ep.78 別れ
天から舞い降りた剣は、白い羽を撒き散らし、ミアへ飛来する魔法を吹き飛ばした後、地面へと突き刺さった。
「勇者ノ剣…ミア様、この期に及んでいったい何をお考えなのですか…?」
怪訝な表情を浮かべるファブリソの追求に、耳を貸す素振りもなくミアは剣の柄へと手を伸ばした。
「そこまでして…何の大義があって我々を止めるのです!?貴女だって平和な世界を望んでいたではありませんか…」
「ファブリソ。私は…700年間眠り続けていた私には、お前達の行動を否定することは出来ないだろう」
「でしたら!」
「だが、力を持つものの責務として言わせてもらおう。魔族を侮ってはならないと」
ミアが剣に指をかけると世界が変質し、地面一帯には白い花畑が広がり、ミアの周囲には純白の羽が散った。
「貴女は昔からそうでしたね。責務だなんだと…少しくらい自分の意志を持ったとしても…」
「ファブリソ、もうよさないか。我々なんぞがあの御方を説得するなど、無理な話だ」
「ああ…そうだな」
対峙する四人は構えをとり、再び魔法を解き放つ。
「ヒハ…なんだありゃ…」
だが、勇者ノ剣の効果により、
すべての魔法は塵となるのみ。
「ハーベル、隙を与えるな。あの御方は限界だ」
「ああ。アーノルドの言う通り。時間が経てばそのうち自滅するだろう」
ミアは自身に向けられた攻撃魔法には目も向けず、両手で大地からゆっくりと剣を抜き始める。すると、ギラギラと輝く白銀の刀身が、辺りを照らしながらその姿を現した。
剣を引くミアの表情は、普段の彼女からは想像できないほど歪み、鼻から滴り落ちる血の量が苦痛を物語っていた。
「ああ…ミア様があんなに苦しそうな姿を…威勢よく出したのはいいですが…果たして。その剣を振れるのですか?今の貴女に」
イリアはうっとりとした笑みを浮かべると、魔法による黒蝶達は追撃の勢いをさらに増し、激しい爆風の嵐がミアを襲う。
ミアは剣を抜き取ると、頭を下げるように
僅かに姿勢を低くし、剣を身体の側面へと構えた。
「ミア様!…駄目です!!」
「…グレア?」
ミアが視線を向けるとグレアの姿があった。肩で息をする様子から、余程急いで駆けつけたと思われる。そして、衣服の脇腹から下は真っ赤に染まっていた。
「あら?グレアじゃない。よく動けるわね」
ミアは構えを解くとグレアのへと向かった。その間も魔法による追撃は続いているが、それを気にする素振りも見せない。
グレアの元へ辿り着き、彼女の脇腹に優しく指を当てると、ミアの指先から微かな光が漏れた。
「…毒か。すまないが今の私には余力が無い。これで命の心配は無いだろうから我慢してくれ…」
「私の心配は必要ありません!ミア様、もう大丈夫です。後は私が引き受けますので、お逃げください」
「…いや、これは私の仕事だろう」
「しかしー」
「グレア。命令だ」
「くっ」
ミアはグレアに優しい微笑みを向け、
四人へと向き直し、再び構えを取った。
「待たせたな」
「ええ。終わりにしましょう」
握られた剣は大気を押しのけて、白銀の輝きを放つ。それと同時にミアの鼻と口から滝のように血が溢れ出した。
そしてー
イリア・バージス
アーノルド・シュタインベル
ファブリソ・オーダイル
…さらばだ
―勇者ノ一刀
ミアの剣が振るわれ、世界は静寂に包まれた




