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君が選ぶのは〜過去と未来の勇者〜  作者: ぬしぽん
第四章

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ep.81 勇者の器③

 邪種とヴィクトリアの襲撃から2週間が経過した。学校は無事だが、家や家族を失った生徒達もいるので、しばらくの間休校の措置が取られた。普段は寮生活の神器科の生徒達も、希望があれば実家への帰省が認められている。


 楓の家や周辺は幸運にも無事だったので、空いた午後の時間は、ボランティアに当てていた。妹の栞は友人達を気遣い、寮に残る事にしたそうだ。


 「はーい!今行きます!」


 楓が朝食を終え皿を洗っていると、朝早くインターホンが鳴った。作業を中断し玄関へ向かい、ゆっくりとドアを開けた。


 「こ、こんにちは」


 「あ、グレアさん…お久しぶりです」


 そこにいたのは、よく知る黒髪の女性。グレアだった。こちらとは目を合わせようとせず、何故だか俯いている。


 「あの、ご要件は?」


 「カエデさん…少しお願いというか、私の話を聞いてもらえませんか?」


 グレアの態度を見て、楓は少し嫌な予感に身を震わせた。あの時の—血まみれのミアの姿が、脳裏を過ったからだ。


 「…わかりました。どうぞお入りください」


 だが、怖いからといって、話を聞かない。といった選択肢はあろう筈もない。グレアはお邪魔しますと丁寧に頭を下げ、玄関を跨いだ。


 街がこんな状況では菓子など補充できない為、楓の家で提供できるのは、コーヒーかココアくらいのものだ。相手は大人の女性なので、当然のように前者を用意する。


 「こんな物しかありませんが…」


 「いいえ…ありがたく頂戴致します」


 グレアは両手でゆっくりとコーヒーカップを持つと、息を数回吹きかけた後、軽く一口啜った。そのタイミングで楓も会話を切り出す。


 「それで…話というのは?」


 「ええ。まず…ミア様はご無事です」


 楓は考えうる最悪な情報で無いことに安堵し、ほっと一息ついた。最初にこの話題を出したということは、グレアも楓の態度を見て察していたのだろう。


 「そしてカエデさん…本題に入る前に、私に謝罪させて下さい」


 「え…?なにを…」


 困惑する楓を他所に、グレアは立ち上がると背筋を伸ばし、両足をきっちりと揃えた後、深々と頭を下げた。


 「私はこれまで…カエデさんに対し、様々なご無礼を働いてしまいました。申し訳ございません」


 「そんな…グレアさん!頭を上げてください!謝られるような事はされてないですから」


 頭を下げ続けるグレアを楓は慌てて宥める。それでも姿勢を崩さない彼女を数十秒説得し、なんとか座らせた。


 そして、椅子に腰掛けたグレアは再び話し始める。


 「カエデさんがこれまで神器や能力を使えなかったのは、私が魔法をかけたせいです」


 「魔法…ですか?」


 「ええ。恐怖の呪言という、非常に強い暗示をかける魔法です」


 楓は魔法というものを知らない。否—魔法という言葉や概念としての知識はあるが、それが現実に存在するとは思ってもみなかった。という意味でだ。


 「なので全ては私のせいなのです。これまでの不調も、あなたを危険に晒してしまったのも…」


 「ではあの時、グレアさんが魔法を解いてくれた。というわけですか?」


 「それは違います。私がかけた魔法を、カエデさんは自力で解除されたのです。私にも信じられませんでしたが」


 「そうなんですね…」


 嬉しいような、淋しいような感情がやってくる。何故かと言うと、グレアが解いてくれた。となれば少なからず認めてもらえたと思えたからだ。勿論、自分で解いたというのは、成長に繋がったと言えるだろう。が、素直に喜べる気分でもなかった。


 「そして魔法以前に…私はカエデさんの事を勘違いし、脅迫してしまいました。申し訳ございません」


—次はぶっ殺す


 楓は思わず苦笑いしてしまった。何日もの間、脳に流れてきたあの声。あれが魔法によるものだったとしても、記憶にはしっかりと焼き付いてしまっている。


 「もう大丈夫です。何か俺に対して嫌なことがあったんですよね?俺もそうゆうデリカシーというか…敏感な方では無いので…すみません」


 「そんな!謝らないでください!」


 それから室内には気まずい沈黙が続いた。楓は言い訳をするようにコーヒーを口に含む。反省はしていると言っても、自分を脅してきた相手との会話は、やはり何処かぎこちなくなってしまう。


 グレアは申し訳なさそうに俯くばかりで、自分から話し出そうという気配は無かった。


 「グレアさん。俺の家までわざわざ足を運んだというのは、余程の事があったんじゃないですか?俺は大丈夫ですから遠慮せず話してください」


 ここは暴力を振るって、殺害予告までした相手の家。正直、謝罪だけだとしても充分な理由だろう。しかし、どうしてもそれだけとは思えなかった。


 「実は—カエデさんにどうしてもお願いがありまひ…ありまして…私なんぞが頼める立場ではない事は承知の上ですが…」


 噛んだところをみると、余程緊張しながらの言葉だったのだろう。どんなお願いなのだろうか。楓も表情を引き締めた。


 「そんなことありません。話してください」


 グレアは目を閉じて深呼吸を繰り返し、覚悟を決めたように目を見開くと、椅子から勢いよく立ち上がり、両膝と手を床につけた。


 「カエデさん!!どうか…ミア様の為に、私と一緒に戦っては頂けませんでしょうか!!何卒…何卒よろしくお願い致します…!」


 嘆願の後、グレアは額を床につける。

 その願いに対し、楓の返事はというとシンプルで単純だ。


 「任せろ!」



 戦う—何と?

 グレアさんと一緒に—何故?


 だが、関係無い。

 その理由は親友ミアの為で充分だ。



 「ちなみに戦うって誰とですか?」


 とはいったものの、一応確認しておく。ミアの為ということは恐らくヴィクトリ…


 「…オーフィス騎士団並びに、そのボスである アンデロ・イ・ハンクスです」


 「だと思っ…はぁ!?」


 楓は知らず知らずのうちに、自分が所属する組織、人類最強のオーフィス騎士団へ反逆する事となった。



—世界を揺るがす戦いが、始まろうとしている。

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