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ウィリアムテルごっこ


ブラックデビルの甘ったるい匂いが部屋を侵食する


「最近、夢にあなたが出てこないの。出ないかな出ないかなって思いながらいつも眠るんだけどなかなかうまいこといかない」


ショートホープの煙が目に入り、思わず涙をこぼしてしまう


「今現在こうして会っているのに、夢にも出てきちゃったら、ちょっとくどいと思うんだけど」


「私はそう思わない。眠ってる時間あなたと一緒にいる方法は、あなたの夢を見ることだけなのだから。」


「僕の呟きの返答として受けとっていいのかい?答えにはなってないのだけれど」


ブラックデビルを口にくわえながら、彼女はカッターシャツの第一から第三までのボタンを外した。白のレースの付いたブラが見え隠れする。汗でびちゃびちゃになった首元をハンドタオルで拭き取るさまは少しみっともなかった。


「ねえ、あなたは私の夢を見ることはないの?」


「結構な頻度で出てくるけど」


「ねえ、最近見たのではどんな夢?」


胸元にたまった汗の泉がこちらに光を向ける。

彼女がずいっと前のめりになったため、それは谷間えと流れ込んでしまったのが少し残念だった。


 「君とウィリアムテルごっこをするんだ。君の頭に林檎を載せて、僕がそれを銃で撃つ。

 ただ、僕の銃は小さいピストルじゃなくて、乱射式のマシンガンなんだ。そんなんで林檎を狙うもんだからさ。どうしても君の小さな顔に弾が当たってしまうんだ。ザクロのようになってね、それがまたグロテスクで美しいんだ。

 でも君はすぐに立ちあがって「ねー、もういっかいしよーよー」なんて言ってくるんだ。顔は潰れてるんだけど、そんな君が愛おしくて、思わず抱きしめてしまうんだ。

 そこで君にキスをしようとするんだけど、口だった部分には前歯しか残っていなくてさ。仕方なく前歯にキスをしたんだ。そしたらものすごいキスの感覚があるんだよ。前歯に触れ合っているだけなのに舌が吸われるような感覚があるし歯裏をなぞられているようなそんな感覚があるんだ」


「夢なのにそんな素晴らしい感触があるものなの?」


「いや、そこで夢が終わって、目を開けたら君が王子さまになっていたんだ」


「私が眠り姫を魔女の呪いから起こしてあげたってわけね?」


「童話の王子様があんな下品なディープなキスをするとは思えないけどね」


 ショートホープをひと吸いして、残りは灰皿に潰した。彼女はとっくにブラックデビルを吸いきっていて、二本目に突入している。

 僕はエクスタシーを噛み潰した。


「あなたの見たその夢の真意はなんだったんだろうね」


 彼女も机の上に散らばっているエクスタシーを喉の奥に放り込む。


「あぁそうだ」


 僕は彼女の言葉を無視し、思い出したかのように立ち上がった。台所にいって、ネズミやゴキブリが闊歩しているであろう流しから、あるものを取り出した。

 そしてその足で玄関へ向かい、靴棚からあるものを取り出した。


 僕の持っていたものは腐敗したカボチャと、バレッタであった。



「ウィリアムテルごっこ、しないかい?」


「いいわね。私が頭の上にカボチャを載せればいい?」


「ああ。お願いするよ」




どうやら僕は終わってしまった人間のようだ。



こうして僕は夢の中から抜け出せず、ただの傍観者として存在する。














ブラックデビルとショートホープはタバコです



エクスタシーはMDMAです




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