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君が選ぶのは〜過去と未来の勇者〜  作者: ぬしぽん
第四章

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ep.80 勇者の器②

 楓の右手から放たれた光はグレイドに伝わり、刀身には赤い光が血管のように張り巡らされた。


 「うそ…まさか呪言を破るなんて…」


 グレアは驚愕する。彼女が楓にかけた恐怖の呪言は、高位の魔族にすら絶大な効果を発揮する程の強度。当然、生身の人間が解除できるような魔法ではない。


パキッ


 「…なんだ?」


 突然、起動されたグレイドが奇妙な音をたて始める。楓が視線を向けると、刀身には亀裂が発生していた。


 「ええ!?まさかさっきの一撃で壊れ…待て待て待て!」


 焦る楓の絶叫も虚しく、亀裂は広がっていく。


 「ヒハ!んだそのオンボロは!ビビらせやがって」


 ハーベルはそのまま突進し、鉄をも砕く拳を固め、グレイド諸共叩きつけた。衝突の瞬間、金属と金属が衝突するような甲高い音が空気を伝わり、その場へと鳴り響く。


 「まだ壊れねぇか…ん?」


 ハーベルが殴りつけたグレイドに目を向けると、灰色の刀身の中に、なにやらギラギラと輝くものが見える。覗いてみると、そこに映る自分の顔と目が合った。


 「なんだぁ!?」


 「っらぁ!!」


 楓はグレイドに力を込め、驚くハーベルを吹き飛ばした。そして、ヒビ割れた灰色の刀身はボロボロと崩れ落ちる。


 「これは…剣?」


 グレイドの中身が顕になり、見えたのはギラギラと輝く白銀の刃。その刀身は磨かれた鏡のように透き通り、辺りの景色を照らしていた。


 「あれは…カエデさんの神器…よね?あれはまるで…」


 グレアはその剣を見て既視感を覚えた。信じることは出来ないが、何故だかその剣は、彼女がこれまでの歴史のなかで幾度となく見て来たものに酷似している。



勇者ノ剣ソードオブアレス



 勿論、そんな筈はない。勇者ノ剣を持つ者は、主をおいてほかにない。しかし、確認しようにもミアは既に意識を失っていて、グッタリとグレアに身を預けていた。


 そして、驚いたのはイリアも同じだった。


 「あの子…なんなのかしら?誰かがあの御方の…勇者ノ剣に似せて作ったの?なんにしても悪趣味ね。さっさと殺さなきゃ」


—展開魔法 死ノ黒蝶


 トドメを刺しきれないハーベルに痺れを切らし、イリアは魔法を展開する。漆黒の色をした無数の蝶が背後から飛び出し、楓の周りをドーム状に囲んだ。



 死ノ黒蝶


 イリアが最も得意とする攻撃魔法の一つで、猛毒の粉を周囲に撒き散らしつつ、身を休めた先を無差別に爆撃する蝶を50匹召喚する。その爆破の威力は凄まじく、一匹で高層ビルをも砕いてしまう。



 楓を取り囲む蝶達はその場へ滞空し、イリアからの指示を待ちながら毒の粉を地上へと振り落とした。


 「いけない!」


—展開魔法 戦鬼ノ空撃せんきのくうげき


 グレアは大気中に拳圧を展開し、

 こちらへ飛び交う燐粉を吹き飛ばす。


 「あら?グレアったらまだ魔法が使えたの。でもその程度の魔法じゃ、本体の蝶達は防げないわよ?」


 蝶達はイリアの命令を受け、

 標的目がけて攻撃を開始する。


 楓の直感は、あの蝶を接近させるのは不味いと告げていた。しかし、彼には魔法は疎か防御手段など—


 「また力を借りるぜ…アレス!」


 楓の右手から赤い光が強く漏れ出す。光は収束し、一羽の鳥へと形を変えた。鳥はこちらにペコリと頭を下げると、飛び立つわけでもなく、地面へと消えていく。



勇者ノ盾ディフェンスオブアレス



 楓の周囲に絶対防御の空間が展開され、飛来した蝶達はその身を赤く染め、次々と霧散していった—


 「そんな…信じられない…」


 グレアは、またもあり得ない光景を目撃する。まぐれでも無く目の前の少年が、当然のように主の技を展開させた。



 「あの子…本当に何者なのかしら…」


 イリアは楓に対し、ようやく警戒心を強めた。相手の力量が未知数な上、先ほどのミアとの戦闘で魔力の残りも少ない。定かではないが、勇者ノ盾を使えるのであれば、他にも—。


 「ハーベル…撤退するわよ」


 「ヒハハ!やだね。こんなチャンスは滅多にない!世界最強を殺った男になる機会なんてな!」


 「はぁ。一応あなたは幹部なのよ?何かあれば、私がジャックに怒られてしまうのだけれど?」


 「やだねったらやだね!」


 「…ハーベル」


 「ヒッ…すまねぇ」


 イリアの声は今までの態度が嘘のように冷酷で、重々しいものだった。その声と鋭い視線を向けられたハーベルは、叱れれた子供のように大人しく項垂れる。


 イリアは腰につけたバッグを弄ると、手のひらサイズのエメラルドのような宝石を取り出し、目の合ったグレアを見据えた。


 「じゃあ帰るわねグレア」


 「イリア…!待ちなさい!こんな事をしておいて、タダで済むと思ってるの!?」


 「うふふ。帰ったほうが助かるでしょ?今はその子に頼るしか無いわけだし」


 「…」


 正論だった。グレアは言い返す言葉が見つからない。


 「それと…ミア様がお亡くなりになったら引き取りにくるから、丁重に扱ってね?」


 「イリア…あなた冗談でもそんなこと…」


 「ご遺体を私達の聖堂に飾るの。考え方は違えど、やはりミア様の美しいお姿は後世に残すべきよ。十字架に磔にして、何千年、何万年と平和の象徴として、世界中の人間達に崇めてもらうの。ミア様に相応しいと思わない?」


 イリアは恋する乙女のように、恍惚とした表情を浮かべながら両手を頬に当てる。


 「ふざけんな」


 だが、そこに水を差すひと言で我に返えると、言葉を発した人物…楓の方に鋭い視線を向けた。


 「ミアが死ぬわけないだろ。それにお前らの好きにもさせねぇ。ミアは…親友は俺が守るって決めてるからな」


 「…なんなのかしらさっきから。その剣といい、勇者ノ盾といい。1000年前にあなたのような子がいた記憶は無いのだけど」


 「イリア…お前は家族想いで、怪我人は放っておけない。いい奴だったろ。何してんだよ」


 何故だか分からないが、目の前の彼女が楓の夢で見たイリアに重なる。そんな筈はないのに—


 「…あなた…本当に不愉快ね。次にあったら真っ先に殺してあげるわ」


 イリアが宝具を地面に叩きつけると、周囲の空間は歪み、ハーベルと共に光りに包まれその場から消え去った。


 二人が姿を消した途端、ミアを抱えるグレアは力無くその場へ倒れた。楓は慌てて駆け寄り、助けが来るまで二人を見守った。


 その30分後、増援に来た真城家の私兵により三人は救助されるが、意識を取り戻したグレアは病院へ向かうのを強く拒み、ミアを連れて帰宅した。



 楓はというと…


 「信じられませんが…治ってますね」


 「…え?」


 「左腕と肋骨の不全骨折でしたよね?これを見てください」


 パソコンの画面に映っているのは自分の骨だ。だが、素人が見たところでよくわからないので、楓には聞き返すことしか出来ない。


 「骨膜反応すらありません。あなたの骨は綺麗で健康な状態です」


 「はぁ…。はぁ!?」


 確かに左腕と肋骨にヒビが入った状態で、足元のコンクリートが割れるほどの攻撃を受け止めた。痛みが無いのはアドレナリンのせいだと。だが、怪我は悪化どころか、完治していたのだ。


 「どうなってんだよ…」

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