ep.77 ミアの覚悟
「なんだ!?歪み始めたぞ!」
「アーノルド」
アーノルドは聖域に引きずり込まれる直前に発動していた、堕天ノ槍を前方に突き出すと、ミアの元へ前進した。
破壊魔法 堕天ノ槍
神話の武器 堕天ノ槍をこの世界に顕現させる超高位魔法の一つ。その槍は、かつて神に単騎で挑んだ悪魔が使用したとされ、神体すら貫く攻防一体の突きを可能とする、まさに神殺しの武器である。
※その場から動くことを禁ずる
「か、身体が…動かないぞ!?」
困惑するハーベルと同様に、槍を構え駆け出したアーノルドは聖域の効果により身体が硬直し脚を止める。
「行け」
しかし、身体が完全に固まる直前、堕天ノ槍から手を離した。槍はその速度を保ち続け、目標を貫通すべく宙を切り裂く。
ミアは指先に純白の羽毛を形成させる。羽毛を空間に溶け込むように散らすと、周囲には絶対防御の領域が展開され、飛来する堕天ノ槍は身体から10m手前で赤く色を染め霧散した。
—勇者ノ盾
「二種類の力を同時に使用されるとは…ですが、処理は追いつくのでしょうか?」
その間もイリアが展開した死ノ黒蝶達は聖域を破壊し続けていた。聖域内はヒビ割れ、空間も歪み始める。
「ごほっ」
力の反動により、ミアの鼻からは更に多量の出血が見られ、鼻血は口にまで侵入し口外へと吐き出された。
「ファブリソ。ダメ押しよ」
「いや、その必要はない」
ファブリソが天井を見上げると、聖域は崩れ落ち、四人とミアは荒れた街へと帰還する。
「なんだよ。大したことねぇじゃねぇか」
「…おかしい。この程度で英雄ノ聖域が破れるなんて」
「ミア様…大人しく負けを認められてはどうですか。そのお身体で私達を止めようなど…今ので確信しましたよ。貴女は700年前に魂を使い切っていると」
「そうか…そうゆうことだったのか」
「イリア、ファブリソ!お前らだけわかった気になるのはよせよ」
「ハーベル。あの御方はもう全盛の力を出すことはできない。とうに限界を迎えているのだ」
「出涸らしって事か!ヒハハ!何が最強だよダセェな」
ミアは口から滴り落ちる血を袖で拭うと、身体を左右に揺らしながら姿勢を保ち続けた。
「言ったはずだ。真っ向から受け止めると」
「いいえ。もう終わりです。これで私達は思う存分魔法を使えるようになりました。その勇者ノ盾だって、吹けば飛ぶ程度の耐久しか無いのではありませんか?」
「ヒハハ!どれ。確かめてやろう」
—持続魔法 憎魔ノ惨壊雨
ハーベルはミアの周囲へ、鉄をも溶解させる霧を発生させる。霧はミアの勇者ノ盾の領域内に侵入すると、赤く色を染められ効果を無くした。だが—
「効いてる、効いてる」
ミアは再び出血する。先ほどまでの鮮血ではなく、どす黒い色の血。恐らく内臓までもが損傷しているのだろう。その場に立つだけで限界であることは、誰の目にも明白だった。
「ミア様ともあろう御方が…これ以上は見るに堪えませんね。さっさと死んでください」
—破壊魔法 裁ノ黒蝶
「ミア様。御達者で」
—破壊魔法 堕天ノ槍
「これ以上、ミア様を苦しませたくはありません。どうか最後はこれで…」
—破壊魔法 聖帝ノ炎
「ヒハハ!死ねや!!」
—破壊魔法 業火ノ贖
※※※※
『ミア様。たまにはお出かけになられるのはいかがでしょうか?近場に美味なシチューを出す酒場があるんですよ!勿論、代金は私が…あれ…?あ!そういや…この前酒を飲み過ぎて…すみません。また今度では…』
『私は300年前に家族を失いました。ですがこうして生きる意味を見出せたのも、ミア様のお陰です。この恩義、死ぬまで忘れないでしょう』
—ファブリソ…
『ミア様の為ならこの命すら惜しくありません』
『は…こ、珈琲ですか?グ、グレア!』
—アーノルド…
『うふふ。この宝石はミア様の為にご用意いたしました。よくお似合いです。ああ!外されてはダメです!』
『この戦いが終わったらですか?そうですね〜。私は回復魔法が得意なので、世界中を周って苦しむ人々を救う。なんて…うふふ。似合わないですかね?でも世界中周るのは楽しそうです。その際はミア様もご一緒にいかがでしょうか?』
—イリア…
※※※※
ミアは目をゆっくり開くと、眼前に右手の人差し指を立て、一羽の羽毛を形成させる。指先からふわふわと落ちた羽毛は大地に触れると、地面に巨大な魔法陣が展開された。
「すまないが、お前達には生かす価値が無い」
魔法陣の中心から一筋の光が放たれ、天へと伸びた。すると、空から一本の剣が降臨する。
※※※※
大粒の汗を流しながら現場へと駆けるグレアは空を見上げ、その光景に絶望を覚える。天から舞い降りる剣は、1000年前、魔王を滅ぼした禁忌の代物。
「あれはまさか…」
—勇者ノ剣




