ep.95 謎の男達
街外れのビル。八重野と工藤はその一室を借り受けた。予約制のレンタルスペースとなっており、一時間置きに料金が発生する。室内に盗聴や盗撮の恐れがないか、下調べに数十分もの時間を費やし、安全を確認した後、ようやく情報交換を始めた。
「楓くんの反応はどうだ?」
「意外なほど好感触だったわ。神器科に移らないから興味が無いのかと思ってたけど」
カフェでの面談。聖隊への勧誘はあくまで進路の一つとしての提案。その後、進学や一般企業への就職についても説明したので、あからさまなスカウトだとは思われていないだろう。
「どちらにせよ、純正神器が使えるのであれば、対魔教会は逃がすという選択肢は無いからな。まだ高校生とはいえ、その辺は察しているだろうが」
しかし、二人には懸念があった。彼の同居人――
ロイヤルの人間であるカリサの存在だ。
工藤はバッグの中から学校に提出された、
彼女の資料をテーブルの上に置く。
「ここに登録されてる情報……住所も履歴もめちゃくちゃね。学校側がツッコまないのは、組織から圧力をかけられてるからでしょうけど」
「ああ、ロイヤルの権力は絶対。うちの上層部ですら奴らの頼み事はそうそう断れねぇさ」
「それはそうとして……一番の問題は彼女が楓くんと同居しているということね。やっぱり…」
「楓くんは目をつけられている、もしくは既に声がかかっているかもしれんな」
純正神器は国の宝であり、邪種だけでは無く、他国への多大な抑止力にもなる。それを横から奪い去ろうというのは、いくら人類守護の最前線を担う組織であろうが、見過ごせない。
「それに奴ら、日本の名門神器家系である真城家 その次期当主――真城 咲もスカウトしてるらしいじゃないか。いくらなんでも……」
「この国に何か恨みでもあるのかしらね?他国に惜しまず人員は派遣してるし、平和な国といっても戦力的な余裕は無いのに」
現在、純正神器の使い手は22人。複製の人員ですら一万に満たない。ここは海に囲まれた島国であるため、今は邪種出現のエリアが限られてるとはいえ、海からの侵略を受ける可能性がある以上、そこまで余裕があるとは言えないのだ。
「もしかすると、ロイヤルは全ての神器使いを手中に収めようとしているのかもな」
「だとしたら効率が悪すぎる。流石にその可能性は低いと思うわ」
「それもそうか」
「カリサ・ツィングラーの方はどうなの?」
「さっぱりだ。任務に当たってる素振りも見せねぇし、普通に学生生活を謳歌してる女子高生にしか見えねぇ。正体を知ってる俺からすれば不気味なくらいだ」
「やっぱり気づかれてるのかしらね?」
「当たり前だろう?俺達はプロの探偵じゃねぇ。なんでこんな任務を与えられたんだろうな?……と」
二人は入り口のドアの方へと目をやった。
複数の足音、そしてドアをノックする音が鳴り響く。
「時間通りね」
八重野が声をかけるとドアを開き四人の男達が入室してきた。その異国風な顔立ちを見て、工藤と八重野は違和感を持つ。
今日この場でこの人物達と出会うのは上官からの命令であり、相手の素性についての詳しい事は知らされていない。ただ、振る舞いや仕草で自分達と同じプロの戦闘員であることは理解できた。
「はじめまして。今日はこのようなお時間をいただき、感謝申し上げます」
先頭に立つ金色の髪を胸元まで伸ばした男が、
流暢な日本語で挨拶を始める。
(こいつら……何者?)
警戒心と好奇心の狭間で工藤は目を細める。少なくとも自分の担当するエリアでこのような者達がいることは見たことも無ければ聞いたこともない。
「ご丁寧に…こちらこそありがとうございます。私は八重野と申します。それから――」
「工藤です。よろしくお願いいたします」
二人の自己紹介を聞いた金髪の男は柔らかく微笑むと、胸に手を当て軽く頭を下げた。
「私の事はジュンと呼んで下さい」
八重野と工藤は表情に出さないまでも、
それが明らかな偽名であることに引っかかりを覚えた。
(組織の人間じゃないのか?)
同じ対魔教会の者なら偽名など不要だろう。いくら上官の指示とはいえ、不信感は拭えない。
「後ろの三人は……長くなるので本日のところは紹介を省かせて頂きます」
「はあ」
「挨拶もこのくらいで、この街の調査内容をお聞かせ下さいますか?」
「待ってくれ。君達は何者だ?」
「はて?その説明は不要かと思われますが。貴方達の上官……遠藤殿から話は無かったのですか?」
「中将からは……」
「うるせぇ。ごちゃごちゃ言わずにさっさと話せ。殺されたいのか?」
ジュンの隣にいる男が言葉を遮り、強い語気で言い放った。前に出ようとする男をジュンが片腕を広げて制止し、八重野達に頭を下げる。
「失礼しました。長旅での疲労もあり、彼は少々気が立ってるようです。不満がおありでしたら、別日に調整しましょうか?無理強いは致しません」
「いえ、こちらこそいらぬ詮索をしてしまい、ご不快な思いをさせてしまいました。お掛けください」
※※※※
テーブルを挟んで椅子に腰を下ろす。ジュン以外の三人は椅子には座らず、各々部屋の隅や窓際で待機している。
八重野と工藤はこの街での調査内容を共有した。井上楓、カリサ・ツィングラー、グレア・モルペンデルについて。上官の命令であるので、素性がわからない相手だろうと包み隠さず全てを開示する。
一通り話し終えると、ジュンは資料を受け取り仲間達と共に早々に部屋から退出した。
※※※※
「彼等は何者なんでしょうね?」
「明らかに対魔教会……いや、この国の人間じゃねぇな。どうして俺達がこの任務に当てられたか察しが付いちまったぜ」
「……どういうこと?」
「カモフラージュだよ。奴らが裏で暗躍するための」




