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旅する先生と、世界の教室  作者: 最後に残った形


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第64章 第2話:叔母が古い座布団の声を手入れへ移す冷蔵庫横――押す布とそっと聞く布を分ける午後


 叔母の家の冷蔵庫横には、祖母から返ってきた声が貼られていた。


『古い布・傷みやすい布は、押さずに手を置くことも見る』


『重い布の中にも、押す布と、そっと聞く布がある』


 その横には、前からの札が並んでいる。


『手で持って重い布・乾きにくい布の日は真ん中も見る』


『念のため毎回、にはしない』


『薄い布や軽い布まで毎回増やさない』


 台所には、洗濯後の少し湿った匂いが残っていた。


 床には取り込んだ布が三つ並んでいる。


 厚い玄関マット。


 古いクッションカバー。


 薄い台所マット。


 厚い玄関マットは、しっかりした布で、押しても形はすぐ戻る。


 古いクッションカバーは、端の縫い目が少し弱くなっていて、布地も柔らかい。


 薄い台所マットは、軽く、風を通せばすぐ乾く。


 叔母は冷蔵庫横の付箋を見つめていた。


 祖母から返ってきた声は、温かかった。


 厚い玄関マットでは、叔母の家から見せた手入れが助かった。


 古い座布団では、押さずに手を置く形へ変わった。


 湿りや冷たさを見る意味は守られていた。


 そして、古い布や傷みやすい布では、押すのではなく、そっと聞く触り方もあると返ってきた。


 叔母は、その声を大事にしたかった。


 大事にしたいから、暮らしの札へ移したかった。


 叔母は新しい紙を取り出し、冷蔵庫横の札の下に貼ろうとした。


『重い布は押さずに手を置く』


 母が、その手元を見て、少し首をかしげた。


「それ、全部の重い布にする?」


 叔母は手を止めた。


「祖母の家で、古い座布団は押さずに手を置く形がよかったって返ってきたから」


 翔太は家族ノートを開いている。


 妹は、古いクッションカバーを膝の上に置き、指先でそっと触っていた。


 白瀬灯理は、台所の入口近くに立っていた。


 黒い上着に、使い込まれた革の鞄。


 灯理は、冷蔵庫横の札と、床に並んだ三つの布を静かに見ていた。


 母は、厚い玄関マットを指差した。


「でも、この玄関マットは、前に真ん中を触って助かったよね」


「うん」


「押しても、形は崩れなかった」


「うん」


 母は、次に古いクッションカバーを見た。


「でも、この古いクッションカバーは、少し弱そう」


 妹がクッションカバーを両手で持ち上げた。


「これは、ぎゅっと押したら、よれよれになりそう」


 叔母は、書きかけの札を見た。


『重い布は押さずに手を置く』


 短くて、わかりやすい。


 でも、これでは、祖母の古い座布団の声を、叔母の家の重い布全部の決まりにしてしまう。


 厚い玄関マットまで、押さずに手を置くことになる。


 押して湿りを見ることが助かった布まで、変えてしまうかもしれない。


 叔母は、ゆっくり紙を机に置いた。


「先生、祖母から古い座布団は押さずに手を置くと返ってきたので、冷蔵庫横へすぐ足そうと思いました。でも、それでは祖母の家の古い座布団の声を、叔母の家の重い布全部の決まりにしてしまう気がしました」


 灯理は、叔母の言葉を静かに受け止めた。


 そして、問いを返した。


「うん。では、返ってきた暮らしの声を次の手入れへ移すことは、返ってきた触り方を冷蔵庫横へすぐ書き足すことなのでしょうか」


 返ってきた触り方を、すぐ書き足すことなのか。


 叔母は、冷蔵庫横の付箋を見た。


 祖母の声は、大事だった。


 古い座布団では、押さずに手を置く。


 持ち上げた時の重さを聞く。


 座った時の冷たさを聞く。


 それは、祖母の家で見えた大切な手入れだった。


 でも、叔母の家には叔母の家の布がある。


 厚い玄関マット。


 古いクッションカバー。


 薄い台所マット。


 押して助かる布がある。


 そっと聞いた方がよい布がある。


 まだ見る布がある。


 祖母の声を大事にすることは、そのまま全部へ広げることではない。


 どこへ戻すのか。


 どこは祖母の家に残すのか。


 何を次に一緒に見るのか。


 分ける必要があった。


 母は、冷蔵庫横に新しい紙を貼った。


『暮らしの返ってきた声を次の手入れへ移す』


 翔太が鉛筆を持つ。


 灯理は静かに言った。


「返ってきた声を、暮らしの中でどこへ置くのか。助かったところ、違ったところ、守られた感覚へ戻りながら見ていきましょう」


 叔母は頷いた。


 まず、返ってきた声。


 翔太が家族ノートを開き、祖母からの電話記録を読み上げた。


「祖母の家では、厚い玄関マットで端と真ん中を見ることが助かった」


 叔母が頷く。


 翔太は続ける。


「古い座布団では、押さずに手を置く形へ変えた」


 妹が言った。


「持ち上げた時の重さ、座った時の冷たさも聞く」


 母が続ける。


「湿り・冷たさ・負担を見る意味は守られた」


 翔太が書く。


『返ってきた声:祖母の家では厚い玄関マットで端と真ん中を見ることが助かった。古い座布団では押さずに手を置く形へ変えた。持ち上げた時の重さ、座った時の冷たさも聞く。湿り・冷たさ・負担を見る意味は守られた』


 次に、助かったところ。


 叔母は、冷蔵庫横の古い札を見た。


「叔母の手入れは、祖母の厚い玄関マットで助かった」


 母が続ける。


「薄い台所マットには広げなかった」


 妹が古いクッションカバーを見ながら言った。


「古い布を見る新しい視点が返ってきた」


 翔太が書く。


『助かったところ:叔母の手入れは、祖母の厚い玄関マットで助かった。薄い台所マットには広げなかった。古い布を見る新しい視点が返ってきた』


 次に、違ったところ。


 叔母は、床の布を一つずつ見た。


「祖母の古い座布団は、中綿が偏りやすい」


 母が、厚い玄関マットを押してみる。


 布はしっかりしていて、すぐ形が戻った。


「叔母の厚い玄関マットは、押しても形が崩れにくい」


 妹は、古いクッションカバーをそっと持った。


「叔母の家にも、古いクッションカバーがある」


 翔太が書く。


『違ったところ:祖母の古い座布団は、中綿が偏りやすい。叔母の厚い玄関マットは押しても形が崩れにくい。叔母の家にも古いクッションカバーがある』


 次に、守られた感覚。


 灯理が尋ねた。


「触り方は変わりました。では、守られた感覚は何でしょう」


 叔母は言った。


「湿りを見る」


 母が続ける。


「冷たさを見る」


 翔太が言った。


「負担を増やしすぎない」


 妹がクッションカバーを撫でながら言った。


「布を傷めない」


 翔太が書く。


『守られた感覚:湿りを見る。冷たさを見る。負担を増やしすぎない。布を傷めない』


 次に、自分の家へ戻すこと。


 叔母は、冷蔵庫横の札をじっと見た。


 さっきのように、


『重い布は押さずに手を置く』


 とは書かない。


 けれど、何も置かないわけでもない。


 祖母から返ってきた声は、叔母の家でも次に見る必要がある。


 叔母は、付箋を一枚取った。


「冷蔵庫横に、『古い布・傷みやすい布は、押さずに手を置くことも見る』を付箋で置きます」


 翔太が書く。


 母が厚い玄関マットを指差した。


「厚い玄関マットは今まで通り、必要な時は端と真ん中を触る」


 妹が古いクッションカバーを持ち上げた。


「古いクッションカバーは、押さずに手を置く方法を次に試す」


 翔太が書く。


『自分の家へ戻すこと:冷蔵庫横に「古い布・傷みやすい布は、押さずに手を置くことも見る」を付箋で置く。厚い玄関マットは今まで通り、必要な時は端と真ん中を触る。古いクッションカバーは、押さずに手を置く方法を次に試す』


 次に、相手の家に残すこと。


 叔母は、祖母の古い座布団を思い浮かべた。


「祖母の古い座布団では、押さずに手を置く」


 母が続ける。


「祖母の薄い台所マットには広げない」


 翔太が書く。


『相手の家に残すこと:祖母の古い座布団では、押さずに手を置く。祖母の薄い台所マットには広げない』


 次に、次に一緒に見ること。


 母が言った。


「押してよい厚い布と、そっと聞く古い布をどう分けるか」


 妹が続ける。


「冬や雨続きの日に、古い布の湿りをどう聞くか」


 叔母が頷く。


 翔太が書く。


『次に一緒に見ること:押してよい厚い布と、そっと聞く古い布をどう分けるか。冬や雨続きの日に、古い布の湿りをどう聞くか』


 最後に、今すぐ書き足さないこと。


 灯理が、叔母の手元の書きかけの札を見た。


 叔母はその紙を持ち上げた。


『重い布は押さずに手を置く』


 それを見て、首を横に振る。


「『重い布は全部押さずに手を置く』とは書かない」


 母が続ける。


「『真ん中を見る』を全部やめない」


 翔太が書く。


『今すぐ書き足さないこと:「重い布は全部押さずに手を置く」とは書かない。「真ん中を見る」を全部やめない』


 母は、新しいカードの形を整えた。


### 暮らしの返ってきた声を次の手入れへ移すカード


#### 移す時


* 次の家から受け取り直した声が返ってきた

* 助かったところがある

* 触り方を変えたところがある

* 自分の家へすぐ戻したくなる

* 暮らしの負担を増やしすぎず手入れへ移したい


#### 一緒に見ること


* 返ってきた声

* 助かったところ

* 違ったところ

* 守られた感覚

* 自分の家へ戻すこと

* 相手の家に残すこと

* 次に一緒に見ること

* 今すぐ書き足さないこと


#### 暮らしの手入れへ移す欄


* 返ってきた声:

* 助かったところ:

* 違ったところ:

* 守られた感覚:

* 自分の家へ戻すこと:

* 相手の家に残すこと:

* 次に一緒に見ること:

* 今すぐ書き足さないこと:


 翔太は、今日の欄を清書した。


### 暮らしの手入れへ移す欄


* 返ってきた声:祖母の家では厚い玄関マットで端と真ん中を見ることが助かった。古い座布団では押さずに手を置く形へ変えた。持ち上げた時の重さ、座った時の冷たさも聞く。湿り・冷たさ・負担を見る意味は守られた


* 助かったところ:叔母の手入れは、祖母の厚い玄関マットで助かった。薄い台所マットには広げなかった。古い布を見る新しい視点が返ってきた


* 違ったところ:祖母の古い座布団は、中綿が偏りやすい。叔母の厚い玄関マットは押しても形が崩れにくい。叔母の家にも古いクッションカバーがある


* 守られた感覚:湿りを見る。冷たさを見る。負担を増やしすぎない。布を傷めない


* 自分の家へ戻すこと:冷蔵庫横に「古い布・傷みやすい布は、押さずに手を置くことも見る」を付箋で置く。厚い玄関マットは今まで通り、必要な時は端と真ん中を触る。古いクッションカバーは、押さずに手を置く方法を次に試す


* 相手の家に残すこと:祖母の古い座布団では、押さずに手を置く。祖母の薄い台所マットには広げない


* 次に一緒に見ること:押してよい厚い布と、そっと聞く古い布をどう分けるか。冬や雨続きの日に、古い布の湿りをどう聞くか


* 今すぐ書き足さないこと:「重い布は全部押さずに手を置く」とは書かない。「真ん中を見る」を全部やめない


 カードができると、叔母は冷蔵庫横に新しい付箋を貼った。


『古い布・傷みやすい布は、押さずに手を置くことも見る』


 その下に、小さくもう一枚。


『重い布を分ける:押す布/そっと聞く布/まだ見る布』


 けれど、前からの札は外さない。


『手で持って重い布・乾きにくい布の日は真ん中も見る』


 この札は残す。


 厚い玄関マットでは、まだ助かっているから。


 母は三つの布の前に小さな紙を置いた。


『押す布:厚い玄関マット』


『そっと聞く布:古いクッションカバー』


『まだ見る布:冬の古い布、雨続きの日の布』


 妹が、古いクッションカバーの上に手を置いた。


「これは、そっと聞く布」


 翔太が厚い玄関マットを軽く押した。


「これは、押しても形が戻る布」


 叔母は、薄い台所マットを手に取った。


「これは、今まで通り端だけで足りる布」


 母が頷いた。


「全部を同じにしない方が、暮らしが軽いですね」


 叔母は、消しかけた札を見た。


『重い布は押さずに手を置く』


 その紙を捨てずに、家族ノートの間へ挟んだ。


 そして横に書いた。


『すぐ決まりにしなかった言葉』


 翔太が尋ねた。


「残すの?」


 叔母は頷いた。


「うん。書きたくなった言葉も、次に気をつけるために残しておく」


 灯理は、冷蔵庫横の新しい付箋を静かに見ていた。


 返ってきた声は、暮らしにすぐ入れたくなる。


 でも、暮らしの中には、布の違いがある。


 使う人の力も、時間も、季節も違う。


 だから、声をそのまま決まりにせず、手入れへ移す。


 押す布。


 そっと聞く布。


 まだ見る布。


 そう分けることで、祖母の声は叔母の家でも息をし始める。


 夕方が近づく頃、翔太は家族ノートを開いた。


『今日の困り:祖母から古い座布団は押さずに手を置くと返ってきたので、冷蔵庫横へ「重い布は押さずに手を置く」とすぐ足そうとした。でも、それでは祖母の家の古い座布団の声を、叔母の家の重い布全部の決まりにしてしまいそうだった』


『返ってきた声:祖母の家では厚い玄関マットで端と真ん中を見ることが助かった。古い座布団では押さずに手を置く形へ変えた。持ち上げた時の重さ、座った時の冷たさも聞く。湿り・冷たさ・負担を見る意味は守られた』


『助かったところ:叔母の手入れは、祖母の厚い玄関マットで助かった。薄い台所マットには広げなかった。古い布を見る新しい視点が返ってきた』


『違ったところ:祖母の古い座布団は、中綿が偏りやすい。叔母の厚い玄関マットは押しても形が崩れにくい。叔母の家にも古いクッションカバーがある』


『守られた感覚:湿りを見る。冷たさを見る。負担を増やしすぎない。布を傷めない』


『自分の家へ戻すこと:冷蔵庫横に「古い布・傷みやすい布は、押さずに手を置くことも見る」を付箋で置く。厚い玄関マットは今まで通り、必要な時は端と真ん中を触る。古いクッションカバーは、押さずに手を置く方法を次に試す』


『相手の家に残すこと:祖母の古い座布団では、押さずに手を置く。祖母の薄い台所マットには広げない』


『次に一緒に見ること:押してよい厚い布と、そっと聞く古い布をどう分けるか。冬や雨続きの日に、古い布の湿りをどう聞くか』


『今すぐ書き足さないこと:「重い布は全部押さずに手を置く」とは書かない。「真ん中を見る」を全部やめない』


 そして、一文を書く。


『返ってきた暮らしの声を次の手入れへ移すことは、祖母から返った「古い座布団は押さずに手を置く」を冷蔵庫横の新しい決まりにすることではなく、厚い玄関マットで助かったところ・古い座布団で違ったところ・押す布とそっと聞く布で次に見るところを分け、暮らしの負担を増やしすぎない手入れへ移すことだった』


 翔太は、その一文を読み返した。


「暮らしの負担を増やしすぎない手入れへ移す」


 その言葉が、家族ノートの中で静かに残った。


 返ってきた声を聞くと、すぐ暮らしの札へ足したくなる。


 古い座布団は押さずに手を置く。


 それは、大切な声だった。


 でも、その声を全部の重い布へ広げると、暮らしはまた重くなる。


 押して助かった布まで変えてしまう。


 真ん中を見る手入れまで消してしまう。


 だから、分ける。


 押す布。


 そっと聞く布。


 まだ見る布。


 自分の家へ戻すこと。


 相手の家に残すこと。


 次に一緒に見ること。


 今すぐ書き足さないこと。


 そうして、返ってきた声は、暮らしの新しい決まりではなくなる。


 次に試せる小さな手入れになる。


 夕方、白瀬灯理は叔母の家を出た。


 台所の冷蔵庫横には、前からの札と新しい付箋が並んでいた。


『手で持って重い布・乾きにくい布の日は真ん中も見る』


『古い布・傷みやすい布は、押さずに手を置くことも見る』


『重い布を分ける:押す布/そっと聞く布/まだ見る布』


 床に並んでいた布は、もう片づけられている。


 厚い玄関マットは玄関へ。


 薄い台所マットは台所へ。


 古いクッションカバーは、次に試すための小さな紙と一緒に畳まれていた。


 叔母、母、翔太、妹が玄関まで見送りに来た。


「白瀬先生、ありがとうございました」


 叔母が言った。


「こちらこそ、祖母さんから返ってきた古い座布団の声を、すぐ決まりにせず、押す布とそっと聞く布へ分けて次の手入れへ移す時間を見せていただきました」


 灯理は静かに答えた。


 叔母は、家族ノートを手に持っていた。


「先生、返ってきた声を大切にしたくて、すぐ札にしたくなりました」


「はい」


「でも、全部の重い布を押さないことにしたら、厚い玄関マットで助かっていた手入れまで変えてしまうところでした」


 母が続ける。


「押す布と、そっと聞く布を分けました」


 翔太が言った。


「まだ見る布も残しました」


 妹が笑って言った。


「かたいパンは少し押してもいいけど、やわらかいケーキはそっと持つみたい」


 叔母が笑う。


「そうね。布にも、それぞれの触り方があるのね」


 灯理は、夕方の道を見た。


 返ってきた暮らしの声を次の手入れへ移すことは、返ってきた触り方をすぐ冷蔵庫横へ書き足すことではない。


 返ってきた触り方は、大切である。


 古い座布団は、押さずに手を置く。


 持ち上げた時の重さを聞く。


 座った時の冷たさを聞く。


 その声は、布を傷めずに湿りや冷たさを見るための大切な手入れだった。


 けれど、それをすぐ全部の重い布の決まりにすると、暮らしは重くなる。


 押して助かった布まで変えてしまう。


 相手の場で見えた声を、自分の場の決まりにしてしまう。


 だから、分ける。


 助かったところ。


 違ったところ。


 守られた感覚。


 自分の家へ戻すこと。


 相手の家に残すこと。


 次に一緒に見ること。


 今すぐ書き足さないこと。


 そうして、返ってきた声は、冷蔵庫横の固い決まりではなくなる。


 暮らしの中で続けられる、小さな手入れになる。


 灯理は、叔母の家を一度振り返った。


 家族ノートには、一文が残っている。


 返ってきた暮らしの声を次の手入れへ移すことは、祖母から返った「古い座布団は押さずに手を置く」を冷蔵庫横の新しい決まりにすることではなく、厚い玄関マットで助かったところ・古い座布団で違ったところ・押す布とそっと聞く布で次に見るところを分け、暮らしの負担を増やしすぎない手入れへ移すことだった。


 その言葉を胸に、灯理は静かな道をゆっくり歩いていった。

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