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旅する先生と、世界の教室  作者: 最後に残った形


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第67章 第3話:次の係が『一文→表紙横』を開く稽古前――矢印が助けて、三行が少し遠い日


 演劇部の部室には、稽古前のざわめきが満ちていた。


 衣装袋を動かす音。


 椅子を引く音。


 台本の紙がめくられる音。


 窓の外では、夕方の光が少し赤くなり、校庭の端に長い影を作っている。


 机の上には、係用ノートと会話台本が置かれていた。


 係用ノートの表紙には、いつもの三行。


『台詞の場所を一つ見る』


『長くなりそうなら戻し時間へ置く』


『体験者へは短く返す』


 その横には、付箋。


『会話が多い日:最初の返しは一文で止める』


 そして、今日使う台本の端には、第66章で直した印がある。


『一文→表紙横』


 台本端から、係用ノートの表紙横へ戻るための小さな矢印。


 今日は、その印を受け取った次の係が、実際の稽古前に開く日だった。


 渡した説明の声が、次の係の手の中でどう開くのか。


 どこで助かるのか。


 どこで抜けるのか。


 何を読まなかったのか。


 どこへ戻ったのか。


 真帆たちへ何を返したくなるのか。


 それを見る時間だった。


 次の係は、台本を手に取った。


 真帆は部活ノートを持って、少し後ろに立っている。


 柊は係用ノートの横に座っていた。


 莉央は時間表を持ち、紬は鏡横の体験者への札を見ている。


 村瀬先生は、部室の後ろで静かに見守っていた。


 白瀬灯理は、窓側に立っている。


 黒い上着に、使い込まれた革の鞄。


 灯理は、台本端の小さな印と、次の係の指先を静かに見ていた。


 次の係は、台本端を読んだ。


「一文、表紙横へ」


 そのまま係用ノートへ視線を移す。


 表紙横の付箋がある。


『会話が多い日:最初の返しは一文で止める』


 次の係は、小さく頷いた。


「会話が多い日。最初の返しは一文で止める」


 台本端の印は、働いた。


『一文』だけでは、何を一文にするのか分からなかった。


 でも、


『一文→表紙横』


 なら、戻る場所が分かる。


 表紙横に戻れば、意味が開く。


 次の係は、台本を開いた。


 今日の台本も、会話が多い。


 短い台詞が何度も行き交い、登場人物の気持ちが少しずつ変わっていく。


 相手を責めているような言葉の奥に、不安がある。


 笑っているような台詞の奥に、ためらいがある。


 体験者が返したくなる場所は、いくつもありそうだった。


 紬が体験者役として鏡の前に立つ。


 次の係は、台本を持って前に出た。


「では、始めます」


 その時、紬が小さく手を上げた。


「三行は?」


 次の係の足が止まった。


 係用ノートを見る。


 表紙横の付箋は読んだ。


 台本端の印も読んだ。


 でも、中央の三行をまだ読んでいなかった。


『台詞の場所を一つ見る』


『長くなりそうなら戻し時間へ置く』


『体験者へは短く返す』


 次の係は、はっとした顔で戻った。


「ごめん。三行を見ていませんでした」


 莉央が時間表を見る。


「今、十二秒。戻ってもまだ間に合います」


 次の係は、三行を声に出して読んだ。


「台詞の場所を一つ見る」


「長くなりそうなら戻し時間へ置く」


「体験者へは短く返す」


 そのあと、表紙横の付箋をもう一度見る。


「会話が多い日。最初の返しは一文で止める」


 最後に、台本端の印を見る。


「一文→表紙横」


 今度は、順番がつながった。


 稽古が始まる。


 紬が台本の一節を読む。


「『そういう言い方、ずるいよ』」


 声は強い。


 でも、最後の音が少し揺れている。


 次の係は、体験者役の紬に尋ねた。


「感じた一語は?」


 紬は考えて言った。


「怒り、です」


「場所は?」


「『ずるいよ』のところ」


 次の係は、表紙横の付箋を思い出した。


 最初の返しは一文で止める。


 そして、三行の一つ目も思い出す。


 台詞の場所を一つ見る。


 次の係は言った。


「怒りは、『ずるいよ』の最後の揺れから出ていました」


 それだけ言って、止めた。


 紬は台本へ目を戻す。


「でも、怒りだけじゃなくて、少し寂しいかもしれません」


 次の係は戻し時間カードを見た。


「それは戻し時間に置きます。今は『ずるいよ』の場所を一つ見ます」


 柊が小さく頷いた。


 表紙横の付箋は働いた。


 三行も、戻って読めば働いた。


 体験者への入口は増えていない。


 鏡横の札は、前と同じだった。


『まず、感じた一語と、見た台詞の場所を一つだけください』


 でも、稽古前に一度、三行が抜けた。


 台本端の矢印は、表紙横へ戻る道になった。


 しかし、三行を見る流れは少し遠かった。


 次の係は、稽古を終えたあと、真帆を見た。


「先生、『一文→表紙横』のおかげで、最初の返しを一文で止める付箋には戻れました。でも稽古前に急いだ時、三行を見ることが少し抜けました。渡した印が開いたあとには、何が助かって、何が抜けたかを返す必要があると思いました」


 灯理は、次の係の言葉を静かに受け止めた。


 そして、問いを返した。


「うん。では、渡した説明の声が次の人の手で開いたあとを見ることは、『一文→表紙横』が伝わったかどうかを確かめることなのでしょうか」


『一文→表紙横』が伝わったかどうかを確かめることなのか。


 真帆は、台本端の印を見た。


 確かに、伝わった。


 次の係は、台本端から表紙横の付箋へ戻れた。


 最初の返しを一文で止めることも思い出せた。


 台本端の印は見えやすかった。


 体験者への説明も増えなかった。


 でも、それで終わりではない。


 稽古前に急いだ時、三行を見ることが抜けた。


『台詞の場所を一つ見る』


 それが少し遅れた。


 付箋と三行の順番が、受け取った側には少し遠かった。


 読まなかった記録もあった。


 一人語り台本の記録は今日は読まなかった。


 三十五秒の詳しい記録も読まなかった。


 第65章の全記録も読まなかった。


 それらも、聞く必要がある。


 伝わったかだけでは足りない。


 どこで助かったか。


 どこで抜けたか。


 何を読まなかったか。


 どこへ戻ったか。


 何を返したいか。


 そこまで聞くことで、渡した説明の声は次の往復へ育つ。


 村瀬先生が、ホワイトボードに新しい紙を貼った。


『説明の渡した声が次の人の手で開いたあとを聞く』


 真帆がペンを持つ。


 灯理は静かに言った。


「では、次の係が開いたあとを、次の係の言葉で聞いてみましょう」


 まず、渡した言葉。


 次の係が台本端を指差した。


「台本端。一文→表紙横」


 柊が係用ノートの付箋を読む。


「表紙横。会話が多い日、最初の返しは一文で止める」


 莉央が言った。


「係交代時。三行、付箋、台本印を一度見る」


 真帆が書く。


『渡した言葉:台本端:一文→表紙横。表紙横:会話が多い日、最初の返しは一文で止める。係交代時:三行、付箋、台本印を一度見る』


 次に、開いた人。


 次の係が言った。


「次の係」


 真帆が書く。


『開いた人:次の係』


 次に、開いた場面。


 莉央が時間表を見ながら言った。


「稽古前」


 次の係が台本を持ち上げる。


「会話台本を持つ時」


 柊が続ける。


「係交代の前」


 真帆が書く。


『開いた場面:稽古前。会話台本を持つ時。係交代の前』


 次に、助かったところ。


 次の係が言った。


「『一文→表紙横』で表紙横の付箋へ戻れた」


 柊が続ける。


「最初の返しを一文で止めることを思い出せた」


 莉央が台本端を見た。


「台本端の印は見えやすかった」


 紬が鏡横の札を指差す。


「体験者への説明は増えなかった」


 真帆が書く。


『助かったところ:「一文→表紙横」で表紙横の付箋へ戻れた。最初の返しを一文で止めることを思い出せた。台本端の印は見えやすかった。体験者への説明は増えなかった』


 次に、抜けたところ。


 次の係は、少し苦笑した。


「稽古前に急いだ時、三行を見ることが一度抜けた」


 真帆が頷きながら書く。


 紬が続ける。


「『台詞の場所を一つ見る』が少し遅れた」


 柊が言った。


「付箋と三行の順番が少し遠かった」


 真帆が書く。


『抜けたところ:稽古前に急いだ時、三行を見ることが一度抜けた。「台詞の場所を一つ見る」が遅れた。付箋と三行の順番が少し遠かった』


 次に、読まなかったところ。


 村瀬先生が尋ねた。


「今日は、どの記録を読まなくても開けましたか」


 次の係が答える。


「一人語り台本の記録は読まなかった」


 莉央が続ける。


「三十五秒の詳しい記録は読まなかった」


 真帆が言った。


「第65章の全記録は読まなかった」


 真帆が書く。


『読まなかったところ:一人語り台本の記録は読まなかった。三十五秒の詳しい記録は読まなかった。第65章の全記録は読まなかった』


 紬が言った。


「読まなくても、今日は困りませんでした」


 灯理が静かに頷く。


「読まなかったことは、入口が軽かったという声にもなります」


 真帆は、部活ノートの端に書いた。


『読まなかった記録も聞く』


 次に、戻り先。


 次の係が順に指差した。


「係用ノートの三行」


 柊が続ける。


「表紙横の付箋」


 莉央が言った。


「台本端の印」


 真帆が部活ノートを持ち上げる。


「部活ノートの詳しい記録」


 真帆が書く。


『戻り先:係用ノートの三行。表紙横の付箋。台本端の印。部活ノートの詳しい記録』


 最後に、返したい声。


 次の係が言った。


「『一文→表紙横』は助かった」


 紬が続ける。


「三行も同じ流れで見えると助かる」


 柊が言った。


「体験者への入口は増やさなくてよい」


 莉央が言った。


「小さな順番札があると係交代時に開きやすい」


 真帆が書く。


『返したい声:「一文→表紙横」は助かった。三行も同じ流れで見えると助かる。体験者への入口は増やさなくてよい。小さな順番札があると係交代時に開きやすい』


 村瀬先生は、新しいカードの形を整えた。


### 説明の渡した声が次の人の手で開いたあとを聞くカード


#### 聞く時


* 渡した説明の声がある

* 次の係が実際に開いた

* 助かったところがある

* 抜けたところがある

* 読まなかったところがある

* 送り手へ返したい声がある


#### 一緒に見ること


* 渡した言葉

* 開いた人

* 開いた場面

* 助かったところ

* 抜けたところ

* 読まなかったところ

* 戻り先

* 返したい声


#### 説明の開いたあとを聞く欄


* 渡した言葉:

* 開いた人:

* 開いた場面:

* 助かったところ:

* 抜けたところ:

* 読まなかったところ:

* 戻り先:

* 返したい声:


 真帆は、今日の欄を清書した。


### 説明の開いたあとを聞く欄


* 渡した言葉:台本端:一文→表紙横。表紙横:会話が多い日、最初の返しは一文で止める。係交代時:三行、付箋、台本印を一度見る


* 開いた人:次の係


* 開いた場面:稽古前。会話台本を持つ時。係交代の前


* 助かったところ:「一文→表紙横」で表紙横の付箋へ戻れた。最初の返しを一文で止めることを思い出せた。台本端の印は見えやすかった。体験者への説明は増えなかった


* 抜けたところ:稽古前に急いだ時、三行を見ることが一度抜けた。「台詞の場所を一つ見る」が遅れた。付箋と三行の順番が少し遠かった


* 読まなかったところ:一人語り台本の記録は読まなかった。三十五秒の詳しい記録は読まなかった。第65章の全記録は読まなかった


* 戻り先:係用ノートの三行。表紙横の付箋。台本端の印。部活ノートの詳しい記録


* 返したい声:「一文→表紙横」は助かった。三行も同じ流れで見えると助かる。体験者への入口は増やさなくてよい。小さな順番札があると係交代時に開きやすい


 カードができると、次の係は係用ノートの表紙を見た。


 三行。


 表紙横の付箋。


 台本端の印。


 全部、大切だった。


 でも、稽古前に焦ると、どれから見るかが少しばらける。


 真帆は、小さな紙を一枚取り出した。


「順番札を作ってみます」


 紙に、短く書く。


『係交代前に一度だけ見る』


1. 三行

2. 表紙横付箋

3. 台本端印


 紬がすぐに確認した。


「体験者への入口は増えません」


 莉央が時間表を見る。


「読む時間も測りましょう」


 次の係は、順番札を見ながらもう一度稽古前の動きを試した。


 台本を持つ。


 係用ノートを見る。


『係交代前に一度だけ見る』


 まず三行。


「台詞の場所を一つ見る。長くなりそうなら戻し時間へ置く。体験者へは短く返す」


 次に表紙横付箋。


「会話が多い日。最初の返しは一文で止める」


 最後に台本端印。


「一文→表紙横」


 莉央が時間を見た。


「二十九秒」


 紬が鏡横の札を指差す。


「体験者への言葉はそのまま」


 次の係は頷いた。


「これなら、三行も抜けにくいです」


 真帆は部活ノートに書いた。


『小さな直し:係用ノート表紙に順番札を追加。係交代前に一度だけ見る。1三行、2表紙横付箋、3台本端印』


 柊が言った。


「『一文→表紙横』は助かった。でも、それだけでは全部ではなかった」


 真帆が頷いた。


「開いたあとを聞いて、抜けたところが見えた」


 村瀬先生が穏やかに言った。


「抜けたところを責めずに聞けると、次の係が使いやすくなりますね」


 灯理は、静かにその言葉を受け止めた。


 部室には、稽古後の落ち着いた空気が戻っていた。


 台本端には、


『一文→表紙横』


 係用ノートの表紙には、新しい小さな順番札。


『係交代前に一度だけ見る』


1. 三行

2. 表紙横付箋

3. 台本端印


 そして鏡横の体験者への札は、変わらない。


 入口は、増えていない。


 放課後の終わり、次の係は部活ノートを開いた。


『今日の困り:第66章で受け取った「一文→表紙横」を稽古前に開いた。台本端の矢印で表紙横の付箋へ戻れ、最初の返しを一文で止めることは思い出せた。でも稽古前に急いだ時、三行を見ることが一度抜けた』


『渡した言葉:台本端:一文→表紙横。表紙横:会話が多い日、最初の返しは一文で止める。係交代時:三行、付箋、台本印を一度見る』


『開いた人:次の係』


『開いた場面:稽古前。会話台本を持つ時。係交代の前』


『助かったところ:「一文→表紙横」で表紙横の付箋へ戻れた。最初の返しを一文で止めることを思い出せた。台本端の印は見えやすかった。体験者への説明は増えなかった』


『抜けたところ:稽古前に急いだ時、三行を見ることが一度抜けた。「台詞の場所を一つ見る」が遅れた。付箋と三行の順番が少し遠かった』


『読まなかったところ:一人語り台本の記録は読まなかった。三十五秒の詳しい記録は読まなかった。第65章の全記録は読まなかった』


『戻り先:係用ノートの三行。表紙横の付箋。台本端の印。部活ノートの詳しい記録』


『返したい声:「一文→表紙横」は助かった。三行も同じ流れで見えると助かる。体験者への入口は増やさなくてよい。小さな順番札があると係交代時に開きやすい』


『小さな直し:係用ノート表紙に小さな順番札を追加。係交代前に一度だけ見る。1三行、2表紙横付箋、3台本端印』


 そして、一文を書く。


『渡した説明の声が次の人の手で開いたあとを見ることは、「一文→表紙横」が伝わったかを確かめることではなく、表紙横へ戻れて助かったところ・稽古前に三行が抜けたところ・読まなかった記録・次に見たい順番を返し、次の係がさらに開きやすい流れへ育てることだった』


 次の係は、その一文を読み返した。


「さらに開きやすい流れへ育てる」


 その言葉が、部活ノートの中で静かに残った。


 渡された印は、確かに開いた。


『一文→表紙横』


 その矢印で、表紙横の付箋へ戻れた。


 最初の返しを一文で止めることも思い出せた。


 でも、三行が一度抜けた。


 それは失敗として隠すものではなかった。


 次の係が実際に開いたから見えた声だった。


 読まなかった記録もあった。


 体験者への入口は増やさなかった。


 だから、返す。


 助かったところ。


 抜けたところ。


 読まなかったところ。


 戻り先。


 返したい声。


 そうして、渡した印は、ただ伝わったかを確認されるものではなくなる。


 次の係の流れの中で、さらに開きやすい形へ育っていく。


 夜、白瀬灯理は演劇部の部室を出た。


 廊下には、部活後の静けさが降りていた。窓の外では、校庭の端に街灯が灯り始めている。


 部室の机には、係用ノートと台本が並んでいた。


 係用ノートの表紙には三行。


 その横には付箋。


『会話が多い日:最初の返しは一文で止める』


 新しい順番札。


『係交代前に一度だけ見る』


1. 三行

2. 表紙横付箋

3. 台本端印


 台本端には、


『一文→表紙横』


 鏡横の札は、変わらない。


『まず、感じた一語と、見た台詞の場所を一つだけください』


 次の係、真帆、柊、莉央、紬、村瀬先生が見送りに来た。


「白瀬先生、ありがとうございました」


 次の係が言った。


「こちらこそ、渡された『一文→表紙横』を実際の稽古前に開き、助かったところ、抜けたところ、読まなかったところ、次に見たい順番を返す時間を見せていただきました」


 灯理は静かに答えた。


 次の係は、台本を手に持っていた。


「先生、『一文→表紙横』は助かりました」


「はい」


「でも、三行が一度抜けました」


 真帆が続ける。


「返してもらえたので、順番札を作れました」


 柊が言った。


「体験者への入口は増やしていません」


 紬が頷く。


「鏡横の言葉はそのままです」


 莉央が時間表を見せた。


「順番札を見ても、二十九秒でした」


 村瀬先生は穏やかに言った。


「渡した印は、受け取った係の流れの中で初めて、足りないところが見えるのですね」


 灯理は、夜の校庭を見た。


 渡した説明の声が次の人の手で開いたあとを見ることは、『一文→表紙横』が伝わったかどうかを確かめることではない。


 伝わったところは、大切である。


 台本端の矢印で、表紙横の付箋へ戻れた。


 最初の返しを一文で止めることを思い出せた。


 体験者への説明は増えなかった。


 けれど、それだけでは終わらない。


 稽古前に急いだ時、三行が抜けた。


『台詞の場所を一つ見る』


 が少し遅れた。


 読まなかった記録もあった。


 戻り先も見えた。


 だから、聞く。


 助かったところ。


 抜けたところ。


 読まなかったところ。


 戻り先。


 返したい声。


 そうして、渡した印は、正しく伝わったかを確かめられるものではなくなる。


 受け取った係の動きの中で開き、また送り手へ戻り、次の係がさらに開きやすい流れへ育つ。


 灯理は、部室の扉を一度振り返った。


 次の係の部活ノートには、一文が残っている。


 渡した説明の声が次の人の手で開いたあとを見ることは、「一文→表紙横」が伝わったかを確かめることではなく、表紙横へ戻れて助かったところ・稽古前に三行が抜けたところ・読まなかった記録・次に見たい順番を返し、次の係がさらに開きやすい流れへ育てることだった。


 その言葉を胸に、灯理は静かな道をゆっくり歩いていった。

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