ep.90 調査員②
調査の初日、仕事終わりの二人はカフェですり合わせを行っていた。テーブルの上には珈琲と菓子パンが置かれている。
手帳を真剣な眼差しで確認する八重野とは対象的に、工藤は頬杖を付き、つまらなそうに窓の外を眺めている。
「それで、どうだったんだ?例の家庭訪問は」
「やはり普通じゃないわね…あの二人はどんな関係なのかしら?」
ミアとグレアは名前も全く違う上、見た目からしても明らかに親子とは思えない。問うて見たが遠い親戚だとはぐらかされてしまった。
嘘であると問い詰めたい所ではあるが、調査対象として優先順位が低い相手に、わざわざ怪しまれたくはない。その為、何も言わずに受け入れたのだ。
「世の中、複雑な家庭だってあるにはあるだろ」
「そんなもんじゃないわ。あれは明らかに主従関係だった…こうなったらグレア・モルペンデルより、ミア・リヴェデーレの素性について調べてみたくなるわね」
「考えすぎだと思うけどな。それに俺達の仕事じゃないだろ?」
工藤の言う通り、組織からの指示を受けているのは、あくまでグレアという女性を調べるようにだ。気になったとしても、それ以外は無関係な一般人に過ぎない。
「それもそうね。工藤くんの方はどうだったの?」
「カリサ・ツィングラー…ありゃ気づかれてるな」
「はぁ!?見つかったってこと?」
「違う。確証があるわけじゃないがどこか不自然でな…尾行に気づいてないフリをしているように感じた。あくまで俺の勘だがな」
「なによ勘って…驚かせないで欲しいわ。どうせ通報されたらって、あなたがビクビクしてただけでしょう?」
「そーいう事にしといてやるよ。じゃ、ホテルに戻ろうぜ。今日は疲れた」
「その前にクリーニング屋!」
「へいへい」
〜
昼休みの食堂は生徒達でごった返している。しかし、席が空いていない訳では無い。八重野はひと言許しを得て生徒達の間へ座る。
(あの三人はわかるとして…どんな関係なのかしら?)
彼女が気になったのは神器使いの楓達に混ざり、食事をしているミア・リヴェデーレの存在だ。周りが騒がしく会話の内容まで聞き取れる訳では無いが、あの四人が固定のグループであることは理解できた。
「ミア、記録伸びすぎじゃないか?」
「ああ。昨日アイテムというものを見つけてな」
ミアはスマートフォンを取り出し、
ゲームを起動させた。
「どれどれ…って、なんでこんなに石持ってんだ!?」
「ここを押すとアイテムが増えるようなのだ」
楓が確認したところ、目に止まったのは課金アイテムの数々だ。ざっと見ても軽く6桁は行くだろうと予測できる。彼女がお金持ちである事は知っているが、問題なのは…
「お前これ……グレアさんは知ってんのか?」
「グレア?このゲームの存在は知らせてあるぞ。心配は無用だ」
「そうじゃなくて…お金使っちゃってるんだよ」
「なに?このゲームは無料だと聞いていたが」
予想通りの返答に楓は頭を抱える。この手の話は社会問題にもなっており、その家庭が自己破産まで追い込まれるなどニュースでもよく聞く。ミア家の経済力ならそのような心配は必要なさそうだが、保護者に知らせたほうがいいだろう。
「ミアさんは知らなかったんでしょう?未成年ならクーリングオフも可能だと思うけど…」
「とりあえずグレアさんに報告しないとね。カエデ。一緒に言ってあげなさい」
「仕方ねぇか…ミア、とりあえずアイテムは使わないでくれ」
「ああ、わかった」
〜
(あの子達…深刻そうな顔で何を話してるのかしら?)
純正神器の使い手が二人とロイヤルの調査員…恐らくただの高校生がするような会話では無いだろうと八重野は予想していた。しかし、やはり場違いなミア・リヴェデーレが気にかかる。
(井上 楓くんも純正神器の適性があるのをトーナメントまで隠していた。もしかして彼女も…?)
可能性は薄いだろうが、もしそうだとしたら、かなりの収穫になるだろう。純正、いや複製神器であっても適性を持つ者は貴重な国の戦力だ。




