ep.74 再会④
ビルの窓枠にしがみつくラグナは、力無くその手を離した。地面には炎の海、そのまま落下していくラグナをエイタンが間一髪受け止める。
「ラグナ先輩!大丈夫ッスか?」
「エイタン…お前の方こそ…」
エイタンはクリセイオーの能力を発動し、周囲の炎を消火していく。受け止められたラグナの顔は血の気がひいたように青白く、眼球は真っ赤に充血している。
「これは…毒っスか?…今万能薬を」
「ハーベル…ガキ一人の面倒すら見れねぇのか?」
「ヒハハ!あの女の神器は無駄に対応力が高いんだよ。なかなかの価値がありそうだ!」
「言い訳は辞めろ。お前も幹部ならそれらしい力をだな」
「お前らみたいな人外と一緒にすんなって」
やりとりの最中二人の無線が鳴った
『ファブリソ、ハーベル、イリア聞こえるか?』
「アーノルドか?どうした」
『先ほど召喚したはずの竜帝が消失した。原因はわからないが一瞬でだ』
「竜帝!?じゃあ、さっきの地震は…ったく国ごと滅ぼす気か?」
『国を滅ぼすのであれば魔将で事足りる…』
「ヒハハ。言ってる場合かよ!さっさと場所を教えろ」
アーノルドから座標を聞き、二人は目的地の方角を確認する。
「待つっス!あんたらどこ行く気ッスか?」
ラグナを置いたエイタンは、先回りするとクリセイオーを構え二人の進行を阻んだ。
「辞めとけ。お前達ロイヤルはまだ利用価値がある。見逃してやるから道を空けろ」
「いやっスね。なんか勝った気でいるみたいっスけど…」
「ヒハハ。面倒だな」
—展開魔法 暴風
—連鎖魔法 火炎弾
ハーベルは二つの魔法陣を空中に浮かべ、
前方に炎を帯びた巨大な竜巻を発生させた。
「クリセイオー!」
—風の精霊 バハムート
—水の精霊 リヴァイアサン
エイタンがクリセイオーの能力で召喚したのは、孔雀の姿を有する風の精霊と、イルカの姿を有する水の精霊。二匹を目の前に発生した炎の渦に衝突させ威力を相殺させる。
「ハーベルの魔法を塞ぎ切るとはな。ではこれはどうだ?」
—召喚魔法 裁ノ方舟
「なんスか…あれ」
ファブリソが手を天にかざすと、突如として辺りは暗くなる。エイタンが頭上に視線を向けると、巨大な舟底がこちらを見下ろしていた。
すると舟の両側面から飛び出した大砲から多量の水が溢れ出し、地面へと振り注がれる。
「エイタン!俺が風を」
「わかってるっス!」
—火の精霊 イフリート
ラグナの呼びかけでエイタンは精霊を呼び出す。先ほどの二体は再度召喚するまで時間がかかる為、今はこれしかできない。水に対し火の精霊を使用するのは苦肉の手段だ。
だが、ラグナの風により水を吹き飛ばし、威力を増大させた炎で周囲に振り注がれる水を蒸発させることには成功した。
「これなら!」
「…甘い」
—破壊魔法 轟雷
振り注がれた水は突如として雷を帯び、炎の渦を貫通すると、エイタンとラグナの身体を貫いた。
「お前達が悪いんだぜ?見逃そうと思ったのによ」
「ヒハハ!俺がトドメを…」
ドオオオン
ハーベルが倒れる二人に追撃を加えるため前方へ一歩踏み出すと、突如として上空に浮かんでいた箱舟が轟音と共に木っ端微塵に砕け散った。残された水のみが雨粒のようにパラパラとその場へ振り注ぐ。
「なんだぁ?」
ハーベルの眼前には紺色のスーツに身を包む黒髪の女性。
「チッ。イリアの奴どこへ…それにしても貴方まで来てたのね…ファブリソ」
「は!やはり生きてたのかグレア」
「グレア?あ〜!例の女か」
グレアは屈んでエイタンとラグナに息があることを確認すると、ゆっくりと立ち上がり、ヴィクトリアの二人を見据えた。
「イリアはどこ?」
「…なんであいつも来てること知ってんだ?」
「ヒハハ。どーでもいい。邪魔すんなら殺っちまおうぜ!」
「油断するなハーベル。グレアは…常にあの御方の側にいた人間だ」
「ああ知ってるよ。破壊王グレアだろ?」
「わかってるならいい。構えろ」
—召喚魔法 憎悪ノ剣
—召喚魔法 呪殺ノ手斧
ファブリソとハーベルはそれぞれ無の空間から武器を取り出し、眼前のグレアへ構えた。
「はぁ。ただでさえ魔将に時間を取られたというのに…ファブリソ…とそっちのハゲは誰?」
「誰がハゲじゃ!」
「ハーベルは我らヴィクトリアの新たな協力者。部外者であるお前に言えるのはそれだけだ」
「ファブリソ…本気なの?」
「グレア…前回の襲撃、貴様がザイラスを殺ったのはわかっている。つまり俺達にとって邪魔者である事は確定だ。ここで始末する」
「イリアといい…私もナメられたものね」
「なにが伝説の破壊王だよ!こんな奴…」
ハーベルはグレアに対し距離を詰める。呪殺ノ手斧は紫の闘気を発し、獲物の喉元へ鎖を介し横薙ぎに投擲された。
—付与魔法
「ハーベル離れろ!」
—破滅ノ龍爪
グレアは両手に白銀に輝く爪を付与させると、首元に迫る手斧を鎖ごと断ち切り、5mの距離を離していたハーベルの胴には袈裟懸けに三本の切り傷が走った。
「なんだぁ!?」
効果はそれだけで終わらず、身体全体に亀裂が発生しハーベルの肉体は崩壊していく。
「あれはまずいな」
—回復魔法 細胞創造
ファブリソの魔法により、ハーベルのヒビ割れた肉体は腐り落ち、新たな身体が形成され始める。
「悪いけど時間が無いの」
—強化魔法 神速ノ心得
ハーベルの再生が終わる前に、グレアは追撃を開始する。手には龍爪、脚には強化魔法。これが彼女の十八番であり必勝パターン。
—展開魔法 憎魔ノ居城
駆けるグレアの前方に薄緑の破壊空間が形成される。空間内の景色は歪み、空気がねじ曲がる。
「ファブリソ。相変わらず小細工だけは上手ね」
—三天付与 天栄拳
グレア構わず前進し、拳で空間ごと吹き飛ばす。接近に気圧されたハーベルは、堪らず全力で後退した。だが、神速の彼女から逃げ切ることは叶わず、胴を龍爪で串刺しにされる。
「ヒハハ…半端ねぇな!これが1000年前の女性英雄」
—勇者の右腕 破壊王 グレア・モルペンデルか
〜
召喚された竜帝が消失した地に駆けつけたイリアとアーノルドは驚愕の表情を浮かべた。何故ならそこには居るはずのない主の姿があったからだ。
「イリア・バージス。アーノルド・シュタインベル。久しいな」
二人は呆気にとられていたが、声を掛けられるとすぐさま地に膝をつけ、即座に頭を下げる。
「ミア様。大変ご無沙汰しております」
「うふふ。竜帝をこうも容易く屠られるとは…お力はご健在ですね。我が主ミア様」
「…世辞はよせ。それより説明してもらおうか?」
ミアは深々と頭を下げる二人を見下ろすと、
普段通りの無表情で状況を問いただした。
「この街で我らの仲間達が次々と消息を絶った為、原因究明の為に行動を起こしました」
「うふふ。お陰様でこうしてミア様のお姿を…」
「君達の目的の為に、無関係の人間まで犠牲になっているようだが?」
「神器を持つ人間以外は殺さないように指示してあります。ですが多少のは犠牲はやむを得ずと」
「そうか。ヴィクトリアといったな。君達の目的はなんだ?」
イリアはアーノルドと視線を合わせる。彼が頷くのを見てゆっくりと話し始めた。
「世界の平和です。全てはミア様の意志を継ぐ我々の責務」
ミアは視線を荒れ果てた街へと向ける
「これが…私の意思だと?」
「ええ。ミア様の貴重なお時間を頂くこと、お許し頂けますでしょうか?」
「…ああ。全て話してもらおうか」




