洗ったあとで、玄関においてあったメガネをかけてみる。
何も変わらない。何だインチキか。と彼は思った。
しかし、やはりインチキではなかったのだ。
「……かな……きゅん……す……」
彼の耳は女の声を聞き取った。
彼は幻聴かと思ったが、それが繰り返し聞こえているので、幻聴ではないと知った。
奏汰は家の中をウロウロした。そして自分の部屋の前で止まった。どうやらここから音がしているらしい。
奏汰は部屋の扉を開ける。
「奏汰君のベットクンカクンカクンカンカ!間違えた!モフモフ!モフモフ!奏汰きゅんすきぃ!」
そこにいたのは彼のベットの上で全裸で枕の匂いを嗅いでいる変態の姿だった。