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君が選ぶのは〜過去と未来の勇者〜  作者: ぬしぽん
第五章

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ep.93 スカウト

 悪い知らせは唐突に、アリスの口から伝えられる。特にエイタンは動揺を隠せず身体を震わせた。普段、明るく振る舞う彼女からは想像できない姿だ。


 オーフィス騎士団 五番隊 隊長フェン・フェンイーゲルト 並びに任務に当たっていた他の隊員達も殺害された。生存者は皆無。


 「嘘っス…フェン隊員や皆が邪種なんかに殺られる筈はね〜ッス!」


 エイタンはアリスへと詰め寄る。自分の直属の上司であるフェンがどれ程の実力者か、よく知る彼女にとって到底信じられない話だ。


 「だろうな。五番隊の者達は悪魔の川を離れて任務に当たっていたのだから」


 「…どーいう事っスか?」


 アリスは腰のポケットから端末を取り出し、本部からの報告を読み上げた。調査員がアルプス山脈の麓にヴィクトリアの拠点らしき地下への入り口を発見。五番隊は現行の任務を中断し、その調査に当たっていたと。


 「じゃあ、ヴィクトリアの奴らが!」


 「まだ分からん。アーガス隊長が駆けつけた頃には、既に隊員達の死体しか残っていなかったそうだ。そして地下内には人が居た痕跡も見つからなかったと」


 だが、オーフィス騎士団の面々、それも一桁台の部隊とやりあえる者など、ヴィクトリア以外に居るはずもなく―


 「アタシのせいっス…アタシが居なかったから…」


 「エイタン。あなたのせいじゃないわ」


 カリサは俯くエイタンの肩を優しく抱える。しかし、同じ部隊の仲間を失った悲しみから立ち直るには、時間がかかりそうだ。


 ラグナは表情を強張らせ、手に持つトライデントを強く握りしめた。


 「アリス隊長…即座に帰還いたしましょう」


 「ならん。敵の狙いが分からない以上、罠の可能性もある。無闇な行動は危険だ。隊長が一人、副隊長が二人、そしてカリサ。我々の戦力はこれで充分だろう」


 「しかし―」


 自分達の身を案じてのものでは無く、

 隊長と副隊長が不在の三番隊が心配故の反発。


 「ラグナ、これはボスからの命でもある。冷静になれ」


 ラグナはそれ以上意見する事する事を止めた。

 何があろうとボスの命令は絶対だ。


 「カリサ…あの少年、井上 楓も我らの仲間だ。君の口から伝えてほしい。それから何かあれば即座に報告するように」


 「はい!それからアリス隊長…ここ数日の私は尾行されてるようでして…」


 「なに?相手の素性は分かっているのか?」


 「恐らく、この国の対魔協会の者かと思われます。ただ…」


 「どうした?」


 「どう見てもプロでは無い…尾行に関しての専門的な素養も無いでしょう。やり方があまりにもお粗末です」


 「ほー…もしかすると、そいつらは何かのカモフラージュかもしれんな。刺激しないよう現行維持で頼む」



 楓が街の商店街を散策していると、見知った女性の姿を正面に捉えた。新人教師の八重野だ。


 「楓くんよね?」


 「あ、八重野先生。先生も買い物ですか?」


 「いえ、あなたに用があって来たの」


 「俺に?」


 学校の事だろうか。特に自分が呼び出されるような心当たりは無いので、彼女の目的が分からず楓は困惑していた。


 「飲み物でも奢るから、そこのお店までどうかしら?」


 「まあ、暇ですし良いですよ」


 即決する。大人から、それも教師から何かを奢って貰えるなど、かなりラッキーな事だ。現在グレアとの修行も中断されている為、楓は時間を持て余してもいた。


※※※※


 カフェに入ると休日にも関わらず空いている様子だった。人気の無い店なのだろうかと楓は不安を感じた。特にこだわりがあるわけでは無いとはいえ、美味しくないものはごめんだ。


 「あの窓際の席がいいわね。私が注文してくるから、楓くんは先に席を取っておいてくれるかな?」


 「わかりました」


 わざわざ取るほどでもないと思いつつも、反発する必要はないので八重野の言葉に従った。自分の希望を伝え、先に椅子に腰をかけた。


 (話ってなんだろうな…)


 何度考えても理由が思い浮かばない。八重野とは挨拶を交わす程度で、授業以外での関わりは一切ないのだ。


 「それで、話っていうのは…」


 楓はコーヒーに口をつける前に問いかけた。

 疑問が残ったままでは居心地が悪い。


 「楓くん。聖隊員に興味はないかしら?」


※※※※


 楓が日用品の買い出しから帰宅すると、リビングにはいつも通りソファに寝そべるカリサの姿。


 エコバッグに詰められた食品を冷蔵庫に移しながら八重野との一部始終を話すが、彼女ゲーム画面から視線を移すことなく耳だけこちらへ向けている。


 楓の話が終わると、ゲームが丁度キリのいいところまで進んだのか、ようやく反応を示しこちらへと顔を向けた。


「それで?なんて返したのよ」


 「考えておきますって」


 「…アンタねぇ」


 「俺の進路の話だろ?他に決まってないし、先生からツッコまれるのは時期的にも当然だよなって」


 既に高校ニ年生。当然、将来のことについて考え始める時期だ。とはいえ楓と栞は卒業後、この家から出ていくことを土地の権利者である親戚の叔父と約束している。彼等に進学という選択肢は無かった。


 「あのね…進路も何もカエデは既にロイヤルの隊員なのよ?組織から抜けられるわけ無いじゃない」


 「はぁ!?なんだよそれ…聞いてないぞ!」


 楓は冷蔵庫を荒く閉めると、カリサへと勢いよく詰め寄る。彼女はそれを気にも留めず、マイペースに言葉を繋げた。


 「サインする時、少しも考えなかったの?世間に対して私達の情報は徹底的に規制されてるのよ?」


 楓は立ち止まる。カリサの推薦で入団することにはなったが、碌に契約内容を読まずに署名してしまったのは不味かったかと、ここに来てようやく自身の立場を振り返った。


 「…そうは言われても、なんだか実感が無いんだよな。組織の仕事なんて一度もやってないし」


 ボスであるアンデロ・イ・ハンクスとの顔合わせ以降、オーフィス騎士団に関わるイベントなど無かった。変わったことがあるとすれば、先日のアリスとの接触くらいだろうか。


 それ以外に、今後の計画の事もある。数カ月後、楓とグレアはオーフィス騎士団の面々と一戦交えるのだ。その後で自分が在籍させて貰えるとは思えない。勿論、これはカリサには秘密だ。


 「とりあえず高校卒業までは配慮してくれてるのよ。純正神器は貴重だし、事を荒立てない為にもね」


 「代わりなんて他にいくらでもいるだろ」


 純正神器の使い手は国に二桁も居れば良い方だと言われている。それがオーフィス騎士団には軽く3桁にも届いてしまう。それが人類最強組織たる所以…過剰戦力にも程がある。


 「邪種の討伐、ヴィクトリアへの警戒、世界に散りばめられた神器の探索、戦争の抑止、仕事は山積みよ。恐らくカエデの実力なら悪魔の川に派遣されそうだけど…」


 「ええ…」


 命を大切に…楓は妹を一人にしない為、当初はこの国の聖隊員になることすら断念していた。当然、人類守護の最前線である悪魔の川に配属されるなどごめんだ。


 「それにしても、あの新人教師達……やっぱり対魔協会からの差し金だったのね」


 「対魔協会?なんで?」


 「そうじゃないとスカウトなんてしないでしょう?」


 「進路についての話って言ってたけど…」


 「アンタどんだけピュアなのよ!ここ数日、尾行されてたのも気づいてなかったの!?」


 「あっ!グレアさんが言ってた尾行って、あの人達だったのか!」


 「まったく…」

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